~桜並木を、あなたと共に~
これはちょっと先の話だけど、とある画家が一躍有名になる。
その画家はだいぶ偏屈な人で変わり者なんだけれど風景画を描かせれば幻想的な世界を魅せてくれる。
彼女の描いた絵は売りに出されることはなく、道楽で描いていると言い切っているらしい。
そんな彼女には噂がいくつかある。
彼女には女性よりも可愛らしい男性の使用人が居て、その人と結婚をしている。
彼女は風景画しか描かない。
彼女は桜の樹がたくさん植えてあるお屋敷に住んでいる。
とか様々あるが、彼女のファンが一番気になっている噂が1つ。
『彼女が描いた人物画は風景画よりも素晴らしい』と。
風景画しか描かない彼女の描いた人物画とはいったいどんな作品なのだろうかとファンの間では議論があとを絶たない。
「柚希様ーお電話です」
これはとあるお屋敷の物語。
「誰からだ?」
不機嫌そうな主人の元へ駆け寄る女装をしたメイド。
「ゆりさんからです。来月の講演に使う絵の進捗を聞きたいと」
そのメイドから電話を受け取った主人はそのまま通話を切る。
「えぇ!?何やってるんですか!?」
「手が滑った・・・私は今その絵を描いていて忙しい。その電話を掛けてきた義姉さんのために、だ。わかったら君が適当に対応してくれ」
困った表情を浮かべるメイドだがすぐに笑顔を見せる。
「わかりました。適当に言っておきます。あ、お昼のお茶会はどうしますか」
「あー・・・そういえば今日だったか」
筆を置いた主人は一瞬考える素振りを見せた後、こう答える。
「行くよ。用意は任せた」
「かしこまりました」
嬉しそうにメイドはアトリエを後にする。
それと同時にお屋敷の呼び鈴が鳴った。
「お待ちしておりました」
世界一可愛らしいメイドは4人の客人を招き入れた。
「久しぶりですわね灯華。元気そうでよかったですわ」
これはとあるお屋敷の日常。
賑やかな声が響く玄関には一枚の絵が飾られていた。
それは主人からメイドに送られたパステルで描かれた絵・・・満開の桜の下でお茶会をする6人の女性たちの絵だった。
「皆様もお元気そうでなによりです。ご用意はできておりますのでお庭へどうぞ」
客人を庭に案内したあと、再び主人の元へ戻る。
「ん、そうかわかった。じゃあ行こう」
2人は屋敷から出て歩き出す・・・満開に咲いた桜並木を。
「今年も綺麗に咲いてよかった」
「はい、そうですね・・・。嬉しいです。こんなに綺麗なところをあなたと一緒に歩けて」
「これから毎年こうなるんだ、こんなんで幸せなんて言ってたらキリがないぞ」
「溺れちゃうかもしれませんね」
「その時は私が引っ張り上げるからいいさ」
「お願いしますね」
2人は見つめ合って、それから笑いあった。
春風に吹かれて桜の花びらが舞い上がる。
その花びらはどこまでも高く上がり・・・青い空へと吸い込まれていった・・・。




