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002 初めての仲間、グリーンホッパー



 翌日辺りが明るくなり、ボクは目を覚ました。


「お目覚めですか? マスター」


「あぁ、うん。おはよう」


 寝ぼけているからか、聞いた事もない若い男の声に返答する。


 暫くしてから、地面に座っている緑系色に配色されたクレイに気が付いた。


 ボクは目を擦りながら、ソレに尋ねた。


「クレイ?」


「ワタシはまだマスターに名を授かっていません」


 そう言われて、周りを見るとクレイ (と他のゴーレム達) は最初に造られた状態のまま、立っていた。


 でも、見た目は間違いなく、クレイだ。


 そして、昨夜の出来事を思い出す。


 昨日は異世界に来て、ゴーレムを造り、バッタに襲われて……。


「もしかして昨日のバッタ?」


「ご名答」


 どうやら、[ゴーレム]は生き物すらもゴーレム化してしまうようだ。


 これはゴミスキルなんかじゃない。


 とんでもなく恐ろしいチートスキルだ。


 襲われたとはいえ、ボクはこのバッタのバッタとしての生を奪ってしまった。


 ……襲われた?


 そうだ、コイツは襲って来たんだ。


「バッタとしての生を終わらせてしまったことは申し訳ないと思うけど、襲ってきたのはそっちだし……。おあいこって事でいいかな?」


 襲われたのだし、さも自身に非はないという強気な姿勢で尋ねたが、やはり姿形を変えてしまったことに非を感じ、顔を伺うように屁理屈る。


 ……………………



「襲ったとは?」


「池の前にいたボクに向かって飛び掛かって来たじゃないか」


「あぁ、その事ですか? ワタシ、草食ですから、敵意を向けられない限り他生物は襲いませんよ」


「でも、昨夜は確かに……」


「確かに小物がいるなとは思いましたが、後ろの木があまりにも美味しそうだったので、あの時のワタシにはマスターはまったく眼中にありませんでしたね」


 確かに池の側には、立派な樹木がある。


「……じゃあ、ボクの勘違い……」


「そういうことになりますが、小物から見れば圧倒的強者に飛び掛かられれば、襲われると勘違いするのも致し方ないでしょう。今回はワタシの配慮が足らなかったということで構いませんよ」


 元バッタは何の問題も無いかの如く、淡々と話す。


「いや、いやいやいやいや、確かに怖かったよ? 完全に死を覚悟したよ? でも、バッタの生涯に幕を閉じさせてしまったんだ。勘違いで済ませていい問題じゃないだろ!?」


 これが、元の世界で人間同士の話なら寝てる間に人造人間に改造された様な話だ。


 そんな番組があった気がする。


 その番組によれば、勝手に改造された事を恨み、確か改造した組織を壊滅させたんじゃなかったかな?


 それを考えれば殺されることもありうる。


 なんで、ボクが悪い話なのにボクがキレ気味なんだ?


「構いませんよ。ありがたいとすら思っています」


 それでも、やはり、淡々と話を続ける。


「なんで!?」


「バッタも飽きていましたし」


「わー、凄い理由」


 ボクは遠い目をして思わず口に出していた。


 凄く棒読みで……。


「ここ数百年、樹木を喰らうだけの毎日。丁度変化が欲しかった所ですよ」


 言うに事欠いて、このバッタ……元バッタか。


 バッタとしての生涯に飽きていたとか、異世界パないな。


 というか、今数百年とか言わなかったか?


「バッタって、数百年も生きれるの?」


「進化し続ければ可能ですよ。しかし、いくら進化してもバッタで生まれてしまった以上、バッタという系列樹からは脱け出せません。それこそ、神か悪魔にでも見初められない限りは……」


 今まで座りながら対話していた元バッタは急に立ち上がり、優雅に舞い始めた。


「ですが、マスター! マスターのスキルは素晴らしい! まさか、スキルにより別の系統へ進化出来るとは思いませんでしたよ!」


「怒ってない?」


「怒る? とんでもない。これからはマスターと共に様々な森を巡り、数々の樹木を味わえるかと想うと……。ヨダレが止まりません」


 「ハァハァ」言いながら妄想に耽っている。


 緑色だった眼が赤く光り、見た目ロボなのにヨダレがだらだら溢れてくる。


 あのヨダレの成分は、なんなんだろうか。


 ちょっと、キモい。


 ん? 共に?


「え? ついてきてくれるの?」


 この広い (?) 異世界にたった1人放り出されて、1人で生きていくのだと覚悟していたからな。


 ゴーレムは動かないし……。


 同行者が増えるのはとても喜ばしい。


 いや、この世界の住人なのだから案内人か?


 どちらにしろ、助かる。


「当たり前でしょう。ワタシはマスターの所有物ですから嫌だと言われても着いていく所存でございます」


「いやー、助かるよ……」


 着いてきてくれることはとても喜ばしいのだが今、不穏な単語が聞こえた気がして、血の気が引いた。


「ちょっと待って? 所有物?」


「はい。マスターのゴーレムですから至極当然です」


「そうかぁ……所有物かぁ……」


 うん、ダメだこのスキル。


 相手の種族を強制的に変更した上に、更に強制的に隷属させるなんて、危なくて使えない!


 バッタだから、良しとして、いや良くないけど。


 出会い頭に人に発動なんかしてしまったら、ボク一生後悔する。


 よし、封印しよ……。


「ところで、マスター」


「ん? なんだい?」


「そろそろワタシにも、名前が欲しいのですが」


「名前、名前か……。苦手なんだよなぁ」


 ボクは少し考え。


「んじゃ、グリーンホッパーで」


「ほほう。なかなかいい響きですね。気に入りました。ふむ、直訳で『緑のバッタ』といった所ですか。いやはや、直球ですね」


「やっぱり嫌かなぁ?」


「とんでもありません。直訳とはそういうものでしょう」


 中々理解のあるバッタで助かる。


「あれ? そういえば、直訳って言った? 流暢に話してるけど、ボクは今何語を話してるんだ?」


「 [ゴーレム]というスキルの影響でしょう。意思疎通させるためになのでしょうが、所有物となった時にマスターの言語と思われる情報がワタシの頭脳に流れ込んできました」


 便利だが、やはりチート臭のするスキルだ。


 ライトノベルだと、間違いなく神が与えしチートスキルな気がする。


 やはり、封印だな。


「さて、ボクはこれから街を目指すつもりなんだけど、着いてくるんだよね?」


「勿論でございます」


「じゃあ、始めに言っとくけど、ボクはこの世界の人間じゃないから、色々と助けてもらう事になると思う」


「ほう。マスターは召喚者でしたか」


「んー。ちょっと違う……のかな?」


 ここで、ボクは漸く(グリーン)ホッパーに経緯を説明した。


 結構知能があるみたいだし、恥ずかしいからトイレに駆け込んだことは言わなかった。


「それにしても、召喚とかもやっぱりあるんだね」


「ありますよ。昔、魔王が使って死にました」


 魔王いるんかい!


 いや、それよりも……。


「勇者とかが召喚されて倒されたって事?」


「いえ魔王自身が星を召喚し魔力枯渇で死にました」


 星を召喚って、規模がパねぇ。


 っと、それよりも。


「魔力枯渇?」


「はい。90%以上で疲労感・倦怠感により身体が動かなくなり、95%以上で休眠に入ります。100%使用すると十中八九死に至ります」


 それを聞いて血の気が引き、ボクは青ざめた顔で緑ホッパーに尋ねた。


「休眠って事は」


「はい。昨夜のマスターは危なかったですよ」


 怖いわー。


 ホント怖いわー。


 下手したらあのまま死んでたのか。


 よし、封印決定!


 戦闘は緑ホッパーに頼もう。


 あ、でも目が覚めたって事は。


「魔力は回復したのかな?」


「我々魔物は休眠に入ると1時間で10%ほど回復しますが、マスターは1%くらいしか回復致しませんでした。それが人族というものなのか、異世界の者である為なのか解りかねますが、早急にお話を伺いたかったので、手っ取り早くワタシが補填しました」


 休眠以上死亡以下だから、最悪99%か。


 目覚める為には94%だけど、普通に身体動かせるようになるには89%。


 99%から89%に戻すとなると……10時間!?


 こんな森の中で無防備に10時間も寝てたら明日まで命はなかったな。


「補填なんか出来るんだ」


「長く生きていると色々とスキルを覚えるのですよ」


「ボクに補填して緑ホッパーは大丈夫なの?」


「大丈夫とは?」


 確かボクの魔力はぴったし千だったはず。


 それがこの世界で多いのか少ないのかわからないけど。


「緑ホッパーが魔力枯渇で倒れたりしないかなと」


「ハッハッハッ。ワタシはマスターの所有物です。そんな心配は無用ですよ。それに……」


「それに?」


「マスターの魔力は微量過ぎて全く苦になりません」


 ため息つかれた!


 つか微量!


 少量を通り越して、微量!


 もしかしたら、多い方なのかと期待した自分が恥ずかしい。


 穴があったら埋まりたいくらいだ。


「さて今後の為に、マスターのスキルを把握しときましょう」


「スキル? 把握?」


「はい。スキルには様々な制限や制約があります。新たなスキルを得たら始めにする事ですよ。幸いこの森にはサンプルが沢山いますからね」


 サンプル? 沢山?


 嫌な予感がする。


「手始めにそこのゴブリンに試しましょう」


 あ、やっぱり。


「やだよ! このスキルは封印するって決めたんだ」


「おや? 何故ですか?」


「魔力枯渇したら死んじゃうかも知れないんだろ?」


「ワタシが回復させますから大丈夫ですよ」


「使いきったら死ぬんだろ!?」


「ご安心を。魂が離脱する前なら蘇生できます」


 蘇生スキル!?


 この世界がどうなのかわからないけど、このバッタ有能過ぎじゃない!?


 というか、断る道を絶たれた。


 いや……まだだ!


「そもそも、他人の生涯を勝手に終わらせていいものじゃないだろ!?」


「ワタシは終わりましたが?」


「うぐっ」


「まぁいいでしょう。それなら本人が了承しているならいいわけですね?」


「そ、そうだね。もしそんな奴がいるなら喜んでやってやろうじやないか」


 この時ボクは勢いに乗って、このバッタが何故怒らなかったのかを忘れていた。



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