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Blue sky  作者: 立花くろは
第一章 夜陰
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15


「ガールズトークに男子が入ってくんな」


「冷たいなぁ。それに、みんなして先輩たちだしさ」


「聞いてたんかよ」


「堂々と僕じゃない宣言されて結構寂しかったよ」


「嘘つけ!」


「単純に年上好きなんです。ごめんなさいね」


「それだけの理由じゃなかった気がするけど?」



 さっきまで私も会話の中心に入れたというのに、今は輪にすら入れていないただの空気となっている。


 彼は私の居場所を奪おうとしているのだろうか? 私は彼が嫌いで、劣等感を常に抱いていて、それを誰かに言ったり全面的に表には出していないというのに、どうしてここまでされないといけないのだろう。



「あ、このお菓子もらっていい?」


「なんでだよ。坊ちゃんの口には合わないからやめときな」


「酷いなぁ。それに僕、坊ちゃんとは呼ばれてないよ」


「じゃあなんて呼ばれてるの?」


「玲青様」



 ダメだ。不快に思われないように語尾を上げる話し方、息を吸う音、体の動きと何もかもが鼻についてしまう。


 こういう時、いつもなら小説に逃げていたというのに、彼にその逃げ道すら塞がれてしまった。スマートフォンを弄るという逃げも出来ない。今にも口から溜め息が漏れそうになるのを必死に堪えながら、目を伏せて必死に口角を上げながらこの状況を耐えるしか選択しか残っていなかった。


 きっと少しの時間だろうし、私が頑張れば何の問題もない。そう思って5分と長いこと耐え続けていたというのに、彼は一向に自分の席へと帰ろうとしない。別に会話が盛り上がっているなんてことないというのに、なんだか帰るのが惜しいみたいな雰囲気を醸し出していた。


 ここは私の席で、話すならどこかに行ってほしい。私にとって彼の気持ちなんてどうでもいいから早く帰ってくれないかな、と伏せていた目を彼に向ければ、私のことが嫌いで仕方がないというのに私がこんなにも近くにいるというのに一人だけ何だか楽しそうに笑っている。


 何がそんなに楽しんだか。私は全然笑えない状況だというのに……と少し非難の目でチラッとまた彼を見ると、私の視線にすぐさま気づいた彼は笑ったままこちらを見た。目が合うなんて思っていなかった私は肩に力が入り、何故か目を逸らすことが出来なかった。そんな私とは違って彼は嫌な感じで私から目を逸らした。


 目が合うといつも先に目を逸らされる。そんなこと分かり切っているというのに見た私も馬鹿だけど、会話の途中だったから思わず求められている表情のまま嫌いな私を見てしまった。みたいな反応をあからさまに態度に出されると、それはそれは腹が立って仕方がない。



「そういえば、最近遊んでないよね」


「そう?」


「先輩たち受験だったからね」


「久しぶりに遊ぼうよ」


「先輩たち来るなら私は全然いいけど」


「先輩たちいないなら玲青と遊ぶ意味もないし」


「それを本人の前で言えちゃう凪沙を、僕は尊敬するよ」



 会話に入ることは勿論、相槌を打つことも出来ない。もし、私が参加できる会話をしていたとしても、いつどのタイミングで声を発していいのか分からないから、家でもどこでも蚊帳の外だと感じていて……それだというのに、彼が私に見せる行動すべてが心の傷を抉り、それが次第に怒りへと変わっていく。


 本当、彼は私を苛立たせる天才だ。


 これ以上、彼の近くにいるのは毒だ。

 思わず溜め息が漏れたり、態度に出てしまったらまた変に注目を浴びることになる。面倒事はなるべく避けたい。そう判断した私は静かに席を立つ。



「ましろどこ行くの?」


「お花摘み。行ってくるね」



 ついてこさせないように早口でまくし立て、逃げるようにして教室を出た。


 協調性があると勘違いされがちだけど、協調性なんて皆無な私にはあの空間は地獄すぎた。彼にあんな態度をされる前に、蚊帳の外というある意味トラウマになっている状況で私が我慢できるわけもなかった。


 周りにはまだ人が沢山いて、私はいつものように注目の的。それだというのに私は表情管理が出来ず、口をきつく結んでいた。うんと強く結んでいるというのに今にも溜め息が漏れそう状況にまたストレスを覚え、トイレに向かう足が速くなる。



 トラウマだとか、人の目を気にして行動を制限されたり、設定にないものをどんどん増やされていったり、傷つくと分かっていながらまた傷ついたり、腹を立てたりと全てが疲れる。全てが私の心を押し潰してくる。


 今度は怒りが次第に悲しみへと変わり、喉がキュッと締まった時には私は走っていて、トイレのドアを開けたら幸い誰一人といなかった為、溜まりに溜まったモノを全て吐ききるように深く長い溜め息をついた。


 我慢していた溜め息をつけたことによって安堵を覚えたのか、それとも別の感情が生まれたのかは私自身よく分からないけど、鼻にツンとした痛みが走り、じわりと涙が浮かんできて滲む視界の中、私は重くなった足を引きずるようにして個室へと逃げ込んだ。


 ガチャンと鍵を閉めるなり、便座の蓋は開けずにそのまま座った私は膝の上に拳を置いて、そこに額を押し付けた。



 もういっそ、今すぐ死んでしまえば悩みもしべてなくなるし、考えることもしなくて済む。今すぐ楽になりたいのに、死ぬ勇気を今の私には持ち合わせていない。


 勇気があれば今すぐにでも屋上に行って飛び降りるというのに。

 立入禁止の屋上の鍵が開いているわけがないから、そもそも無理な話なんだけど。


 死ぬ勇気がないのは、ただ単に怖いからとかそういう問題じゃない。

 いや、普通に怖いという気持ちもある。高所に立っている姿を想像するだけで心臓がキュッと縮むし、ガクガクと足が震えて一気に膝の力が抜ける感覚を覚えるくらい怖いけど、その恐怖すら覆い被さるような別の何かが邪魔をしている気がする。


 その何かが分からなくてまた腹が立って。何でまだ生きなくちゃいけなんだろうと思った瞬間──無性に死にたくなった。



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