052
着地は街を少し離れた平原だった。
地面としか言わなかったボクが悪い。
と思ったが巨大な鳥に掴まれたまま街中に戻るのも良くはない気がするし、結果オーライだ。
さぁ、記憶を頼りに裁判所まで戻ろう。
まず、外壁は飛び越える。
レベルが上がったからか、垂直跳びで難なく越えられた。
不法侵入?
入場の列が長いんだよ。
そろそろグリンも迎えに行きたいし。
第一、ボクの冒険者カードには王都に入場した記録はあれど退場した記録がない。
さて、忍者の様に屋根から屋根へ屋根伝いに跳び目的地に到着した。
……んだが、なにやら騒がしい。
ホルンを人々が囲んでいる。
ふむ。
[スキル統合]を使用して、聴覚系スキルをまとめ[聴覚強化]と命名。
さて、何を話しているのかな?
「あの少年……したと……」
「グラン……スター……えを」
ちょっと、遠いか。
先ほどよりかは聞こえるがハッキリしない。
電波が遠い電話みたいにブツブツ途切れる。
聴覚強化より盗聴とかのが良かったかな?
〔条件が満たされました〕
おおう、きたきた。
[聴覚強化]のレベル2に[盗聴]が加わった。
「目撃者の証言では一瞬で消えたとの事ですが」
お、良く聞こえる。
「少年は何処にいるんですか?」
「生きているんでしょうか?」
「そもそも少年は何をしてあの様な目に?」
「グランドマスターなんですから、子供のした事くらい目を瞑れなかったんですか?」
んんん?
良く解らないな。
周囲の人々をもう少し観察してみよう。
少し遠いな。
よし、[スキル統合]で視力系スキルを[視覚強化]に統合。
したけど、視力が良くなってもピントが合うだけでズームされる訳ではないんだな。
〔条件が満たされました〕
レベル2に[ズーム]が追加された。
うむ、良く見える。
囲んでいる方々はメモとペンを持って、ホルンを包囲し問い詰めている。
角度が悪くて見えない人もいるけど、メモの内容をまとめると。
加害者の少女について
ホルン=テリトリー。
冒険者ギルド、現グランドマスター。
往来で少年に暴行を加えた疑い。
被害者の少年について
素性不明。
髪はショート、金髪、服装は整った身なり、故に観光客ではなく、王都在住の貴族子息と考えられている。
少女に顔を捕まれ消される。
消息不明。
理由はホルンとボクだった。
内容は往来で少年の顔を鷲掴みし、消したホルン。
はたから見れば確かに事件だ。
そしてボクは貴族の子供と思われてるのか。
裁判所の為に出廷するのでイクスさんに服装を見て貰ったのが仇になったか。
にしてもこっちの世界にも報道とかあるのかな。
凄い勢いで捲し立てられてる。
戻るのに30分と掛かってなかった筈だが、こんな大事になるとは……外壁飛び越えないで素直にホルンに投げ出されたと告白して通して貰った方が問題なかったかな?
……それはそれで問題か。
1人で考えても埒が明かない。
ヴィオさんに相談しよ。
前に聞いといたギルドカードの機能、通話でヴィオさんを選択。
『プルルルルルップルルルルルッ』
誰がコール音決めてるんだろう。
懐かしさを感じる。
『サムか、どうした?』
事情を説明する。
『なるほどな。そのまま帰還しろ』
「え? 放置でいいの?」
『確かに煽ったお前にも非はあるが、そもそもはホルンが悪い。少し反省して貰おう』
「本当にいいの? 一応、仮にも妹なんでしょ?」
『仮でもなく実の妹だが気にするな。ホルンはグランドマスターであるという自覚を持った方がいい。世間の目がある場で起こす行動ではない。本部には私から連絡しておく』
「んー……それじゃ対応も面倒だし、お言葉に甘えて」
あの場に入り、「ボクが件の少年です」など言えばボクも質問責めにされるのが目に見える。
ので、ホルンには悪いけど本当に帰宅しよう。
ストレージからさっきのフクロウを取り出し、屋根から飛び去ろうとした時、ホルンと目があった気がしたので、あっかんべーしといた。
飛び去った後方から「あ゛ーーーーー」と声が聞こえた気がしたが無視しよう。
グリン?
グリンは魔石製造のスキルを伝授に生産ギルドにいます。
無論、タダではやらないので王都のスイーツで依頼された。
食い物の為についてきているグリンは快く承諾し、ボクの裁判中、生産ギルド本部へ滞在している。
それの為かイクスさんも速効で帰還したようで、あの騒ぎの場にいなかった。
単にボクみたいに面倒だから見捨てただけかも知れない。
どっちだろう。
グリンを迎えに行って聞いてみよう。
と、いうわけで生産ギルド本部に到着。
生産ギルド本部は遠目でも直ぐにわかる。
敷地が広いのもそうだが、形状がピラミッドだ。
エジプトの様に段々にはなっておらず、キレイな四角錐。
色はオニキスの様なつやありブラック。
正直、悪の組織の秘密基地を疑う。
でも、ちょっと憧れる。
変形しないかな?
ロボットじゃなくていいんだ。
兵器とか飛行要塞とか……。
グランドマスターを訪ねたら不在だった。
受付の娘に生産ギルドカードで連絡をとって貰い、案内された部屋で待つこと数秒。
「なんでいるの?」
と、驚きの声と共に現れた。




