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Blue sky  作者: 立花くろは
第一章 夜陰
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3

 自分が養子だと知ったのは、中学生の時。

 

 中学生の時は今と違って、とても早く家を出ていた。家にいたくないという理由で7時前後のバスに乗って、誰よりも早く学校に行っていた。帰りは部活をやっていたから家に帰って来る時間は遅かったけど、この時からもっと遅く家に帰れたらいいのにな、と思うくらい家に帰りたくなかった。だって、家に帰っても「早くシャワーを浴びて勉強しろ」と言われるだけだから。


 ご飯を用意してくれるわけでもない。

 おかえりと言ってくれるわけでもない。


 お前みたいな奴を家に置いてやっているだけで有難いと思え。

 

 そんな態度しか見せない両親が、そんな両親に異常なくらい寵愛を受けている妹がいる家になど帰りたくないに決まっているじゃないか。でも、変に迷惑をかけてもっと嫌われて居場所がなくなるよりかは、『はい』と返事をして素直に言うことをきいている方が何倍も心が楽だった。



 そんな日常に変化が訪れた、忘れもしないあの日も『ただいま』と言っても返事は返ってこなかった。


 胸にチクリと痛みが走り、思わず踵を返してしまいそうになる衝動が走るが、それをグッと堪えて二階にある自室へ走って行こうとした時、両親の寝室のドアが少しだけ開いていることに気づいた。


 今までドアが開いていることなんてなかった。

 だからなのか、引き寄せられるように寝室へと足が進んでいく。

 


 音を立てないようにそっとドアを開けると、廊下の電気でサイドテーブルが強調されるように光が当たり、そのサイドテーブルの引き出しからは、不自然にはみ出している〝紙〟があった。



 それはもう、ドラマのように面白いくらい不自然で。だからこそ興味をそそられた。


 きっとこれは見てはいけないもの。

 そう分かっていながらも、私はその紙を手にした。



 最初は全体的に目を通し、左上には大きく私の名前が書かれていて、名前の欄の更にその上には小さく〝養子〟と書かれていた。



 ショックを受けることはなかったし、驚くことも勿論なかった。逆に怖いくらい冷静だったし、すぐに納得できた。家族とは顔が似てないし、昔から私は妹と違う対応をされ続けてきたから。同時に、昔言っていた祖母の言葉を思い出した。


 私のことを本当の孫だと思って愛してくれていた祖母が病気になり、弱っている時に、『私が訊きに来たことは、あの人たちに絶対言わないって約束して』と無理やり約束させて、私が何故あの家に来ることになったのかを訊いた。


 誰が母親なのか、母親は何故私を捨てたのかなど、この時はどうでもよかった。そんなことよりも、今家族を名乗っている人たちのことを知りたかったから。



 祖母の話によると、両親はいつまで経っても子供ができず、長年悩んでいたらしい。

 二人とも子供を諦めることが出来なかったから私を養子として迎えたのだが、その時には既に母のお腹の中には妹がいて、私が一歳になる前に妹がこの世に誕生した。


 それを聞いた私は、ただ一言。「そうなんだ」という言葉しか口から出なかった。


 別に求めていたものなどなかったから。だから私はそれだけを聞いて、ありがとうも何も言わずに祖母の家から出て行った覚えがある。



 ちゃんと自分たちの血が流れている子を産めば、可愛がる差が出てきてしまうのもおかしくはないけれど、養子だといっても一応私だってこの家族の一員だというのに、私は完全に放置されている。それだというのに、妹は勉強ができなくて素行も悪い。それを姉である私が補わないといけない。そんなの馬鹿げてるじゃないか。


 あまりにも理不尽すぎて、反発をした私はレベルを落とした高校へ入学した。

 嫌われないように努力をしていたというのに、そのせいで両親からはもっと嫌われたけど、心は軽くなった。



 心が軽くなったとはいえ、それはほんの少し。

 今度は妹が高校受験の番になり、そこで私はまた腹立つことが起きた。


 私には散々偏差値の高い高校に行けと命令しておきながら、妹には「どこに行ってもいいよ」だなんて、あまりにもおかしすぎるでしょ。


 ただ、妹は頭が悪い。

 選べるところなど一つしかなく、ここから少し遠い一番偏差値が低い高校に入学するしかなかった。



 まぁ、ここまではいいとしよう。

 散々「どこに行ってもいいよ」と言っていたくせに、いざ妹が偏差値が一番低い高校に行けば、「ましろがもっと偏差値の高い高校に行ってくれていれば、恥ずかしい思いなんてしなかったのにな」なんて言うのは、あまりにもおかしいでしょ。


 本当……この差は一体、何なんだろう。



 異常ともいえる環境で育ってきた妹だけど、妹は腐った人間ではない。

 いじめられている子がいれば迷うこともなく仲裁に入れるくらい、素でとても優しい子。


 ならどうして、私が差別を受けていることに気づかないのかというと、両親に洗脳されているから。あとは、私が妹と必要以上に関わらないようにしているから。


 

 どんな時にでも、この家は妹中心で回っている。姉である私は、いつも蚊帳の外。私が中心になったことなど、一度もない。別にここで中心になりたいとかそういうのではない。望んだところで環境は絶対に変わらないから。


 ただ、この差別はいつまで続くんだろうと思ったら、鼻にツンとした痛みを覚えて、思わず嗚咽が漏れそうになる。


 自分の思考に自分で傷ついていると、ポケットにも入っていないというのに、ピコンッとスマートフォンの通知音が聞こえた気がして時計を見れば、もう家を出る時間になっていた。


 ソファから立ち上がってお弁当箱の蓋を閉めに、再びキッチンへ戻る。

 床に置いていた鞄の中から巾着を取り出して、蓋をしたお弁当箱を入れる。鞄に入れる前にポーチを手に持ち、ポケットに入っているアイシャドウ等をポーチにしまった。お弁当とポーチを鞄に入れ、スマホをポケットにしまった時に絆創膏を巻いた親指が目に入る。雑に絆創膏を剥がし、ポケットから取り出した絆創膏をまた親指に巻く。ゴミを捨て、鞄を肩に掛けた瞬間、自然と溜め息が漏れた。


 地獄から解放されたけど、再び地獄が始まる。


 

 どんな立場になっても生きづらさを感じてしまう私は、きっと人間に向いていないのだろう。


 どうして私は、彼女のように生きれないのだろう?



 はぁ、と盛大に溜め息をつきながら靴を履き、玄関のドアノブに手をかけた瞬間、私はあることに気づいた。

 私のことを人間扱いしてくれている人が、悉くこの世からいなくなっていることに。



 あぁ、悲しい。


 また、だ。

 私はまた──独りになってしまった。



 目を伏せて、肺に入っている空気をすべて出し切るように深く長い息を吐いてから、私は玄関のドアを開けて家を出た。


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