それを知るには自分の心は弱すぎる
どうも、茉那です。性別は男です。間違いありません。名前なんて、宛にならないんですよ。例えば、『霞』っていう人がいたとしても、女か男かなんてわかりませんよね。実際、男にもいますから。だから、俺の名前が『茉那』でも、それを聞いた或いは見ただけでは、男なのか女なのかは判断できないのです。少しシェレディンガーの猫のようですね。
シェレディンガーの猫とは、猫を使った思考実験のことです。
『ある密閉状態の箱を用意し、この中に1匹の猫を入れる。箱の中には他に、少量の放射性物質と、ガイガーカウンター、それに反応する青酸ガスの発生装置がある。放射性物質は1時間の内に原子崩壊する可能性が50%であり、もしも崩壊した場合は青酸ガスが発生して猫は死ぬ。逆に原子崩壊しなければ毒ガスは発生せず、猫が死ぬことはない。1時間後、果たして箱の中の猫は生きているのか死んでいるのか』という実験です。
ミクロの世界の特有だという確率解釈の矛盾を突くことで、量子力学が未だ不完全な学問であることを証明しようとしたらしいです。
さて、なんでこの話をしたかといえば、仮想世界が完成したことに関係します。
仮想世界。つまり、ヴァーチャルの世界ですが、その世界は本物ではありません。人が死なないとうことは、ある意味では、人間として死んでるも同然。まあ、それはいいとして。仮想世界と現実世界。この二つがシェレディンガーの猫のようなのです。先ほど、名前だけを見聞きしただけでは、性別は判断できないと言いました。それと似たようことです。つまり、仮想世界では生きていたとしても、現実世界では果たして生きているのかわからない。あり得ないと思うかもしれませんが、そう思うということは、あり得る可能性も無きにしもあらず。現代ですから、どこかの機関が、脳だけ生きているの状態にできる、という実験をしているかもしれません。そして、それを成功させたかもしれません。脳は、ゲーム内でいきているが、体は既に死んでいる。そんな状況に陥る可能性が出てくるのですよ。まあしかし、そんなことはないと信じたいですがね。
大分話が逸れてしまいました。
あ、そういえば前にあった話ですが、バイトの面接の「あなたがバイト希望の人で間違いありませんか?」と聞かれ、そして、「偽名・・・とかではないですよね?」と疑われてしまったことがありました。女だと思ったんですね。まあ、名前からして、男だと思う人はあまりいないでしょう。警察呼ばれそうになりましたよ。ええ。
高校では、一部──俺と親しくない人、つまりは他中だった人──からは、茉那は女だ!みたいな、そんな感じの会話をしているみたいです。いつか、いじめの対象になるやもしれません。そのときは友人、助けてくれ。
さて、【D・World】から帰ってきた俺は、早速、飯を食べに下に降りようと、ベッドから降りた。
いや、降りようとしたが、実際には、転がり落ちてしまった。それはなぜか。
「ん?なんだこれ。なんか、変な感じする」
転がり落ちて、ぺたりと床に座る。
まだくらくらするからなのか、変な感じがするのだ。いつもと何かが違う。
「まあ、暫く座ってればいいだろう」
思えば、何故、ベッドから降りるときに転がり落ちたのだろう。不思議でならない。いや、あり得なくはない。ふらついて体を支えきれなかったりしたのかもしれない。が、目眩などでふらついたり、体を支えきれなかった感じはなかった。感じたのは、何かが足りないということだけ。何か異変があるわけで────
────なし、と言いたいところだが。
「おいおい、まさかな。な、あは、あはは」
思わず笑うほど。人間が仮想世界をつくったからといって、それは、技術を以て成し得たのであり、超能力ではない。しかし、
「これは、なんか、ね」
微かに、いや、大分、身長が縮んだように感じた。床に近いような……。それは、朝たがらという理由で解決する。感覚が鈍るというのはよくあることだ。けれども、確かにこの感じは…気持ち悪い感じは……。
「ない……よな、あれが」
確かめたくなかった。だから、ベッドの側面に寄っ掛かり、正面にあるドアをじっと見ていた。
しかし、それも続かない。気になってしょうがないのだ。
「ちょっとだけ……」
この感じ、着ている服も違うのだろう。ふわふわーとスカートみたいな……。
「……ええい!ままよ!」
現代ではあまり聞かないなと思いつつ、あるところに右手を触れる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
「─────────────────────────────────」
暫くの沈黙の後、俺は叫んだ。
「なくなってるじゃねぇかぁぁぁぁぁあああああ!!!!」
なくなっていた。俺の、俺の!!
「息子ォォォオオオ!!!」
俺は──女になってしまったらしい。
よーし、落ち着いた。あれから、十分の時間が過ぎた。
立ち上がって、とりあえず、部屋を出ようと鏡の前を通り過ぎ・・・・・・ん?誰だ、あの可愛い幼女は。
鏡に見知らぬ幼女が立っていた。
後ろを振り向くが、誰もいない。
「しかしそんなはずは……」
は……ない、とは思うが──。
あ、隠し子?え、誰の。俺の親の?なんで?そんなわけがないかぁ~、あったり前じゃあないか──問題はそこじゃねぇ!って!?あれ?俺の動きに合わせて、鏡の幼女も同じように動いてるんだけど!?こわっ!?
「あ、俺?り、リトルガール?ミーが?」
(ピンポンピンポン!正解~!)
「じゃねぇ!!」
やっぱり、幼女になってたの、俺!?薄々は思っていたが、幼女とはな……しかも、可愛いときた。
服装は、男だったときに着ていた服ではなく、真っ黒なゴスロリ。手には、真っ黒な長手袋。足には、真っ黒なタイツ。
身長は、140センチくらいで……髪の毛は真っ黒。顔は……は……
「どっかで見たことあるよぉぉぉおおお!!」
【D・World】でつくったアバターだった。これさ、どゆこと?
落ち着けぇ、俺。男だろう?
あ、夢ってことはないか?
バシンッッ!!
リアルな痛みだよぉぉぉ。痛いよぉ。おもいっきりひっぱたいたからな、頬を。赤くなってら。
「うぐっ……ふぐっ……ふぇ……しかも、声が可愛いよぉ」
(そんな、泣き声が、とある部屋に響いていたとさ。おしまい。)
「おしまい、じゃねぇよ!!戻せよ!!」