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Blue sky  作者: 立花くろは
第一章 夜陰
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25



 特に会話らしい会話をしないまま、私の家に着いた。

 スマートフォンを見るのは失礼かと思って見れていないから、正確な時間までは分からないけど、18時前後なのはあっているだろう。


 街灯がつき、辺りの暗さで、大体の時間が分かるという、意味のないものを習得していた。


 こんなにも早く帰ってくるなんて久しぶりで緊張もしていたが、気まずさと、感情のコントロールが上手く出来なかったせいで疲れた為、先輩の隣から解放されるのだと思ったら息がしやすくて。門扉の前で立ち止まった私たちは、改めて向き合った。



「送っていただき、ありがとうございました」


「いえいえ。また一緒に帰ろうね」


「……はい」


「約束だよ? じゃあ、ゆっくり休んでね」


「はい。さよなら」


「うん、バイバイ」



 こちらに手を振る先輩に、私は手を振り返すことはなく会釈をした。

 私の行動に先輩がどう思ったのかなど私には分からないが、来た道を戻って行く先輩の背中は、何だか小さく見えた。


 陽斗先輩の姿が見えなくなるまで見送っていた私は、一人になれたことによって、ようやく溜め込んでいた息を全て吐き出すことができた。


 でも今度は、家の中に入らないといけないんだという憂鬱から更に溜め息をつきそうになったが、唇を結んで横にある自分の家を改めて見上げた。


 家の中に入ったら、私はどうすればいい?

 お風呂に入るのは早ければ早いほどいいとは思うが、ご飯のことは要らないと言った方がいいのだろうか?


 どっちにしろ自分の部屋から出て過ごすなんてことは無理だから、家の中の状況を見てから考えよう。



「なんだ、今日は早く帰ってきたんだな」



 深呼吸をし、覚悟を決めた私は自分の家と向き合った刹那、冷たい風が私を包み込むと同時に、真横から父の低く冷たい声が聞こえてきて、ビクリと肩が大きく揺れた。


 きっと、この反応を見て父は喜んでいるに違いない。

 畳みかけて話してこない辺り、私の予想は間違ってはいないんだろうな。


 足が重くて、ちっとも動かない。けれど、いつまでもこのままの状況など許されるわけもなく、必死に顔だけ父の方に向けた。


 目が合った瞬間、心臓を鷲掴みされたような、鈍器で思いきり殴られたような痛みが胸に走り、口から吸い込む息が揺れている。しかも、吸い込む息の量があまりに少量すぎるせいか、指先がじわりじわりと冷たくなっていくのが分かる。



「お……おかえり、なさい……」



 私がこの言葉を言うまで待っていたというのに、うんともすんとも言わない父に、内側から怒りが渦巻いていた。


 何故か盛大に溜め息をついた父は、私の横を通り過ぎると同時に「早く家に入って勉強しろ」と言い放って、ひとり先に家の中へと入って行った。


 怒りを通り越して、もはや哀しみしか生まれない。


 彼と同様、私が両親に何をしたっていうの。

 私はただ、子供が欲しかった両親に引き取られたってだけなのに。


 こんなの、家族だなんて言える関係じゃない。

 今更、それを求めたって意味がないのは十分に理解をしているが、それをすんなりと受け入れるには、まだ難しいところが私にはある。


 それがとても、惨めなことも私は解っている。



 家の前まで来て中に入らないという選択肢などあるわけもなく、開いている門扉の隙間から家の敷地に入り、静かに玄関のドアを開けて中に入るや否や、リビングから両親の声がいつもよりハッキリと聞こえてくる。


 それは、リビングのドアが意地悪に開いているからだ。



「ましろが帰って来たぞ」


「まあ、珍しい」


「勉強させておくから心配するな。愛は今日も遅くなるのか?」


「そうみたい。最近良くしてくれる先輩が出来たみたいで、大変だーって言ってたわ」


「人付き合いで大変なのか。偉いな〝あの子は〟」



 補導される時間を過ぎてまで遊んで帰ってくるのが偉いの?

 勉強もせず、成績はいつも下位の妹が、そんなに偉いの?


 私だって、人付き合い頑張ってるよ。

 妹みたいに、全教科赤点なんて取らないように頑張ってるよ。

 差別をされたって、この家にちゃんと帰って来てるよ。


 そんな私より、あいつの方が偉いっていうの?



「本当、偉いわよね。さ、今日先に二人で食べちゃいましょう」


「あぁ」



 当たり前のように、私のご飯は用意されていないことに笑いが込み上げてくる。


 本当の娘じゃないから、どう扱っていいのか分からないのはちゃんと理解してあげるよ。でも、この家に来てもう──16年経ってるんだよ?

少しは私のこと、分かってくれてもいいんじゃないの?


 そう思えば思うほど、虚しさばかりが募る。



 私たちは同じ人間で、一緒に過ごしていくうちにお互いを理解しあえるって、どこか信じていたのに、私の嘆きは両親には届かない。それが歯がゆくて、悔しくて、哀しくて。こんな時間に帰ってこなければよかったと思うばかり。



 ──誰よりも優しくて、誰かが傷ついていると、自分も同じように心を痛めることが出来る子。


 陽斗先輩が〝彼〟のことを教えてくれた時の声が、何故か頭の中で流れる。



 もし、本当に陽斗先輩が言っている通りの彼だったとしたら、私の育ての親たちは本当にクズだ。


 そんなクズたちのことで悩んだり、傷ついたり、怒ったりしているのがあまりにも馬鹿馬鹿しくて、花にツンとした痛みが走って、目に涙が浮かんでいるのも両親たちは知らなくて。妹も、私を生んだ奴も知らなくて。私の涙を見たところで、家族たちは何も思わないんだろうなって想像したら、全て諦めるしかなくて。



 何度も経験してきたが、自分が傷ついたという自覚をした瞬間は、やっぱり苦しかった。



4話完結です。

次回から5話になります。よろしくお願いいたします。

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