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ミリオンワールド!  作者: ユーリ・バリスキー
第七章 石板の……謎?
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#7―10




 円柱の部品を組み合わせたような形状。剥き出しの大きな螺子と歯車。艶消しされた真鍮色の表面。プレゼントボックスの中から出てきた観測双眼鏡は、全体的にレトロなデザインで、一見すると実用品というよりは博物館にでも飾られていそうな風情があった。


「うわぁ~、結構素敵なデザインだね~。インテリアにしても良さそうな感じ」


「同感ね、ただこれを置くなら清歌の部屋くらいの広さが欲しいところね」


「広さもそうですけれど、こういったアンティーク風のオブジェが馴染む部屋を作るのは大変そうですね」


「あ~、確かにアンティークを一つだけ置いても浮いちゃうわね」


「……こっちで作っちゃおっか? アンティークでコーディネートした部屋……って言うか家?」


「あ、それは面白そうですね」「そういえば、家はまだないのよねぇ」


 今のところマーチトイボックス(弥生のおもちゃ箱)には、ホームはあっても家はない。普通ならホームは土地と家をワンセットで揃えるものだが、彼女たちのホーム(=浮島)は基本的に他人が立ち入ることはおろか、覗き見られる心配すらないので、殊更家を建てる必要性を感じなかったのである。


 屋内で寛ぎたいときは――今日から始めた試験勉強も――飛夏のコテージを利用することで事足りてしまうということも、理由の一つとなっている。


 しかし今後のことを考えれば、やはり家はあった方が良さそうなのも確かだ。ギルドメンバーが増えるようなことがあればコテージでは手狭になるし、誰かをホームに招待する場合も家がないのでは様にならない。


「家を建てるとして……、やっぱりもともとあった屋敷を再現するのかしら?」


「う~ん、跡地を見ると結構大きそうだよ? 私はもっと小ぢんまりとした可愛い家がいいな~。清歌はどう思う?」


「そうですね……。私もこの浮島の景色には、あまり立派なお屋敷は似合わないように思いますね」


「まあ、忘れられた島……って感じだものね。ああ、でも弥生? ギルドを大きくするつもりがあるのかっていうのにも関わって来るわよ?」


 絵梨の指摘に、弥生は腕を組んで軽く首を傾げた。


「取り敢えず、凛とお友達の千代ちゃんは入る予定だけど……他は未定かな。なんとな~く、マーチトイボックス(弥生のおもちゃ箱)の活動は寄り道を楽しむ……っていうか脇道を開拓していきそうな感じだから、そもそも加入を希望する人がいるのかって話もあるしね」


「……それもそね。まあ、違う目的で……」絵梨はチラリと清歌に視線を送って続ける。「加入を希望する輩は山ほどいそうだけどね(ニヤリ★)」


 否定はできないし、肯定もしたくない清歌としては、肩を竦めて見せるくらいしか反応できない。


 なんにせよギルドメンバーの募集を大っぴらにかけると、そう言った輩を篩に掛けるのにひどく手間が掛かりそうだ。当面募集する予定はないという弥生の方針は、その意味でも正しいと言えよう。


「作業するスペースは亜空間工房でオッケーだから、部屋もリビングルームと会議室があればいいし、やっぱりそんなに大きな屋敷はいらないんじゃないかな」


「あら、ギルドマスター専用ルームはいらないの?」


「え!? え~、い、いらないよそんなの……」


「いいえ、弥生さん。やはりリーダーたるもの、専用室くらいはありませんと示しがつきませんよ?」


「も~、清歌まで悪乗りして~。……っていうか、ココの家にいる時はきっとリビングでまったりしたいときだと思うから、結局ギルマス専用室なんて使わないとおもうよ?」


「ふふっ、そうかもしれませんね」「なるほど、一理あるわね」


 さて、女性陣三名が“ギルドの家を建てよう計画”で盛り上がっている一方、男子二人は何をしているのかというと――観測双眼鏡をいじっていた。


 この観測双眼鏡、機能的にはカタログに掲載されていた通りのものなのだが、それとは別の部分でいろいろと仕込まれていたのだ。


 例えば双眼鏡を傾けたり左右に旋回させたりすると、それに連動して――恐らくは全く意味の無い――複数の歯車が動くとか。


 双眼鏡を覗くと見える様々な表示が、レトロな外観に合わせているのか、古い時代にSFの設定を持ち込んだ物語に出てきそうなデザインであるとか。


 基本的にオートフォーカスで、また旋回も双眼鏡を左右に振ると連動して動くのにもかかわらず、ピント合わせや旋回操作用のダイヤルやらハンドルやらが付いているとか。


 支柱を上下に伸縮させると、動作終了後になぜか意味もなく蒸気が吹き出すとか。


 ――などなど、メカやギミックが好きな者ならあれこれ試してみたくなるような仕掛けが搭載されており、悠司と聡一郎は妙に高いテンションでツッコミを入れつつ楽しんでいたのだ。


 実のところ、清歌たちの会話が家の話などという今しなくてもいい話に逸れていったのは、新しいおもちゃを与えられた子供状態になってしまった男子に呆れた――もとい、暫く好きにさせてあげようと配慮した為なのである。




「それにしても、聡一郎さんまであんなに夢中になるとは、少し意外でしたね(ヒソヒソ)」


「あ、そっか、清歌は知らないんだ。聡一郎も結構メカ好きだよ。それもロボットとかよりも、戦車とかの硬派なヤツが好み(ヒソヒソ)」


「戦車って硬派なのかしら? まあでもその通りね。プラモデル作ったりもするのよ。……一人暮らしを始めてからはしてないみたいだけど。結構凝り性なところがあるのよねぇ……(ヒソヒソ)」


「その点、悠司はどっちかって言うと広く浅くっていう方かな~。あ、でもかの有名なロボットアニメは大好きだったっけ。たまにネタに使ったりもするし」


「なるほど。……同じメカ好きでも、微妙に方向性が異なっているのですね」


「そね。でもあんな風に夢中になってメカいじりをしてるところなんて、よく似ているって思わない? まあ、それは男子共通なのかも……だけどね」


「あはは、確かに」「ふふっ、そうですね」




 一頻り遊び倒して男子二人が満足した後、清歌たちも双眼鏡の使い心地を試してみた。


 使ってみて分かったのは思ったよりも安定しているということで、座って旋回させてもぐらつくようなことは無かった。ただ設置場所については、水平に近い平らで安定した場所でなければならないという若干の制限がある。


 それはつまりコテージの中では使用できるが、空飛ぶ毛布の上に設置することはできないという事であり、それを知った清歌はちょっと落胆していた。<ミリオンワールド>内では目を離すと何をやらかすか分からないお嬢様も、今回はシステムに阻まれてしまったようだ。弥生がホッと胸を撫で下ろしていたのは言うまでもない。


 搭載されている便利な機能――余計なギミックの方ではない――については、見晴らしのいい場所に設置しなければあまり意味の無いものなので、それについては軽く動作テストをした程度で終わらせておいた。


「さて、取り敢えず今日どうしてもやっておきたいことは終わったけど、みんなこの後は何をしたい?」


「そうだな……、結構ブランクがあるから、いろいろと勘を取り戻しておきたいところだな」


「うむ。久しぶりに戦闘バトルに出かけたいところだな」


「ま、ソーイチはそう言うだろうと思ってたわ。私とユージは生産の方もチェックしておきたいわね。清歌は双眼鏡を使いに行きたいんでしょ?」


「はい。新たな魔物モフモフを探しに出かけたいです」


「フムフム……」


 メンバー全員の意見を纏めてみると、取り敢えず狩りと採取のために外に出て、頃合いを見て戦闘組と生産組で別れるという感じで良さそうだ。清歌がどうするのかは本人次第だが、双眼鏡の性能試験も兼ねて見晴らしのいい所から魔物を見つけてもらうのもいいかもしれない。


 そう弥生が提案すると全員異論は無いようだ。ちなみに清歌が別行動を申し出たのも想定の範囲内である。


「たぶん今頃、新人冒険者はサバンナでカピバラ狩りを頑張ってるよね……」


「あー、行ってみないと分からないけど、少なからずいるでしょうね」


「まあ慣らしと言っても、俺らがウサギやらカピバラやらを狙うことは無いんだが……、ちょっと気になるよな」


「ふむ……、ならば今日のところは西エリアの方へ行くか?」


「その方がいいと思う。……あ、でもあっちの方って見晴らしのいい場所ってあったっけ?」


「周囲が開けた小高い丘ならありましたので、そちらに行ってみようと思います。……ふふっ、城門の上(・・・・)に登るという手もありますけれど、ね」


「へ!?」「は、はい?」「ファッ!」「なんと……」


 ニッコリのたまう清歌に四人が目を剥いた。スベラギの城壁は――便宜上城壁とは言っているが単なる分厚い壁であり、そもそも登れるようになっていない。清歌ならば空飛ぶ毛布なり浮力制御&エアリアルステップなりで軽々と登れるだろうが、なんとなく通報されそうな行動である。


「う~む……、町の外なら何をやっても自己責任だろうが……」


「城壁の上は町の中なのか外なのか……、そこが問題ね」


「っつーか、再開初日から際どいことをする必要はないだろ。穏便にいこうや」


「だね。……というわけで城壁に登るのは許可できません。いい、清歌?」


「はい、承知しました」


 クスリと笑っている様子から察するに、どうやら清歌は冗談のつもりだったようである。冗談なのかそうでないのか、分かり難いラインを攻めてくるのは彼女の十八番なのである。


「も~、清歌ってば……。さて、じゃあ冒険者協会に行って適当なクエストを見繕ってから、外に出かけよっか」


 こうして再開後初めての冒険へと、マーチトイボックス(弥生のおもちゃ箱)は赴くこととなったのである。







 ――という予定だったのだが、そうは問屋が卸さなかったらしい。


 冒険者協会で適当な討伐と生産のクエストを見繕い、さあ出かけようと思ったところで職員に呼び止められてしまったのである。


 待たされること五分余り、出鼻を挫かれてびみょ~にテンションが下がっていた五人の前に現れたのは、以前一度だけ会ったことのあるスベラギの住人(NPC)だった。


「皆さんお久しぶりですね。お元気そうで何よりです」


「はい、お久しぶりです。……ナヅカ博士の助手のルーナさん、でしたよね」


 リーダーとして弥生は挨拶を返したが、内心では首を傾げていた。冒険者協会を通して連絡は取ったが、都合の良い時を教えてくれれば後はこちらから伺うと伝えてもらった筈だ。ナヅカ博士本人ではないとはいえ、わざわざこちらに出向いてもらうほどのことではないのだが。


 こちらの表情を読み取ったらしいルーナが、事情を話し始めた。


「実はあのチビッ子博士……いえ、ナヅカ先生は未だにあの石板にご執心なんですが、このところ仕事が立て込んでいまして、そちらには手を付けられない状況なんです。それでフラストレーションが溜まっていまして……。そんな所に皆さんから石板に関するご連絡があったものですから……先生の耳に入る前に、私が予定などの詳細を詰めておこうかと」


「なるほど……、わざわざありがとうございます。……あれ? それでも普通に連絡で済ませられるんじゃ……」


 弥生の素朴な疑問に、ルーナは妙に疲れたように肩を落として溜息混じりに答える。


「そうなんですけどねぇ~。ああ見えて勘が鋭いというか耳聡いというか……、とにかくそんなところがあるんです。研究室で連絡などしていたら、どこからか聞きつけてきそうで……」


 そして知られてしまったが最後、仕事なんぞほっぽり投げて石板の話に夢中になってしまうに違いない。――否、流石にそこまで無責任だとはルーナも思っていないが、とにかく急いで仕事を片付けようとはするだろう。それでミスをしたり、頑張り過ぎて体調を崩したりしては元も子もない。


 助手であると同時に秘書的な立場でもあるルーナとしては、ココは隠しておく方が吉と判断したのである。どうにも子供っぽいところのあるナヅカ博士のお守り役は気苦労が絶えないようである。


「……苦労されているんですね……」


 妙に実感のこもった口調で悠司がルーナに声を掛けた。同じく苦労性の気がある彼は、何やらシンパシーを持ったようである。


「ええ、まあ……。それでも先生は凄い人で、尊敬していますので。……あっ! 私の話はいいですよね。それで石板の件とは具体的にどのような話なんでしょう?」




 清歌たちの話を聞き終えたルーナは深く頷いていた。


「……なるほど、楽譜ですか。それは考えもしませんでしたね。……実はこちらでは絵文字の解読については一旦棚上げして、あの石板にはどんな機能があるのか魔法的なアプローチで解析をしていたんです。その結果……」


 いったん言葉を切ったルーナは、五人を見回してから続ける。


「どうやらあの石板は何らかのゲートとして機能していたのではないか、ということまで分かったのです。ただその起動キーが分からなかったのですが……」


「演奏がキーになっているかもしれない?」


「皆さんの解読が正しければ、そうなのかもしれません。いずれにしても絵文字の解読は進んでいない状態なので、ぜひ実験をしてみましょう」


 その後、互いの予定を確認した結果、現実リアルでの明後日までにはナヅカ博士の仕事も片付いているだろう、ということだったのでその時にということで決定した。


 またスベラギ学院には音楽室もあるということで、スネアドラムとバスドラムを借りられることとなった。弥生は予定が決まったら楽器屋で適当なものを見繕わなければと考えていたので、これは素直に有り難かった。


 必要なことをテキパキと決めたルーナは、五人と挨拶を交わしてから足早にスベラギ学院へと帰って行った。なんでも休憩時間を貰って抜け出してきたのだそうで、博士と同様、彼女も多忙なようだ。


「う~ん、ちょっと悪いことしちゃったかな。私らの用事は全然急ぎじゃなかったんだけど……」


「……っつってもあの様子じゃ、“いつでもいい”って注釈をつけてもすぐに飛んできただろうけどな。ま、次からは気を付けるってことでいいだろ」


「……うん、分かったそうするよ。あ、解読プロセスも教えてほしいっていうのは、清歌に任せちゃっていいかな?」


「はい。先日皆さんにお見せした資料を取り込んでおきますね」


「よろしくね。……さて! じゃあ気を取り直して、今度こそ出かけよっか」







『う~む、ようやく町の外に出られたな……』


『そね、間の悪い日というのはあるものなのねぇ……』


 西門を出たマーチトイボックス(弥生のおもちゃ箱)の一行は、チャットで会話しつつ街道システムで西へと向かっている。わざわざチャットを使っているのは、清歌は既に空飛ぶ毛布ですっ飛んで行ってしまったからである。


『まぁ、さっきのは大した時間も取られなかったからいいじゃない』


『……ぼやきたい気持ちは分かるがな。意気込んでる所を引き留められるとな……しかも二回』


『うむ。せっかく久しぶりの戦闘バトルなのだから、気持ちよく出かけたかったものだな』


 五人は冒険者協会を出て西門へと転移したところで、出入り口付近で揉めている――という程ではないが意見が分かれているらしき冒険者二人組と鉢合わせたのである。


 初心者用の装備に身を固めた男女二人組は新人冒険者で、南のサバンナがかなり混んでいたので西門までやって来たらしい。ただここまで来て西門を行き来する冒険者が皆先行組っぽかったので、このまま外へ出ても大丈夫なのだろうかと不安になり、意見が分かれてしまっているようだ。ちなみに二人とも二十歳かその手前くらいで、慎重論を述べているのは男性の方だった。


 お節介を焼く気はない五人が素通りしようとしたところで、突撃を主張する女性に「ちょっとすみません」と呼び止められ、この先は新人でも大丈夫なのか意見を求められたのである。


 西の湖沼エリアはサバンナエリアと比較して上級者向けで、カピバラやウサギといった初心者が単独で戦闘バトルの練習をしつつちゃんと倒せる魔物というのはいない。ただ歩いてすぐの場所にある小さな水場にいるトカゲ――一応小型の恐竜らしい――については、初心者でもちゃんと連携の取れる二人組ならどうにか対処できるかもしれない。


 ただこのトカゲは警戒範囲は狭いがアクティブなので、他の個体と距離を取りつつ一体だけを相手にするようにしないと、取り囲まれてしまう恐れがあるのだ。


 などなどを総合的に判断すると、やはり戦闘バトルに慣れていない初心者に西エリアはきついだろう、という結論になるのである。


 という事を二人にざっと説明して、後は二人でよく相談して下さいと伝えて、ようやく五人は門の外へ出られたのである。


『結局あのお二人はどうされたのでしょうね? 女性の方はかなり前のめりだったように見受けられましたけれど……』


『あ~、確かに猪突猛進タイプっぽかったな。……まあ危険性はちゃんと伝えたから、流石にあのまま突っ込むなんてことは無いんじゃないか?』


『だといいけどねぇ。……なんとなく彼氏は尻に敷かれてそうだから押し切られるかもしれないわよ』


『あはは、まあそんな感じはしたね~。……でも彼女さんの方はゲームをやりたくて仕方ないって感じだったから、下手に突撃してやられちゃったほうが時間を無駄にするって納得してくれるんじゃないかな』


 弥生の言葉には、あまり無理はして欲しくないな――というニュアンスが含まれていた。最初からキツイ戦闘バトルを経験してそれがトラウマになって、ゲームを楽しめなくなってしまったらそれこそ勿体ない。


『ま、考えてみれば再開初日らしい場面だったって気もするわな。……あ、そうだ確認しておきたいんだがリーダー、初心者の手助けはするのか?』


 悠司がリーダーとわざわざ言ったということは、ギルドの方針としてどういうスタンを取るのかという事なのだろう。弥生は腕を組んで、さらにちょっと首を傾げて思案した。――こんな風に考え込んでいても勝手に進んでいくから、街道システムは便利である。


『う~ん、困っている初心者を手助けするのはいいんだけど……。清歌と絵梨にはさっき話したけど、積極的にギルドを大きくするつもりはないんだよね』


 この時、清歌はいきなり話が飛んだような気がして、首を傾げていた。初心者の支援とギルドを大きくする話は、一見無関係の様で実は結構繋がりがある。


 新人ならばどこのギルドにも所属していないし、また短時間でも一緒にプレイしてみればどの程度見込みがあるのか、又は自分たちのギルドに合いそうかある程度計ることができる。それで欲しい人材だと思ったら別れる前にギルドに誘えばいいのだ。


 ――という具合に、つまり初心者の手助けはメンバーの勧誘も兼ねることができるのである。ちなみに初心者の側で考えた場合、ギルドへの加入はともかく先行組とフレンド登録する機会にもなるので、手助けしてもらうのはメリットがある。


 既存のオンラインゲームは未経験である清歌には、その辺りのことがピンとこなかったのである。


『だからこっちから積極的に声を掛けるようなことは、しなくていいんじゃないかな。さっきみたいに助けを求められたらアドバイスするとか、ちょっとパーティーを組んで一緒にプレイする……っていう方針でどうかな?』


『まあ妥当な線じゃないかしら』『承知しました』『オッケー、リーダー』『了解した』




 本日の獲物は体高二メートル半ほどの、二足歩行をする恐竜型の魔物だ。素早い動きから蹴りと尻尾による薙ぎ払いを繰り出してくる上に、突進による頭突き――頭頂部が硬い半球状になっている――も繰り出してくるというなかなかの強敵だ。


 丘の上に双眼鏡を設置して魔物観察を始めた清歌からの誘導で、弥生たち四人は単独で居る獲物と戦闘を開始した。


 意外と高いジャンプ力で踏みつけて来たり、尻尾のなぎ払いかと思ったらさらに回って頭突きのなぎ払いをしてきたりと意表を突かれることがあって、最初は苦戦させられてしまう。


しかし弥生のヘヴィーインパクトによる足止めから、悠司のアーマーピアッシングで防御力を下げ、聡一郎がアーツを叩きこむというコンボが決まるようになってからは有利に戦闘を進められることができた。


 ちなみにこの魔物の名はメイスヘッドサウルスというのだが――


「……しっかし、頭からトゲが生えてくるのには驚いたな……」


「うん。あれじゃあモーニングスターヘッドっていうのが正しいと思うよ」


 HPが四分の一以下になりこのまま余裕で勝てるかと思った時、咆哮と共にオーラを纏い、さらに頭の半球状の部分からトゲを生やしたのだ。さらに攻撃パターンも変化し、ジャンプから頭を下にしての突進という攻撃方法になったのである。


 まさにモーニングスターとしか言いようのないトゲトゲ頭の突進は迫力があり、また着弾すると衝撃で石礫が飛んでくるという厄介な攻撃だった。しかし何度か見ている内に攻撃前のタメの特徴を掴むことができたので、そこを潰してコンボに繋げることで対処できたのである。


「ま、その名前にしちゃったらネタバレってことなんでしょうね」


「うむ、それではつまらないからな。……それにしてもなかなかの強敵だったな。お陰で連携の勘も取り戻すことができたようだ」


 聡一郎の感想に三人が頷く。現在、合計三体のメイスヘッドサウルスを斃しクエストを達成したところだ。初戦は久しぶりでちょっと連携がスムーズにいかないところもあったが、二体目では以前の調子を取り戻すことができていた。


「さて、討伐クエストはこれで終わったから、俺らは一旦ホームに帰って生産クエストの方を片付けるか」


 早速次のクエストに取り掛かろうとする悠司に、弥生が待ったをかける。


「あ、ちょっと待った。その前にちょっと清歌のところに行ってみない? 双眼鏡で何が見えるのか気になるんだよね~」


「あ~、確かに気になるな」「そね、時間もまだあることだし」「うむ。行くか」




「清歌~、どう? 何か見つけた?」


「いろいろと面白いものが見えますよ。……ただ、残念ながら重要ポイントというのはここからでは見当たりませんね」


「ま、そう簡単には見つからないわよ。第一、そう言う場所って隠されてるものでしょ? あのダンジョンの入り口みたいに」


「そうだろうなぁ。……ところで面白いものっていうのは、例えば?」


「例えば……、そうですね。魔物同士が争っているところなどを観察できましたよ」


「ほう。それは捕食されているところ、ということだろうか?」


「それもありました。肉食獣型の魔物が集団で連携して恐竜を狩っているところでした。それから同じ種類の魔物同士で喧嘩をしているところも見られました。こちらは恐らく縄張り争いのようなものでしょうね」


「それはまた……、変なところに凝ってるわねぇ」


「あとは……、敵が近寄ると岩に擬態する大きな亀や、恐竜の背中を棲み処にしている鳥なども見つけました」


「ふむふむ……。結構楽しめそうだね、この双眼鏡は」


「みたいだな。結構当たりのアイテムだったんじゃないか?」


「ふふっ、問題はあれこれ見ている内に時間を忘れてしまうところ、かもしれませんね」


「あはは、それは気を付けなきゃダメだね~」





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