047 サム=クゥエルの裁判
不定期更新です。
もうしわけありません。
そして、裁判当日。
あれが、ゲリオス=ガメツインか。
丸々と肥えた豚だな。
「あれがオークか」
ボクの周りにいた人達、特にイクスさんがおもいっきり吹いていた。
ツボに入ったのだろうか。
イクスさんはボクの弁護人として来てくれているのに、申し訳ない。
いや、誠に。
でも幸い本人には聞こえなかったようだ。
「それでは、ゲリオス=ガメツイン子爵。無色透明な魔石とは珍しいですが、貴方はこの魔石をどこで入手したと言うのですか?」
裁判官は箱に納められたままの証拠品を指してゲリオスに問う。
「裁判官は知らないか? ソイツは冒険者ギルドでも手を焼く厄介な魔物しか出さない。俺様が巣を見つけてな。大量の群れを成していたから俺様自ら討伐してもぎ取ってやったのよ」
「そうなのですね。貴方は冒険者ではありませんが、抵抗はありませんでしたか?」
「強かった。抵抗された。だが、それ以上に俺が強かっただけだ」
「そう……ですか」
嘆きの表情を見せる裁判官。
ゲリオスと裁判官が問答しているのを横目にボクは疑問に思った事をイクスに小声で尋ねた。
「無色の魔石は人から出るんじゃなかったの?」
「シッ! あえて伏せているんだから」
「で、なんでゲリオスは魔物と思ってる上に自ら討伐したなんて言ってんのさ。あの肥えたオークが何か出来るとは思えないんだけど?」
「真面目な席なんだから笑わせに来ないでくれ。裁判までには少し日数があったからね。誤情報を与えたのさ」
「誤情報?」
「彼の言っているままだよ。無色の魔石はギルドが手を焼く厄介な魔物からしか取れず。とても希少だとね」
「でもなんで自分で討伐したなんて……」
「名声も欲しくなったんだろう。ま、そう仕向けたんだが、こうも上手く転がるとは……」
二人でヒソヒソと話していたら、ゲリオスの喚き散らす声が聞こえてきた。
「あぁ、そうだ。あの真珠色に輝く容器は俺が取り寄せた品で間違いない。あの小僧が輸送車を襲い奪ったんだ。これは大罪だろう? 裁判長、小僧を奴隷にする事を要求する」
「まぁまぁ、彼に悪気はなかったんだ」
サムの弁護人イクスがなだめる様に反論する。
「悪気がない? 人のモノを盗んで悪気が無いとは傑作だな!」
お前が言うか。
これは正真正銘ボクの所有物だ。
というかパールとグリンが頑張ってくれた証である。
グリンは頑張り過ぎたみたいだけど。
本当は反論してボクのモノだと証明したい所だけど、今回は今まで犯したゲリオスの横暴な行動から嫌気が差した皆様からの願いを受け、穏便に譲る事にしたよ。
多少の汚名は着せられるが、罪に問われない手段があるからね。
まぁ、その汚名自体もゲリオスの被害者が多数いるので市井の方々は汚名と思わない。
「盗んだなんて人聞きが悪い。彼は拾っただけですよ」
「何を言うか! 自分の物としてギルドに渡して置いて!」
「彼はここ最近、記憶喰いに遭遇っているんだ。拾った事を忘却されてしまったのだよ」
そう、これが罪に問われない手段。
ボクはどこかでゲリオスの荷物を拾っていた。
そして届ける途中、記憶喰いに襲われ拾った記憶を失くしたのだ。
こんな屁理屈許されるなら犯罪し放題だけどね。
現にボクは記憶喰いに遭遇してないんだし。
「ふん! そんな都合のいいことがあってたまるか。どうせでっち上げだろ! 証拠でもあるってのか!?」
当たってるけど、お前に言われたくはねぇよ。
「生憎だが、記憶喰いの証拠は残らない」
「はっ! バカがっ! 罪状増やしやがって! おい! コイツに虚言罪も追加しとけ!」
「ですが、登録はありますよ。彼がギルドに登録に来た日に申請が通っています」
「な、ナニ?」
証拠品として提出された書類にはしっかりとサム=クゥエルが記憶喰いに遭遇し、身元捜索の申請がされている事を示していた。
「では、記憶喰いの特例としてサム=クゥエルは無罪とし、そちらの品々はゲリオス=ガメツインの所有物であることを認めると言うことで宜しいですかね?」
「あぁ、構わないよ」
凄いな。本当に無罪になるとは。
「では、ゲリオス=ガメツイン。この裁判での発言内容に虚偽が無い事を神に誓えますか?」
「誓おう」
「記憶喰いの被害者に正しき判断は出来ないでしょう。サム=クゥエル側の誓いは省略します」
「ではこれにて、サム=クゥエルの裁判は終了とする」
終了が宣言された途端にゲリオスは証拠品に駆け寄ろうとしたが裁判官に止められた。
「これから次の裁判が執り行われます。席にお戻りください」
「次の……裁判?」




