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ミリオンワールド!  作者: ユーリ・バリスキー
第一章 きっかけは・・<最悪神>討伐戦!?
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#1-05

 五人はダイニングからソファへと場所を移した(言うまでもないが同じ室内である)。清歌が寝室から自分の携帯ゲーム機を取ってきて(寝室の様子が気になった様子の男子二人が、凄まじく冷ややかな二対の視線を浴びて石化したのは余談である)、通信プレイの準備を始める。大画面液晶テレビを見て、弥生が「コレに映せる?」と聞いたところケーブルがあるということだったので、せっかくだから迫力のある画面でプレイすることになった。


「じゃあ、私がホストになるから、黛さんをこっちに呼ぶね」

「はい、宜しくお願いします」

「よーし。……おお、すごい迫力だコレは……っと。よし、接続完了。黛さーん、いらっしゃー……いぃ!?」


 アロワナ(っぽい魚)が悠然と水槽を泳ぐ、弥生のプライベートルームが映し出される大画面に、招待された清歌のキャラクターが現れる。が、それを見た瞬間弥生は思わず変な声を上げた。


 てっきり清歌そっくりの美少女キャラクターが現れるとばかり思っていたそこに現れたのは、中年の紳士然としたオジサマだった。中肉中背、オールバック、細いフレームの眼鏡、ワイシャツにネクタイ、スラックス、そしてベルトではなくサスペンダー。


「こ、これは。もしや、このおじさんは……」


「う……右○さーん!!」


 思わず絵梨が亀○くんっぽく叫ぶ。それはまさに絵梨が大好きな刑事ドラマの主人公である、頭脳明晰で細かいことが気になる悪い癖を持つ、かの警部にそっくりだった。実物よりも若干若い印象の顔になっているが、第三・四シーズンの頃ならばまさにそのものかもしれない。ちなみに弥生らは絵梨の影響で全員この刑事ドラマを見ており、映画にも付き合わされた。


「や……よくできてるな~、この警部どの。アニメっぽいキャラクターしか作れないと思ってたけど、こういうリアルなのも作れるんだな」


「う~む。見事な造形だ。まさしく杉○右○」


「……確かにすごい。すごいのは分かるんだけど……なぜに?」


 テレビ画面を食い入るように見つめていた四人の視線が清歌へと移動する。清歌はアイテム譲渡の手続きをしようと操作していたが、視線を感じて顔を上げた。どことなく照れ臭げなのは気のせいではないだろう。


「実はその……大した理由はないんです。ただゲームのパッケージに“Buddyと共に神々に抗え!”というキャッチコピーが大きく出ていたから……それで」


「ああ、Buddyを和訳すると相棒、相棒といえば……ってことね」


「ええ、まあ……。プレイしてみたらBuddyというのは使い魔のことで、想像とはまったく違っていたのですけど、せっかく作ったキャラクターですから、そのままでプレイしています。……世界観に合っていないのは、分かっているのですけれど」


「ま……まあね。でもスーツじゃないのはなんで?」


「ポケットチーフがないんです(キッパリ)」


「はいぃ?」「む?」「なんじゃそら?」


「ですから。ポケットチーフのあるスーツがないんです、このゲームには。それではダメなんです。そうに決まっているんです」


 清歌はそれがまるで地球上を支配する物理法則であるかのごとく、何の疑いも持たずに語っている。が、三人は何のことを言っているのかまるで理解できなかった。逆を言えばただ一人、絵梨だけはそれを正しく理解(というか共感?)できていた。


「(ニヤリ☆)そうね。“彼”がスーツを着ているというのに、ポケットチーフがないのでは画竜点睛を欠くというものよ」


「そうなんですよ! だからここはサスペンダーという、もう一つのトレードマークで我慢するしかなかったんです」


「いいえ。むしろそれはベストな選択と言っていいわ! グッジョブよ!」


「本当ですか? 嬉しいです、分かってくれる人がいて。残念なことですけれど、説明してもなかなか理解は得られないんですよ(とほほ)」


「大丈夫! 私がちゃんと理解しているから、黛さん。……いえ、清歌」


「!! ……絵梨さん」


 あまりにも熱いマニア同士の会話に、三人は若干退き気味だ。しかもいつの間にか名前で呼び合うようになってしまっている。今日、最初に御呼ばれしたのは私だったのにと、弥生はちょっと面白くなかった。


「んふふ、なぁに弥生? あなたも清歌のことを名前で呼びたいのかしら」


「くっ、なによそのドヤ顔は。べ……べべ別に、羨ましくなんか……、うらやましく……なんか(チラリ)」


「というわけだから清歌、よかったら弥生のことも名前で呼んであげてくれる」


「は……はい。あの、私のことも名前で呼んでくれたら嬉しいです。弥生さん」


「ほ、ほんと? いいの? えっ……と、じゃあ、清歌」


「はい、弥生さん」


「はぅ(じぃぃ~ん)」


「なにやってるんだかこの子は……(ニヤリ★)」


 傍から見るとかなり恥ずかしい、しかも今更ながらのガールミーツガールを済ませた女子三人組。もはや男子二人組は完全に背景扱いだ。


 さておき、清歌と弥生はせっかくだからと、協力プレイで<最悪神>討伐に出掛けることにする。必須アイテムである二本のナイフを譲り受け、スキルを再調整し準備万端整えると弥生がクエストを選択、強大な神の待つステージへと旅立った。






 基本的に弥生は単独での討伐を目指していたので、もしピンチになったらそのときだけ清歌がフォローする、ということを確認してボス戦に突入した。


 やり方さえ理解すれば問題ない。そう豪語するだけのことはあり、弥生は危なげのないプレイで雨アラレと迫る魔法と、時折頭上から落ちてくる謎の黒い塊を次々と捌いていく。ときおり「大画面は迫力が違う~!」などという余裕すらあるのは流石だった。


 そして終に、どこか金属的な叫び声を上げながらボスが崩れ落ちた。


「よっしゃー! 見たか<最悪神>め!」


「す……凄いですね。このやり方でのトライは初めてなんですよね?」


「まあ、弥生の数少ない特技の一つだからな。ゲームだけは何度やっても弥生に勝てん」


「ちょ! 数少ないって何よ」


「まあ、でも間違ってはいないわよね」


「そんな絵梨まで――」


「あれ? ちょっと待ってください。……弥生さん、おかしいです。私が斃した時は、他のボスと同じように灰になって消えるだけで、すぐにリザルト表示になったんです。こんな演出はありませんでしたよ」


 地面に倒れ伏した巨体の下半身部分に当たる竜の体は鬣の炎が燃え広がり、白い灰の山へと姿を変えると、それもやがて光となって消えていった。そして炎で焼き尽くされずに宙に浮いていた黒い宝玉にはヒビが入り、内側から光が漏れ出した次の瞬間砕け散る。破片は一旦球状に飛び散ったが、宝玉のあった中心部分に出来た空間の穴に吸い込まれ同時に穴そのものも消えた。


「これは、エンディングの演出……でしょうか?」


「って、違う! 見て清歌、左上の数字! カウントダウンが始まってる」


「え!? まさか、これ連戦イベントですか?」


 崩れ落ちていた上半身の鎧部分が、ゆらりと宙に浮き上がり静止する。不気味な静けさに息を呑んだ次の瞬間、両腕の砲身状の部分が長大な剣に変化し、頭から髪のように生えていた蛇は光となって八方に飛び散り床に落ちると、それは頭がなく左手に盾をもち右腕が蛇そのものという異形の兵士へと姿を変えた。


「……そう、下半身なんてただの飾りなんだよ、偉い人にはそれが分からんのです」


「む、偉い人というのは誰のことだ?」


「いや、見た目がかの有名な足のない機動兵器っぽかったから、ちょっとボケてみただけなんだが……」


「気が散るからちょっと黙ってて! っていうかまずい、コレはまずいよ。あれって使い魔じゃない。私、強い使い魔って持ってないんだよぉ~」


「なら弥生さん、テレビ接続を代わってください。使い魔の方は私が引き受けます」


「お!? おっけぇー、了解。こっちは前衛を任された! ……ね、あの黒い塊ってもう出ないと思う?」


「あの演出をわざわざ見せたんですから、恐らくは。アレが引っ掛けなら、いくらなんでも酷すぎると思います」


「よし、アレはもう出ないことに決定。私は最強装備で行く!」


「お願いします。私は使い魔の操作で手一杯なのでこの場から動けません」


「大丈夫、本体はこっちでひきつけておく」


「お願いします。消費アイテムの半数をそちらへ送ります」


「……よし、受け取った、サンキュー! じゃ、いくよ~!」


「はい。こちらも準備……整いました。いけます」


 ゲーム画面をモニター接続した清歌は、ゲーム機本体のタッチパネルディスプレイを、使い魔への戦術指揮コントロール専用のパネルへ切り替え、使い魔を召還する。キャラクターの身長を大きく超える巨大な白と黒の狼が出現し、二匹が遠吠えをすると周囲に数多くの犬型モンスターが出現した。狼や大型の猟犬タイプはともかく、柴犬やトイプードルまでもがずらりと並ぶ様子は、どこかコミカルで、緊迫感を一気にぶち壊した。


「あ、グレートピレニーズ。かわいい……モフモフね」


「む、流石にチワワはいないか?」


「いや、警部どのの足元で震えているのがそうじゃないか?」


「ブハッ……、清歌ぁ。それはないよ」


「……えっと、私もそう思うんですが、火力はこの組み合わせが最大なんです。それよりも……来ます!」


 どこか気の抜けた空気の漂う中カウントダウンが終了し、再び戦端が開かれた。それと同時に弥生のキャラクターは敵本体へ、清歌の扱う使い魔群は異形の兵士たちへと一気に殺到する。


 それは見ているだけで目が回るような、だがあらかじめ作戦を決めていたかのように完璧な役割分担をされた戦いだった。ボス本体に立ち向かう弥生のキャラクターは、二刀をもって速度と手数を最大限に活かし、巨大な剣による攻撃を避け、流し、牽制を入れて崩し、時に受けるダメージはアイテムで瞬時に回復し、隙を見つけては攻撃を入れHPを削るという、綱渡りのような戦いを繰り広げている。


 一方、清歌はテレビ画面と手元の画面を見比べながら、その細くしなやかな指先をタッチパネル上で躍らせていた。敵兵一体につき二~三体の使い魔を対峙させ、時にMPの減ったメンバーを交代させ、強化魔法が途切れないよう指示を出し、ダメージを受けそうになると回復魔法の準備に入るという、神経をすり減らすようなプレイをしている。


 ピンチの連続をしのぎ続けること数十分、終にその均衡が崩れる。全ての異形の兵士がほぼ同時に撃破されたのだ。安堵の息をついたのもつかの間、兵士の遺骸が光の玉となって本体へと飛んで行き頭にくっつく。


「まさか、再生するなんていわないよね……」


「そんなことはさせません。あと十秒、持ちこたえてください」


「ふーん。じゃ、もうひとがんばりといきましょうか!」


 清歌が話しながら指示を与えると、全ての使い魔はプレイヤーキャラクターの傍まですばやく戻り円陣を組んだ。魔法の詠唱をしているときのように、それぞれの足元に魔方陣が光るとそれらが光の線で結ばれ、さらに巨大な魔法陣が描かれる。それは完成すると宙に浮かび上がり垂直に向きを変え、その中央に<最悪神>を捕らえた。


「チャージ終わりました。おっきいの、いきます! 弥生さんは、ケリがつかなかったときのために、止めをさす準備を!」


 使い魔たちが二匹の巨大な狼を中心に素早く横一列に並ぶと、口を開き一斉にブレスを魔法陣めがけて放つ。魔法陣で強化されたブレスが光の奔流となって敵を飲み込んだ。


 全体の四割ほど削られていた敵のHPゲージが見る見るうちに減っていく。だが、この巨大な砲撃をもってしても、あと僅かに止めを刺すにはいたらなかった。


「弥生さん!」


「ガッテン承知!!」


 使い魔の砲撃によって敵が足止めされているうちに、弥生の方は最大威力の攻撃のチャージを終えていた。


 瞬間的に敵の足元に移動していた弥生のキャラクターは一刀を地面に突き立てると、それを踏み台にして巨大な敵のさらに上まで大きく跳び上がる。空中ジャンプで頭にもう一刀を突き刺した後、そこからくるりと反転し少し離れた位置に降り立つと、再度跳躍、胸部に拳を叩き込んだ。次の瞬間、巨大な光の剣が<最悪神>を真っ二つに切り裂き、地面に突き立った。


 光の剣が消えた後も、数秒間形を保っていた<最悪神>だったが、操り糸が切れたかのように地面に落下すると、鎧のパーツがガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。それらも急速に錆び付きぼろぼろに風化すると、やがて跡形もなく消え去った。


「斃した……の?」


「えっと、たぶん……斃したのではないかと」


 流石にこれ以上のサプライズはないだろうと思いつつ、清歌と弥生はなんとなく警戒しつつ画面を見つめる。


 果たして、画面には金色に輝く文字で“Congratulations”の文字が表示され、リザルト表示がされる。金色の文字は見たことのない演出だ。倒した敵の強さからすると、ショボイ印象を受けざるを得ないが、とにかく<最悪神>討伐はこれで完了のようだ。


「ちょっと、二人ともどうしたのよ、ぼけっとしちゃって? クリアしたのよ。もっと喜んでもいいんじゃない?」


「そっか、クリア……。クリア、出来たんですよね!」


「うん、そうだよ! これで正真正銘コンプリートだ! よっしゃー!」


 極度の集中が解け、どことなく放心状態だった二人は我に返ると、顔を見合わせて微笑み合い、パチンと一つハイタッチをした。

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