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立ち塞がる壁

「雅、今日何か予定ある?」

「特には無いけれど?」

「じゃあさ、公園行かない?」

「公園?」

「そう、公園」

「どうして?」

「散歩?」


 会話のほとんどにクエスチョンマークがつく中、彼はごちそうさまと席を立つ。私も後に続いた。

 散歩に行くとすると、のんびりゆったりする事になるだろう。こんな朝から散歩に行くのは考えられないので、やるべき事をやってしまおうとテーブルを拭きながら考える。今日のやるべき事は、原稿を書くコトだ。

 私の職業は小説家である。一時期は売れっ子小説家と呼ばれていたが、今ではそんな称号葉どこへいったやら。

 数年前に、1番近くで私を応援してくれていた母親が病魔に蝕まれてからかけなくなってしまった。いや、正しくは書く時間がなくなってしまった。出版社には休みを貰って、看病に徹した。峠は越えたものの、前のように生活する事は出来無くて、度々実家に帰って介護している。父も母ももういい年齢だ。育てて貰った恩もある。今度は私が世話をして返すべきだろう。

 そして落ち着いた頃、さあ仕事に復帰だとパソコンを開いたら、キーが打てなかった。思いつかなかった。断片的にこんな話が書きたいとは頭の中にプロットがあるのに。いざパソコンを目の前にすると頭が真っ白になってしまう。スランプ? 私は別の件で忙しかった時に1年くらい書かない時期があった。でも、その時は久しぶりにパソコンを目の前にしたら溜まっていたアイディアをぶちまけるかのようにキーを打てたのに。今では数行打っただけで止まってしまう。


『ごめんなさいごめんなさい。頑張って書きますから。締め切りまでには何とか終わらせますから』


 何度担当者に頭を下げた事だろう。何度困った表情を浮かべさせた事だろう。最終的に原稿が書けなくなった私は、無期限の休暇を貰う事となった。これは、小説家として見捨てられたと私は考えている。代わりならいくらでもいるだろう。誰でもいるだろう。毎年毎年新芽が成長している。


『もし、原稿が書けたら持ってきてください』


 長年、私についていてくれた担当者の寂しそうな顔を思い出すたび胸がキリキリ痛む。ごめんなさい。私が不甲斐ないばかりに……。

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