~急募、勧誘を断る方法~
「椿さんはよかったんですか?」
プールで楽しそうにお嬢様たちと遊ぶユリアさんを見て言う。
「灯華さん1人入らないのも寂しいかなって」
「気にせず行ってきてもらって構わないですよ。私、どうしても水の中はダメなんです。子供のときに溺れたことがあったので」
藤田さんと相談した結果、嘘をつくのはあまり好ましくないがやむを得ずこの言い訳をすることにしたのだ。
「そうだったの・・・ごめんね」
「いえ、別に謝ってもらうことではないですから」
椿さんは黒の水着を着ているが、僕はメイド服のままプールサイドに来ていた。
「灯華さーん!ボール取ってー!」
僕の足元まで転がってきたビーチボールを神林様の側まで持っていく。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
僕がビーチボールを渡すとプールの中の神林様は受け取る為に両腕を上げる。
直前まで遊んでいたこともあってか紐が緩んでいたのだろう・・・ボールを受け取ろうとした瞬間に黄色のビキニの紐がするりと解け、水着がハラリと外れた
「っ!」
一瞬見えてしまった胸から慌てて視線を逸らす。
「あ・・・」
神林様はその外れたビキニをすっと拾い上げて再び胸に当てる。
「ごめん、ついでに後ろの紐を結んでもらいいていい?」
特に気にしてないようだ・・・そりゃそうか、女同士だと思ってるんだし。
すいません神林様・・・。
「はい、では後ろを向いてもらってもいいですか?」
できるだけ平静を装ってビキニの紐をちょっとキツめに結ぶ。
「大丈夫ですか?苦しくないですか?」
「うん、大丈夫。ありがとう」
一旦床に置いたビーチボールを渡すと神林様は柚希様たちのところへ戻っていった。
ヤバイ・・・さっきの光景が頭から離れない。
一瞬とは言え見えてしまった慎ましい胸が何度も頭にフラッシュバックする。
「大丈夫ですか?顔色がよくありませんが」
「ちょっとお手洗いに行ってきます。すぐ戻りますので少しの間お願いします」
椿さんに一言残して返事を聞く前に更衣室へと駆け込む。
他に人は居ないし、念のためと思い女性の方へと入った。
洗面台から水を出して顔を洗い、邪念を払う。
気合を入れ直してプールサイドへ戻るとヘレーネ様がプールサイドチェアに座っていて休憩していた。
僕が戻ってきたのに気づいたのか、手招きで呼ばれたので側まで行く。
「トーカ。飲み物を用意してくださらない?」
「かしこまりました。ご用意してありますのですぐにお持ちします」
プールサイドということでトロピカルドリンクを用意してきたのでそれをヘレーネ様の側のサイドテーブルに置く。
「ありがとう。本来ならユリアにやってもらうのですけど、あの子、役目を忘れてますわね」
ヘレーネ様は楽しそうにプールで遊ぶユリアさんを見て微笑む。
「まぁ、それがあの子の良いところでもありますから。ちょっとの間で構いませんので私に付いてくださらない?」
「はい、本日はお嬢様3人にお世話をするつもりできてますから」
「本当にトーカは非の打ち所がありませんわね。弱点とかないのです?」
「強いて言うなら水ですね。私全く泳げないので」
「あぁなるほど、それで今日も水着を着てないんですのね」
どうやら納得してくれたようだ。
「言うのが遅くなってしまいましたが、その水着、とても似合ってます。」
ヘレーネ様がスタイルにも自信があると普段から言っているのもあってか、赤い目立つ水着を着ているし、お世辞ではなくとても似合っていた。
例えるなら妖精だろうか。
やはり日本人とは根本的に体型が違うし・・・。
「あら、ありがとうございますわ。トーカに褒められるとやはり格別嬉しいですわね」
この前のパーティの時から僕に対するヘレーネ様の評価が上がってる気がする・・・。
「あー今日は楽しいですわ・・・後はトーカが私とドイツに来てくれればもっと楽しいですわー」
「ごめんなさい」
どうしてもヘレーネ様は僕を雇いたいようだ。
「たまにはこうして優雅に過ごすのも良いですわね。今度は海もいいですわね。その時は泳がなくてもいいからトーカも水着でね」
ぐだーっとチェアに横になるヘレーネ様からはいつもの威厳はなかった。
そうか海か・・・この夏はキツくなりそうだな・・・。




