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桜並木を、あなたと共に  作者: 真祖しろねこ
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~あの日と同じ~

 この冬期休暇中、柚希様はクリスマスパーティの日の宣言通り、ほぼ毎日をアトリエで過ごしていた。

 柚希様のお世話係としてはやることがなく暇を持て余し気味になってしまったので非常に困った。

 手持ち無沙汰だからと何もしないでいると藤田さんに小言を言われかねないので適度に末永さんたちを手伝って過ごした。

 3日に1回は柚希様から買い出しを頼まれるが、行く場所は画材屋だけなのでもう目を瞑っても車で行けそうだ。もちろんやらないけど。

 




 休暇明けの9日、快晴だったがやはり気温は低かった。

「じゃあ行ってくる」

「行ってきますね」

 いつものように藤田さんたちの見送りを受けて僕たちは家を出た。

「本当に車でなくてよかったのですか?」

 朝食の時、なぜか柚希様は徒歩で行くと言ったのだ。

「あぁ、この休暇中は君と過ごす時間が少なかったから・・・少し長く2人でいたいんだ」

 と、僕の手をそっと握る。

 彼女の手には先日あげた手袋がはめられていた。

「そうでしたか。じゃあ滑ると危ないですからゆっくり歩きましょうか」

 僕も彼女の温かい手を握り返す。

「と、ところで君は・・・その・・・」

 柚希様にしては珍しく歯切れが悪い。

「こ、恋人らしいことをしたいとは思うのか?」

 自分で言っておきながら顔を真っ赤にしている主人がとても愛おしかった。

「思わないことはないです。ただ確かにあの日、僕たちは誓いを交わしました。ですが今の僕は使用人です。なので自分から欲を出すなんてことはできません。だから柚希様が求めてくださるのであればお答えしようと思います」

 そう答えると柚希様は小さく笑った。

「君らしい答えだな・・・。なら私の好きなタイミングで求めるからな」

「はい、できる限りのことはしたいと思います」




「あけましておめでとう」

「あけなしておねでとうですわ」

 ドイツに戻っていたせいで日本語力が下がってしまったのだろうか。

「あぁ、あけましておめでとう。今年もよろしく」

 ゆっくりと登校したこともあってかなんだかんだで時間ぎりぎりになってしまったため、教室へ入ったのが僕たちが最後のようだ。

 クラスメイトに挨拶をした後に席に着く。

 それからすぐにホームルームが始まった。

「皆さん、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いしますね」

 担任の福田先生が教室に入ってきた。

「うん、みんな揃ってますね。関心関心。じゃあこれから始業式があるのでホールへ行ってもらうんですが・・・まだ時間がありますので先に期末の課題について説明しますね」

 教室がざわつく。

 みんな完全に予想外だっただろう。3月に提出の作品についてもう話すとは思ってなかったからだ。

 美術科の柚希様たちにとってはこれがテストと同じ扱いなのだ。

 ざわついた教室もすぐに静まり福田先生の挙動に注目が集まった。

「期末の・・・つまりこの1年で最後の課題は2つの作品を提出してもらいます」

 と、2本指を立てた。

 なるほど、それで早めの発表なのか。 

 2つ仕上なければならないということはそれだけ時間がかかるということだ。

「1つのテーマに対して2つの作品で表現してもらいます。テーマに沿っていれば風景画でも人物画でも構いません。期限は2月の25日までです。ちょうど2ヶ月あります」

 そして福田先生はペンのキャップを開けてホワイトボードに今回のテーマを書く。

「・・・今回のテーマは『大切なもの』です」

 柚希様が持っているペンを落とした。

 そのテーマはいつの日かのコンクールのテーマと同じもの。

 柚希様が描けずに断念したテーマだった。






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