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桜並木を、あなたと共に  作者: 真祖しろねこ
19/69

~決意の夜に~

 学校生活は早いものでもうすぐ5月になろうとしていた。

 そんなある日の金曜日、そのニュースはやってきた。

「ねぇ柚希、これ読みました?」

 放課後、ヘレーネ様はとある雑誌を持って来た。

 それは絵画をメインにした月刊誌だ。

「それ、来月号だろ?印刷会社に伝手のある君ならともかく私はまだ買うことすらできないよ」 

 もちろんその月刊誌は柚希様も読んでいるが、ヘレーネ様が持って来たのは明後日発売予定のものだ。

「あら失礼、ではまだ読んでませんのね?ここをご覧になって」

 ヘレーネ様は後ろの方の特集ページを広げ、僕や柚希様が見えるように置いた。

『第22回、絵画オリンピアのお知らせ』と書かれていた。

「珍しいな。ヘレーネから同じコンクールを誘ってくるとは」

「そろそろ学校にも慣れてきましたし、ゴールデンウィークもありますから時間も大丈夫なはずです」

「そうだな、そろそろ決着をつけようと思っていたところだ」

 どうやら柚希様も乗り気なようで、僕も気になってコンクールの詳細を見て、思わず立ちくらみがした。

 なんと、最優秀賞の賞金は1000万円だったのだ。

「まぁもちろん最優秀賞を狙いにいくが、どうする?お互いが落選になることだってあるかもしれないぞ」

「その時は引き分けですわ。規模の大きいコンクールですから賞を頂いたら勝ちでいいんじゃありません?」

「そうしよう。2人が同じ賞でも引き分けだ」

 なんて志の高い人たちなのだろうと、改めて尊敬した。

 賞金が1000万の大きいコンクールに、引け目を覚えるどころか最優秀賞を取ろうとすらしている。

「じゃあお互い全力で」

 それだけ言うとヘレーネ様はユリアさんと共に教室から出て行った。

「というわけだから灯華、しばらく休日も私に付き合ってもらうぞ」

「かしこまりました」




 ヘレーネ様は月刊誌を置いて行ってしまったので、僕が代わりに持って帰って処分することにした。

 一応捨てる前にユリアさんに連絡して捨ててもいいか聞いておこう

 コンクールの詳細をもう一度見る、さっきは賞金額に驚き、そこしか見えてなかったためだ。

「テーマは・・・なるほど」

 柚希様も僕の手元の雑誌を覗く。

『自分の大切なもの』それが今回のテーマだった。

 自分の大切なもの、そう言われて即答できる人が世の中に何人いるだろうか。

 僕の大切なものはなんだろうと、少し考えた結果、母の教え、という答えは出た。しかしそれをどうやって絵にすればいいかわからない。

 母の似顔絵を描いても表現できないし・・・。

「柚希様は何を描かれるつもりですか?」

「なかなか難しいな、大切なものが多すぎて」

 柚希様も即答できない側の人であったが、僕とは違った。そもそも抱えているものが違う。

「まぁ絵筆を持ったら思い浮かぶさ」

 答えを濁した柚希様は僕より先を歩く。

 



 その日の夜、柚希様に内線で呼ばれたため、部屋へと赴いた。

「悪いな呼び出して」

「いえ、主人のためですから」 

 そういうと柚希様は困ったように笑う。

「あまり使用人に染まりすぎると3年後に苦労するぞ」

「その時はその時です」

 これは本心からの言葉だ。 少なくとも今は灯華としてこの人に使えたいと思っている。

「ありがとう、昼間のコンクールの件なんだが、正直描ける気がしないんだ」

 それは柚希様が僕に見せた初めての弱みだった。

「描くものは決まってる、ただ、今の私に描けるものではないんだ。もしかしたら描かないほうがよかったと思えてしまうかもしれない・・・それでも私は挑戦したい。過去を乗り越えたい」

 そう決意する柚希様の手をそっと握る。

 きっと柚希様は過去に何かを抱えてる。それはご実家のことなのか、別のことなのか、それは僕にはわからない。けれど僕が支えることで乗り越えられるなら・・・

「お嬢様ならきっと描けます。私が支えます」

 心からこの人の力になりたいと思った。

「ありがとう、信じてる君のためにもやってみる。もしダメだったらすまない」

「いいえ、謝る必要などありません。今回はダメでもまだこれから先何度も機会はあるはずです、乗り越えられる日まで側にいます」

「ふふっ、3年以上かかるかもしれないのにか?」

「はい。この身が果てるまではご一緒させていただきます」

 今、この時だけは灯華で居たいと思った

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