ふわりとした日常
「ん……」
瞼に朝日が乗って、目が覚める。おはよう、朝。今日のアイシャドウは春らしい黄色にしよう。ぬるま湯のように心地良い熱を保つ布団の中で伸びをする。
今日は1日何をしようか。
それにしても、私の瞼に朝日が乗ったのは何故だろう。昨日を思い出す。昨日は彼と一緒に寝たので窓と私の間には私より10何センチ大きい彼がいる。乗るなら彼の背中だろうに。
ぼんやりとしていた視界をクリアにして見れば、朝日が乗っていたのは彼の髪の毛だった。そこから零れ落ちた光が私の瞼の上に乗っていたのだ。まるで木漏れ日のようにシーツの上に落ちる光を1つ、なぞってみる。ゆらりと歪みによって動いたそれは何とも温かそうで、頬ずりをしてみた。
「雅……?」
「ああ、ごめん。起こしちゃった?」
揺れるシーツに違和感を覚えたのだろう。彼の瞼が徐々に開いていく。まだ眠たげに目を擦りすり寄ってくる恋人を見ると愛おしさが心に溢れてくる。
「ううん、大丈夫……。そろそろ起きなきゃ……1日が終わっちまう……」
「今日はお休みだから寝ていてもいいのよ?」
「休みだから……雅と一緒だから……」
「そっかそっか。それじゃ起きようか」
頬を撫でて、暗い紺色のカーテンを開けて夜から朝へ。昨日、夜遅くまで降っていた雨はすっかりあがったらしい。太陽が微笑んでいた。
「でこぽん食べたい……」
パジャマの裾を掴まれながら階段を下りる。トントントンとリズムよく聞こえる音に『日常』の安堵を覚える。
「わかった。剥いておくね。だから顔洗ってきちゃいなよ」
「おう……」
洗面所に向かう彼の背中を見送り、台所に立ってサンドイッチを作り始める。中身は何にしようか。ハム、レタス、卵、ツナ……。そうだ、フルーツも美味しそうだ。悩んで結局、簡単な卵とツナを選択する。食パンの耳を落として具材を挟み、三角形になるように包丁を落とす。そういえば、食パンの耳はどうして耳というのだろうか。
考えていると、不意に背中に伝う温もり。鼻をひくひく動かして、何かを探しているようだった。朝食で香りを楽しむものと言えば、先程の会話からでこぽんだと考える。それがある方を指差すと、一つ持ってきて剥いてくれとせがんで来た。
「今サンドイッチ作ってるのわかるでしょー。手は塞がってまーす」
「食事の前にフルーツ取るとダイエット? 美肌? にいいんだぞ?」
「多分美肌だと思うけど……。そんなあやふやな知識で頼んじゃだーめ。食べたいなら自分で剥いてもいいのよ?」
「うっ……頑張る」
「頑張ってね」
私はこれから起こるであろう事を考えて、緩む口元を抑えきれなかった。私を見て、彼は不思議そうにしていたが、早く好物を食べたいという衝動に駆られたのだろう。親指を皮に入れた。
「いって!」
「やっぱりやると思った」
案の定、でこぽんの逆襲にあったらしい。果汁が目に入ったらしく、しきりに目を擦っている。可愛らしい姿に思わず頭を撫でる。
「あんまり擦ると赤くなるよ?」
小さく唸り声を上げる彼を椅子に座らせて食事を始める。食べる事が好きな彼は何でも美味しそうに頬張る。作り甲斐があるというものだ。嫌いなものは? と問かければ生タマネギと答えた。火が通してあれば平気なのだが、生だけはどうも駄目らしい。血液がサラサラになるからと生タマネギのスライスを食べる私を見ると、眉を顰める。




