033 サム=クゥエル
不定期更新です。
「ここは……どこだ?」
目を開けるが、辺りは暗く殆ど何も見えない。
夜の暗さではなく、日が入らない室内だと感じた。
「確かワタシは、爺ちゃんにスキルを貰って……」
そうだ。
異世界に召喚されたんだ。
召喚を止められなかった詫びとして望む能力を……ワタシ?
「今、ワタシは自分の事をワタシと言った? 何故?」
「声がしたと思えば、やっとお目覚めか」
灯りを持った男が階段を下りて来るのが見えた。
「貴方は? ここはどこなのですか?」
「ここは牢屋で俺はお前の見張りだよ」
「牢屋?」
見張りの斜め上に浮かぶ光源により、自身と見張りの間に棒が並んでいることが見える。
「不敬罪って奴だ。王の御前でクソ漏らせば、しょうがないっちゃしょうがないけどな」
思い出した。
爺ちゃんに見送られて気がついたら皆と一緒に城みたいな所に召喚されたんだ。
その瞬間、急にお腹が下ってあまりに痛くて気を失った。
まさかこの歳になって寝クソとか。
皆に笑われたかなぁ。
「子供達は誰1人として、お前の事を知らないっていうし」
「知らない? そんな筈はない!」
「いやいや、誰1人としてこんなおじさん知らんってよ」
「おじ、さん?」
「何だよ。自覚なしか? お兄さんって歳じゃないだろ」
見張りの灯りのお陰で自身の手元も良く見える。
改めて見てみるが、自分の手ではないかの様にデカい。
まるで大人の手だ。
「嫌だ。何だよコレ。ボクの手じゃないのにワタシの思う様に動く! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ!」
「うるっせぇな!」
見張りが牢屋にいる男の顎を掴みかかり、顎に触れたとたん『バチィッ!』と静電気の様な衝撃が見張りを襲った。
見張りは咄嗟に掴んだ手を離そうとするが離れない。
まるで見張りの手が牢屋の男性の顎と一体化したかの様だ。
それも皮膚が接着剤で貼り付いているのではなく、骨が顎と1つになっているかの如く微動だにしない。
「な、何だコレは! 俺に何しやがった!」
見張りは怒鳴る。
それに対して牢屋の男は急に不気味な笑いをした。
「ハハハ、フハハハ、ヒャハハハハハハハ」
そうだよ。
ワタシにはコレがある。
爺ちゃんに貰ったこのスキルが。
まさか自分自身が実験台第1号になるとは思わなかったけど……。
いや? この身体はボクのじゃないから違うか。
何でもいいや。
さて、まずはこの力を使って脱出しよう。
数十秒後、牢屋の中には誰も居なく、牢屋前に1人の男が立っていた。
「俺はどうなったんだ? 身体が勝手に動く!」
「うるさいなぁ。黙っててよ」
2つの声はその1人の男性から聞こえる。
「俺の身体に何をしたんだ! 何をしたんだよぅ」
「本当にうるさいなぁ。どうにか消せないかな?」
〔条件が満たされました〕
まるでアナウンスの様な淡々とした声が聞こえた。
「あれ? 何か言った?」
「何で視界まで勝手に動くんだ。ワケがわからねぇ」
「君じゃないのか。じゃあ[ステータス]」
ステータスパネルが表示された。
だが、異常なステータスパネルだ。
二人分がぶれている。
「ふ~ん。金豈刀侍とザック=ハイドか。どちらも知らない名前だな」
「何故、お前が俺の名を知っている?」
「1つは君の名前か」
漢字なんてアジアっぽいし、ザック=ハイドかな?
まぁ、わかったからどうって事もないんだけど。
[ステータス]で見れるって事は両方ともワタシのステータスって事だよな。
ザックのスキルも使えるのかな?
特に考えも無く、ザックのステータスパネルに触れると、またアナウンスの様な声が聞こえた。
そのアナウンスの内容なのか、男は不敵な笑みを浮かべた。
「へぇ。面白そうだ。うん、使用するよ」
「急に何も見えなく……なんだお前は! やめろ! 来るな! 食べないでくれええぇぇぇ 」
「うん、静かになった」
男は本当に煩わしかった様だ。
満面の笑顔を見せる。
改めてステータスパネルを見ると、ぶれが無くなり金豈刀侍のステータスパネルだけになっている。
「となると、やっぱりワタシは金豈刀侍って事か。こんなおじさんを操作するなんてゲームと言えど趣味悪いなぁ。ま、いっか。よ~し、最強の肉体を造ってやるぞ!」
男は意気揚々と見張りが下りてきた階段を上がっていった。




