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家族元気、なんか知らんけど私だけコロナ感染

作者: 菜宮 雪

「昨日受けていただいたPCR検査結果ですが……陽性でした」

 電話の向こうの男性医師は穏やかにそう告げた。

「ひぇっ! 陽性! コロナ! インフルエンザじゃなくてコロナだったんですか……どこから……」

 しわがれた老婆のような声が私の口から飛び出していた。

 まさかこの私が!

 私はほぼいつも家にいて家族以外の他人と話すことはほとんどない。私以外の家族は無症状で元気。

 このエッセイはそんな我が家のコロナ騒動の顛末。


 まずは家族構成と予防接種歴などをおおまかに。


 夫 会社員(窓口業務あり) モデルナ×3

 私 無職(買い物ぐらいは外へ出る) ファイザー×3

 娘 社会人(締め切った室内で打合せばかりしているような仕事) モデルナ×3

 息子 社会人(工場を出たり入ったりする仕事) モデルナ×2 ファイザー×2


 はい、娘、息子とも今は社会人。えっ、そんな大きな子供がおったんかい、何歳の時の子? という突込みはお控えくだされ(にっこり)。



 時は2022年12月21日の水曜日。

 その日は妙に寒いと思った。夜ごはんを食べて体が温まったはずなのにストーブの前から離れられない。熱はなかったから熱い風呂に入って早めに就寝。

 夜中になり、体が熱い気がして体温を測る。37.3度。う~ん、ちと高い。

 私の平熱は35度台。これはあかんやつかもしれんと思ったが、高熱ではない。気にしないことにした。


 翌朝は普通に起きて、朝食を用意し、ごみを出し、洗濯物を干し……と、そこまでやったらもうしんどくてたまらなくなった。熱を測ると37.6度。

 あーーーーやっちまったか。コロナだらけの今、発熱とは。

 不吉な予感がよぎる。今日普通にごはんを作って家族に食べさせてしまった。

 家族にバイキンをばらまいた? いや、でもコロナと決まったわけじゃない。こんなの、ただのどこにでもある風邪さ。咳出てないし。家族はみんな元気。問題なし。


 とりあえず、寝室を分けておけばいいだろう。たまたまその日に休みで家にいた夫にあれこれ言いつけ、リビングに布団を移動。おとなしく布団に入った。

 天井を見上げながらこれからのことを考えた。

 どうする? 

 どうすれば? 

 高熱ではないからコロナではないと思うが、一応念のためPCR検査を受けた方がいいのだろうか。しかし、このご時世、熱のある人が受診するのは難しいと思うし、受診するにしてもどこへ電話すればいいのかわからない。

 コロナでないなら、こうして家で寝ていればいいだけじゃないのか?

 今、真っ先にすべきことは?

 そうだ、連絡!


 ぼうっとしつつも、とりあえず娘と息子にラインで連絡を入れた。それぞれの会社の規定により、家族が37.5度以上の発熱の場合は報告義務がある。結果、娘は急遽在宅勤務に変更、息子もその日は定時であがることになったのだった。

 夫がいろいろ調べて病院に電話し、PCR検査の予約をとってくれた。そうこうしている間に私の熱は38.0度に上昇。熱とともに不安指数も爆上がり。

 だめだ、熱があがってきた。いよいよコロナ決定? やだ、違う! 咳でてないし。コロナというよりはインフルエンザっぽい。


 今回インフルだと思ったのは、ものすごい関節痛があったから。どこの山へ登ってきたのよ、と思えるような全身痛が発熱の数時間後から出てきた。私は、過去にインフルにかかった時、関節痛に見舞われていたので、もしかするとインフルかもと期待する(それも変だな、インフルも嫌)ところはあった。

 それにしてもこの関節痛、なかなか強烈。寝返りを打つにも腰やら股関節やらがミシミシ。そのうちに足首やら指の関節まで痛くなる始末。

 コロナってこんなの? どこもかしこも痛いじゃないか。なんなん? これ。


 約束された時間に夫に病院へ連れて行ってもらい(自家用車使用)、病院の外で車に乗ったまま受診。唾液を取らなければならないのに口が乾いていて、なかなかたまらず、係の人に申し訳なかった。葛根湯、カロナール、胃薬などを処方してもらい帰宅。検査結果は翌朝電話連絡。そして冒頭のシーンとなったわけだ。



 翌朝、12月22日、午前9時過ぎ。

 私のスマホが鳴り、家族全員が隣の部屋から耳を傾けているのがわかる。

「ひぇっ! 陽性!」

 私の絶望の声に、自宅待機で結果待ちしていた家族たちは勤め先への連絡のため、バタバタと動き出した。私のせいで全員がその日から当分自宅待機決定。夫は検査してくれた病院へ書類を取りに行くために出かけて行った。感染証明書みたいな書類だ。


 それにしても、コロナはいったいどこから来たのだろう。私以外の家族は何の症状もない。

 私だけが発熱。ということは、私が感染源か? お付き合いの薄いこの私が!? 

 今月は老親の病院付き合いもなく、友人に会ったりもしていない。唯一思い当たることがあるとするならば、発熱二日前に某ショッピングモールのお客様感謝デーにひとりで行ったこと。もちろん、マスク着用。その時に帽子の試着とかしたから、それがいけなかったかもしれない。そう考えても、そこで感染したと納得したわけではない。


 疑わしきは愛する家族たち。彼らは三人とも電車通勤だし、それぞれの職場でもコロナの人がチラホラいるという。三人の中の誰かが無症状のコロナ運び屋であると推測。どうにかして三人の検査をしてもらいたい私だったが。

 夫いわく「今は無症状の濃厚接触者はPCR検査してもらえないらしいよ」って。

 そうなの? 無症状なら濃厚接触者でも検査対象にならないの?

 私も眠りの合間にスマホで調べたが、よくわからなかった。病院で渡された書類には「困ったときはここへ連絡」みたいな電話番号などが書かれている。そこへ電話すればもしかすると家族全員が検査してもらえたのかもしれないが、熱で頭がぼうっとしていて、だんだんとどうでもよくなってきた。家族が感染していようが、いまいが、全員が何日もこの家から出られないことはすでに決定したのである。私は家族の検査をあきらめ、腹をくくって病人になることにした。家族に食事、ゴミ出し、洗濯など、家事のすべてを任せたのだった。



 発症二日目、自分が陽性か陰性かわからないこの状況に耐えられなくなった息子が、咽喉が痛いと言って(ほんとうはそんなに痛くなかったらしいが)ひとりで個人病院へ行って抗原検査を受けてきた。結果、彼は陰性。彼は我が家では唯一、四回目の予防接種を終えている。運び屋は息子ではなかったようだ。ん? そうとも言い切れない……か。抗原検査だからね。


 濃厚接触者というのはやっかいなものだ。症状がないと病院で検査はしてもらえず、無料PCR検査所は濃厚接触者お断りだから検査してもらえるところがない。検査予約はいっぱいで検査できません、と表示している病院もあった。


 去年の夏に、娘が会社の人の濃厚接触者に認定されたとき、PCR検査を受けるために大変な労力を要した。保健所に電話はつながらない、連絡はこない。会社からは結果をせっつかれる。ストレスがものすごくたまった。

 あの時と今とは状況が違うと思うが、あの時のように電話をかけ続ける根性は私にはなかった。結局、夫と娘は検査をせずで、コロナウイルスの運び屋だったかどうかは不明だ。



 コロナの予防接種、私は、三回しか打っていない。四回目を打とうと思っていた時に死亡事故のニュースが流れて不安になり、様子見をしていたところだった。

 幸運なことに、私の症状はごく軽い普通の風邪レベル。予防接種のたまものなのか、コロナが弱体化したのかはわからないが、私の症状は以下の通り。

 私の場合はすぐに熱が下がったので体のダメージが少なくて、十年ぐらい前にインフルエンザにかかった時の方がきついと感じた。


一日目 発熱 最高は38.0度 軽いのどの痛み、口の渇き、関節痛、胃がムカムカ(何も食べられず)、頭痛


二日目 37.3度程度まで熱は下がり、喉の痛みが出だした。頭痛、関節痛ピーク


三日目 平熱 以後、ずっと平熱。首のリンパ線が瘤だらけでボコボコに。のど痛はひどくなる。


~五日目 関節痛あいかわらず。


六日目以後、どの症状も緩やかに収まっていき、熱がぶり返すことはなかった。ほぼ回復。


三週間が経過した今、鼻づまりだけが残っている。


 

 五日ほど経ったらだるさは多少あっても、熱もなく、ほどほど元気になった。年末の大掃除をやる意欲がわいてきたが、何もさせてもらえない。台所はほぼ立ち入り禁止。居場所は一部屋だけ。トイレなどは仕方ないがそれ以外はずっと同じ部屋ごもり。私は完全にバイキン扱いだ。

 私が台所を覗くと、楽しそうに食事をしていた家族たちがさっとマスクをする。

「あの……飲み物をほしいんだけど……」

 台所の引き戸を少しだけ開けて、小声で家族にドリンクを注文。

「はい、はーい」

 その場にいる誰かが注文した水分を用意して私のところまで運んでくれる。

 ふっ……バイキンのくせにいい身分だ。


 療養中、ありえないほどゆっくり休ませてもらった。

 これほど何もしなかったのは人生初。部屋にいるだけで食事が運ばれてくる。

 みそ汁も作ったことがなかった夫は、みそ汁作りをマスターし、娘と息子は洗濯機や炊飯器の使い方を覚えた。私以外はみんな家にいても元気だから、頼めばなんでもやってもらえる。家族に感謝だ。


 コロナのせいで、楽しいクリスマスも、年末の大掃除も、年始の親戚まわりもなかった。家族はそれぞれの部屋にこもった静かな年越し。私はひとりきりのバイキン部屋で紅白を観ていた。

 食事もひとりで……。年越しそばは娘が運んできてくれたが、それを食べるのもひとり。

 なんか、つまらない。

 ……さみしい。


 やっぱり、家族あっての私なのだ。


 療養期間が終わり、正月を迎えても私はバイキン病人扱いだった。家族たちは「あと数日隔離生活を我慢すればうつらなかったのに、と思うのが嫌だから、出てこないで」と、口をそろえて言う。それなら不便でも家事を手伝った方がましだそうな。



 そして、正月休みが明け、みんなが出勤する五日の朝、私は久しぶりに家事復帰。朝きちんと起きて朝食の準備をした。

 久しぶりに身に着けたエプロンに気が引き締まる。やっぱりこうでなきゃね。


 こうして我が家の感染症騒動は終わった。家族の発症はなく、隔離はうまくいったようだ……って実は全員感染していたのかもしれないが(笑)



 我が家の感染症対策。参考までに。

○とにかくあちこちに消毒用スプレーを置く!

○トイレのタオルはペーパータオルに。それで出るごみはトイレに置いた町のごみ袋へ直接捨てる。

○洗顔用のタオルは全員別に。毎日変える。

○私はできるだけ台所に入らない。

○家の中でも全員がマスク。

○風呂は私が一番最後。入り終わったら60度の熱湯シャワーで風呂中を流す。特に洗面器と中のタオル。

○ドアノブのアルコール消毒。日に二、三回。ついでにゴミ箱にも吹きかける。

○私が使うゴミ箱はひとつだけに。

○寝室は分ける。

○洗面所、私が使った後は消毒。

○痰が出た時、紙を捨てたゴミ箱の上からアルコール噴霧。

○換気。

○私が使った食器はアルコール噴霧をしてから洗う。



 思いがけずコロナにかかり、何気ない日常がいかに大切か思い知った日々だった。


  

 これからも家族で支え合って元気に暮らしていければいい。


 普通に生きていられるって、いいね!




    読了ありがとうございました

               菜宮雪


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