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ミリオンワールド!  作者: ユーリ・バリスキー
第二章 <ミリオンワールド>のはじまり
19/177

#2―09

「では購入した回復アイテムをそちらへ送りますね。……どうぞ」


「う~~~~ん。ありがたいんだけど、なんだか清歌のヒモになっちゃったみたいで気がひけるよ……」


 アイテム譲渡の手続きは完了したものの、どうにも釈然としない思いがあるらしく、弥生が情けなさそうな表情でぼやいている。清歌はそんな律儀な一面を見せる弥生の両手をそっと手に取った。


「弥生さん、そのお気持ちは嬉しいです。……けれど、それは違いますよ?」


「はぅ……さやか…………(な、なんだろ? どきどきする……かも)」


「これから一緒に冒険する時に、どうしても私は弥生さんたちの力を頼らなくてはなりません。ですからせめて皆さんのバックアップできないかと思って、街中で稼ぐ手段を考えた結果です。……ですから、このアイテムは心置きなく使って頂いた方が、私も嬉しいです」


「さ、さやか……」「弥生さん……」


 手を取って見つめあう美少女二人の姿は美しかった。実に美しい友情(……本当に友情か?)の光景かもしれないのだが、少なくとも街中の、<冒険者>の行き交うアイテムショップの前でするようなことではないだろう。清歌と一緒に行動することで、人目を気にするのを無意識の内に止めてしまった弊害かもしれない。


「(ニヤリ★)でも、清歌ぁ~? 単にストリートパフォーマンスをってみたかっただけ……なんじゃないの?」


「もちろん、それも否定はしませんよ?(ニヤリ★)」


「ちょ、清歌までニヤリって!? 私の感動を返してぇ~~~」


 友情の一コマをぶち壊すような身も蓋もないやり取りに、弥生は思わず清歌の肩に両手を置いて揺さぶってしまうのであった。


 手持ち無沙汰の男子二人は、今回も背景扱いのようである。……合掌。




 前回のセッションは――


 紹介状を手にした清歌は、楽器工房で全財産のほとんどをつぎ込んでギターを購入。詰め所でサッサと手続きをした後、気に入った楽器を入手して高揚した気分のまま、中央広場での弾き語りライブを敢行した。


 一方その頃、弥生たち戦闘チームはレベルを上げて念願の冒険者協会への登録を果たす。早速、採取クエストをこなし、今まで集めた素材を用いて生産活動を始め、更に討伐クエストもクリアした。


 順調に思えた弥生たちの冒険者協会での活動だったが、清歌のライブで得られた“おひねり”の総額には及ばず、彼女たちは世の無情を感じるのだった……


 ――TVアニメの冒頭ナレーション風に語るなら、こんな感じになるだろう。




 既にお気づきのことと思うが、清歌の考えていたこととは、楽器を手に入れてストリートパフォーマンスをすることだった。一応おひねりを稼ぐという副次的な目的もあったのだが、本質的には所謂“大道芸”と呼ばれるものを、ただ(・・)やってみたかっただけである。


 実力という意味では、はっきり言って大道芸というレベルには到底収まらない清歌だが、なにしろ黛家は広く世間に知られている名家だ。生まれてから今に至るまで“黛のお嬢様”として育てられてきた清歌は、どんなに自由に振る舞っているように見えても、根っこの部分では黛家を蔑ろにすることは決してできない。それは、単に教育の賜物というだけでなく、そうしたくないという清歌自身の感情でもある。


 そんな安全装置が(かろうじて)機能している清歌としては、ちょっと変装して路上パフォーマンスで小遣い稼ぎなど、とてもじゃないができな――「先ほどから聞いていますが、ずいぶんな言われようではありませんか?」――いえいえいえ。清歌お嬢様は黛家を大事にしている、と説明しただけでございますです……よ――「ほほ~。まぁ、それは事実ですけれど……ねぇ(ニッコリ★)」――ブルル。……おや、なんだか寒気が……


 そういったどうにもならない事情から不可能だったストリートパフォーマンスでも、<ミリオンワールド>内であればその役を演じること(ロールプレイ)も可能だ。自らの欲求に忠実な清歌が、このチャンスを見逃すはずはない。


 欲望と実利、一石二鳥の中央広場ライブは大盛況で、弥生たちが冒険者協会での依頼をせっせとこなした稼ぎを大きく上回ってしまったのは、なんとも世知辛い現実であった。




「ま、素材を売らなくても軍資金が得られるんだから、そこは素直に喜んでもいいんじゃない? ちょっと情けないって気持ちも分かるけどね」


「うむ。……だが、それを言っては俺も戦闘(バトル)専門で、生産には手を出せる気がしない。武器防具の補修や製作、ポーション類の調達は任せっきり、ということだ」


「あ~、そういうことなら俺だって、戦闘では攻撃役ダメージディーラーにはなれないからなぁ。……開き直りは承知の上で言うんだが、弥生ファミリーは財布を共有してるって感じでいいんじゃないか?」


「そうですね。弥生ファミリーというグループで活動しているのですから、直接的に誰がお金を稼いだのかを追及する意味はないと思います」


 ゲーム的にはかなりイレギュラーな手法とはいえ、現状では時給換算で最も稼いでいる清歌が納得しているのだから、ここで無理に追及する必要はないだろう。実際、適材適所で分業しているのだと考えれば非常に効率的なのだ。こういった場合に唯一問題となるのは、分業の内容に当人が納得するかどうかなのだが、その点弥生ファミリーは何も心配いらないようだ。


「う~ん、みんなが納得してるならいいんだけど。……っていうか、グループ名って“弥生ファミリー”に決まりなの? そこは、断固抗議するよ!」


 <冒険者>グループとして登録し、<ミリオンワールド>内での活動も同じメンバーで行動しているのだから、いずれ冒険者協会にもユーザーズギルドとして登録することになるだろう。弥生の言うグループ名とは、その登録名のことを指している。


「フフフ(ニヤリ★)……ま、似た感じの名前になりそうな予感もするけど、それは宿題ってことにしときましょ。で、今回はどんな予定?」


「も~。みんなお願いだから、真面目に考えてよね? え~と、それはともかく予定か……」


「ああ、ちょっと待ってくれ。俺は今回、生産の方をガッツリレベル上げしようと思ってるんだ。素材は十分以上貯まってるし、頑張れば武器をちょい強化するくらいはできるようになるだろ」


 予定をどうしようかと相談を始める前に、悠司が自分のやりたいことを話した。以前チラリと漏らしていたように、レベル10に到達すると生産系のレベリングがスムーズにできるようになるのだ。それは生産アーツとスタミナ回復速度上昇のタレントを習得することに加え、冒険者協会で受けられる生産品の納品クエストからもボーナスを得られるからである。


 幸いなことに前衛戦闘組の消耗品代くらいは、十分賄える程度の余裕が今ならある。清歌のライブ収益はおひねりという確実性のないものゆえに、どこまで当てにしていいものか微妙ではあるものの、それを除外してもこれまでは単に戦利品を売るだけだったところに冒険者協会のクエスト報酬が上乗せになったのが結構大きいのだ。


「……そういうことなら私も、生産レベリングに一旦注力しようかしら。弥生とソーイチは当面、討伐系クエストをメインに据えていくんでしょ?」


「うん、そだね。資金にある程度まとまった余裕ができたら、使えそうなスキルを買っておきたいな~って思うんだけど……」


 ここで弥生の言うスキルというのは、<アーツ>や<タレント>を含む能力全般のことを指している。


「そのへんは、弥生の判断でいいんじゃないか。前衛が安定してくれるとこっちも助かる。ああ、聡一郎もだからな?」


「うむ。了解した」


 どうやらおおよその方針は固まったようだ。次の目標はレベル20であり、ここから先はそうサクサク上げられるものではなくなる。焦ってレベリングにばかり集中しては飽きてしまうし、なにより作業をしているようで楽しくない。効率ばかり追求するのではなくしっかり遊ぶことがモットーの弥生ファミリーとしては、ここらで脇道も開拓しておきたいところだ。――最初っから脇道を驀進ばくしんしている者が約一名いることについては、何卒突っ込まない方向で。


「清歌の方は? 今日も路上ライブをするの?」


「ええ。それからジルさんに、またピアノを弾きに来て欲しいと仰って頂けましたので、余裕があればあちらにも行こうかと」


「な~んか清歌ってば、すっかり馴染んじゃってるよね」


「ふふ。……あ、ですがまた街歩きもしてみるつもりです」


「へ? そりゃまたどうして……」


「どうしてって、弥生さん。私は今、一応クエスト待ちの身なのですけれど……」


「あ、突発クエスト!」「そういえば……」「うむ、そんな話も」「あった……なぁ」


 清歌の突っ込みに、そもそもなぜ彼女が一人で町に残っていたのかを思い出す四人。予想外の方向でバックアップ戦力になってしまったために、当初の予定――というか目論見が頭からすっぽり抜け落ちてしまっていたようだ。まぁ、当の清歌自身が“一応”と言ってしまっているので、四人の反応はある意味妥当なものかもしれない。


「ま……まぁ、清歌がモフモフへの道を忘れてないようで良かった……ってことでどうかしら?」


「ふふっ。もちろん、私は忘れていませんよ~。かわいい魔物モフモフを手に入れて見せます!」


「わはは。……じゃ、それぞれ行動開始だね! 予定が合ったら合流して……は、いつも通りで」


「は~い」「オッケー、いつも通りに」「了解。今日は鍛冶だ!」「うむ。俺は弥生と討伐だな」


 弥生と聡一郎は討伐クエストを受注しに冒険者協会(の出張所)がある南門へ、悠司と絵梨はレンタル作業所のある東大通りのポータルへと転移する。それを見送った清歌は、街歩きを兼ねて中央広場へと歩き出した。







 メインストリートの全長から換算すると、中央広場まであと四分の一ほどまで来たとところ。清歌が背後から走り寄ってくる気配を感じて人一人分横にずれると、その直後に冒険者風の男がすれ違って行った。その瞬間、右手にギラリと光る大ぶりのナイフが握られているのが視界に入り、思わず目を眇めた。


「誰かそいつを捕まえてくれ! 盗人だ!!」


 誰かの叫び声が聞こえるが早いか清歌は腕を伸ばすもののわずかに遅く、男の背負い袋に指先がかするだけだった。捕らえ損ねたという認識と同時に、清歌は弾かれたように走り出した。


 ナイフを振りかざす男に正面から立ち向かえる者はそうはいない。メインストリートに集まっているスベラギの住人たちは、悲鳴を上げて男を避けるだけだ。清歌はそんな混乱する人ごみの隙間に、体を滑り込ませるように駆け抜けて男を猛追する。


 念のために補足すると、清歌は現実リアルでは決してこのような真似はしない。同様の現場に遭遇したとしても、普通に警察に通報するのみだ。


 清歌の修める黛流の護身術は、中身は制圧用の格闘術なのに外聞の悪さから護身術と呼んでいる――という言葉遊び的なものではなく、本当の意味で身を守るための技術だ。自身の安全を最優先に考えられているその思想は、争いを可能な限り避けることを基本的なスタンスとしている。ゆえに、まずどんな状況下でも逃げ切ることができるように体を鍛え、その上で格闘技術を学び、身の回りにあるものを武器として利用する術も身に着けるのだ。


 そんな思想と技術が既に自分の一部になっている清歌が、自ら危険に飛び込むような真似をすることはあり得ないのだ。


 しかし今回は<ミリオンワールド>という仮想世界の中で、本当の意味での危険は存在しない。なにより、清歌は「盗人だ!」という町人の叫び声を聞いた瞬間、これが突発クエストであることを直感したのだ。


(これは間違いなく突発クエストのはず、だと思うのですけれど。……少々難易度が高すぎるような気がしますね……)


 長い黒髪と襷を翻し、混乱が続くメインストリートを駆け抜けながら、清歌は内心でそんな疑問を抱く。実際、犯人の方は勝手に道が開けているのに対し、追跡側は人ごみを避けていかねばならないというハンデを背負っている。清歌の卓越した身のこなしと、人の動きを先読みする目の良さがなければ、とてもじゃないが不可能である。


 少しずつ距離を詰めてきたところで、さらなる試練が襲い掛かる。犯人が交差点を抜けた後で横から馬車が侵入してきたのだ。しかも暢気に人が歩くような速度で、である。このクエストの設計を担当した開発はよほど性格が悪いと見える。もはやクリアさせる気が、端から無いようにすら思えるレベルだ。


(なるほど、そう来ましたか……。そちらがその気なら、私も本気で征きます!)


 どこまで行っても根はお嬢様である清歌は、舌打ちなどという下品な真似は絶対にしない。だが、底意地の悪すぎるこの展開は、何かに火をつけてしまったようだ。


 清歌は首元から襷を引っ張り頭を通すと、するりと上着を脱ぎ捨てた。


「“上衣”、“収納”……すみません! ちょっと失礼します!」


 一応断りの声を出すものの、そもそも返事など期待してはいない。清歌は道路脇に積み上げられていた木箱などの荷物を駆け上がり、建物の庇に一旦飛び移ると、そこからさらに馬車の幌屋根へと大きくジャンプした。


「おお~!!」「きゃ~~~!!」


 混乱していたはずの町人たちが一瞬にしてギャラリーと化し、驚きの声やなぜか黄色い悲鳴などが巻き起こる。


 当の清歌にそんなことを気にしている暇はなく、幌屋根をトランポリン代わりにさらに続けてジャンプし、交差点の向こう側に連なっている割と丈夫そうな屋台の屋根の上に着地した。そしてそのままターゲットを横目に確認しつつ、屋根の上を走りだし追跡を続行する。


「ウォ~~! すげぇ!!」「お嬢ちゃん頑張れ!!」「きゃ~、素敵ぃ~~!!」


 さらに大きな歓声が上がり、応援の声もかけられる。客観的に見れば結構はた迷惑な追跡劇だと思われるが、受け入れられているのならば良しとするべきだろう。もっとも半ば見世物と化してしまったためか、それとも単に仕様なのか、誰も男を静止しないところにはツッコミを入れたいところである。――謎の黄色い悲鳴については、あえて気しない方がいいかもしれない。


 男を少し追い抜いた辺りで、ちょうど屋台の並びが途切れる。清歌はここで勝負を仕掛けることにした。


「“右手”、“武器装備”」


 清歌の右手に、ようやく本当の意味での出番(今やったような抜き打ちの練習はしていたのだ)となった武器――の、ようなものが現れる。右手に現れたそれは、一見すると登山用のピッケルに似たシルエットをしているが、全体的に妙にメカニカルなデザインで、持ち手の部分など光剣カテゴリーの物にそっくりだ。


 清歌は“武器っぽい何か”をくるりと持ち替えて、つるはし状になった方を手元に持ってきた。


「止まりなさい!!」


 声で注意を引きつつ武器を振り抜くと、柄頭(あるいは石突)に当たる部分がワイヤーを伴って飛び出し、男の足元に着弾して弾んだ。――ムチにしてもそうなのだが、彼女はいったいどこでこんな技術を身に着けているのだろうか?


 追及しては拙そうな類の疑問はともかく、ワイヤーを引き戻しつつ清歌は屋台の屋根から飛び出して危なげなく着地すると、たたらを踏んで立ち止まっていた男に向けて武器を突き付けた。その距離、およそ三メートル。


「ここまでです。観念してお縄に付きなさい!」


 時代がかった台詞と衣装の組み合わせは、武器が十手ならばぴったりだ。なのに手に持っているのは、近未来臭漂うピッケルもどき――どうにもミスマッチで緊張感をそぐ光景だ。


「ちっ! 俺の悪運もここまでか。……なんて言うと思ったか!」


 きっちりお約束のセリフを吐いた男は、やおら背負い袋を清歌に向かって投げつけた!


(思ってなどいませんが……これは囮ですね!)


 ポイッと武器を投げ捨てて背負い袋をキャッチした清歌は、間髪入れずにそれを真上に高く放り投げた。


「なに!?」


 驚愕の声を上げるも、勢いが止まらず男はナイフを構えて突進して来る。清歌はあくまで冷静に、男を躱しつつ手刀でナイフを叩き落とし、さらに足を引っかけて態勢を崩したところで、背中にひじ打ちを叩き込んだ。


「ぐあぁ! ぶべしゅ!」


 何とも情けない声を上げて地べたに突っ伏した男を踏みつけて完全に沈黙させると同時に、落ちてきた背負い袋が手元にすっぽりと収まる。清歌の完全勝利である。


「ウォ~!!」「すげぇな嬢ちゃん」「こんなに綺麗で強いなんて……ぜひお名前を……」「あんたやるなぁ、警備は呼んどいたぜ!」「お姉さま、って呼んでもいいですか?」


 美しい少女が盗人を完膚なきまでに叩きのめす。そんな映画の撮影であるかのような光景は、見物人を大いに沸かせ、清歌は警備隊が駆け付けるまでのしばらくの間、取り囲まれて動けなくなるのであった。


 あくまでも余談だが――開発の設定した十代女性NPCのAIについては、一度厳しく問い詰めた方がいいかもしれない。そんな事実が図らずも発覚したのであった。







 さて、とんでもない難易度だった突発クエストらしきものは無事クリアできた――はずなのだが、果たしてクリア報酬とはどうやって受け取るものなのだろうか?


 事情聴取のために警備隊の詰め所についてきた清歌は、警備隊員の質問に答えつつそんなことを考えていた。


 例えば冒険者協会のクエストであれば、おそらく達成報告をすると報酬を受け取れるのだろう。それ以外のクエストでも、依頼者と達成目的がはっきりしていれば特に問題はない。依頼者から報酬が貰えるか、場合によってはクエストを達成すると同時に何かを得られるという形に収まるはずだ。しかし今回の場合は依頼されたわけでもなく、事実としては街中の犯罪者を捕まえるという本来警備隊のなすべき仕事に、自主的な協力をしただけなのだ。――ぶっちゃけ、警備隊から感謝状など貰ったところで嬉しくとも何ともない。


「いや~、本当に助かりました。奴はかなりの悪党でして、賞金首でもあるんです。なので賞金が出ますよ。しかも獲物を生け捕りですから、報奨金も上乗せでかなりの額が!」


 どうやら少なくとも賞金という形での報酬は貰えるらしい。しかし、清歌の欲しいものはお金ではなく魔物モフモフなのだ。


「はあ、それはありがとうございます。……あ、そう言えば盗人だと声を上げた方がいらっしゃいましたけれど、ちゃんと盗まれたものは返却されたのでしょうか?」


 賞金などいらないかのような態度が出てしまってはちょっと感じが悪いので、清歌は話を逸らしてみた。


「はい? (報告書をパラパラとめくって)ああ、その人は以前別の場所で被害を受けていて、その時に人相を覚えていたそうです。それで声を上げたと。その時に盗まれたものは、もう既に売り払われてしまっているので……残念ながらそちらはもはや打つ手がありません」


「そうだったのですか……あら? ではあの背負い袋には何が入っていたのでしょうか? かなりの重さがありましたけれど?」


「あ~~~~。あれはちょっと厄介なものが入っていまして。……中身は魔物の卵だったんですよ。まぁ、世の中には物好きがいるということですかねぇ」


 これだ! と清歌は心の中でガッツポーズをする。しかし、そこはお嬢様スキルがカンストしている彼女のこと、表面的には全く表情を変えることなくさらなる情報を聞き出す。


「魔物の卵……ですか? 確かに厄介そうですけれど、どう処理をするのでしょうか?」


「あれは奴が闇商人から買い叩いた物とかで、その闇商人自体はすでに死んでいます。なので元の場所に……というのもできないので、後顧の憂いを断つためにも処分することになると思いますよ」


 必要な言質は取れた。――後は押すのみ、である。


「なるほど……。ところで、彼は賞金首だったのですよね?」


「はい? ええ、その通りです」


「賞金首は獲物と同じ。でしたら戦利品は捕縛した者に権利がありますよね?」


「え……ええ、そ、そそそれが……何、か?」


 特に何もないはずなのに、忍び寄ってくるいやぁ~な予感に警備隊の言葉が急に不安定になる。冷や汗をかいて目も泳いでいるその様子は、若干気の毒な気もする。


「ということは、その魔物の卵は私が頂いても問題ありませんね?(ニッコリ★)」


「え!? えぇ~~~~~!! いや、だだ、だって魔物の卵ですよ!? 危険な魔物が生まれるかもしれないんですよ!?」


「その点はご心配なく。私はこれでも冒険者で、魔物使いを目指す身ですから(ニッコリ★)」


「いや、でも、しかし、だとしても……ですね?」


「あら、私が捕らえた賞金首ですよ? 戦利品を頂けないのでしょうか?」


 笑顔で小首を傾げる清歌は文句のつけようもない可愛らしさだが、対峙している警備隊員はまさしく蛇に睨まれた蛙のようだ。ビジュアルのギャップが凄まじいことになっている。


 結局清歌の要求を断るだけの根拠が見当たらず、警備隊員は諦めて肩を落とした。


「分かりました。賞金と一緒にお渡ししますので、この後で手続きをしてください。……あの、本当に気を付けてくださいね」


「はい。お気遣い、ありがとうございます(ニッコリ☆)」


 心配してくれている警備隊員に綺麗なお辞儀をして、清歌は満面の笑顔を見せた。


 これにてようやく本当の意味で、突発クエストを達成できたようである。




この突発クエストの追跡劇は、とあるアニメーションの第一話のパク……オマージュ、あるいはリスペクトです。

お気づきの方がいらっしゃったら、ニヤリと笑って頂けると嬉しいです。

なお、ラストがどことなく攻撃で自由な〇ンダ〇に似ているような気がするのは、単なる偶然ですw

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