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桜並木を、あなたと共に  作者: 真祖しろねこ
50/69

~偽りの~

「準備はいいな?」

「はい、大丈夫です」

 その週の土曜日、僕たちは昼から成川家の本邸に来ていた。

 柚希様が呼び鈴を押すとすぐに応答があった。

「お待ちしておりました。お入りください」

 柚希様のお屋敷に引けを取らないくらいの大きな門が開き、僕たちは玄関へと歩き出す。

 綺麗に整えられた庭はまるで彫刻のようでどこか違和感すら感じた。

 形だけを整えていて命がこもってない、という感じの印象を受けた。

 玄関には壮年の女性が立っており、柚希様の姿を見ると一礼して扉を開けた。

 2人に続いて中に入ろうとするとその女性に阻まれた。

「本日旦那様が招待したのは柚希様と藤田のみです。他の方はお断りいたします」

「丸山、その人は私の友人だ。通してくれ」

「それは出来かねます。旦那様のご命令ですので」

 まさかの門前払いにどうしようかと思っていると屋敷の中から女性の声がした。

「丸山、いいのよ通しなさい。柚希ちゃんがお友達を呼ぶなんて初めてなんだから」

「・・・奥様が言うのであれば」

 丸山と呼ばれた女性は渋々といった様子で僕の背中を叩くような動作で入館を促す。

 さすがにここまで嫌悪されると思っていなかった。

 中に入ると先ほど奥様と呼ばれた女性が僕たち3人を迎えた。

「久しぶりね、柚希ちゃん。藤田も、そちらの彼はお友達かしら」

「お久しぶりです、優子さん。」

 奥様と呼ばれたということはこの40歳くらいの女性は柚希様の母のはず。それをまるで他人かのように接しているので僕の心が少しチクリとする。

 確かに形式上では他人だ。柚希様の母上は既に亡くなられてるからこの女性は総裁殿の再婚相手だからだ。

 でも決して悪い人には見えないし、優しそうな雰囲気だ。

「初めまして。尾上灯華と申します。本日は急な来訪で申し訳ございません」

 印象を悪くする必要はないと判断し、丁寧に挨拶をしておく。

 柚希様はこの場では友人というふうに紹介したが、後で恋人と紹介するのだから。

「智和さん、帰ってくるのが予定より遅れて夕方頃になりそうなの。とりあえず待ってて貰えるかしら。丸山、案内を頼みましたよ」

 優子さんはそれだけ言い残してその場を立ち去った。

「ではこちらへ」

 丸山さんに客室へと案内されとりあえず一息付いた。

「あの人が居ない日を狙って来たのに・・・情報が違うぞ藤田」

「すいません、確かに今日までご友人と旅行のはずだったのですがどうやら柚希様がご帰宅なされると聞いて急いで帰ってきたようです」

「・・・ほんと、あの人らしい・・・」




 最後の打ち合わせをしていると扉がノックされ、丸山さんが部屋に入ってきた。

「昼食のご用意ができております、こちらへ」

 無下にするわけにもいかず僕たちは食堂へと行くと、優子さんが既に席に着いていた。

「さぁ座って。藤田も一緒に食べましょ」

「はい、ではご一緒させていただきます」

 僕と柚希様で隣同士、向かいに藤田さんと優子さんが座る形になった。

「いただきましょう」

「いただきます」

「・・・いただきます」

 乗り気でない柚希様は小さく挨拶をした。

「ごめんなさいね、急に食事なんて」

 優子さんは僕の目を見ながら話しかけてきた。

 真っ先に僕か、と思いつつ会話に集中する。

「いえご馳走になってしまってすいません。お誘いいただけてとても嬉しいです」

 ほんわかした雰囲気を出しているけどこれはきっと試されてる、なんとなくそんな気がした。

 ゆっくりと丁寧な所作で食事をしながら話すのは結構疲れる。

 わざわざ昼食にコース料理なんて用意しなくても・・・。

「それで・・・尾上君は柚希ちゃんとどういう仲なのかな?」

 にっこりとした笑顔の中に少し腹の中が見えた気がした。

 この質問には僕だけの判断で答えられなかったのでアイコンタクトで助けを求める。

「本当は父が帰ってきてから話そうと思っていたのですが。私は少し前よりこちらの尾上さんと交際させていただいております」

 と、柚希様ははっきり答えた。

「まぁ!やっぱり!嬉しいわ!私とても心配だったの。柚希ちゃん、あんまりそういう事に興味がないみたいだったから心配してたの」

 もはや食事が喉を通らなかった・

「尾上君、柚希ちゃんのことよろしくね」

「はい」

 



 その後は当たり障りのない質問しか聞いてこなかったのでなんとか乗り切った。

 第一印象は悪くなかったと思う。少なくとも偽装の彼氏だとは気づかれなかったはずだ。

 一つ気になったとすれば優子さんが僕を柚希様の彼氏としてあっさり受け入れたこと、だ。

 柚希様には今縁談の話が持ち上がってるし、それを優子さんが知らないとも思えない。

 それなのにさっきの質問の中には僕の家について一切聞いてこなかった。

 一応用意していた設定は一般人というものだからお金持ちですアピールはしなかったし、どちらかと言うと裕福でないように振舞ったし、それにも気づいていただろう。

 デメリットしかないのにどうして、という考えが頭を離れない。

 認められません、みたいな展開を予想していただけに少し拍子抜けだった。

 寛容なのか・・・それとも無関心なのか。

 つかみどころの無い人だというのは確かだ

 あの人に加え、次は柚希様の父親とも話さなきゃいけないのか・・・。

 さすがに億劫になってきた。


 




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