2話:キャラメイクその2
こんなお婆ちゃんが欲しい。
事前に調べた情報を思い出しながら、手鏡をあれこれ見てみるが中々決まらない。
自分で決められないならと、思い切ってヘレナさんに聞いてみた。
「・・・どれも魅力的で悩んでるんですけど、ヘレナさんのオススメってありますか?」
「私のオススメ?そうねぇ・・・」
ヘレナさんは少し悩みながらも、人間がオススメと教えてくれた。
・・・えっ人間?
不思議そうな顔をしていたのか、ヘレナさんが苦笑をして理由を教えてくれた。
「やっぱり慣れ親しんだ種族が一番動きやすいのよねぇ。それに、国や町によっては種族の迫害があったりもするし・・・」
「迫害。」
「種族間の対立や身体の動かし方、生活習慣の違いもあるからねぇ・・・」
「対立。」
「もちろん、異邦人だから多少は周りも気にしないでくれると思うけれど、それでも入れない国や町も出てくるし、旅をするにも生活をするにも人間が一番自由が利くわねぇ」
そう朗らかな笑みを向けてくれるヘレナさん。
待ってそれ事前情報になかったよ・・・!
詳しく聞いたところ、人間は数も多くどこにでもいることから、いい人間・悪い人間がいると種族としての差別は少なく様々な国へ入れる、最初は入れなくても入れる可能性があるが、他の種族はそうもいかないらしい。
獣人は獣人のタイプ間の対立や人間・魔族からの迫害もあり、空を飛べるという鳥類タイプも最初は羽の動かし方がわからず飛べない、他の獣人も身体の動かし方に苦戦する可能性があるらしい。
エルフはエルフ内の対立はなく結束が強いが寿命の違いから人間に敬遠されることもあり、ドワーフとの仲は最悪とのこと。
魔族は前情報のデメリットに加え普通の教会等の神聖な場所に入れない、種族とタイプによっては日中行動が大変などもある。あと一方的にエルフを敵視しているのでエルフと仲良くしている同族には厳しいとか。
ドワーフはエルフ以外はそこまで仲が悪くないが、酒の呑めないもの(未成年者は除く)、器用さがないものは下に見がちなので、特に魔族のことは軽視している。エルフとの仲はもちろん最悪。
ヘレナさんの説明を聞き、表情に出さないように心の中で叫ぶ。
種族変更出来ないんだから、こういう情報はちゃんと公表してよ・・・!
これ、絶対に知らずに種族選んで後々後悔するやつじゃん。
まだβテストでみんな他の国とか行ってないから気づいてないだけで絶対これ後で知って問題になるよこれ・・・!
表情に出さないように心で叫んでいたがヘレナさんが心配そうにこちらを見ていたので、慌てて種族選択に戻る。そんな話を聞いたからには、やっぱり選ぶのは人間だ。
特に他種族にこだわりはないし、気に入った場所、気になる場所に入れないとか種族差でNPCと仲良く出来ないとか嫌過ぎる。
「じゃあ次は見た目ね。髪や目の色を変えたいとかあるかしら?顔の雰囲気はそのまま?それとも弄ってみる?」
「うーん、そのままなのも面白くないですよね・・・けど、うまく出来る自信がないんですよ~・・・」
「あらあら」
顔は個人を特定出来ないように弄りたいが、うまく出来る自信がない。
下手に弄ると違和感が出るらしいしどうしたものかと悩んでいると、またもやヘレナさんが助け舟を出してくれた。
「・・・なら、私に任せてみない?せっかくファミリーネームも同じなのだから、私に少し似せて家族のようになるのはどうかしら!」
「いいんですか!ぜひ!」
「ふふ、今の雰囲気を残したままかわいくするから任せてね!あと、家族のようになるのだし、おばあちゃんって呼んでくれると嬉しいわ」
「わかりました、ヘレナお婆ちゃん!」
願ってもない助け舟に、即答で頷くと女孫はいないから嬉しいわ!と言いながらとても楽しそうにヘレナさんは手鏡を弄りだした。
チュートリアルすら始まってもいないのに、早速家族が出来ました。
基本的にはAIに任せてると聞いてるし、他の人もこういったことがあるのかな・・・?
そんなことを考えながらぼんやりしていると、出来たわ!と嬉しそうにヘレナお婆ちゃんが手鏡を見せてきた。
手鏡を覗くと、ほんのり私の面影を残したヘレナお婆ちゃんと同じ青色の髪、菫色の瞳のボブカットの女の子が映っていた。
ヘレナお婆ちゃんの技術が凄い・・・!
「ありがとうヘレナお婆ちゃん!とってもかわいい!」
「ふふふ、喜んでもらえてよかったわぁ!身長や体型はそのままでいいかしら?」
「はい、大丈夫です!」
「じゃあ、これで登録しちゃうわねぇ。最後に、ステータスを割り振っちゃいましょうね。ステータスを割り振った後はいよいよストーリアの世界よ。最初の国や町は選択肢の中から選べるから、好きなところを選ぶかランダムで選んでね」
「はい、わかりました!」
ついに最後なんだな・・・と少し寂しくなりながらもステータスを割り振る。
ステータスはプレイヤーレベルや取得したスキルのレベルアップ時に上がるようで、その時の職業や使用しているスキル構成によっても変わるとのこと。
スキルはポイント制や選択制ではなく、ゲーム内での行動によってスキルを取得したりレベルアップするそう。
初期スキルは基本的にランダムで割り振られていて、ゲームが始まるまでどんなスキルが選ばれるのかわからないとか。
そうなると生産職・戦闘職が選べないように思えるが、元から初期スキルは生産職向けのものは選ばれずゲーム内で自力で取得するのだと公式サイトに記載されていた。
少し生産職にシビアな気もするけれど、まあ生産職を本当にやりたい人ならばそれくらい気にしないのだろう。簡単に最初から出来てもつまらないからね。
「出来ました!・・・けど、ヘレナお婆ちゃんとはお別れなんですよね・・・」
「私もアズミちゃんとお別れするのは少し寂しいわぁ。けれど、またいつかゲームの中でも会えるからほんの少しだけお別れするだけよ~」
「本当ですか?」
「ええ、次に会えた時には子供たちや孫にもこんなかわいい家族が増えたのよって紹介させてね?」
「お婆ちゃん・・・!ぜひ!」
ヘレナお婆ちゃんに思わず抱き着くと、お婆ちゃんも私を抱きしめたいくれた。
本物のお婆ちゃんとは大違いだ。ヘレナお婆ちゃんが本当のお婆ちゃんだったらよかったのに。
そう思いながらも、ヘレナお婆ちゃんに促され扉の前に立つ。
この扉を開けるといよいよストーリアの世界。
どんな出会いがあるのか。どんな冒険があるのか。
私は楽しみにしながらヘレナお婆ちゃんに手を振り、扉を開けたのだった。
・・・この時、私は知らなかった。
他の異邦人は大抵は案内NPCの説明をあまり聞かずにさっさと自分ですべてを決めてゲーム開始していたこと。
説明を聞いた人でもここまでNPCと仲良くなった人はおらず、家族のような存在になったのは初めてだということを。
≪ヘレナ・ディープシーと家族になりました。≫
≪称号:ヘレナ・ディープシーの孫を取得しました。≫
≪称号:ストーリアの住人を取得しました。≫
≪Worldinfo:異邦人で初めて家族持ちが生まれました。一部情報が解放されました。詳しくは公式サイトをご確認ください。≫