プロローグ
目を覚ますと、いつも通り液体に浮かんでいた。
湾曲した視界からわかるのは、自分は透明な筒のようなものの中にいること。そして、ぼんやりと映るあの人が今日も来てくれていること。
自然と、自分の顔が緩むのがわかった。
(早く、会いたい)
いつもならそう焦がれるだけで終わるのに、今日は違った。その想いに答えるかのように、変化が起こった。
まとわりついていた浮力がなくなっていく。筒に満ちていた液体が音を立てて下から排出されていた。まず顔が液体から自由になり、同時にこれまで空気の代わりに肺に満ちていた液体の供給が失われ、それは咳とともに吐き出された。
やがて自分を覆っていた液体が完全になくなり、筒状の強化プラスチックが上にスライドした。
膝をついて咳き込んでいると、頭に付けられていた電気コードだらけのヘッドギアを脱がされ、生命維持スーツの上から白衣をかけられた。
顔を上げた。微笑んだあの人が、顔についた髪を払ってくれた。
ずっと、自分を励ましてくれていた、優しいあの人。試験管の中でもちゃんと聞こえていたよ。
ああ、やっと、キミに触れられる。
もしここから出られたら、最初にこう言おうって決めてたんだ。
「────」




