029 小鬼魔武具《ゴブリンアーマー》
表現は苦手です。
更新は不定期になります。
倒れたギルマスを職員の方々が医務室へと運んでいく。
その間に受付嬢らに質問された。
「本当に焼いてしまわれたのですか?」と。
焼いて無いんだけど、死体も無い。
下手にあると言って捜索されても永久に見つからない。
いつでも造れるからレベル上げついでに狩ってくるかな。
また転職してレベル1の職で倒せば総合レベルが上がるし。
本当に焼却したと伝え、今後はちゃんと持ち帰ると約束する。
「あのレベルの魔物がウヨウヨ居ても困る話だけど」と失笑された。
ふむ、やはり緑ホッパーのゴブリン進化論は知らない様だ。
魔物のみぞ知る情報なのかな?
ゴブリンには進化に必要なアイテムがボンヤリ光って見える。
それによりどの様な進化を遂げるか、ある程度は把握している。
緑ホッパーは森の管理者として森の住人のゴブリンから進化方式を聞いたのだ。
魔物のみぞ知る情報というよりは、ゴブリンのみぞ知る情報だ。
森に入る者が武具を落としていくという事は、敗走しているか死亡した時だ。
その為、ゴブリンの進化方式が世に回る事が無かった。
でも、そうか。
森に武器を置いて帰る方が不自然か。
武器を置いていく事態……死亡した時ぐらいか。
あとは破損した武器を捨てて帰る時か?
でも折れた剣なら進化しないのか。
……折れた剣で進化しないのは何故だ?
あの死に覚えゲーにも折れた直剣なんて武器もあった。
想像力を働かせれば、折れた武器でも進化できる筈だ。
折れた剣の戦士……いや。
折れた剣を拾いしゴブリン、その者自らの血肉と融合し小鬼魔剣シミターと成り果てる……なんてね。
欠けた盾なら小鬼魔盾シールドかな?
そして、ひび割れた鎧なら小鬼魔装メイル!
小鬼魔武具と成り果てたその3体を装備せしゴブリン、混沌騎士ゴブリンソルジャー!
ヤバイ楽しい!
今度、ゴブリンの進化先を色々考えてみよう。
ノートとかないかな?
やっぱり想像するって楽しいよな!
先ずは破損武具進化シリーズだ!
槍や弓……アレもいいよな……
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どこか遠く離れた森。
大量に発生したゴブリンを一掃すべく、王都の騎士団が戦闘を行っていた。
大量とは言ってもゴブリンの集落、騎士団が優勢であった。
サムが想像力を膨らまさせていた、この時までは……。
ゴブリンの進化先が増え、壊れた武具でも進化できるという情報が全ゴブリンに一斉に行き渡った。
戦闘という名の虐殺への抵抗に疲弊していたゴブリン達に、その進化に必要なアイテムが光って見えた。
だが、小鬼魔武具となれば生ける屍と同義、自ら動く事が出来なくなる。
ゴブリン達は思った。
この窮地に、この様な進化先を知らされるなど。
これは何かの試練なのかと。
そんな考えをしている間にも弱き者から倒れていく。
俺たちが何をしたのだ!
森に集落を作り、鹿や猪を狩り普通に暮らしていた。
人族に手は出していない。
なのに、何故っ!
1人のゴブリンが駆け出していた。
『どこに行くっ! ゴブリット!』
ゴブリットと呼ばれたゴブリンは光って見える折れた剣へと向かって走り出していた。
『ゴブリーガル兄ちゃん! ここで一番強いのは兄ちゃんだ。兄ちゃんが剣を持てば勝てるよ!』
『嘘だろ……やめろっ!』
ゴブリーガルの制止も届かず、ゴブリットは折れた剣を掴んだ。
ゴブリットの肉体が音をたて剣と融合していく。
「ミシミシ」
「ゴキゴキ」
「ミチミチ」
「ブチブチ」
剣身の内側は肉、刃は金属と骨という不気味なシミターが出来上がった。
『ゴブリット……なんで! ちくしょう!』
『俺が盾になろう』
『は? 何でお前まで』
『俺は丈夫さだけが取り柄だからな。硬い盾になれるだろう』
『やめろよ! ゴブリルド。お前まで居なくなるなよ』
『居なくなりはしない。これからは常に一緒だ』
ゴブリーガルは必死に止めるもゴブリルドは一番近い盾を掴む。
ゴブリルドの肉体が音をたてて欠けた盾と融合していく。
表面に獣の顔の様な模様が現れ、その顔の口辺りには実際に噛みつけそうな尖った牙が並ぶ。
持ち手部分は物を掴もうとする開かれたゴブリンの手が2点。
『ゴブリルド! ゴブリルド!』
小鬼魔盾シールドと成り果てたゴブリルドに駆け寄るゴブリーガル。
『俺が……俺がもっと強ければ……こんな事には……』
盾を前に膝を落とし涙をこぼす。
『後は鎧かな?』
泣き崩れたゴブリーガルの背後から声が聞こえた。
聞き覚えがある声だ。
今度、大猪を狩れたら番になろうとプロポーズする予定だった。
『ゴブ……リール? 何……を……』
『みんなの仇、とってよね』
ゴブリールは微笑みながら、鎧へと走り出す。
その目には涙を浮かべながら……。
『ゴブリールーーーーー!!』
ゴブリールはひび割れた鎧を掴み、その肉体を変化させ騎士達の聖銀の鎧を禍々しい深緑の鎧へと変質させていく。
各部の所々に聖銀だった面影が残り、禍々しさを強調しているようだ。
自ら動けないと言ったが、鎧はその限りではないようだ。
全身鎧のフルプレートアーマー、それを外骨格として歩きだした。
だが、動くのがやっとの程度、とても戦闘に参加できる物ではない。
ゴブリットの剣、ゴブリルドの盾を持ち、ゴブリーガルの元へと戻る。
これで進化の為の3点のアイテムが揃った。
そして揃った事により再び新たな進化先が開示された。
混沌騎士ゴブリンソルジャーである。
『みんなの仇は俺がっ! 必ずっ!』
小鬼魔武具となった仲間への哀しみから目から涙を流し、村を襲った騎士団への怒りから歯を喰い縛り、3体の生体魔武具に触れ進化を開始した。
破損しているとはいえ、仮にも王都の騎士団の装備品だ。
低ランクの冒険者が使う物とは質が違う。
その為、小鬼魔武具と化した時の魔力の高まりに怯んだ騎士団員もいたほどだ。
1点でも怯む生体魔武具を3点も装備した魔物、混沌騎士ゴブリンソルジャーは、剣の一振で騎士団の十数人を一掃した。
それを見た生き残りのゴブリンも覚悟を決めた。
戦闘に自信がない者は光る武具へと走り出したのだ。
だが、それを見た騎士団も動いた。
ゴブリンが小鬼魔武具に変化し終えた所で、奪い取る行動に出たのだ。
動かす者が居なければ、ただの武器。
そう考えた騎士団員の幾人かはゴブリンからの奪取に成功した。
高魔力の小鬼魔剣シミターを手に高揚を感じた騎士団員が剣を振るうと剣圧により大地が抉られる。
それを見た騎士団員達はゴブリンから奪ったゴブリンの武具を身に付けていく。
そして1人の騎士団員が小鬼魔剣シミターをゴブリンに振りかざそうと天を突く様に剣を振り上げたが、一向に振り下ろされる事がない。
斬られる寸前だったゴブリンが恐る恐る目を開けると、騎士団員が悲鳴を上げた。
腕には小鬼魔剣シミターの肉が纏わりついている。
騎士団員達は仲間に助けを求めながら飲み込まれていった。
小鬼魔武具を奪取した騎士団員達がいたその場には、一際大きな小鬼魔武具が佇んでいた。
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