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ミリオンワールド!  作者: ユーリ・バリスキー
第四章 おもちゃ屋さん、はじめました!
46/177

#4―10

すみません。今回、少々品の無い話が出てきます。

許容範囲内とは思いますが……



 光となって消えていく巨体を、立ちがった弥生がどこか呆然とした様子で見つめていると、清歌がその隣にふわりと降り立った。


「……弥生さん……」


「勝った……んだよね? 私たち」


「……はい。ちゃんと、勝ちましたよ」


「うん。……でも、犠牲も……大きかったよね。みんな……いなく……」


「弥生さん、それはっ…………そう、ですね。……けれど!」


「うん……うん、そうだよね。カタキは取ったよ、みんな」


 俯き肩を震わせる弥生に、清歌がそっと手を伸ばす。


「弥生さん……」「清歌……」


 ひしっ、と抱き合って哀しみを癒す二人。――に、ジトーーッとした三対の視線が突き刺さった。


「ちょっとそこのお二人さーん、雰囲気出してるところ悪いんだけどねぇ……」


「ったく……、勝手に殺さないではくれまいか?」


「うむ。それに、そもそも死んだところで、町に戻されるだけだろう」


 清歌と弥生が小芝居に興じているうちに、衝撃で吹っ飛ばされた三人が戻ってきていた。ちゃんと無事ではあるものの、上空に逃れていた二人と異なり、HPは九割がた消し飛び、外見にしても髪は乱れるわ埃まみれになるわのボロボロ状態だ。


 清歌と弥生はパッと離れて、ちょっとやり過ぎたかと照れ笑いを浮かべて三人を迎える。


「皆さん、お帰りなさい。かなりの衝撃だったようですね」


「おかえりー。……ってか、聡一郎はどうしたの? ずぶ濡れだよ」


「うむ。派手に吹っ飛ばされて湖に落ちた。……もっとも、怪我の功名で落下ダメージは少なかったようだが」


 確かに吹っ飛ばされて地面を転がった後衛二人と比べて、聡一郎のHPは若干多めに残っている。この後は町に戻るだけなので無意味なんじゃ、とは突っ込まないであげて欲しい。


「まぁー、あの衝撃波はヤバかった。ってか、その前の地震も凄かったな」


「そね。立ってられない揺れって、ああいう事なのねぇ。……まさか、あの重そうな巨体でジャンプ攻撃をしてくるなんて……迂闊だったわ」


 絵梨は戦闘指揮を担当する者として、パーティー壊滅の危機すらある、大きな攻撃を予測できなかったことがちょっと悔しかった。とは言っても、勝利した後の事なので、口調は明るい。


「うむ。なんにせよ、我々の勝利だ!」


 聡一郎の力強い宣言に、四人が頷く。リーダーの弥生が戦利品ドロップアイテムを確認すると、めでたくクエストに不可欠な素材をゲットできていた。


「よ~っし! クエストアイテムもゲットできてるよ!」


「おおー。今回は清歌さんを交えての初戦闘でもあったし、いろいろと得るものが多いな」


「そね。……フフ、弥生の必殺技もできたしね(ニヤリ★)」


 何やら不穏なことを言い出す絵梨に、弥生がギギギッと音が出そうな不自然な動きで振り返った。


「え、絵梨? 必殺技……って、もしかして……」


「そら、もちろん最後のアレだろ? 確かに弱点ってことを加味しても、えらくデカいダメージが出てるぞ。ログを見て驚いた」


 何を当たり前のことを、と答えたのは悠司だった。実のところ吹っ飛ばされている最中だった三人は、上空から降下して攻撃をしたのだろうと、推測はできているのだが、実際に何が起こったのかは見ていないのだ。


 あるいはちゃんと目撃していれば、凄まじい勢いの急降下に戦慄し、無体なことは言わなかった――かも、しれない。


「やめてよ~。あんなコワイ攻撃なんて、もう使いたくないんだから~」


 横方向にすっ飛んでいくブーストチャージですら、怖くて二の足を踏んでしまう攻撃なのだ。そもそも高いところから真下に落ちるという、それだけでも十分スリリングだというのに、さらに加速しながら突撃するのだ。正直に言えば、二度とやりたくないレベルである。


「……そういえば、私らはそのラストアタックを見ていないのよ……ね?(ニヤ★)」


「うむ。せっかくだから、今後の為に見ておきたい気もする……な?(ニヤ★)」


「ああ、ちょっと我らがリーダーの雄姿を見てみたいな!(ニヤ★)」


 なにやら真っ黒な笑みで目配せをしつつ、三人が弥生に決断を迫る。明らかに悪ノリしているだけなのだが、妙に真に迫っていて、弥生としてはたまったものではない。


 戦闘中は興奮状態で恐怖感も薄れていた上、事前に何も知らされていなかったことも、良い方向に働いていたのだろう。冷静になってしまった今では、よくもあんなおっかないことをしたものだと、思わず身震いしてしまうほどである。


「う……うわ~ん。清歌~、助けて~」


 一人では押し切られてしまいそうだと悟った弥生は、唯一味方になってくれそうな清歌に泣きついた。胸に飛び込んできた弥生を優しく抱きとめると、清歌はくすりと笑って頭をナデナデする。


「ふふっ、弥生さんったら。……皆さんも悪ノリはそのくらいで。自分で考えたことながら、確かに余りお勧めできない、危険な技ですから」


「……ふ~~ん、そういうことなら乱発するわけにはいかないわね(ニヤリ★)」


 台詞では同意しつつも、絵梨はなぜか再び黒い笑みを浮かべている。付き合いが長いだけあって、その表情は見えないというのに微妙なニュアンスを感じ取った弥生の肩が、ビクリと反応した。


「はい。……ですから、とっておきの奥の手、ということで(ニッコリ☆)」


「や、やっぱり!? も~、清歌まで悪乗りしないでよ~~」


 魔物の姿がなくなった平和そのものの湖畔に、弥生の微妙に情けない声と、四人の笑い声が響くのであった。




 パンツァーリザードという強敵に止めを刺したこの時の技は、弥生の願いとは裏腹に、主に巨大な魔物相手の切り札としてしばしば使用されることになる。


 後に“流星になった弥生ヤヨイ・バーティカルインパクト”という、悪ふざけとしか思えない名が付けられることになるのだが――それはまだ、誰も知らない未来の話である。







 難題であったパンツァーリザード討伐を達成したマーチトイボックス(弥生のおもちゃ箱)一行は、数値的にも精神的にも消耗していることもあり、スベラギへと直ちに帰還した。


 なお、<ミリオンワールド>においては、戦闘で消耗したHPなどの数値や状態異常などは、町に帰還しただけでは回復しない。HPとMPについては町に入れば自動回復が早くなるので、最大値がそれほど大きくない今の内なら、しばらく町で休んでいれば全快する。しかし、毒や病気、呪いなどの状態異常はしかるべき治療をしないと回復しないのである。


 一方で外の活動で汚れた外見については、町に入った時点で綺麗さっぱり元通りになる。町全体を囲む壁が常時結界魔法を張る装置になっていて、魔物を退けると同時に、通り抜けた人物を洗浄してくれる――という設定になっているのだ。


 余談だが、<ミリオンワールド>にはフルダイブVRだからこその、少々厄介で奇妙な状態異常がいくつかある。例えば、気になる音が聞こえ続ける耳鳴りや、口にしたものの味がランダムで変化する味覚異常、髪の毛が立ったり何かに触れるたびにバチッと来たりする静電気、いくら食べても回復しない空腹――などなど、鬱陶しくて仕方がないという癖の強いものである。ちなみにこういった状態異常の中で最悪なものが、周囲にとっても迷惑極まりない、悪臭である。




 蜜柑亭で祝杯を挙げた五人は、今日はもうクエストを続ける気力がなくなっていたので、そのままテーブルの一つを占領して絶賛駄弁りモードである。


 ちなみに清歌は毎度のことながら、ジルのリクエストに答えてピアノを演奏中だ。今も店の雰囲気に合った、ゆったりとした曲を演奏している。空気を壊すことなく、それでいてふとした瞬間に聞き入ってしまうような、絶妙な加減での演奏は見事としか言いようがない。


「え~っと、じゃあ残る難題は三体目の魔物を捕獲すること……だけだね」


 オレンジジュースのグラスをテーブルに置き、一息ついた弥生が改めて確認する。


「そね。……ま、難題っていうか、良く分からないって言う方が正しいわね。テスターの時もゴーレムの類って見たことないわよね?」


 テスター時代に絵梨とともにデータの収集や検証をしていた悠司が、頷いて説明を引き継いだ。


「俺の知る限りでは居なかった。ただ、パンツァーリザードもそうだけど、新しい魔物がかなり実装されてるみたいだから、どこかにゃいるんだろうな。……っつうかこのクエストは、受注したメンバーに合わせて難易度が設定されてるような気がするから、たぶんスベラギ近辺で見つかるんじゃないか……とは思う」


「あー……、やっぱりユージもそう考えてたのね」


「ん? どういうことなのだ?」


 恐らくあのポータル修復クエストは、クリア条件が受注したメンバーに合わせて変動するタイプだ。そもそもあの浮島は発見事態が困難で、その上清歌の様に思い切り良く飛び込むことなど、誰にでもできるわけではない。いずれ冒険者全体のレベルが上がり、探知系や移動系のスキルが充実してくれば発見されるだろうが、その時に今回と同じ難易度ではあっさりクリアできてしまうだろう。


 別にそれでいんじゃね? ――と思うかもしれないが、一つのマップを開放するという割と重大なクエストだというのに、何の手ごたえも無くあっさりクリアできてしまっては、少々有難みに欠けるというものだろう。


 実際、テストプレイ時には受注した時のレベルやパーティー構成によって、クリア条件が変動するタイプのクエストがあったのである。正式稼動版にもその類のクエストは、当然あると見るべきだ。少々タイプは異なるが、クエストに失敗するごとに難易度(と報酬のランク)が下がっていく、街中の突発クエストも方向性は似ていると言えよう。


「え~っと、つまり私らは、お得な条件でクリアできるってこと、なのかな?」


「お得……っつーか、たぶん最低ランクの難易度なんじゃないかね」


 弥生の疑問に、半笑いの悠司が答える。開発や運営に携わる立場に立って考えてみると、こうも想定外のことばかりされてしまうと、ゲームバランスについて悩ましいことになりそうだ、と思ってしまったのだ。


 なお、悠司が当事者の一人であるにもかかわらず他人事のように考えているのは、清歌がやらかしたアレコレに起因する恩恵は、開き直ってありがた~く頂戴することにしているからである。この辺については、弥生以下三名も同様だ。


「レベル制限のあるクエストではなかったようだが、ある程度の強さがないと、浮島に辿り着けんからな」


「そーねぇ…………山の方は時間さえかければ登頂は難しくないし、清歌とソーイチのやった方法スカイダイビングなら、特殊な移動手段は要らないから……。十五じゃちょっと厳しいけど、二十は要らないってところかしら? やっぱり私らが受注したのが、最低ランクと見るべきでしょうね」


 弥生はふむふむと頷きながらも、谷底ダイブなどという危険極まりない真似は普通できないんじゃ? とか、そもそも探知系スキルを使わず浮島を見つけられるのか? とか、いろいろ突っ込み所があると内心では思っていた。もっとも、そこを追及しても仕方がないので、いったん話を戻すことにする。


「ま~、そういうことなら魔法生物とやらも、割とあっさり見つかるかもね」


「……だといいんだがな。とにかくまずは清歌さんの提案に沿って、学校に情報収集に行くのがいいだろうな」


「あ、そのことなんだけどさ、学校にいきなり突撃して大丈夫? アポイント? とかって要らないのかな?」


 弥生の常識的な疑問に、はたと気づいて三人とも動きが停まってしまう。ガイダンスで言われたように、<ミリオンワールド>では常識的な行動が求められている。情報収集だからといってアポなしで学校に行っては、侵入者と見なされる可能性すらあるだろう。一般的RPGの様な、学校や民家どころか王城の、それも王様の私室にすら突撃したところで咎められない、という事の方がおかしいのだ。


「確かにアポは取った方がいいわよね。……って言っても、学校にコネねぇ」


「はい、お待たせ。ミニサンドイッチの盛り合わせと……こっちはオマケ」


 ――と、そこへジルが現れる。一口サイズのサンドイッチの盛り合わせは、甘くないおやつが食べたいときにちょうどいいメニューだ。オマケと言ってそれと一緒に置かれたのは、揚げたての皮付きのフライドポテトである。


「わ、ありがとうございます。ジルさん」


「ううん、いいのいいの。最近は、サヤカの演奏が聴けるかもって、顔を出してくれるお客さんもいるのよ」


 必ずしもいるとは限らない清歌の演奏を聴こうとするなら、自然と常連さんになってしまうということなのだろう。WIN‐WINの関係な様でなによりである。


「それより聞こえちゃったんだけど、あなたたち、冒険者やりながら学校に通うのかしら? 大変じゃない?」


「あ、いえ。そうではなくて、ちょっと探している魔物がいまして……。その情報収集ができないかなー……と」


 ただ今絶賛演奏中の彼女なら、そんなことも言うかもしれない。弥生はそんなことを思いつつ、学校には別の用事があるのだと説明する。


「ただ、どうやってアポイントを取ったものかと、悩んでいるところなんです」


「あら、そういう事なら、冒険者協会から話を通してもらえばいいんじゃない? 確か魔物の調査で、協会と学校が連携することもあったはずよ」


「あ! なるほど。……ありがとうございます。助かりました」


 ジルは「いいのいいの」と軽く返事をして、カウンターの中へと戻っていった。


 思いがけずあっさりと、しかも重要な情報が入手できた。――やはりNPCからの情報収集は、RPGの基本ということなのだろうか?


 もっとも現実的に考えると、魔物を研究しているの先生が高い戦闘能力を持っているとは限らない――というか、その可能性は低いだろう。とすると、魔物の捕獲や、フィールドワークの護衛などで、冒険者と関わりがあるだろうと想像できる。今回はたまたまジルから情報を得られたが、いずれ冒険者協会に頼んでみようという結論になったはずである。




「そういや、考えてみるとここんとこ露店のアレコレをやってたから、冒険者協会でクエストを受けてないな」


 サンドイッチをパクつきながら、ふと気づいたことを悠司が呟いた。


「うむ。町の外での活動にしても、例のクエスト関連に専念しているからな。確かに最近は、冒険者協会からは遠ざかっているかもしれん」


「もぎゅもぎゅ……。それでも別にいいんじゃないかな。私らは、ちゃ~んと楽しんでるんだし。あんま、冒険者らしくないかもだけどね」


 弥生が語ったように、確かにルーチンワークに陥りがちなレベリングの時期だというのに、マーチトイボックス(弥生のおもちゃ箱)はあれやこれやと変化に富んだ遊びをしている。そもそも露店の企画は悠司発案であることだし、そこに問題を感じているわけではない。


「や、俺もそこは別に構わないと思ってる。ただ、みみっちいことを言うようだが、もしパンツァーリザードの討伐依頼があったら、かなーり儲かったんじゃないかって思ってな」


 その指摘を聞いた瞬間、それぞれ伸ばしていた三人の手がピタリと止まる。


「……事後報告って、できないのかしら?」


「うーむ。やったことはないが、討伐履歴は記録ログがあるのだから……」


「交渉次第では可能……か!?」


「ま……まあ依頼があったらね。……それと交渉は穏便にね? 絶対、ゴネたりしないでよ。いい?」


 微妙にがめついことを考えている三人に、弥生はリーダーとして一応釘をさしておくことにする。彼女自身もどうせなら貰えるものは貰っておきたいな、と思っていたので、半分は自分への戒めである。


 ちなみに完璧なお嬢様スマイルを武器に、ナチュラルに押しが強い清歌はここに居ないのだが、彼女は金銭的な方面に関しては全くこだわりを見せないので、特に問題はないだろう。


「おけー、リーダー」「うむ。絵梨に任せた」「フフ。おんびんにねー、了解よ」


 曖昧な笑みで、テキトーな返事をする三人に、思わずため息を吐く弥生。


「はぁ、まったくもー……。あ、思い出した! パンツァーリザードって言えば、リベンジ戦の前に悠司がなんか言ってなかったっけ?」


「……ああ、確かに言っていたな。とっておきのネタがあるとかなんとか」


「マテ! そこまでは言ってないぞ」


 聡一郎が無意識に誇張してきたので、あわてて訂正をする悠司。あのまま忘れ去られてしまうなら封印するつもりのネタだったが、こうなっては晒すしかないだろう。


「あーら、私の記憶が確かなら、ヘヴィーなネタがあるんじゃなかったかしら? ともかく今なら問題ないでしょうし、さっさと話しなさいな。……あ、清歌が一休みするまで待った方がいいわね」


「……いや、どうせなら清歌さんがいない今の方がいいな」


 そう言って悠司は少し身を乗り出した。毎度おなじみの内緒話モードである。


「どうしたのだ。清歌嬢には聞かせられない話なのか?(ヒソヒソ)」


「まぁ、できればお嬢様には聞かせたくないネタではあるな(ヒソヒソ)」


 四人で顔を突き合わせてヒソヒソ話を始める四人。すぐ傍にいるため、グループメンバーを設定し直してチャットを飛ばすより、この方が早いのだ。


「ちょっと、それって清歌には話せないネタでも、私と弥生ならどうでもいいってことなの? 失礼しちゃうわねぇ」


「ヲイ、人聞きが悪いぞ。まあ、そこは悪いと思っちゃいるが、お前らだって、清歌さんに下品だったり、エロかったりするネタは話さんだろ?」


 性別というカテゴリーで言えば、弥生と絵梨に話せるネタなら、清歌に話しても問題ないはずで、絵梨の苦情はもっともである。が、今回は単なる性別という話ではなく、清歌の持つ良家のご令嬢という属性(・・)が問題なのだ。


 清歌自身はユーモアに関しての許容範囲が広く、また「エッチなのはいけないと思います!」などという潔癖な箱入りお嬢様というわけでもないので、多少品の無いネタであっても一緒に笑い飛ばしてくれるだろう。――なので、むしろこれは悠司たちの問題なのだ。清歌には、おバカなネタを言っているところを見られたくないという、ちょっとした見栄であり、同時にお嬢様にはそういうネタには触れて欲しくないという、ある種の幻想があるのだ。


「まぁ、清歌には……振らないよね、そういうネタ。それで? ずいぶん勿体つけたんだから、すんごいネタなんだよね~(ニヤリ★)」


「おま、だからハードルを上げないでくれ。そこまで大した話じゃないし、こういう場所でするのも憚られる話なんだが。ただ……初戦で、アレがずっと後ろを向いてたってことはだ。あのブレス(・・・)は何だったんだ? いや、もっと言えば、どこから出してたんだ?」


「「「…………え゛!?」」」


 ブレスというくらいなのだから、普通なら口から吐き出されるものだ。しかしパンツァーリザードの頭は、当初は尻尾だと思っていた部分で、ぶっちゃけ四人は初戦ではずっと尻と向き合って戦っていたのである。ということは――


「う……うむ、まあスカンクのような動物もいるし、イタチの…………(ごにょごにょ)とやらもあるのだから、それほどおかしくもない……のか?」


「ソーイチ、あれって確か、くs……強い香りのリキッドじゃなかったかしら。……じゃなくって、なにも無理に納得する必要ないんじゃない?」


 飲食店の中ということを考慮して、ところどころ妙に誤魔化して話す聡一郎と絵梨。悠司が言っていたように、尻から浴びせてくるブレスの話題など、この場に於いては少々不適切であろう。


「っていうかさ~、鱗のトゲから魔法が飛んでくるんだから、あの目みたいなところからビームでも良いんじゃないかなぁ」


「そらそうなんだが……、目と口があれば頭に見えるからじゃないか?」


「そね。……っていうか、考えようによっては雷属性だっただけ、まだましだったかもしれないわ」


 あえて詳細は言わなくとも、絵梨の言わんとすることは正確に伝わった。確かに雷属性というのは、炎や冷気などに比べてガスっぽさは殆どない。もしあのブレス攻撃が毒属性だった暁には、非常にいやぁ~な気分になったことだろう。ましてや、悪臭の状態異常にでもなった暁にはトラウマものだ。


 一通りツッコミを入れたところで顔を見合わせた四人は、示し合わせたかのように大きなため息を吐いた。


「いやー、スマン。なんか余計なことを言っちまったな……」


「いいえ、私が追及したのも悪かったわ。……っていうか、なんかちょっと腹が立ってきたわ。弱点を守るための擬態で、ずっと後ろ向きっていうのは百歩譲っていいとしても、レディーに向けてなんてモノを飛ばしてくるのかしら」


 実際にブレス攻撃を食らった弥生たちとしては、言いがかりのようなことを言い出す絵梨の気持ちも、分からなくもない。もっとも魔物が女性と男性で攻撃を使い分けてきたら、それはそれで突っ込み所になりそうだ。


「けーど、よくもまあ開発の方々は、次から次へとみょ~な魔物を思いつくもんだよな。傍から見てるだけなら、普通に感心してるとこだわ」


 話題を提供した者の責任としてこの辺で幕を引いた方が良かろうと、悠司がそんな感想で締めくくる。それは奇しくも、清歌が二体目の魔物を捕獲した森に対して抱いた感想と、ほぼ同じものだ。弥生たちも同感らしく、少々お疲れの様子で何度も頷いている。


 念のために開発陣、特に魔物に関するデザイナーのフォローをしておくと、全ての魔物にネタ的なものが仕込まれているわけではない。というか、一般的なRPGに出てくるような、ごくごく普通の魔物が殆どである。


 にもかかわらず、ジョストボアやマロンシープのような誰もが接する可能性が高いものだけでなく、ブランケットドラゴンやらパンツァーリザードやらという、強烈なネタの仕込まれた魔物に次々と遭遇することの方が異常なのだ。


 もし悠司の感想を開発側が聞いたなら、逆に「よくもまあ、特殊な魔物にばかり遭遇するものだ」と、お返しされることであろう。


「ただ今戻りました。……お疲れのご様子ですけれど、どうかされましたか?」


 演奏を一休みした清歌が戻ってきて、四人に声を掛ける。――なにやらつい先ほど、似たようなやり取りを町の外でしたような気がする。


「あ、おつかれー、清歌」


「フフ、こっちのことは気にしないでいいわ。ちょっとした気付き(・・・)があったのよ」


 果たしてアレを気付きと言っていいのだろうか――と、それに気づいてしまった張本人である悠司は、微妙な表情をしている。普通はプラスの事柄に使う気付きという言葉を、あえてここで使う辺り、絵梨もなかなかのセンスである。


 四人の間に漂う空気から何かがあったことを察した清歌は、その内容についてはサラッとスルーして席に着いた。


「あ、さっきジルさんから教えてもらったんだけど、学校へのアポイントは冒険者協会で取れるかも。だから後で行ってみよ?」


「承知しました。……上手くいけば、これでクリアの目途が立つかもしれませんね」


 後で忘れずにジルさんにはお礼を言わなくてはと心に留め、清歌はサンドイッチに手を伸ばす。


 何気ない仕種のはずなのに、なぜか清歌は上品に見えるな~などと、今はどうでもいいことを思いつつ、弥生はそろそろ考えておかなければならないことについて確認をする。


「あのさ、このクエストをクリアすれば確実に私ら全員、レベルが二十になると思うんだよね」


「だな。……これでようやく俺の亜空間工房が、日の目を見るわけだ」


 長い道のりだったと、悠司がしみじみと言う。気にしないようにと心がけてはいたが、せっかく苦労してゲットした報酬をなかなか使えないというのは、正直言ってストレスだったのだ。


「うん。ってか、それを使うためにもホームを手に入れなきゃならないでしょ? 希望があるなら、一応、考えておいてほしいな~ってね?」


「なるほどな、考えておこう。……それはいいのだが、一応というのはどういう意味なのだ?」


 聡一郎の疑問はもっともで、確かに弥生は妙に“一応”と強調していたような気がする。弥生は四人の視線を受け止めた上で、ゲーマーとしての勘を語った。


「あくまでも勘だから、話半分くらいで聞いて欲しいんだけどね。もしかすると、今のクエストをクリアしたら、連鎖的に次のクエスト……、あの浮島を私らのホームにするためのクエストが始まる……かもしれないよ?」




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