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「口を塞がれては聴取ができんな」


 口が失くなるなんてボクからすれば異常事態だけど冷静だな。


 似たようなスキルがあるのかも知れないな。


「それは解けるのか?」


 溶ける?


 あぁ、解けるか。


 国王様が知ってるのは魔法か呪いの類いなのかな。


「これはボクのスキルで顔を粘土の様に加工しただけですので、呪いとかではありません。今のところボクにしか戻せないけど、コイツの汚い言葉は聞くに堪えない」


 でも、その度に呼び出されるのも開口してコイツの声を聞くのも耐え難い。


「あ、そうだ」


 再びボクはゲリオスの顔面を加工した。


 今度は4桁のダイヤル錠付きだ。


 ダイヤル錠自体もゲリオスで出来ている為、無理に開けようとすれば激痛が走る。


 ……ハズ。


「カギつけといたから、聴取の時に外してよ。番号は後で教えるね」


 因みに、解錠すると唇は凸凹状でひらく。


┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓

┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗


 [ゴーレム]の効果か、皮膚も少し硬くなっていて隙間もなく煩わしい声は漏れてこない。


「ならば良し。その者を牢に放り込んでおけ」


 口を塞がれ喋れないゲリオスは呻きながら兵士に引きずられて行った。


「陛下」


 ゲリオスの弟、ノーモアが発言した。


「なんだ?」


「私は既に家を出て幸せな家庭を築いておりますし、子爵としての教育も録に受けられませんでした。この様な身で他の爵位持ちの方々と並び立つことはできません。当初の裁定の通りガメツイン家は爵位を返上いたします」


 言動だけ聞くとゲリオスよりはよっぽど礼節あるけど。


「そうか、結婚は祝福しよう。しかしな、ガメツイン家の領地にはダンジョンがある。あれの管理はして貰わなねば困るのだ」


「ダンジョン……ですか?」


魔物の氾濫(スタンピード)を起こさないよう、定期的な見回りと討伐。討伐と言っても予算から冒険者ギルドに依頼を提出するだけの簡単な仕事だ。忘れたわけではあるまい?」


「そのような話は聞いた事が……」


「初代ガメツイン、リック=ガメツインは冒険者として名を馳せた者だ。当時はその身ひとつで氾濫を押さえていたと聞く。そこまでは求めないが……待て、聞いた事がない?」


「はい。ガメツイン家の領地にダンジョンがあるという話は」


「バカな! 国からも毎年予算を裂いているんだぞ! 冒険者ギルドは立て!」


「「「「「「はいっ!!!!!」」」」」」


 ヴィオギルドマスター、ホルングランドマスター、他、近辺のギルマス達が国王の命令により一斉に起立した。


「最近、ガメツイン家からのダンジョンモンスター討伐および、間引き等の依頼はあったか!?」


「いえ、ありません」


 応えたのはホルンだ。


 グラマスだし当然か。


「なんだとっ!? 何故報告しない!」


「我々ギルドも傍観していたわけではありません。定期的に子爵には確認しております」


 応対している姿を見て思う。


 まともに会話はできるんだな、一応。


「子爵からは毎回『ウチの優秀な処理班が対処している。問題はない』と回答を頂いております」


 「やばい……」そう洩らしたのはイクスさん。


「どうしたの?」


「ホルンちゃんは人の裏表を見るのが苦手なんだ」


「そうだね」


「会って間もない筈だよね?」


 会って数日だが、解る事は解る。


 あれは人の言った事を鵜呑みにするタイプだ。


 そのせいで録に調べもせず、パールの回復薬(がんばり)をあんなクズに渡したんだし。


 あ、あとグリンの魔石も。


「で、何がやばいの?」


「子爵が言った事に対して裏取りをしていない可能性がある」


「え、それは不味いんじゃないか?」


 スタンピードって異世界小説でも良く出てくる所謂魔物の大量発生だろ?


 それを事前に防ぐ為の間引きをあんな胡散臭い奴の発言を鵜呑みにして確認してないなんて━━


「何故、事実確認をしていないっ!?」


 ━━あるみたいだ。


「ですから、子爵が処理したと報告を受けています」


「民の物を強奪し、人を殺し、隠蔽する者の発言を信じたのかっ!?」


「えっと、はい。それが何か?」


 国王は口をパクパクさせて、言葉が出ないようだ。


「陛下、恐れながら申し上げます」


 発言したのはヴィオさんだ。


「なんだ」


「ホルングランドマスターはバカなのです」


「ヴィオラちゃん!? それは酷くない!」


「お前は黙れ! それで? なぜバカがグランドマスターを勤めている?」


「他のギルドは解りませんが冒険者ギルドは強さが全てなのです。前グラントマスターと決闘をし勝利した者が次のグランドマスターになります。そこに知能は関係ありません」


 脳筋……。


「それで、このホルンが志願して前グランドマスターに勝ったのか」


「いえ、前グランドマスターが挑みました」


「何故だ? 負ければ職を失うだろ」


 ヴィオは国王の御前でありながら「はぁ」とため息をつき、続けた。


「元Sランク冒険者ハワード。自分より強き者がいれば挑む戦闘狂いと聞いています」


「冒険者ギルドにはバカしかいないのか?」


 半ば呆れ顔で訪ねる。


「補佐官は知能面で選ばれますから大丈夫でしょう。それに負けても冒険者に戻るだけです。無職ではありません」


「ちょっとその制度変えていい?」


「制度変更はグランドマスターにしかできませんので、冒険者ギルドに登録したのち、そこのバカを倒して下さい」


「え? ワシ、国王なんだけど」


「冒険者ギルドの基本理念は『強き者に従う』です。それは国王様でも覆させません」


 途中から国王様が下手に出てるけど、ヴィオさんも態度を改める気はなさそうだ。


 国王相手にズバズバ言い放つ。


 というか「覆りません」ではなく「覆させません」なんだね。


 どんだけ、実力主義なんだよ。


「尚、代理は受け付けません」


 国王だけじゃなくて、他のギルドの方々も目を丸くしてるけど大丈夫なの? このギルド。


「代理は受け付けないと言ったが、勝者が発言すれば通るのだな?」


「その通りです」


「わかった。では今度我が手の者を送るが後で文句は言うなよ?」


「構いません。ただ私が言うのも何ですが」


「なんだ?」


「このバカは実力は確かです。単騎で国を落とす事も可能と見ています」


「それは反逆ということか?」


「チカラはあると言っています。実行に移す知能はありませんが」


 知能はないとか姉妹なのにズバズバ言うね。


「なるほどな。しかし国とは大きくでたな。我が軍には腕に覚えのある魔法使いも多数いる。騎士団も優秀だぞ?」


「あのバカは前グランドマスター、“戦狂(いくさぐる)いのハワード”に勝っています」


「戦狂い? 単騎で敵軍を壊滅させたあのハワードか?」


「そのハワードです。その際、いも……」


 妹と言いかけ「コホン」と咳をして続けた。


「ホルン=テリトリーは圧勝しています」


「あのハワードに圧勝……まてテリトリー? “豪技(ごうぎ)のテリトリー”か?」


「はい。自己強化スキル重視のテリトリー家です。そしてあのバカはギフト持ちです」


 ギフト? なんだ、ギフトって。


「どんなギフトだ?」


「個人の秘匿情報です。国王様でも本人の許可なくお答えいたしかねます」


「そうであったな。今の発言は━━」


「ですが━━」


 国王が発言を取り消すようなセリフを言おうとしたが被せるようにヴィオさんが前の言葉を否定する接続詞を使った。


 ヴィオさんはチラッとホルンの方を見て発言を続けた。


「━━あのバカなら問題ないでしょう」


「ちょっとぉぉおおお~!」


 ホルンのツッコミも無視して話し続ける。


 てか、国王の発言遮っていいの?


 当のホルンは「別にいいけどさ~」と頬をリスの様に膨らませながらぶつぶつ呟いている。


「ホルンのギフトは“反転”です」


「反転?」


「わかっているのは自身に掛けられたデバフの効果を反転させる事。弱体化のバフであれば身体強化に変わります」


 それならバフを掛ければ済みそうだけど、そう簡単な話ではないんだろうな。


「ギフトはテーマにのっとり複数の能力が発現する。その能力だけでも強力だが、他にもありそうだな」


 上位スキルに似てるな。


「他にもあるよ~」


 と手を挙げて声を出したのはホルン。


「これはね、お父様に使うなって厳命されてるんだ」


「実力主義派のお父様が?」


「家訓に反するとかなんとか。ま、私もアレはグロいからあまりやりたくないな~」


「どんな能力なのだ?」


「前に角兎(ホーンラビット)に使ったら表裏がひっくり返ったんだ」


 表と裏、普通に考えれば前面と背面。


 一瞬で向きを代えさせるって事?


 でもグロいに繋がらない。


「あ、わかってないね? とはいえ説明も難しいんだよな~。でも魔物の解体をした事がある冒険者にはわかるかな?」


 まさか……。


「魔物というか大抵の生物全般、革・肉・内臓の順になってるけど反転を使うと内臓・肉・革の順になるんだ」


 少し沈黙が流れた数秒後、後ろで吐き出した者が数名出た。


 その者達は退出を許可させた。


 許可した国王様も顔色が優れない様子。


 ま、無理もない。


 冒険者ギルドだけでなく、他ギルドも顔色が優れない者は多い。


 それにしても敵がグロくなるから使えないなんて冒険者としてはおかしい。


 苦労の末、倒した魔物なんて傷だらけだ。


 眼球は(えぐ)れ、斬り口から全身が血に染まり、骨は見える。


 内臓も表に出ている事もあるだろう。


 頭骨を砕かれれば脳も露出するんじゃないか?


 それに大剣や棍棒で倒したらミンチになってるだろ?


 そういや前に塾長(じゅくちょう)に聞いた話だと走行中の電車に飛び込むと正面に皮だけ貼り付き中身はバラバラになって飛び出すとか。


 大剣の側面で薙ぎ払えば大剣の側面に皮が残るのか?


 しかし電車の場合は質量と速度がある。


 そんな速度で大剣を横薙ぎで振るうなど人間技じゃ……まてよ?


 レベルを上げ続ければ可能か?


 実験してみたいが貼り付いた皮は剥がすのも一苦労だと言っていたし、飛び散った肉片も……」


 背後で吐き出す者が出た。


 先程、おう吐した者は粗方退出したし、耐えられなくなったのかな?


「サム君、サム君、皆、気分が悪いんだ追い込むような発言は控えてくれ」


「追い込む発言?」


「倒した魔物がミンチになるとか皮が貼り付くとか」


 再び吐き出す数名。


「あれ? 声に出てた?」


「ああ、私も少し気分が悪いからもうやめて欲しい」


「冒険者のギルドマスターともあろう者が情けない」


「冒険者ギルドはまだ堪えてるよ。離席した者の多くは商業ギルドだ」


「商業ギルドなら尚更だよ。解体した物を商品として扱うんだ。潰れた魔物くらいで吐瀉して務まるの?」


 しかも実物じゃなくて想像の話。


「ホントだよ。こりゃ減給かねぇ」


「シルメリアさん」


「やぁシーちゃん」


「シーちゃんはお辞め。でも坊やは対象を魔物で想像したのだろう? 皆は対人で考えてしまったのさ。だから減給は勘弁してやろうかね」


「え?」


「話の流れさね。国王がホルンの嬢ちゃんに挑む話をしていただろう? 皆はそこから対人で想像したのさ。人によっては自身で想像した者もいただろうがね」


「確かにミンチとかは魔物で考えてたかな。でも皮が貼り付く話は人だよ。高速で動く平らな物体に人がぶつかると皮を残し中身がバラバラに飛び散るんだ」


 更に嘔吐する音が聞こえる。


「よく平然とその話をするねぇ」


 シルメリアさんが少しひいている。


 そんなおかしな話してるかな?


「話を纏めるには人が減り過ぎたな。また後日、ダンジョンの事でお集まり頂くことにしよう。各ギルドには追って連絡する。故に今回はここで閉廷としよう」


 皆が席を立ち始めた。


「冒険者ギルドはダンジョンについて、至急現状の調査と間引きを開始しておけ。必要経費はコチラで出す」


「はっ!」


 冒険者ギルドのギルドマスターの面々が国王に対して敬礼を行った。


「国王様、私は」


「よい。子に知識を与えなかったガメツイン家の前当主に問題がある。責はソイツに付けるが、問題は新たな当主だな」


 ダンジョンか、確かグリンが欲しがってたな。


 お願いしたらくれないかな?


「国王様!」


「なんだ、少年」


 ボクは国王様に駆け寄り発言する。


「その当主、ボクやりたいです」


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