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ミリオンワールド!  作者: ユーリ・バリスキー
第四章 おもちゃ屋さん、はじめました!
48/177

#4―12a

ひじょ~に短いです。申し訳ありません。m(__)m

aとつけているのは、そのためです。


 ワールドエントランスのグループ用ログインルームには、専用の更衣室が備え付けられている。六人分のロッカーと簡易な洗面設備があるだけの、ぶっちゃけかなり狭いスペースで、着替えるのにもちょっと気を付けないとどこかにぶつかってしまいそうなほどだ。しかしそれでも専用というだけで、見知らぬ人が数多く利用している共用更衣室よりも、安心感という面で上回るので、これもグループ登録の特典といっていいだろう。


 スペースの都合上で男女別には用意できなかったため、細長い部屋の両端にドアを付けて、メンバー構成に合わせて間仕切りを設置することで対応している。仕切りは視線のみを遮る為の物であり、音は筒抜けなので、異性に聞かせられない秘密の話の類はちょっとできない。ちなみに洗面設備は一方の端に設置されていて、無論、そちら側が女子のスペースである。


「あ、そうだ、今朝届いてた運営からのメール見た~?」


 午前のログイン前、VRウェアに着替えながら弥生が他のメンバーに話しかける。ちょっと大きめの声なのは、男子側にも聞こえるようにしているのである。


「はい。開発と運営の方へのQ&Aイベントをする……ということでしたね」


「俺も見た。体感時間を伸ばす、特別セッションの第一回を使用してやるらしいな。質問したいことがあったら、マイページから事前受け付けできるってことだが……なんかあるか?」


 壁の向こう側から悠司も答えた。その横では「む?」と呟いた聡一郎が、荷物の中から自分のスマホ兼認証デバイスを取り出し、急いで着信メールを確認している。女子の側からは当然見えていないが、その様子を目撃している悠司は苦笑いしている。聡一郎はメールのチェックをまめに行うタイプではなく、付き合いの長い三人は確実に連絡を取りたければ通話をすることにしている。


「それってツッコミの類でもいいのかしら? だったら私たちには山ほどあるんだけどね(ニヤリ★)」


「あはは、確かにそうだよね~。……でも、多分それは採用されないだろうね」


「弥生さん、それはなぜでしょうか?」


 ゲーム慣れしている絵梨と悠司は頷いていた弥生の断言に、清歌が疑問を投げかけた。聡一郎もメールの詳細をチェックした後だったらならば、清歌と似た反応をしただろう。


「まあ、突っ込みたいのは山々なんだけどさ。……ネタって開発が仕掛けた単なるジョークで、プレイに直接影響するような不具合じゃないからね。むしろ、本当の意味でのネタバレになっちゃうかもだから」


「付け加えて言うなら、同時に所持アイテムの情報を晒すことにもなるから、プレイヤー情報保護の観点からも、公開はしないんじゃないかしら」


 弥生と絵梨の説明に、清歌はそういうものなのかと、取り敢えず納得しておくことにした。


 MMORPGにおいて、装備品やスキル構成などはまさに個人情報そのものである。ただすれ違っただけのキャラクターでも、ちょっと“調べる”だけで詳細な情報を知ることのできるタイプのゲームもあるが、そういったゲームのプレイヤーの中にさえ、極端に自分のキャラ情報を知られるのを嫌う者は少なからずいる。


 特に個人戦、それも所謂PKがシステム的に可能なゲームの場合は、個人情報の秘匿は、文字通りの死活問題になりかねない。ゲームによってはスキル構成や装備品の情報を尋ねること自体がマナー違反と、暗黙のルールになっていることさえあるのだ。<ミリオンワールド>でも双方が承諾すれば対人戦は可能なので、気を付けておくに越したことはないだろう。


 ゲーム経験値の低い清歌は、そういった能力を秘匿したいゲーマーの機微というものが、今一つ理解できなかったようだ。なにしろ彼女の得意分野である芸術アートというものは、そもそも自分を表現するものなのだ。


「まあ、特に不具合らしきものは今のところ見当たらないから、それはいいとして。特設会場を準備して、開発が自分のアバターでリアルタイムに回答するらしいが……俺らはどうする?」


 イベントのアナウンスメールには特設会場のイメージが添付されていて、それを見る限りでは、全体が半円の野外ステージという感じの会場だった。ステージには円卓が置かれていて、司会者と回答者たる開発と運営のスタッフがそこに着き、背景部分には質問内容やプレイ画像などを、適宜表示させるようだ。


 悠司の言うどうするとは、当日この会場に観客として参加するかということである。なんでも討論的なこともする予定があるらしく、客席からも発言ができるのだ。


「う~ん、私は発言なんてしないから、会場に行きたいとは思わない……かな。中継はいつでも表示させられるっていうから、それで十分だよ。あ、でも皆が会場に行きたいっていうなら付き合うよ?」


 弥生が清歌と絵梨に顔を向けて、ちょっと首を傾げて尋ねる。弥生はこのイベント情報を見た時、なんとな~く頭の中に、中継画像を大きく表示させながら露店の営業をしているイメージが浮かんでいたのである。


「そうですね……話の内容は気になりますけれど、討論に参加する気はありませんので、私も中継で十分です」


「私も同じく。討論はヒートアップすると面白いんだけどねぇ(ニヤリ★)。<ミリオンワールド>に関することで、極端に対立するような話題は今のところなさそうだし……会場に行くほどのことでもないわね」


「ふむ。俺も会場に行くほどの興味はないな。……まあ、そもそも俺は討論や議論は苦手、ということもあるのだが……」


「ははは、俺もあれこれ検証するのは好きだけど、ステージ上で誰かと議論するってのは……、ちょっと面倒そうだ」


「ん~……ってことは。私らは中継画像を見つつ、いつも通りに遊ぶってことで、オケ?」


「はい」「ええ。それでいいわ」「りょーかい、リーダー」「うむ。承知した」


 ――と、そんなこんなで、マーチトイボックス(弥生のおもちゃ箱)の方針は、中継で内容を確認するだけということになった。弥生の予感は、見事に現実のものとなるようである。


 今回のQ&Aイベントは、TVのニュースを分かりやすく解説するという類の番組、それもステージ上に素人が参加しているタイプのものに近い。しっかり運営されているMMORPGは、攻略や雑談の掲示板がとても活発なものだ。


 今回はたまたま、この五人には積極的に参加するような内容ではないのでスルーということになったが、イベントの企画そのものが的外れということではない。


 着替え終わった弥生が、ロッカーのドアをパタンと閉じてふと気づいたことを言う。


「そういえばさ~。ネタに遭遇する度に、“これを考えた開発の顔が見たい!”って思ってたんだけど……」


 弥生の言わんとするところを察し、四人はそれぞれ微妙な半笑いの表情になる。実際、口に出して言っていたこともあるが、それは決して「これを考えたのはどんなクリエイターなんだ」と思ってのことではなく、「親の顔が見たい」という言葉の親戚なのだ。言うまでもなく、実物を見たところで何がどうなるものでもない。


 横の二人の反応を見て、妙なことを言ってしまったと思った弥生は、慌てて軌道修正を図る。


「えっと……、まあとにかく私らは、イベントは見てるだけ~って感じで。さ! 今日は学校訪問だよ!」


「そね。<ミリオンワールド>の学校って外から見たことしかないから、何気に初エリアの開拓なのよね。首尾よく情報が手に入れば……クエストクリアが視野に入るわね」


 話を逸らした弥生に絵梨が乗っかる。イベントもそれはそれで楽しみとはいえ、彼女たちにとっては目下、クエストクリアの方がより重要なのであった。



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