045 53那由他
「元魔物ね。それで、私を無知呼ばわりするんだ。アンタは魔王を知ってるんだよね?」
「知っているというより、元魔王ですね」
「ナニソレ!? 聞いてない!」
このグリンの発言に驚きを示したのは、他でもないサムだ。
「聞かれませんでしたので」
森にいた魔物に職業は?
などと聞く筈ないだろ。
そうだ。
グリンは森にいたんだ。
「魔王が森にいる筈がない!」
「そちらのご婦人もそうですが、あなた方の物差しで図らないで貰いたい。特にマスターは異世界人なのですから」
「人族の王家は親から子へ継がれる事が基本だけど、魔物の王は実力こそが全てなのさ」
「佐用、魔王を討ち倒す者が現れれば、その者が魔王を名乗れるのです」
なるほど、王を討ち取った者が次の王を名乗れるわけか。
討ち取った?
「なら、なんでグリンはここにいるのさ」
「マスターには話したではありませんか」
「何を?」
「ワタシには[孵化意思数]があると」
「不快指数……」
ワラワラと湧き出る虫を想像し、背中がゾワっと寒気が襲う。
サムは苦虫を噛み潰したような顔で返答した。
「確か……分裂するんだっけ」
「はい。その時の魔王の身体構成もそうですが、魔王になったのはワタシの内の1人なのですよ」
「えーと、つまり」
つまり、不快指数をゲットした時に身を分けた分体が存命で魔王にまで登り詰めたと。
「万に別れた分体と意識共有してんの?」
「常にではありませんが、相談される事もありすし、そうでなくとも感情の起伏は伝わる事が多いですね。ハッキリ解るのは死亡時です」
「残り何体?」
「現存は4体です」
そうか、グリンがあと3体もいるのか。
元魔王ならグリンだけで四天王名乗れそう。
「とは言え、完全にワタシでも無いんですよ。環境や周囲の生物により性格は変わっていきますからね」
「でも、ホントに魔王だったんだ」
「はい。ですので魔王であったワタシから言わせて貰えれば2Eなど微々たるモノです。1つの魔石に2E詰め込むのは苦労しましたがね」
「2Eを微々たるというくらいだし、総量って1Zとかいっちゃうの?」
「うーん」
おや、グリンが悩むとは珍しい。
「1Eは10.(10の18乗)ですよね?」
「何でその言い方する? まさか接頭辞が無いとは言わないだろうな?」
「その通りですね。53那由他と言って伝わりますか?」
「なゆた?」
なゆたってなんだっけ?
ゲームソフトのタイトルであった気がするが。
「億や兆と同じ表記なのですが覚えてませんか?」
「一、十、百、千、万、億、兆、京、垓までなら記憶にある。あとは最上限の無限大数?」
「無量大数ですよ。残念です。マスターは日本人だと言うのに」
「しょうがないだろ? 学校で習うモノでもないからな」
「那由他はその8桁下です」
「ふーん」
解ってるような返事をしたが、実は解ってない。
何故なら最上限の漢字はなんとなくで覚えているが、桁がいくつだったかまでは記憶してないからだ。
「解ってませんね?」
「バレた?」
「10.です。無理矢理接頭辞で現せば53EZ.といった所ですかね」
「60乗、Eが18乗でZが21乗だから……あー、うん。それで合ってる」
Yで無い時点で膨大なのは予想してたけど。
「そりゃあ2Eは微量だわ」
ついでに、ボクの初期値1000なんて微量も微量だな。
「その時のワタシの分体は魔王の中でも多い方でしたが、歴代でも5Zが最低ラインと聞いています」
「歴史に魔王の魔力量について明確な資料がない訳ね」
「私なら観れそうだけど、魔王に近づかなければ観れない。観れる所まで近付いて観たら殺されるだろう。勇者が生産ギルドに入って生産職を極めたらあるいは……」
「現実的に無理でしょ」
「だよねぇ」
「これが真実だと世界に知らせたいが、この証拠を教会に連れていく訳にもいかんしねぇ」
「あ、でも星を召還した魔王の魔力量は不明ですね。まぁ、彼は異世界の魔王ですから仕方がないですが」
「魔王セトの事かい?」
「おや、ご存知で?」
「そりゃ誰でも知ってるさ」
「この星の英雄さね」
グリン
「ワタシの魔力は53那由他です」




