~初登校1~
そしてついにその朝がきた。
いつもより5分早く起きて身支度を整える。お付に制服などの決められた服装はないため、いつものように使用人のメイド服を着る。
ちょっと早く起きた理由はいつもより丁寧に化粧をしようと思ったからだ。
いまだに化粧をすることに抵抗はあるがこれも仕方のないことだと割り切る。
僕自身授業を受けることはないので学習用具もいらない。、持っていくのは最低限の物だけでいい。
さて、今日も気合入れていきますか。
「柚希様、おはようございます」
ドアをノックするとすぐに反応があった。
「あぁ灯華か。空いてるから入ってくれ」
柚希様は早起きが苦手な方だ。この2週間、何度も起こしに来てるが、時間通りに起きていたことは少ない。しかし今日はいつもよりやや早い時間だというのに起きているようだ。
「失礼します。おはようございます。今朝は早いですね」
「あぁ、さすがに初日だからな。多少緊張もしてるし余裕をもって行動したい」
そういう柚希様はすでに学院の制服に着替えていた。
黒を基調としたブレザーに、膝下までの丈の長い赤いラインの入ったスカート。
胸元には水色のリボンが留められている。
「よくお似合いです」
「ん。ありがとう。月並みな言葉だが君の言葉に嘘はないからな。素直に嬉しいよ」
「あ、少し動かないでください、リボンが少し曲がってます」
やや傾いていたリボンを直す
「あ、ありがとう」
柚希様はリボンが乱れていたことが恥ずかしかったのかやや顔を赤らめた
「では朝食のご用意ができていますので向かいましょう。今朝は私が作りました」
「そうか、君の料理は美味しいからな。期待できる」
いつもよりやや早歩きで柚希様は食堂へと歩き出した
「うん、美味しかった。ごちそうさま」
綺麗に完食されたお嬢様は僕の顔を見た
「だんだんと味付けが私の好みになってるのが少し怖いんだが・・・」
「な、なぜでしょうか」
僕としては頑張っているつもりなのだが
「だって私は君に味付けに関しては何も言ってないだろう?美味しかったとしか言ってないはずなんだが・・・」
「それはなんといいますか、食べ方であったり表情で大体わかります」
これはフランスで身につけた自分の特技だ。
なにせ最初は言葉が通じなかった。でも交代制で食事の当番は回ってくるし、僕としてもできるだけ美味しく食べてもらいたいと思い、色々と工夫をした。
その結果、食べ方であったり、表情であったりである程度わかるようになったのだ。
「そういうものか?」
柚希様はそばに立っていた小暮さんに訪ねたが、小暮さんは首を横に振る
「私の場合はフランスで言葉の通じない主人に食事を作っていた時期がありました。おそらくそれの副産物なのだと思われます」
正直に答えると柚希様は納得していただけたようで席を立った
「さ、そろそろ時間だし学校へ向かおう。灯華」
「はい、本日もよろしくお願いします」
学校へは徒歩で10分ほどの場所だが、安全性も考えて車での登校をすることになった。
当然運転手は僕で、車はもちろんリムジンだ。
やや不安も残るがそんなことは言ってられない。
「こちらへどうぞ」
後部座席のドアを開け、柚希様へ乗るように促す
「あぁありがと」
しっかりと乗ったことを確認して、ドアを閉める。
運転席に座り、学校へ向けて走り出す。
学校までは5分ほどで着いた。
もはや歩いたほうが早いのではと思うが、そういうわけにもいかない。
駐車場へ停めてエンジンを切る。
「ご苦労さま」
柚希様の荷物を持って教室へと向かう。
画材等のはいったバッグだ。大切に運ばないと。
「灯華」
「はい、なんでしょうか」
「君は女性だろう?もう少し重そうにしたほうがいいんじゃないか?」
そう言われてハッとした。
確かに大きなカバンを普通に運んでいては違和感があるかもしれない
「あ、ありがとうございます」
これは50キロある荷物だと自分に言い聞かせる。
そう思うと実際に重くなったかのような錯覚になる。