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「おいおい、どうしたんだよ」
「なにが?」
「お前、白石さんのこと嫌いなんだろ?」
「なのに突然絡みに行ってよ……」
「そんなのただの噂だよ。僕はただ、読みたいって思ってた小説を白石さんに聞いてみただけ。白石さん詳しい小説に詳しいから」
「そうなんだ。ちょっとハラハラしたよね」
「うん……」
先生が既にいて、彼の取り巻きの連中たち以外はみんな席に座っている。明らかに浮いているというのに、まだ席に座らないで先程のことをいつまで経っても話している。
「あのぉ……授業を始めますよ……?」
そんな弱々しい声じゃ、あいつらなんかに聞こえるわけがないでしょ。
教卓の前にいる先生は新人。きっとこの数ヶ月で天王寺玲青がどういう人間なのか、どういう対応をしないといけないのかをベテラン教師たちに口うるさく教えられたのだろう。彼の方を見ては困った表情を浮かべては肩を落とし、「始めちゃいますね……」と黒板と向き合った。
クラスで一番力を持っている奴が、こういう時に力を使わないことに腹が立つ。
「ちょっと、煩い。授業始まってるんだから席に戻りなよ」
頬杖をついた凪沙が後ろを振り返り、睨みつけながら彼たちにきつい口調で言ってくれたから、きっと先生と一部の生徒はすっきりしただろう。反面、言われた方は腹を立てているだろう。表情が物語っている。
「ほら、授業始まってるんだから戻ろう? 先生もすみません」
「いや、いいんですよ! では、授業を始めますね」
見たくもない理を見てしまった。
今まで生きてきて、一度も下という立場になったことがないんだろうな。
私はどの立場になったって上の立場になったことがないのに。
そんな怒りをぶつけるようにチラッと後ろを振り向けば、ちょうどなのかそれともずっと見ていたのかは分からないけど、彼と目が合ってしまった。いつもならふっと鼻で笑って澄ました顔をこちらに向けてくるのに、今は笑みなど一切浮かべず、見たことのない冷めた表情を浮かべていた。
ドクンッと大きく心臓が跳ね上がったと同時に、今まで以上に怒りが心を支配した。
勢いよく顔を前に戻して、机の中から出して机の上に置いた手に視線を落とした。学校に来る前に取ったから絆創膏が巻かれていない親指を見て、私は爪を立ててしまおうかと考える前に、もう既に親指に爪を立ててそこを抉っていた。
そっちが先に攻撃を仕掛けてきたくせに。私はただ防御をしただけ。
確かに嘘をついたのは私が悪いけど、私にだけ聞こえるように〝嘘つき〟と言ってくるのも、ああやって睨みつけてくるのは違うでしょ。
先に私を鼻で笑い始めて攻撃仕掛けてきたのはそっちなのに。私は顔に出してしまうだろうからって避けていたのに。
金持ちで、人徳も会って。生徒からしたら教師は怖くて従わなくちゃいけない存在なのに、彼は手のひらで転がしている。彼自身が金持ちではなく、親が金持ちってだけなのに。あいつ自体は学校に対して、世の中に対して何もしていないというのに。
まぁ、そういう奴らが上に立ち続けるし、成功していくんだろうな。
元々力を持っていない者は、どれだけ頑張ってもその領域には行けない。結局私のような人間は、一生何かから抜け出せずに苦しんで生涯を終える。それがみんなが崇めている神が与えた宿命だから。
私は前世で何を仕出かしたのだろう?
彼はきっと、前世で良い事を沢山したんだろうな。
そんなところでもまた彼と比べてじわじわと侵食してくる負の感情は、いつだって私の心を押し潰してくるから苦しい。
もう、苦しみも痛みも感じたくない。
感情すら失くしたい。
あぁ、早く死にたい。
2話完結しました。
3話もよろしくお願いいたします。




