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ミリオンワールド!  作者: ユーリ・バリスキー
第四章 おもちゃ屋さん、はじめました!
53/177

#4―14



 大抵のRPGがそうであるように、<ミリオンワールド>でもクエストを受注するとシステム画面に表示され、進行状況が反映されるようになっている。また、クエストをパーティーで受注した場合は、敢えて非通知設定にしない限り、全員の進行状況をメンバー全員が確認できるという便利仕様だ。


 現在、マーチトイボックス(弥生のおもちゃ箱)の五人はテーブルマウンテンの頂上、浮島へのダイブポイントである崖の手前に並んでいる。


 弥生が冒険者ジェムに表示させたポータル修復クエストの状況は、全員キッチリとクリア状態になっていた。


「よしっ! それぞれのお題は完了してる。今回も周囲に魔物の姿はないし、天気も良好。浮遊落下のレベルも上がってるから、前回ほど怖くなくなってる……はず」


 浮島へのダイブの前に、改めて大事なことを一つ一つ確認する。こんな風に弥生は集団のリーダーとして行動する時、結構慎重で思慮深い一面を見せる。彼女個人としては割とうっかりミスがあるのだから、なかなか興味深い一面と言えよう。


「じゃあ、みんな。準備はオッケー?」


「はい。問題ありません」「ええ、行けるわ」「ああ、大丈夫だ」「うむ!」


「よし! じゃあ、前と同じ手順で島に行くよ~!」




 学校訪問に行った午前の残り時間いっぱいと、午後の時間を少し使って、生産組である絵梨と悠司はポータルの球体部分の修復作業を行った。露店の商品開発によって生産周りのスキルレベルが上がっていた二人にとって、難易度そのものは高いものではなく、危なげなく作業は完了した。


 ちなみに作業中暇な三人は、空飛ぶ毛布(ヒナ)に乗って一足先にテーブルマウンテン山頂に向かい、レジャーシートを広げて露店の新商品についてアイディアを出し合う、という名の雑談をしていた。


 討伐依頼などを受けてもよかったのだが、そろそろ弥生と聡一郎の前衛二人はレベル二十に到達しそうだったので、どうせならクエストクリアで全員同時にレベルアップしようということで控えたのである。


 そして作業完了の報告を受けた清歌が、スベラギに二人を迎えに行き、今に至る。




 二度目のダイブは、以前ほどスリリングなのものではなかった。たったの二度目なので慣れたということではなく、悠司と絵梨が浮遊落下を必要もなく使用してせっせとレベルを上げておいたので、落下速度が落ちていたからだ。


 ちなみに雪苺の浮力制御を清歌と聡一郎に使用しなかったのは、エアリアルステップで飛距離を稼ぐときに高く跳び過ぎてしまって、着地まで時間が余分にかかりそうだったためだ。


 そんなこんなで辿り着いたしばらくぶりの浮島は、フワフワと浮かんでいたマリワタソウ(とその分身)の姿がいなくなっているだけで、やはり美しい景色のままだ。


「はぁ~。やっぱり、この島は綺麗だよね~」


「ええ。自然の花畑と、蔦の絡んだ廃墟の対比が素敵です」


「花畑、大樹、廃墟……。フフフ、ここに例のゴーレムを持ってきてたら、訪問者に花をプレゼントしてくれたでしょうね(ニヤリ★)」


「おま。なんでわざわざ危険な台詞を……。っつーか、考えてみるとあのゴーレム、なんか妙に錆び付いた感じの質感だったよな……」


「うーむ。……まさかこの島とセットだったのだろうか?」


 さっさとクエストの報告をすればいいものを、なんとなくネタ談義へと話が逸れてしまう五人。ある意味、見事に開発の罠にはまっているとも言える――かも?


「うーん、想像だけど、セットで仕込まれたネタじゃあ、ないんじゃないかしら」


 絵梨が思うに、開発がネタをセットで仕込むなら、もっと確実に連鎖して遭遇するように仕込むはずだ。今回のクエストに関してはそこまでの確実性はない。ということは恐らく単純に、例のスタジオによる作品が好きな開発スタッフが多いのか、もしくはゲーマーやオタクではない一般層にも分かる、万人向けのネタを探した結果、この選択肢になってしまった、ということではないだろうか。


「ふむふむ。どっちもありそうな話だね~。……って、本題本題! クエストの報告をしちゃおう!」


「うむ。まずは報告するだけで済む、俺たちからだな」


 脱線していた話を元に戻し、五人は石板風クエスト受注ボードへと向かい、それぞれの冒険者ジェムを翳す。弥生と聡一郎は一般的な魔物の討伐依頼と同じなので、それだけで報告は完了だ。


「ポータルの設置は最後の方が良さそうですから、次は私の番ですね」


「そういえば……、ゴーレム以外の二体を見るのは初めてね」


「うんうん。どんな子なんだろうね~」


 クエストの報告をすると同時に、捕獲した魔物をリリースするポイントと、修復したポータルを設置するポイントが表示されている。ちなみにその表示は光る円形の領域が現れて、上に向けて光が立ち上る――という、RPGでよく見かけるタイプである。


 取り敢えず全員が知っているゴーレムを指定のポイントにリリースし、次に水の魔物をリリースするために泉へと移動する。


「では、水の魔物を放しますね」


 ポイントの中に入り、泉の上で捕獲アイテムのスイッチを押すと、ポンという小さな音とともに捕獲されていた魔物――というか観葉植物っぽい何かが現れた。


 根っこの部分がボール状で水面にぷかりと浮かんでいるそれは、まっすぐに伸びた幹から枝が数本伸び、それぞれの先端に一枚だけ大きな葉が付いている。その葉はドーム状に広がり、葉脈が中央から放射状に伸びているため、まるで傘のよう――


「この子はレイクパラソル、という名前の魔物です」


 ――どうやら傘は傘でも、日傘の方だったらしい。


「へ~、ネーミングはちょっと安直な気がするけど、見た目は可愛いね!」


「確かになぁ。……っつーか、これ本当に魔物なのか?」


 見た目はちょっと変わった、しかしファンタジーならあってもおかしくないと思えるデザインの植物だ。水面にぷかぷかと浮いているというのも、なかなかにメルヘンで、魔物に見えないという悠司の疑問ももっともである。


「基本的にノンアクティブなので、ちょっかいを出さなければ植物と変わらないですね。ただ……」


 意味深に言葉を切った清歌に、弥生たちの視線が集まる。


「いざ戦闘になると、傘……のような葉っぱを閉じてドリル状にして、全方向に攻撃をする……みたいですよ?」


「ドリル!?」「ふむ。なかなか手強そうだな」「まあ、確かに傘は畳むと……」「ドリルに見えなくもない……かしら?」


 何故清歌がそんなことを知っているのかというと、捕獲する前にこの個体と仲良くなって聞いた話なのである。実はなかなか可愛らしい見た目の魔物だったので、お題にそぐわなかったら従魔にしようかと思ったのだが、幸か不幸かお題にぴったりだったので、連れてきたという次第なのだ。


「え? っていうか、仲間にしていない魔物でも話を聴けるの?」


「私自身は、従魔にした子の言葉しか分かりません。ただ、ヒナやユキは他の魔物と会話できるので、通訳してもらえば間接的に会話をできますので」


 清歌の解説に悠司と絵梨が目を見開き、顔を見合わせ頷いている。どうやら二人は、今の清歌の言葉で、何か確信したことがあるらしい。


「む? 悠司、それに絵梨もどうかしたのか?」


「ああ。ほら、前にちらっと魔物使いの従魔にする条件が、大凡絞り込めたって言ったことがあっただろ?」


「今の話は、その推測の裏付けになりそうなのよ。……まあ、その話はいずれ時間を取ってちゃんとするわ。今はクエストを優先しましょ」


「承知しました。……では、三体目は大樹の側ですね」


 大樹の側に表示されているポイントへ移動し、再び同じ手順で捕獲アイテムから魔物をリリースする。そこから現れたのは――


「はい!?」「これって……」「うむ。どう見ても……」「お魚……だよね?」


 そう、現れた魔物は魚――金魚の体を前後に伸ばしたような姿だ――にしか見えない魔物だった。


 お題の内容は、“樹上生活をする木の葉を主食とする魔物”であり、クエストに取り掛かる前はコアラや鳥などを想像していたのだ。にもかかわらず現れたのは、どう見ても魚にしか見えない魔物である。


 これはいったいどういうことだと思っていると、なんとその魚は、五人が見つめる目の前で大樹の幹に潜り込んでしまった!


 清歌を除く四人が絶句としているのをよそに、金魚に似た魚は嬉しそうに幹の表面が水面であるかのように跳び跳ねながら、すいすいと大樹を登って行ってしまった。


「ふふっ、樹が大きくて嬉しいんでしょうか? この子はコカゲウオという魔物で、樹木の上や中で生活する魔物……のようです」


「その口ぶりからすると、さっきのレイクパラソルみたいに話は聞けなかったみたいね。……あら、じゃあ木の葉を食べるっていうのはどうして分かったの?」


「それは実際に食べているところを見ましたから。……ただ、それも遠くからでしたので、仰る通り意思の疎通は図れませんでした」


 コカゲウオは枝を泳いで(・・・)行くと、早速大樹の葉っぱをむしゃむしゃやっていた。魚にも藻や苔などを主食とする草食性のものもいるのだから、木の葉を食べるというのも、さほど奇妙なものではない――のかもしれない。しかしどことなく芋虫の類を彷彿とさせる姿ではある。


「ふむ、樹木を泳ぐ魚か……。葉を食べるとき以外は木の中にいるのなら、そう簡単に見つけられない、というのも頷けるな」


 草食性の魔物の多くがそうであるように、コカゲウオも基本的にノンアクティブだ。ゆえに、近づいたところでコカゲウオの方からアクションを起こすことはなく、発見が難しい魔物なのである。


 清歌にしても、警戒されない植物モードの雪苺からの映像がなければ、発見はできなかっただろう。


「うんうん、さすがは清歌! どっちもちょ~っと……、えっと、かな~り変わってるけど、どっちも可愛い子だね」


「そね。ゴーレムも含めてなんだか変わり種を集めた感じになっちゃってるけど、このファンタジーな島には似合いそうじゃない?」


「(ゴーレムは機能重視で選んだだけなんだが……ま、いいか)んじゃ、後はポータルを設置して、報告は終わりだな」


 泉のほとりに集まり、修復されたポータルの球体を取り出す。意外と大きなそれを悠司と聡一郎が二人で持ち上げ、泉の上まで移動させると、球体は自然に浮き上がって泉の中央に向けてゆっくりと移動していく。――これなら転がして泉に落としても良かったんじゃね? などと突っ込んではいけない。


 五人が固唾を飲んで見守っていると、泉の中央で静止した球体は、内部のリングが回転を始め、ついに全体から水か流れ出した。


「「「「「おお~~!」」」」」


 泉に落ちた水がしぶきを上げて小さな虹を作り、先ほど泉に放しておいたレイクパラソルが何やら楽しげにくるくると回っている。


 綺麗で和む光景にぼんやりとしていると、唐突に五人の前に椅子に座った老人が現れた。半透明の立体映像なので、おそらくクエストの完了がトリガーとなって何かのイベントが発生したということなのだろう。その証拠にパーティーのリーダーである弥生の前に、ウィンドウが表示されている。


「びっくりしたー……あ、なんか表示が出てきたよ。え~っと、依頼主からのメッセージが届いていま……すぅ?」


「依頼主……って、このクエストに?」


 かなりの期間、誰もいなかったと思われる島で受注したクエストに依頼人と言われても、「なんじゃそら?」と思ってしまうのも無理からぬことだ。


「もしかすると、この島の前の所有者……屋敷の主かもしれないわね。ユキの物語的な背景を考えれば、ありそうな話じゃない?」


「ふむふむ、なるほど~。……ま、とにかく再生してみるよ。いい?」


 弥生は四人が頷くのを確認してから、出現したウィンドウにあるメッセージ再生ボタンをタッチする。


『まず初めに、これは私の遺言である。……私はかつてこの島に屋敷を構えていた――』


 絵梨の推測通り、立体映像の老人はクエストの依頼主にして、この浮島と屋敷の主だった。長い時間の経過を感じさせる、時折ノイズの走る立体映像の老人が語り始める。


 物語的な背景を大雑把にまとめると、そもそも別荘的に使われていたこの浮島は、とある事故により屋敷とポータルが壊れてしまい、ここを気に入っていた主人もその時既に老境に達していた為、島は放棄して町へと移り住んだのだという。しかし、この美しい景色の島が誰の目にも触れなくなってしまうのは惜しいと考えた主人が、ポータル修復を依頼として残したのだ。


 そして、修復作業が完了し、ポータルが正常に起動したことをトリガーとして、メッセージが再生されるように仕掛けられていたのだ。


 清歌に出されたお題についても説明がされた。これについてはほぼ推測通りで、クエストを完了すると同時に、大樹に掛けられていた魔法が起動し、島の管理者としてリンクされるということだった。


『――私からの依頼を達成したそなた達に、クエストの報酬とは別に、私個人からこの島の所有権を譲ることとする。この島を広く一般に開放するか、それともそなたたちの土地とするかは自由にしてくれた構わない。……この美しい島の景色を大事にしてくれると、私は嬉しい』


 そう言い残し、かつて島の主であった老人の映像は消えた。


 最後に付け加えられた言葉に、弥生は目を丸くする。クエスト達成と同時に、島をホームにするためのクエストが連鎖的に発生するのでは、と思っていたのだが、一足飛びに島を入手できてしまったらしい。







 晴れて起動した真新しいポータルの球体が浮かぶ泉の畔に、清歌たち五人はいつぞやのように並んで座り、今後について話し合うことにした。


「え~っと、今のところこのポータルは非公開状態で私たちだけ使えるようになっているみたい。……で、開放する場合は土地を手放したって扱いになるから、一般的なフィールドと同じ扱いになるみたい」


 現在、島の所有権は五人の共有資産となっている。ちなみにゲームシステム的には、貴重品の中に“権利書”なるアイテムがあり、その権利書に土地の詳細な情報や共有者の情報などが記されている。


「……じゃ、一応確認しておくよ~。この島を、ホームにしていいと思う人は~、手っを上っげって!」


 なにやら子供が遊び仲間を募る時のような口調の弥生に笑いそうになりつつ、全員が迷うことなく手を上げる。いささかアホっぽいやり取りに、五人は顔を見合わせて思わず吹き出してしまった。


「あはは。……じゃあこの島を、私らのホームにすることは決定だね! あとは……」


 弥生は絵梨と悠司に視線を向ける。二人は頷いてその先を引き継いだ。


「まあこの島のメリットは以前検証しているから、問題はデメリットの方よね」


「だな。こんな便利で広い島があっさりゲットできるってことは、なんか罠があって然るべき、だろうな」


 これまでの経験上、<ミリオンワールド>内のアイテムやスキル等は、便利なものほどデメリットも仕込まれていることが多いことが分かっている。この浮島は、素材の採取もできるし、町で入手可能な一般的なホームの土地よりも遥かに広く、専用のポータルゲートも設置されている。これだけ便利なものとなれば、落とし穴の存在を疑いたくなるというものだ。


「これは当たり前だが、町に隣接してるわけではないからな。ここで店を開くのは無理だろう」


「そね。私らのおもちゃ屋をどれだけ続けるのかは分からないけど、店を構えるなら町に別の拠点を手に入れる必要があるわね」


「あとは……、これも同じ理由だけど、ホームに誰かが尋ねてくる形で始まるクエストが発生しないかもしれないね」


「ん? 弥生、そんなクエストあるのか?」


 悠司の問いかけに、弥生は首を傾げる。


「それは分かんないけど……、あるかもしれないよ? それに、今のところその予定はないけど、ギルドの仲間を募集するのも難しいよね」


「あ~、確かに“この住所を訪ねて下さい”って感じの募集はできないわな」


「そういえば……、悠司さんの亜空間工房は使えるのでしょうか?」


 清歌の疑問に、悠司を除く三人が「あ!」と声を上げる。しかし当の悠司は、その点については心配していないようだ。


「それに関しては大丈夫じゃないかと思ってる。あれはホームの壁に設置するものなんだが、家の壁じゃなきゃならんとは書いていないんだ」


「なるほど……。じゃあ、あの廃墟の壁でも大丈夫なのね」


「……だと思う。もしかしたら、あの大樹の幹にだって設置できるかもな」


 大樹の幹にドアが張り付いていて、中に入ると工房になっているというのは、それはそれでなかなかにファンタジーでいい感じ――かもしれない。


「ふむふむ、やっぱりデメリットはあるよね……。他にも何かあるかな?」


 ギルドのホームが町にないというのは、いくつかのデメリットがありそうだ。静かで他人に邪魔されることがなく、隠れ家としてはもってこいの浮島は、言い替えれば誰でも気軽に来れる場所ではないということなのだ。


 ここで清歌が、全く違う角度からの素朴な疑問を出した。


「デメリットというのとは違いますけれど……。ホームというのに家がないというのは、少し不思議な感じがしますね」


「あはは。まあ町でホームをゲットする時も、土地を買ってから家を建てるって場合もあるからね~」


「……建てるというのは、町の業者さんに頼んで、ということでしょうか?」


「うん、そだよ。町にいるNPCの大工さんに頼んで……って、あれ? NPCって、この島にも来てくれるのかな?」


 清歌の疑問に答える過程で、はたと気づく弥生。ポータルゲートは一回記録した場所の間ならば移動可能で、そのルールはNPCにも適用される。ゆえに大工さんを一度でもここまで連れて来れれば、建築を頼めるのだろうが――少々難しそうな話である。


「……う~む。暫くは、ホームといえど雨ざらしというわけか」


「まあ、仕方ないか~。……もしかしたら、管理者になったゴーレムに、頼めるようになるのかもしれないしな」


 今すぐに思いつくデメリットについては、この辺で出来ったようだ。町にホームがないということには、それなりの不便さがあるようだが、それでもこの浮島をプライベートスペースにできることに比べれば些細な問題だ。従って、この島をホームにするという方針に変更はない。


 取り敢えずこの島での用事は終わったので、五人は使えるようになったポータルから町へと帰還することにした。


「お! 最初に行ったチュートリアルエリアに行けるようになってるな。……どうする? こっちは後回しか?」


「うん、先にギルドの登録をしちゃおうよ。あ、一応確認だけど、みんな行けるようになってるよね?」


 弥生の確認に、清歌以下三名が頷く。予想通りクエストのクリアで入手した経験値により、全員レベル二十に到達していた。


「オッケー、予想通りだね。じゃ、先ずは冒険者協会へ行くよ~」


「はい」「オッケーよ」「了解、リーダー」「うむ」







 冒険者協会でのユーザーギルド“マーチトイボックス(弥生のおもちゃ箱)”の登録は滞りなく完了した。ちなみにレベル二十以上の冒険者三人以上で、一定金額を冒険者協会に収めれば、ユーザーギルドは発足できる。


「はい。これで皆さんのギルドの登録は完了です」


「「「「「ありがとうございました~」」」」」


 お礼を言って席を立とうとしたところ、職員に呼び止められる。


「あ、少々お待ちください。スベラギ学院のナヅカ博士より、手紙を預かっていますので、こちらをどうぞ」


「はい? 手紙……ですか。どんな内容なんだろ……」


「内容までは……。ただ、皆さんにとっていい知らせのはず、とおっしゃっていましたよ?」


 手紙を受け取った弥生の半ば独り言だった言葉に、協会職員がミユから聞いていた言葉を返した。


「いい話……ねぇ。ナヅカ博士が考える、いい話っていうのは気になるけど……」


「ま、それは手紙を読んでからだね。とりあえず、蜜柑亭に行って落ち着こうよ」







 晴れて正式にギルドとして登録されたマーチトイボックス(弥生のおもちゃ箱)の五人は、蜜柑亭へ移動するとささやかな祝杯を挙げた。


「では、ギルド結成を記念しまして……。かんぱーい!」


「「「「乾杯~!」」」」


 フレッシュジュースの入ったグラスを、カチンと軽く合わせてから、それぞれ一口飲んで一息つく。


「ぷはぁ~。取り敢えずクエストの達成と、ギルドの結成、ホームの入手っていう三つの目標は達成だね!」


「ええ。結構脇道に逸れて遊んだ割には、順調なんじゃないかしら? あ、それでナヅカ博士からの手紙の内容は?」


「じゃあ、開けてみるね。……えーっと、なになに……」


 手紙の内容は、先日の情報提供に関する感謝の言葉と、今編纂している魔物大全の改訂版に、パンツァーリザードの情報提供者として五人の名か、パーティーないしギルドの名前を掲載したいという打診だった。


「へぇ……。<ミリオンワールド>にはユニークアイテムはないっつー話だったけど、こう言う形ではあるのか……」


「そうみたいね。で、やっぱり登録はギルド名で、よね?」


「うん。名前を出すのは避けたいし、折角結成したギルドだからね!」


 なお、掲載する名をどれにするかは、冒険者協会に伝言を頼めば大丈夫だと手紙に記載されていたので、またわざわざ学校まで出向く必要はない。


「ところで……、以前立てた当面の目標はほぼ達成できたわけだが……。今後の活動方針はどうするのだ?」


「そうだね~。取り敢えず、ホームがあのままって言うのはちょっと味気ないよね。やっぱり私は、ちゃんとした“家”が欲しいな~」


「私も弥生さんに一票です。あと個人的には、仲間の魔物を増やして、この島にたくさん放したいですね」


 いつぞやに話していた魔物モフモフ天国を実現できる下地が整ったのだから、清歌がそう考えるのは必然とも言える。


「それは島も賑やかになっていいわね。悠司の亜空間工房が使えるようになったら、生産作業の方も効率が上がりそうね」


「ああ。得意分野で上級生産を取得したら、またちょっと集中的にレベルを上げて、装備をグレードアップさせなきゃな。……聡一郎は何かあるのか?」


「うーむ。俺も得意分野を決めてからは、しばらく鍛錬しなければな。……ああ、それからまた全員で、なにか強敵に挑みたいとは思う」


「フフ、聡一郎らしいわね。得意分野を決めれば出来ることも増えるから、とりあえず、みんなレベルは上げなきゃいけないわね」


 それぞれやりたいところを出し合ったところで、弥生が当面全員で取り組むべきことを話す。


「うん、当面はお店とかクエストとかをやりつつレベル上げだね。あ、それから、ホーム設定したら島と管理者になった三体に、何か変化があるのかを確認しなきゃいけないね」


「はい。まずは拠点を整えましょう」「そね。足場を固めましょ」「オッケー。ついでに工房も設置しないとな」「うむ。承知した」





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