044 グランドマスター[商業ギルド]
不定期更新です。
「やっほー、シーちゃん」
「お久しぶりです」
「シーちゃんは辞めなと何度言えば……おや? 見ない顔がいるねえ」
「お初にお目にかかります。ご婦人、ワタシは冒険者……いえ、まだ登録はしていませんでしたな。冒険家のグリンと申します」
「えーと、ボクは登録してあるよ。冒険者のサム=クゥエルです」
「グリンさんとサム君ね。私はシルメリア=シークエンス。ここ商業ギルドのグランドマスターを任されているわ。それで二人はなんで来たんだい?」
「魔石を返して貰いたくて」
「返す?」
「ウチのグラマスが録な確認もせずに盗品申請を通しちゃってね」
「ウチのって、アンタの妹でしょうが」
「そうよ。あのバカ! 実物すら見ずに! シルメリアさんも無色魔石見たでしょ?」
「確かに見てたら、そんな申請通さないわねぇ。あれを内包する人族なんて存在しないもの。でも残念ながら通してしまっている。だから、これはあの子爵の物。私の判断で返す事は出来ないわ」
「とりあえず、私の話を聞いていただけますか?」
イクスは魔力保有量が高過ぎて、下手な魔道具で試運転すると王都が滅ぶ可能性を説明した。
「アンタねえ。そりゃいくらなんでも大袈裟よ。下手な冗談に皆を巻き込むのは辞めな。それとシーちゃん呼びもね」
「あれ? もしかして、まだ鑑定はしてない?」
「依頼された品だけど、依頼主のいない所で勝手に鑑定は出来ないわ」
「律儀だね。じゃあ、魔力保有量が2Eあるのを知らないね?」
「今、何つった?」
「2E、200京だよ」
「そんな魔石、魔王でもありえないよ」
「何を言っているのです? 200京など微々たるモノですよ?」
「微々たるって」
シーちゃんと呼ばれた淑女は「あぁ」と何かに気付き続けた。
「グリンさん。2Eと言う単位をあまり聞いた事がないから200京を聞き間違いしたんだと思うけど、200京であって200K、200Kでは無いの」
「えぇ、存じております」
「いやね、だから━━━」
淑女の発言に被さりイクスが発言した。
「あー、シーちゃん?」
「シーちゃんはお辞め!」
「この魔石を造ったのグリンさん」
「あんだって?」
「如何にも、ワタシでございます。ご婦人」
グリンはボウ・アンド・スクレープと呼ばれる、ヨーロッパの貴族社会における伝統的な男性のお辞儀をした。
そんなのどこで覚えた?
「イクス。悪ふざけはいい加減にしな。人が良さそうなグリンさんまで巻き込んで」
「おばぁちゃん。グリンは人じゃないよ」
「こんな子供まで巻き込んで……情けない。アンタ、アタシよりいい大人だろ? いい加減、成長しなよ」
「おばぁちゃんより大人?」
「知らないのかい? コイツはハイエルフという種族でね。300才はゆうに越えとるよ」
ハイエルフ!
きたコレ!
ファンタジーを代表する異種族エルフの上位種族。
「ちょっと、シーちゃん。人の年齢バラさないでよ」
「減るもんじゃないし、構わんだろ」
「減るよ」
「いいトシして、精神が減るとか言うんじゃないよ」
「私をお兄さんと認識してくれる人が減る!」
「「あぁ、確かに」」
この見事なハモりは淑女とヴィオさん。
「え? 減らないよ? だってこんな若々しいんだし、お兄さん以外で呼べないよ」
「君は本当にいい子だよ。もし故郷や家が見付からなかった時は私の養子にならないかい?」
「パス」
ボクはスッパリ断った。
金豈刀侍だったなら地球に未練はないし、義理でもファンタジー種族の親族になれるなら即OKなんだが、残念ながらこの肉体はサム=クゥエルのものだ。
金豈刀侍の肉体は人じゃ失くなってるらしいけど、ボクとしては返せるならこの肉体は返したいからね。
勝手にこっちの血縁者になるわけにはいかないんだよ。
と、考え事をしていたら、イクスお兄さんが地面に手を付き項垂れていた。
「どったの?」
「君も心の底では、やっぱりお爺ちゃんと思ってるんだろ……」
どうやら、即答で拒否した事でショックを受けた様だ。
「そりゃそうだろ。なんせ300歳だからな」
「お世辞を知らないのかね。全く。肉体は若々しいが歳はジジイの精神子供かね」
どうしよう。
でも本当の事は言えないし……そうだ。
「だって、お父さんって年齢には見えないんだもん」
ボクはご長寿探偵アニメのメガネ少年の様なぶりっコを精一杯演じて言った。
「お前も中身はいい大人だろ」という、ヴィオさんの視線が痛い。
「そうか、養子にすると私が義父になってしまうのか」
「そうだよ。お父さんなんてトシには見えないよ」
「実年齢は曾祖父を遥かに越えているがな」
「いい気分に水を刺すなよ。ヴィオ」
「そんな事より、2Eの魔石と製作者がグリンさんってのは本当かい?」
「両方本当だし、サム君の言った人ではないってのも本当の事、もちろん亜人でもないよ」
「なら人型の魔物かい。しかし、ここまでクッキリ人の形状をした魔物なんていたかい?」
「ふむ、百聞は一見にしかず。マスター、お願いしても?」
「何すりゃいいの?」
グリンは左腕を差し出して、
「この腕を加工してください」
「はいよ。直ぐに戻すとして、どんな形状にすんの?」
グリンは「ふむ」と思考に入り、直ぐに提案をしてきた。
「戻さなくて宜しいので、仕込み刀の様な形状は可能ですかな?」
「腕で?」
「はい。短くとも構いません。いえ、出来れば長い方が良いですが」
「仕込み刀は出来る。と思う。けど、長さはなぁ」
柄は手にする。
脱着部はサポーターかリストバンドで隠す様にしよう。
けど、長刀は難しいな。
どんなに頑張っても肘までの関節までしか長さが取れない。
伸縮棒の形状にすればなんとか……あれ?
そういえば。
「パール達スライムは魔石を隠してたけどグリンも同じ事できないの?」
「魔物袋ですか? できますよ」
「なら━━━」
と、いうわけで暫し時間を貰ってできたのがコレ。
柄は手首、刃が2メートルくらいある。
どうやって抜刀するのか。
その秘密は先程の話しに出ていた魔物袋にある。
ボクのストレージみたいなモノだが、グリンには常に魔物袋の入口を左手首にしてもらい、そこに刀身が刺さっている状態。
これにより、肘までの短さの問題を解決し、更に抜刀問題も解決した。
「と、いうわけで元魔物。現在ゴーレムのグリンです」




