~メイドに恋は難しい~
それから美術の時間はユリアさんとのお話の時間になった。
お悩み相談から日々の出来事など、さまざまな事を話すようになった頃の昼休み・・・
「最近、ユリアがトーカさんの話しかしませんの」
柚希様、ヘレーネ様、そして僕の3人での会話の途中にヘレーネ様が話題を切り出してきた。
「確かに最近仲が良さそうだな」
柚希様も気づいていたようで、どうなんだ?と問いかけてくる。
「お二人が絵を描いている時間、相談に乗ったりお話をしているうちに良き友人になれたのだと思います」
肝心のユリアさんがヘレーネ様の飲み物を買いに行っていて不在なため、質問に答えられるのが僕しかいなかった。
「ちょっと前まで元気がなかったけれど、笑顔が増えてきて嬉しく思ってますの。ありがとうございます」
「いえ、私はただユリアさんと仲良くさせていただいてるだけですので。むしろ私こそ感謝してます」
と、ここでユリアさんが教室に戻ってきた。
「ただいま戻りました。何のお話をされていたんですか?」
「君の話だよ、最近うちの灯華と仲が良さそうだな、と話していたところさ」
「ここ数日、ユリアの話はトーカのことばかりですの」
「ちょっとヘレーネ様!それは言わないでください!」
顔を真っ赤にしてユリアさんがあたふたしている。
その姿がまるで恋する乙女のようで、ヘレーネ様も柚希様も怪訝な顔をする。
「その、ユリア?一応聞いておきますけど、恋愛をするなら男性が良いと思うぞ?」
「ち、違いますよ!そういうのじゃないです!」
「まぁ恋愛というよりは信仰と言ったほうが的確だと思いますの。ずっとトーカさんの話をしてますし」
「本人の前で言わなくてもいいじゃないですか!灯華さんごめんなさい。灯華さんの話を勝手にしてしまって・・・」
「いえ、それは構いません。これからも仲良くしていただければと思います」
涙目になってしまっているユリアさんにハンカチを渡す。
「本当によくできた人ですわね。柚希にはもったいないですわ」
「ああん?」
ヘレーネ様が上手く話題を逸らしてくれたので、安堵しつつ紅茶を一口飲む。
あんまり仲良くなりすぎると男だとバレてしまうかもしれない。ある程度は弁えないと・・・でも冷たく接するのも嫌だし、難しいなぁ・・・。
「このハンカチ、洗って返しますね」
「わかりました。返していただくのはいつでも構いませんよ」
さ、午後の授業の用意をしなきゃ。
忙しく感じているからか、この数日はあっという間で、今は金曜日の午後の美術の時間。
月曜日提出ということを考えればそろそろ完成がしててもいい頃だ。
「ふぅ・・・。できました。ユリア、片付けを手伝って」
「はい、かしこまりました」
どうやらヘレーネ様は完成したようで、ユリアさんと一緒に片付けをした後、校舎の中へと戻っていった。
柚希様の絵を後ろから覗いてみると、絵は完成しているように見えた。
実際、柚希様も筆を走らせるのを止め、ご自身の絵をじっと見つめている。
緻密な色づかいが美しく、まるでこの世ではないような・・・幻想的ですらある
「ふー」
納得ができたのか、絵筆を止めて5分、ようやく絵筆を置いた。
「灯華、片付けを手伝ってくれ」
「はい、ですがその前に汗をお拭きになられてください」
柚希様の額に汗が滲んでいた
今朝ユリアさんから返してもらったハンカチを渡してから片付けを始める
「絵を描いていると、まるで自分の命を与えている気分になるんだ」
完成が嬉しかったのか柚希様は語りだした。
「はい、柚希様の絵からは命の輝きが溢れているように感じます」
「ありがとう。本当は絵の完成の瞬間が少し怖いんだ。もっと上手く表現できたのではと思うことはもちろんだが・・・自分の命が削れていくような感じがしてな・・・」
「それだけ真剣に絵に向き合っているということです。素晴らしいことだと思いますよ」
寿命を削ると錯覚するほど真剣に向き合えるならそれは誰にでもできることではない、一種の才能だと思った。
「ふっ、君の言葉はなぜか説得力があるな。ユリアがあんなに懐くのもわかる気がする」
「そうでしょうか。正直に思ったことを行っているだけなのですが」
「だからだろう。本心からそう思っているからこそ、伝わるんだろう。君が付き人で本当によかったと思うよ」
「そう言っていただけるなら本望です」




