~フルアーマー灯華ちゃん~
「晴れてよかったですねぇ」
「えぇほんとによかったです」
熱海へと向かう車の中、助手席の椿さんは僕が退屈しないようにと話題を振ってくれる。
高速道路なので道を間違える要素もないので話し相手になってくれるのはとてもありがたかった。
「あ、もうそろそろですね」
気温は29度、天気は快晴。今日も暑い日になりそうだ。
「大変お待たせしました」
「ん、もう着いたのか。予定より早かったな」
無事に宿泊予定のホテルに着いたので車を降りて後部座席のドアを開けるとボードゲームをして遊んでいたようだ。
「結局柚希の5連勝ですわね。あーやってられませんわ」
ヘレーネ様は車から降りて伸びをすると自分の荷物をユリアさんに預けずに持ってフロントへ向かった。
「柚希様、お荷物は私が運びますので」
自分で荷物を運ぼうとしていた柚希様に声を掛けると頭を軽く叩かれた。
「もう忘れたのか。友人に荷物を運ばせる奴だと思ってたのか?」
あぁそうだった。今日は友人だったんだ。
「ごめんなさい。ついいつもの癖が出てしまいました」
「できるなら敬語もやめてほしいが無理そうだからそこは妥協しよう」
「ありがとうございます」
たぶん敬語をやめるのは無理なので助かった。
フロントで椿さんが受付を済ませると、キーを僕とユリアさんに渡した。
「昨日も言ったけれど急だったから部屋が3つしか取れなかったんだ。ごめん」
「それは構わない。むしろ感謝してる。急にホテルを人数分用意するほうが無理なんだ」
「えぇ、別にベッドさえあれば全員一緒の部屋でも構いませんでしたわ」
全員一緒は困るが、とりあえず柚希様と一緒の部屋なら助かった。
さすがに男なのを隠したまま部屋まで一緒なのはバレること間違いない。
「じゃあ荷物を置いたらロビーに集合でいいかしら」
「あぁそうだな。12時にロビーで」
それだけ確認すると僕たちは部屋の前の廊下で解散した。
急とはいえ、神林さんが用意してくれた部屋は最上階のロイヤルルームだった。
「なんだこんなに良い部屋を用意してくれたのか」
「えぇ、凄いですね」
豪華な装飾に大きなベッドが2つ。部屋が2部屋もあり、十分な広さがある。
「あ、柚希様!海が見えますよ!」
ベランダからは太陽の光が反射してキラキラ光る海が一望できた。
「景観を楽しむのもいいが自分の荷物はさっさと片付けろよ。どうせ海へ行くって言うんだ。どうやって水着を誤魔化すか考えておけよ」
あぁそうだった・・・。
トランクケースを開けてラッシュパーカーとパレオの水着を取り出す。
昨晩、藤田さんを始め、屋敷のみんなでどうすれば水着でもバレないかの研究を重ねた。
「服の下にあらかじめ着ておけよ。時間がかかるからな」
「そうします。じゃあ用意するのでお風呂場借りますね」
僕は水着とパッド、それからさらし、そして秘密兵器のラッシュパーカを持ってバスルームへ入った。
シリコンのパッドを胸に当て、その上からさらしを巻く。しっかり止まったのを確認したら、その上から黒の水着を着る。
あとは海に行ったら向こうの更衣室でラッシュパーカーを羽織る。これで上半身は問題ない。
パーカーさえ脱がなければ大丈夫だ。
問題は下半身。こっちはパレオしかない。
見た目は完全に10代の格好ではないが、そんなことは言ってられない。僕が泳げないとみんなには伝えてあるしこれでいいだろう。
パレオもあっちに行ってから巻こう。
ホテルのビュッフェで昼食を済ませた後、僕たち6人は海に着ていた。
「ホテルからは人が大勢いるように見えたのですがこの辺は人がいませんのね」
僕と同じく服の下に水着を着ていたヘレーネ様はさっそく脱いでいた。
「この辺は私有地なんだ。だから私達しかいないよ」
「そうでしたのね」
誰も居ないと聞いてテンションが上がったのかヘレーネ様はユリアさんと一緒に早速海の方へと向かった。
「着替えるなら向こうに更衣室があるよ」
神林さんが指差した方向には木製の小さな小屋があった。
「じゃあ私はもう着てますのでここで待っていますね」
さすがにみんなの着替えに立ち会うわけにもいかず、ここに残ることを告げると、3人で小屋の方へと向かっていった。
「今のうちに」
上着を脱いで急いで防具を固める。
パーカー着て、パレオ巻いて・・・よし、これで大丈夫かな。
持って来たブルーシートを広げ、パラソルを差し、座れる場所を作る。
よし、今日はもうここから動かないぞー!暇つぶしのための本も持ってきてるし!




