公園に行こうぜ
布巾を水洗いして、パソコンの前に座る。今日こそは、書けるだろうか。スイッチを押して起動するまでの数秒間、静止する時間。心臓だけがやけに速く鼓動を打つ。
新作は、陸上部の主人公とライバルが切磋琢磨していく部活ものだ。弟が中学、高校時代陸上部だったという事から、弟やその友達に取材までしたのに。情けないなあ……。溜息をつきながらWordを開く。数行しかない書きかけの原稿を無視して、新規のファイルを作る。そんな事をしてもまた、数行しか書けないというのに。そんなこんなで私のUSBの中には書きかけのファイルが沢山溜まっている。
カチャカチャ……カチャカチャ……カチャ。
また、だ。また、打つ手が止まってしまった。どうして? 何で? 書けない――。パソコンの上に突っ伏すとキーが額に刺さって痛い。幼い頃から小説を書き続け、スランプというスランプを経験しないままここまで来た。新人賞を受賞し、あれよあれよという内に売れっ子小説家の位置まで上り詰めた。だから、小説家人生最初のスランプから中々抜け出せない。
「みーやび、何やってるの。散歩行くんだろ? 早く準備して?」
肩に顎が置かれ、間抜けな声が出てしまう。
「え? 今行くの?」
「当たり前だろ?」
爽やかな彼の肩にはキャンバスがかかっており、手には数本の筆とカラフルな絵の具たち。絵を描きに行くのだな、彼は画家だから。




