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桜並木を、あなたと共に  作者: 真祖しろねこ
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~青春は短し恋せよメイド~

「最近、ユリアが灯華を好き過ぎると思いますの」

 夏期休暇も終わり、最初の登校日の昼休みにヘレーネ様がふと言葉を発した。

 当のユリアさん本人はヘレーネ様に飲み物を買ってきてと言われて食堂の自販機まで行っていた。

 なので必然的に僕に視線が集まる。

「えっと、確かに友人としてとても仲良くさせてもらってますが、どちらかと言えば姉妹という感覚なのだと思います。姉として慕ってくれてるのではないでしょうか」

「うーん、でもそれにしては・・・。」

 ヘレーネ様は少し何かを考えた後、僕の飲んでいた紙パックのコーヒーを手に取った。

 普段はあまり飲まないがふと飲みたくなったのだ。

「今からあの子が飲み物を買って戻ってきますが、自分の分はきっとコーヒーを買ってくると思いますわ」

 つまりは僕と同じ物を買ってくるということか。

「お待たせしましたー」

 ちょうどユリアさんが戻ってきて、僕たちの視線がユリアさんの手元に移る。

 その手には2つの紙パックが握られており、1つはヘレーネ様の希望したイチゴオレ・・・。

「ん?どうされましたか?」

 ヘレーネ様にイチゴオレを渡したユリアさんは席に座り、自分のコーヒーを一口飲んだ。

「ケホッ・・・思ったより苦いですね、これ」

 僕は何も言えなくて思わず下を向いてしまった。




 夏期休暇は終わったけれど、ヘレーネ様が以前希望していた自宅にアトリエを作るための改装が始まったため、2人はまだ柚希様の屋敷に居た。

「あ!灯華さん!一緒にお風呂でもどうですか?」

 夕食の片付けが終わり、一息付いて部屋に戻ろうとしてるところに浴室へと向かうユリアさんと会った。

「すいません、まだやらないといけないことがありますので」

「じゃあ私も手伝いますから一緒に行きましょう!」

 ここ最近、ユリアさんが事あるごとに僕のところへ来て一緒に何かをしようと声をかけてくるようになった。

 もちろんとても嬉しいんだが・・・。

「すいません、お客様に手伝わせたとなれば私が叱られてしまいますので、どうかご容赦ください」

「ぬー。わかりました。とりあえず一人でお風呂行ってきます」

「はい、行ってらっしゃいませ」

 これはどうにか対策を考えねばなるまい。



 翌日の朝のホームルーム、福田先生は一枚のプリントを配る。

 それは文化祭についてのプリントだった。

「あ・・・」

 思わず声が漏れたのは後ろの席の神林様だ。

 プリントにはロゴが記載されており、隣には神林霧架という名前も載っていた。

 そうか、ロゴは神林様のに決まったんだ・・・。

 柚希様ではないのは残念だったが、神林様のに決まったのは素直に嬉しかった。

「では文化祭の説明をしますね。日程は今月の25日です。それに伴い、1つ学内でコンクールを行います。授業で提出した作品、もしくはこれから提出する作品から1点、コンクールに出すものを選んでもらいます。それを25日にホールに展示します。一般客に投票をしてもらいグランプリの生徒は表彰しますので頑張ってください」

 さすが美術科だなぁ。是非柚希様には頑張って欲しい。

「クラスでの催し物は自由です。やるやらないはクラスで相談して決めてください。今日はその話し合いのために時間を設けてますのであとでクラス長を中心にして話し合ってください」

 せっかくだし催し物を参加するだけではなく出す側もやってみたいとは思うが、使用人が口を出すわけにもいかない。

「学内コンクールに関しては明日詳しく記載したプリントを渡します、以上。何か質問のある人はいますか?」

 手を上げたのは一番前の生徒。

「使用人を参加させるのは可能ですか」

「はい、もしクラスで何かをすることになった場合、使用人も参加することを認めております。ほかにある人はいますか」

 誰も手が上がらず、ホームルームは終わりとなり、出し物の話し合いの時間になった。




「じゃあまず決めなくてはならないことが1つあります」

 クラス長の佐瀬さんが教室の一番前にたち、僕たちを見渡す。

「やるかやらないか、です」

 ここが一番重要だろう。

 もし真っ二つに意見が割れてしまうとクラス全体に悪影響が及びかねない。

「とりあえず全体の意見が知りたいので投票にしましょうか。使用人の方、数名でいいので手伝ってくれませんか」

 クラス長は使用人に手伝いを求めてきたので手伝うために前へ行く。

「とりあえずこの紙を適当な大きさに切り分けてもらっていいですか」

「わかりました」

 手伝いに来たユリアさん、椿さんと一緒にコピー用紙を適当な大きさに切り分ける。

 クラスの人数分の紙を用意したので全員に配る。

「手伝ってくれた人ありがとう。じゃあ早速投票しましょうか。やるならマル。やらないならバツを書いてこの箱に入れてください」

 使用人も参加できるので、投票権が与えられた。

 やっぱり僕はやりたいのでマルを書いて四つ折りにして箱に入れた。



「じゃあ開票します」

 ホワイトボードに正の字で開票結果が書かれていく。

 結果は圧倒的にマルが多かった。

バツに入れたのはたった2票のみという結果に終わり、クラスで出し物をすることに決まった。

「じゃあこれで決まりです。バツに入れた2人には申し訳ないけど出し物をすることに決まりです。じゃあ何をやるかを決めましょうか」




「全く、話し合いとはなんだったんだ」

 お昼休み、個室のサロンで僕たちは昼食を取っていた。

 柚希様は先ほどの話し合いが納得いかないようだ。

「第一、メイドにメイドをやらせてどうするんだ。普段どおりじゃないか」

 そう、話し合いの結果、ドリンクメニューのみの喫茶店的なものをすることになったのだ。

 ただ、それだけじゃ面白くないからと、せっかくこのクラスにはメイドがいるのでメイド喫茶なるものにすることになったのだ。

「私はよくわかりませんが、日本のメイド喫茶とは日本ではポピュラーなのですか?」

「日本文化だな。要はカフェなんだが、従業員がメイドのコスプレをして接客をするんだ」

 なるほど、主人という立場を擬似的に体験できるのか。

 でもその接客を本職の僕たちがやるのか。たぶん普段慣れない人たちがやるから面白いのであって、僕たちがやって面白いだろうか。

 結局、一部の人たちの力強い賛同と同調圧力によって『なんでもいい』人たちの票が集まり、話し合いにならずにこれに決まってしまったのだった。

「せっかくの美術科なのだからもっと別にあっただろうに」

「でしたら教室に絵を飾るのはいかがでしょうか。コンクールもありますから時間のかかるものは描けませんが簡単なデッサン程度のものなら飾れると思います」

「あとはサービスで来客の似顔絵とかいかがでしょうか」

 それっぽいことをしようと思えばいくらでもできるとは思う。

 どうせ出すメニューも全部ドリンクなのだとしたら簡単に用意できるし、内装にこだわるのはいいかもしれない。

「そうだな・・・。せっかくなんだし楽しまないとだし、あとで提案でもしてみるか」



 


 






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