表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜並木を、あなたと共に  作者: 真祖しろねこ
64/69

~瑞樹の選択~

 目が覚めるとそこは見たことのない部屋だった。

 でもベッドの隣に柚希様が居たので安心する。よかった。帰ってこれたんだ、と。

「ん、目が覚めたか」

 柱の時計で確認すると時刻は夜の11時だった

「はい。ありがとうございます」

「いや、いいんだ。私も君が必要だからな」

 柚希様は僕の右手をそっと握る。

「おかえり」

「ただいま戻りました」

 僕は起き上がって彼女の手の甲にキスをする。

「本当なら君の救出劇を3時間にもわたる長編映画で伝えたい気分なのだが、なにせ時間が迫ってる。すぐに着替えてくれるか?」

 と、柚希様が渡してきたのは男性用のスーツ。

 困惑している僕を尻目に柚希様は部屋を出て行った。

 とりあえず女装をやめればいいのだろうか。

 脱出の時の服のままだからけっこう汚れちゃったな・・・お気に入りのシャツだったのに。

 とりあえず僕は柚希様の指示通りに男性用のスーツを着ることにした。



 

 久々の男装にちょっと戸惑いつつも手短に着替え終わったところで部屋の中に柚希様以外の人物がやってきた。

「久しぶり。怪我とかはない?」

「美羽さん!お久しぶりです。はい怪我とかはないです」

 現れたのは半年以上会っていなかった美羽さんだった。

 じゃあ僕が今居るここは美羽さんの屋敷なのかな。

「そっか・・・よかった。謝らなくちゃね。ごめん。今回のゆり姉さんの行動は私にも原因があるの」

 と美羽さんは僕に向かって頭を下げた。

「え、ちょ!ちょっと頭を上げてください。とりあえず話を聞かせてください。僕はまだ何も聞いてないんです」

 状況の説明を求めると美羽さんは頭を上げて僕にイスに座るように促す。

 僕の座った対面のイスに美羽さんが座るとぽつぽつと今回の顛末について話してくれた。




「ちゃんと説明してなくてごめん。私、次期当主になるつもりはないの。」

 それは驚愕の真実だった。

 だって美羽さんは当主になって面倒な家督争いを終わらせるのが目的だと思っていたからだ。

「でも私が当主にならないって言うと父がうるさくてね。説得に時間がかかってたんだけどようやく納得してくれたの。だから次期当主はゆり姉さん。ゆり姉さんは瑞樹を攫って清廉殿のところに連れて行く必要なんて最初からなかったの。悠斗兄さんもそれで納得してる。三男一家は次男一家の統率下になることが決まったわ。瑞樹、あなたを除いて。」

 美羽さんの目的は最初から1つだった。

 家督争いを終わらせるが、僕は巻き込まない。

 だから自分が当主にならないことを周りに納得させ、ゆりさんが当主に選ばれる。

 そうすれば全員が望んだ未来になる、と。

 ただ1つの誤算はゆりさんの行動力が美羽さんの想像より高く、僕を拉致してまで当主になりたかったということ。

「でもね、それをついさっき電話でゆり姉さんには話したんだけど信じてもらえないの。晩餐会で清廉殿の前で当主にならないことを告げ、私が当主に正式に任命されるまでは、って」

「ということはゆりさんはまだ僕を確保しておきたいということですよね」

「うん。今すぐ瑞樹を連れてこないと女装を学校にバラすって」

 ゆりさんは僕に対して十二分な脅迫材料を持っている。使わない手はないだろう。

「でもゆり姉さんと一緒に清廉様のところに行くとなるとおそらく当主になった後もあなたは長光家から離れられなくなる。だから本当は晩餐会に行かせたくないのだけど・・・」

 そうなるとやはり女装がバラされる。

 八方塞がりか。

 どうしていいかわからず2人の間に沈黙が流れた。




 その静寂を破ったのは部屋に入ってきた柚希様だった。

「美羽、そろそろ言うべきだ。ここがどこなのかを」

 ここがどこか?美羽さんの屋敷じゃないのか?

「うん。ごめん。覚悟ができてないのは私だった」

 美羽さんは僕の目をじっと見つめてこう告げる。

「ここは長光家の本邸なの。清廉様もこの屋敷に居る」

「へっ?」

 なんて素っ頓狂な声を出してしまったのだろうか。

 事実が受け入れられずに一瞬目眩がした。

 ここが長光家の本邸?清廉様の屋敷?

 だって清廉様は庶子である僕を目の敵にされていた。その清廉様のところに居るだって?

「ゆり姉さんはたぶんあなたに嘘の日程を教えてたんだと思う。晩餐会の日程は明日なの」

 そういうことか。晩餐会の日程をズラして教えておけば逃げられるリスクを減らせる。

 ゆりさんが考えそうなことだと思う。

 だから今日はずっと僕の部屋に居たんだ。

「ゆり姉さんもすぐにここに来ると思う。だからその前に決めなきゃいけないの」


 僕に与えられた選択肢は3つ。


「1つはこれから来るゆり姉さんと一緒に明日の晩餐会に出て、清廉様に会うこと。ただこれはゆり姉さんの功績で瑞樹が長光家に戻る、ということを意味するから、瑞樹は今の生活には戻れない。ただ、ゆり姉さんの言うことには従うわけだから、女装メイドを雇っていたという弱みをバラされることがなくなるため、柚木への被害は無い」


「2つ目はゆり姉さんが来る前に私と一緒に清廉様のところへ行って、当主にならないこと、瑞樹は三男一家ではあるものの、既に成川家に迎えられているため長光家には戻れないということを伝える方法」 


 2つ目の方法は大きなデメリットがある。

 清廉様が長光家から離れることを認めてくれない可能性。

さらにゆりさんに対して明確な敵対行動となるため、仮にゆりさんが当主となっても女装をバラされる可能性もある。


 そして3つ目。




「全てを捨てて、また1からやり直す方法」




 長光瑞樹ではなく、尾上灯華としてでもなく・・・新たな名前でここではない場所で過ごす。


 そんなの決まってる。



 僕の誓いはただ1つ・・・柚希様の側に居ること。

 ならば選べる選択肢は1つ。

「清廉様は起きてらっしゃるのですか」

「うん、さっき確認したらまだ起きてるって」

「じゃあ行きましょう。夜更けですが清廉様とお話をしたいです」

 





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ