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第四章 睡蓮の『灯』り PART8

  11.

 

「何だかこの椅子、座りにくいですね」


「……そうね」


 桃子の呟きにリリーも頷く。


 きっとこれは父が取り寄せたものなのだろう。明らかに日本人の体型に合わせていないものだ。


 夕食は和食のコースとなっていた。野菜を中心とした合計八種もの料理が順番に出て来るようだ。テーブルと食事のバランスが合っていないように感じるが、文句をいっても仕方がない。


「じゃあ食前酒で、これで乾杯しましょうか」


 初めに出て来た食前酒で乾杯した後、次々と料理が運ばれてきた。山菜ごはん、野菜付きしゃぶしゃぶ、赤だしの味噌汁、茶碗蒸し、鰤の照り焼きがテーブルに並んでいく。量もちょうどよさそうで、とても美味しそうだ。


 食前酒を飲んだ後、メニュー表を見た。ユウヒの生ビールと瓶ビールが飲めるとのことだ。三人はとりあえずユウヒの生ビールを頼むことにした。


「どれも美味しいですね」桃子は次々に料理を口に運びながらいった。


「うん、薄味で食べやすいね」


 味付けはさっぱりしていた。だがどの料理にもこだわりが感じら、今までに食べたことがない新鮮さを兼ね備えていた。


「どうですか、春花さん?」


「んん? 何がですか?」


 椿の方を見ると明らかに変貌を遂げていた。顔は赤く箸が全然進んでいない。その上、生ビールに手をつけていないのだ。まさか彼は食前酒で酔っ払ったのだろうか。


「あー体が熱いなぁ。脳みそがとろけるー」


 酒に弱いとはいえ食前酒は僅か50cc程度だ。まさかこの量で酔っ払ったのだろうか。


「春花さん、酔っ払うの早すぎですよ」


「すいません、頭がふらふらするんです」彼の目は中まで充血している。「温泉に浸かりすぎたからかなぁ」


「大丈夫ですか?」


「うーん、それもわかりません。酔っ払ってるからかなぁ、味が全くわからない。この山菜ごはん、お酒の味がしません?」


「何いってるんですか。お酒なんて入ってませんよ。普通の山菜ごはんです。ねえ、桃子ちゃん?」


「そうですよ。店長は本当にお酒が弱いんだから」


 桃子はご飯の味付けよりも焼酎に夢中になっていた。芋焼酎をロックで呷っている。


「そうかなぁ、おかしいなぁ。それにこの韮、匂いが全くしないんですよ」椿はしゃぶしゃぶについていた韮を捕まえては湯に浸し豚肉と合わせてほおばっている。


「そんなことないと思いますけど」

 リリーも箸でつまんで匂いを嗅いでみるが韮独特の匂いがした。どうやら彼は完全に出来上がっているらしい。


「そうなんですか。私もう食べちゃってわからないですけど、あはは」桃子はすでに出されている料理を食べ終えており焼酎のおかわりをお願いしている。


 二人とも開始早々、泥酔している。一人は食前酒で酔っ払ってしまったが……。


「まったくもう、二人ともしっかりしてよ」


 二人の前で溜息をついて見せるが、内心は嬉しい。椿と桃子の酔っ払った顔を見るのは久しぶりだからだ。この二人が落ち着いている様子を見ると純粋に楽しいと思えてくる。この感覚は嫌いじゃない。


「店長、ほんとお酒弱いんですね。まだ夜は始まったばかりですよ」

 桃子はグラスを一気に飲み干していう。すでに焼酎をロックで三杯飲んでいる。だが顔色は白いままだ。


 彼女が居候するにあたって一番驚いたのが飲酒の量だ。普段は遠慮しているようだが、飲む時の量は凄まじかった。


「こう、旅に来るとお酒が美味しいですね。どんどん進みますよ」


 椿とは対照的に湯水のように酒を浴びている桃子は誰よりも男らしかった。


 ……あちらはどうなっているのだろう。


 ストックの方を目の端で眺めてみる。父親に合わせて焼肉をとっており、豪快に晩酌をしているようだ。瓶ビールを頼んでいるらしくテーブルの上には瓶の山が出来ている。その後に椿のしまらない顔を見ると溜息をつかざるを得なかった。


 次の料理は手打ち蕎麦だった。薬味を入れつゆにそばを浸し啜る。これも美味しい、柔らかく舌触りがよく少量で胃の負担にはならない。きっと今日の料理人は綿密な計算を元にして料理を作っているのだろう。


 最後にと、ウェイターの言葉と共にほうれん草のババロアが置かれた。どうやら締めのデザートらしい。ぷるんとした食感で料理の締めにふさわしく口の中をまろやかにし落ち着かせてくれる。


「何だか野菜尽くしだったわね」リリーは口元を綺麗に拭きスプーンを置いた。


「本当ですね。どれも手が込んでて美味しかったです」桃子もご満悦の表情だ、こちらは芋焼酎のおかげかもしれないが。


「……ああ、もう満足です……」


 椿を見ると骨が抜けたようにだらしない姿になっていた。しかし顔を真っ赤にしながらもきちんと料理をたいらげている。他のテーブルを見ると皆、満足そうに完食していた。

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