037 何か忘れてる
不定期更新です
とりあえず、人型であるグリンとジェイソン、ついでにボクの予備の衣類を購入し、レインお姉さんの店へと戻った。
店の扉を開けると奥から談笑している声がする。
ジェイソンと……レインお姉さん?
何であの二人が談笑してんだ?
奥に向かおうとすると、上から垂れてきた滴が顔に付いた。
「水?」
上を見上げるとボッタクリ店員こと、アレンが吊るされたままだった。
涙かと思ったが、水滴は足先から滴っていた。
そして、濡れた衣服をたどった水源は彼の股間だった。
「うわっ!! 小便じゃねぇかっ! 汚ねぇっ!!!」
アレンは意識が無い様に見えた。
何よりボクが真下で声を出したにも関わらず無反応だ。
「これ、放って置いて大丈夫か?」
糞の臭いはしないから、大はまだ漏らして無いだろう。
無一文のボクを騙そうとした奴だが可哀想に思えてきた。
とりあえず、店主の許可なく降ろす分けにもいかない。
ボクは奥へと足を進める。
前進するにつれ嗅ぎ覚えのある匂いが漂ってきた。
「おぉ~、サムじゃないか。お前もコッチで呑むか~?」
レインお姉さんだ。完全に出来上がっている。
「(この身体は)未成年だから辞めとくよ」
いつかきっとサムに肉体を返却する事を考えていたトージは、飲酒を断った。
向こうは人の身体をごっちゃにしているらしいが、それも子供の思考で行った事だ。
大目に見てやるさ。
神様に戻せるかも知れないという言質をとったし。
「アタイの酒が呑めないってのぉ~!」
うわっ、絡み酒かよ。
「成長しきっていない肉体で酒やタバコを服用すると、発育の妨げになる事があるんだ。このサムの肉体はいつか本人に返す。だから酒は飲まない」
「サムはアンタでしょ~がぁ!」
ボクは創造神アーガスに喚ばれた事を説明した。
「━━━━と、そんな訳でトージとサムは肉体が入れ替わった状態で、この世界に召還されたみたいなんだ」
説明を終えてレインお姉さんの方を見ると爆睡していた。
「聞いちゃいねぇ」
ボクはジェイソンの方に向き直り、購入してきた衣類を手渡した。
「一体どういう経緯で酒飲む事になったんだか」
さて夕方に行くとは言ったが、まだ時間が大分ある。
「少し寝とくか、ちゃんとした睡眠はとってなかったしな」
この世界に来てからの睡眠はMP切れか喚ばれたか死亡だけなのだ。
「寝るとしても、男2人に子供1人が寝るスペースは無いな」
店もそうだが、レインの部屋にそんなスペースはない。
そもそもグリンとジェイソンが寝泊まりする許可も貰っていない。
それなのに店内にジェイソンを放置したボク。
「仕方ない、店の隣にD2とD3を置かして貰って寝るか」
深緑蝗ダグリンの分離体は、昔のロボの様に何号と呼ぶようにした。
理由はロボ感が欲しかった。
それだけ。
D1=バッタ
D2=SUV
D3=キャンピングトレーラー
D4=ヘリ
D5=クルーザー
そういえば、D1とD4とD5はどこで何してるんだろう。
戻ったらナンバーを刻まないとな。
そして、翌朝。
目覚めのいい朝だが、何か忘れている事があるような、無いような?
隣を見るとグリンが寝言かと疑いたくなる声量で、
「このイカめ! 離さんか!」
と叫んだ。
寝言だよな?
ジェイソンは……いない?
「ねぇ、ジェイソン知らな━━」
寝ているグリンに聞こうと揺さぶると、
「エビ如きが! 我が糧となれ!」
と叫ぶ。
さっきからイカとエビとどんな格闘をしてるんだか。
全然起きる気配はない。
仕方なしに外に出るとジェイソンがいた。
焚き火で何か焼いてる。
「お早う、ジェイソン。何焼いてるの?」
「朝飯を焼いています」
匂いからして何かしらの肉だが、どっから出した?
ここは村だから材料:村人とか言わないでよ?
「何の肉かな?」
「森で狩ってきた角兎です」
良かった。
本当に良かった。
ソコでボクのお腹がキュルルと鳴った。
「サムも食べますか?」
「ジェイソンが狩ってきた獲物だろ、悪いよ」
「いえ、日課でしたので獲ってきましたが、実はそんなに腹が空いてない……いえ、空腹感が無いのです」
「そうなの? じゃあ少し貰おうかな」
そういえば、アーガスの世界に来て初めての食事だ。
今までは回復ボール……パールに作って貰った回復薬で凌いでたしな。
あれはあれで甘いし幸福感に包まれていいんだけどね。
やっぱり舌が寂しくなるんだよ。
そんな訳で足を1本分けて貰った。
「う~ん……」
感想、肉。
味付けが何もない上に、硬く正直食いづらい。
せめて塩が欲しい……。
「味付けはしないの?」
「森では食わねば死ぬ。味など関係ない」
元野生(?)だし、仕方がない……のか?
などと考えていると、ジェイソンは言葉を続けていた。
「が! 昨日食したツマミなるモノには喜びを感じた。アレをもう一度食べたく、試しているのだが上手くいかぬ」
グリンに続きこっちも食欲か。
……試している?
良くみるとジェイソンの後ろには角兎が山の様に積まれていた。
ちゃんと骨・革・角・内臓・肉と仕分けられている。
そしてその横に炭となった肉もある。
「ふむ、ボクもやってみよう」
ジェイソンが昨日何を食べたのかは解らないが、焼き加減でどうにかなるものではないだろう。
とりあえず、この硬さをどうにかしたいな。
焼く前にヨーグルトとかに漬け込むと柔らかくなると聞いた事がある。
後は叩いたり筋切るんだっけ。
後者は出来るが、前者はヨーグルトが無いよな。
パールの回復薬で代用出来るかな?
そもそも、ヨーグルトがなぜ肉を柔らかくするのかまで把握していないので、甘いモノなら何でもいいだろうという勝手な発想だ。
それにしても、ヨーグルトか。
特に好きでも無かったが、食えなくなると無性に食いたくなるな。
アーガスの世界にもヨーグルトはあるのだろうか。
神様、この世界にヨーグルトを……。
いや、ヨーグルトはどうでもいいや。
神様、この世界にカレーライスを!!
さて、回復薬に3分くらい漬け込んだけど、こんなもんか?
基本コンビニ飯の独り暮らし。
料理に関する知識は、ほぼ無いに等しい。
作れて箱の説明通りのカレーくらいなのだ。
サム「MP切れや喚ばれたのはともかく、死亡は睡眠じゃなくないか?」




