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Blue sky  作者: 立花くろは
第一章 夜陰
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 彼は私よりも完璧に今の自分を演じているというのに、きっと完璧を求めているはずなのに、私なんかに弱みなど見せたくないはずなのにボロが出た。それをどうして彼よりも私が動揺しているのだろう。理解が出来ない。



「白石さんは俺と同じだから、理由を知ったら嫌いになるよ」



 くるっとこちらに顔を向けた彼は、先程とは違っていつもの憎たらしい笑みを浮かべていた。 


 本来ならイライラして仕方がない笑みだが、今はその笑みを見て胸を撫で下ろしている自分がいた。



「ならない」


「なるよ、絶対」



 また、だ。

 本当その自信はどこからくるんだか。


 はぁ、と盛大に溜め息をつこうと息を吸い込んだ瞬間、「あの二人って仲良かったんだね」という声を耳に届いた。


 普段は当然二人きりで話すことはない。誰かが流してくれた仲が悪いや、お互いに嫌い合っているという噂のおかげで教室では挨拶くらいしか言葉を交わさない。

 ただ、今は教室の中ではないし、二人で行動して会話までしている。そんな私たちを見て新たな勘違いをし始めている人がいる。



「やっぱりそうだったんだね。そもそも高嶺の花同士が仲悪いわけなくない?」


「確かに。話してるところ見たことなかったから鵜吞みにしてた」


「仲が良いって分かった瞬間の尊さヤバくない?」



 どこをどう見て仲が良いなんて思えたのか不思議で仕方がない。

 彼ではなく私の表情を見ていたら、そんな馬鹿みたいな思い込みなどしなくて済んだのに。


 確かに彼は容姿は良いから見入ってしまうのも100歩譲って理解はしてあげれるけど、仲が良いという噂が以前からあった噂を上書きしてしまうのだけは嫌だった。


 仲が悪いという噂の方が、女子からの視線を無駄に感じないで済む。

 仲が良い噂なんて流れたら、もっと生きづらくなる。



「今度は何を考えているの?」



 こいつ、わざと話しかけてきた。

 コソコソと話しをしている女子たちとすれ違うタイミングで話しかけてきた彼に一発殴ってやろうとも思ったが、私が大人になってグッと堪えるしかなかった。



「本当、いい性格してるよね」


「ありがとう」



 褒めてない、という一言を言うのも疲れてしまった。


 それにしても、作り上げてきたものが本当の私たちと受け入れてくれているのなら、ちょっとした表情の変化にも気づけないものなのかね。


 気づけないか。

 私だって、彼が自分と同じ〝自殺志願者〟と気づけなかったのだから。


 彼が本当に自殺志願者なのかはまだはっきりと分からないが、私が自殺志願者とか、劣等感をすぐに抱いてしまうとか、彼とはいつも暗い話をしているとか、誰よりも闇を抱えているとか気づけるわけがない。


 まあ、関係ない奴に気づいてほしくもないけど。



「綺麗な顔が今、すごいブスになってるよ」



 階段を上る際、顔を覗き込んできた彼は憎たらしい笑みなどじゃなく、柔和な笑みを浮かべていた。


 彼から何を言われても腹が立つのはいつもの事だけど、今回は特別に腹が立った。


 ブスと言われた瞬間、頭には妹の顔が浮かんだことによって私の気分はどんどん沈んでいく。



「白石さんは適当に過ごすってことも覚えた方がいいよ。色々考えても体力を使うだけなんだから」



 なに一丁前に説教なんかしてるの?

 あんたに説教される覚えないんだけど。


 死ね。

 本当、死んでほしい。


 そんなことを考えてしまうことに、私は当然罪悪感など覚えない。

 むしろ、その気持ちをうんと込めて彼のことを睨みつけてた後、一段飛ばしで階段を上がっていく。



「白石さん」


「話しかけないで。今、天王寺君の顔も見たくないし、声も聞きたくないから」


「なに、また怒ったの?」



 逆に怒らない人がいるの?

 そんな疑問が生まれつつ、顔も見たくないと言ったばかりだが歩みを止めて、まだ階段を上っていない彼を見下ろす。



「これ以上話しかけてきたら、私なにするか分からないよ」



 言い終わると同時に、私は上りきった階段の上で少しだけ手を広げてみせた。


 彼には物理的な攻撃はしない。

 そんな攻撃は生ぬるいだろう。


 一生消えない心の傷を負わせ、私に関わったことを後悔させるくらいのことをしてやりたい。


 例えば、今実行しようとしていた階段の一番上から彼の目の前で飛び降りてみるとかね。

 でも、真顔でこちらを真っ直ぐ見据えてくる彼を見ていたら今すぐにでも距離を取りたくて、再び彼を睨みつけてから先に教室へと戻った。



「あ、ましろおかえりー」


「ただいま」


「どこ行ってたの?」


「……ノート運び」


「一人で? 重かった?」


「天王寺君が手伝ってくれたから、私は全然……」


「急に教室から出てったと思ったら、ましろを手伝うためだったんだ」


「急にどうしたってなったよね。気づいたらましろもいなくなってるし」



 彼が席を立ったことには気づいて、私の時は気づかなかったんだ。

 分かっていたことだけど、どうしてこんなにも胸が、心が痛いのだろう。


 これ以上はうまく笑えないと悟った私は、次の授業が始まるまでトイレに逃げ込んだ。



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