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王の戴冠にあわせて十二の月が廻る。
賢者は眠りに就き、世界は再生の輪に戻る。
鳥は朝を告げ、神の端はまたひとつ裾野を広げる
広場では詩歌いが、誰でも知っている童話にメロディをつけて歌っている
中央の噴水広場の前で足をぶらつかせながらアイスをほおばっていれば、ヨシくんがこちらにやって来た
「作業一段落したから、買い物でもいこうぜ。日当ももらってるから、お前のもやるよ」
ヨシくんから受け取った袋には思ったより、多い日当がはいっていた。これなら貯金とあわせてそこそこの眼が買えそうな金額になる。
「ヨシくん、私なれはての店に行きたい」
「なれはてって、アルドの店か……なら、俺もついてってやるよ」
「たんに、ガゼットの店が近くにあるからでしょ」
「まぁ、次いでだし」
町の南側、森の出口の近くはなれはて街と呼ばれるガラクタ市がある。なんの役にたつのかわからないものから掘り出し物や身体のパーツといった日用品とは言いがたい品を主に取り扱う店が路地に軒を連ねる
この街は比較的、治安は良いがなれはて街の近くはスラムがあり、ヨシくんがついてきてくれるのは心強い。
目的の店はなれはて街の入り口近くの浅いところ、人通りの多い大通りの一本中に入ったところにある、緑の擦れた屋根つきの店で、路地にへばりつくように建っている。
慣れた髭面の男が店番として座っていた
「アルドさん」
声をかけると、髭面の男がこちらを向いて、長い眉毛に隠れた片目を開いてこちら見る。
「やあ、イズミとヨッシー。奇遇だね。ちょうど、暇になったところだったんだ」
この店では、ヨシくんも少し諦め気味に片手をあげて挨拶する
「おっさん、毎回毎回ヨシュアだって言ってんだろーが」
「うんうん、で、ヨッシー達は何しにここへ」
「私は水晶を探しに、そろそろ換え時かなと思いまして」
「あー、確かに、結構濁ってきてるね。メンテしてるの?これじゃ、だいぶ見えづらくなってきてるだろうに」
「そういうもんなのか?」
アルドが、私の眼を覗き込めばうなずくように立ち上がった。
と言ってもアース士族のアルドは椅子を降りると私の半分ほどしか身長はなくて小さい。眼もそこまで良くはないが本人いわく、日の光と相性が悪いだけで、暗ければ問題ないらしい。
「そうさ、石についてなら医者や装具師より俺達の眼の方が知っている。イズミの眼は光を見すぎて石が弱っている。そろそろ、返してあげた方がいい」
「そっか、やっぱりね。今日はその黒水晶探し来たんだけど良いものあるかな?」
「そうそう、ちょうどいい。昨夜来た行商から譲ってもらった良いのがあるよ。相変わらず黒なんだろう」
「ほんと、やったー」
アルドが、部屋の奥の棚から箱を取り出して来る
木の箱には、赤いベルベットが敷かれてその上には思っていたより深い黒い石が入っていて
「うわ、思ったより綺麗な黒。しかもこれ水晶じゃないよね……」
「ああ、ダイヤだ」
「普通に買えないんですけど」
内側からです光っているように見えるのはダイヤが光と相性が良く、内部で反射して光を溜め込みやすいから。材質としてはこれ以上にコアに適しているものも無いけれど、それより私はその脇の黒水晶の方に心引かれる。
「ねぇ、こっちの石は水晶だよね。こっちにするよ」
「ん、やっぱり、こっちにしますか?今のと等級的にはどっこいどっこいですけど、まぁ馴れた石のがいいでしょうね。このサイズなら石の研磨と交換だけで済みそうだから15万で」
「メンテもここだけでやるから、もう、一声お願いします」
「しょうがないですね、イズミさん割で13万でどうですか。メンテはサボらない約束で」
「やったあ、さっすがアルドさんわかってらっしゃる」
思ってたより、かからないですんだので早速計測をしてもらって明日には仕上がるよう段取りがついた。なので、今日は一旦家に帰ってゆっくりしよう。