1 少女は父親に憧れる
ヴァネッサは小さな町で生まれた。父親は現役軍人で、母親は元軍人で退役後は実家の農場を手伝っている。小さいころから父の軍人としての姿に憧れ持っていて中等部卒業後は士官学校に入ろうとしていた。だが、両親はその決断に反対していた。特に現役の父が猛反発していた。だが時間をかけて説得しヴァネッサの意思が固いと分かると最後に父クラインは言い聞かせるようにヴァネッサに言った。
「軍人なんてなるんじゃない」
「じゃあなんでパパは軍人なの?」
「ママとお前を守るためだよ。もし戦争になれば一番死ぬのは軍人だ。お前に生きてほしいから軍人になってほしくないんだよ。」
なら私はみんなを守るために軍人になる!ついにはその言葉を聞いてクラインは説得を諦めた。クラインにはたとえ娘に死んで欲しくなくてもその意思を曲げることはできなかった。だから逆に応援をした。戦争から生きて帰れるように鍛え、生き残るすべを叩き込んだ。生きて欲しいという祈りと願いを込めて。
ヴァネッサが中等部を卒業して士官学校に入学した年は戦争を望んでいる民衆が弱腰の政府に対してのデモが活発になっていた。理由は王国が帝国の国境線付近に兵を動員し圧力をかけていた。それに対し帝国も国境線付近に兵を動員した。だが帝国の対応は遅くそれも民衆を怒らせた。
戦争を!勝利を!民衆の声は帝国全土に広まり結果、帝国兵士が王国兵士に向けた1発の銃声が戦争を引き起こした。王国はすぐに帝国に向けて宣戦布告してそれに呼応するように共和国も宣戦布告をした。戦争は4年も続き結果帝国が負けた。ヴァネッサは2年で士官学校を卒業してそのすぐに前線に配属された。配属された当初は第312機動中隊に配属された。2年も経てば中隊長になっていた。ただ、前任者が悉く戦死するからであすが...
全軍に停戦命令が出される3日前、ヴァネッサは塹壕で頭1つ出しながら敵に銃を構えながら応戦していた。
「これ以上は無理ですよ!敵に押しつぶされます!」
「口より手を動かせ!あと少しで援軍が来る!」
「その前にヴァルハラに行ってしまうよ!」
部下のローゼン軍曹とホーキンス軍曹が言い合っているのを横目に敵の頭に鉛球をプレゼントする。
「ローゼン軍曹、貴官がヴァルハラに旅行したいのは構わないが私はまだ行きたくないんだよ」
そう冗談を返すも状況は危機的だった。撃っても撃っても敵は減らない。援軍がこなければ全滅するだろうなとヴァネッサは思った。
「中隊長殿と行けないのならヴァルハラ行のチケットはキャンセルしないと!」
ローゼン軍曹が軽口を返した。口にははまだ、余裕はあるな。がその顔には余裕はないことは見なくても分かっていた。誰しもが援軍を望む中通信兵が大声をあげて報告した。
「中隊長!援軍が300以内に到着可能とのこと」
「中隊長より各員、あと少しだ!援軍が来るぞ!」
ヴァネッサの声で満身創痍の中隊は息を吹き返し敵に立ち向かった。あと少しだ!生きて帰れるぞ!お互いに或いは自分に言い聞かせるように叫びながら。
「ホーキンス軍曹、手を止めるなよ!」
「さっきまで泣き言いていたくせに」
「だけどこれで押し返せ…」
その時敵の投げた手投げ弾がちょうど3人のいるところに投げられた。ヴァネッサが気がついた時には2人はミンチになっていた。死体が焼き焦げた臭いが塹壕に広がった。だがそんな臭いに意識を取られてはいけなかった。気が付いた時には敵の1人が塹壕に侵入してヴァネッサに銃剣を突き刺そうとしていた。咄嗟に避けてたが間に合わず右手に刃が切り裂いた。痛みに顔をしかめながらよけた先にある死体―――多分ローゼン軍曹―――の拳銃を左手で抜き敵に撃った。敵はヴァネッサの拳銃を見て瞬時に状況を理解して絶望し、そして死んだ。
「メディック!中隊長が負傷した!」
味方が叫んだがヴァネッサには誰だったのかわからなかった。
「状況は?」
「コナー中尉の中隊が到着しました。敵を押し返しています。隊長は安静にして…」
全てを聞き終わる前にヴァネッサは意識を失った。
次に目覚めたのが医務室のベッドの上でその時には戦争が終わっていた。腕の傷のほかに爆破時の衝撃でどこかにぶつけたのか左足を骨折していた。医師からは安静にしていれば治ると言われたが腕は傷が残ると言われた。傷が残るだけなら問題ない。銃が持てれば問題ない。ヴァネッサはそう答えたが、医師は首を横に振り優しくこう言った。
「戦争は終わったんだよ」