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#12―07




 お花見イベント五日目。いつものようにログインしたマーチトイボックス(弥生のおもちゃ箱)は、とある無人島の一つに降り立っていた。


 早めに中央島に向かうという基本方針に変わりはない。ただ、別に全員揃って乗船している必要は無いので、中央島に向かうルート上にある無人島に立ち寄ろうということになったのだ。折角作った船なのだから、そのメリットは活かすべきであろう。


 という訳でログアウト中に進路上の無人島傍までクジラ船を進めておき、ログインしたらすぐに飛夏のリムジンに乗り換えて出発、島に到着したという訳である。


「無人島、ねぇ……」「うーむ……」


 砂浜にて、男性陣二名が腕を組んで怪訝そうに無人島を見上げる。


 この島は定期便が通っておらず、また海岸も手付かずの砂浜に岩場で港はどこにも見当たらない。間違いなく無人島――のはずである。


「う~ん、簡単に攻略できそうな無人島だね~」


「そね。凛ちゃんと千代ちゃんのレベリングにちょうど良さそうだったんだけど、ちょっと物足りない無人島かもしれないわね」


「そうですね。それなりに高さはありますけれど、登り易そうな無人島です」


 やたらと無人島を強調して暢気に語り合う三人に、悠司と聡一郎がジトッとした視線を向け、年少組も何やらツッコミを入れたそうな表情をしている。


「オマエラ……」


「どうかした?」「なにかしら?」「なんでしょうか?」


 額に手を当てた悠司が声を掛けると、三人はくるりと悠司たちの方を向き、同じ角度に首を傾けキョトンとした表情で返した。――打ち合わせ無しで出来るようになったそれは洗練され、既にある種の芸の域に達している。まあ、凄い(・・)かどうかと問われると少々疑問ではあるが。


 相変わらず息がピッタリの三人に悠司が大きく溜息を吐いた。


「いや、まあ……地図の情報から無人島なんだろうし、実際人が居なくなってからかなりの時間が経ってるって設定なんだろうが、なあ?」


「うむ。まず間違いなく人の手が入っているな、この島には」


 悠司と聡一郎の言葉に年少組がウンウンと頷く。その点については清歌たちも異存は無く、三人はこれまたほとんど同じ仕草でひょいと肩を竦めた。


 さて、マーチトイボックスが降り立った無人島は、狭い浜辺からいきなり山になっている小さな島で、サイズは全体マップでみたところスタート地点の島よりも一回り小さい。人が居るような気配は無く、また建物の類はその痕跡も含めて見当たらない。


 しかし山の形が妙だった。砂浜から坂が伸びており、ぐるっと螺旋を描くようにして頂上まで続いているのだ。ソフトクリームのようなというか、ロボットアニメのドリルのようなというか、とにかくそんな形状である。沢山の木々に覆われているのでそこまであからさまではないが、よく見れば螺旋状に段差があるのがちゃんと分る。


 さらに上陸前にリムジンで上空から観察したところ、平らになっている頂上には何やら石造りの遺跡らしきものが木々の隙間から見え隠れしていた。


「そね。あと付け加えるなら、何かの施設を置いていただけって感じね。だから今も昔も無人島には変わりないわよ、たぶん」


「ふむふむ。まあなんにしても、私たちがやることは変わらないよ。ってわけで、採取と狩りをしつつ頂上を目指そう! 問題はメンバーなんだけど……」


 言いつつ弥生がメンバーを見渡す。レベリングの関係で年少組二人の参加は決定している。残る五人のうち誰が同行し、誰が船に戻るかなのだが――


「船の方は私が残りますので、大丈夫ですよ?」


 そう清歌が申し出る。基本的にマーチトイボックスで別行動をするメンバーといえば清歌なのだが、今回は少々事情が異なる。


 清歌が普段ホイホイと単独で出歩いているのは、アクティブな魔物にも襲われないという飛夏の能力によるところが大きい。ただ船に乗っている今回の場合、果たしてその能力が発揮されるのか、イマイチよく分からないのだ。なので、オネェさんらが遭遇したホウダイザメのような魔物に遭遇する可能性を考えると、清歌一人が船で先行するというのは少々危険である。


 またこの無人島の推奨レベルは、年少組にはきついが年長組には余裕という感じだ。なのでレベリングの観点からも清歌を除いた四人全員が付いていく必要は無い。というか入手経験値の配分を考えると一~二人の方が良い。


 そんな諸々の事情を考慮した結果、探索は聡一郎、絵梨、凛、千代の四名。船に戻るのは、弥生、清歌、悠司の三名となった。組分けは海中散歩の時と同じである。







 探索組と別れた三人はクジラ船へ転移で戻ると、中央島に向けての航海を再開した。


 基本的に暇なこの時間を利用して弥生は掲示板の情報チェックをし、悠司は釣り糸を垂れ、清歌はコミックエフェクトの新作を作ったり双眼鏡を覗いたり一人でダイビングをしたりといろいろ楽しんでいる。


 さて、四日目の前半にはまったく釣果の無かった釣りは、そこそこ成果が出るようになってきている。


 コツが掴めて魚が釣れるようになれば結構面白いもので、悠司と聡一郎はクジラ船に乗っている間は殆ど釣り糸を垂れている。清歌たち女性陣も何度か釣りをしているが、そこまでハマる者はいなかった。なお釣れた魚は収納すると食材と素材に自動的に解体される便利仕様なので、魚がさばけなくて料理できないということは無い。まあマーチトイボックスの場合は、よほどの大物でもない限り弥生がちゃんとさばけるので、あまり関係ない話である。


 それはさておき、<ミリオンワールド>の――というかこのイベントでの――釣りのシステムは、どうやら海域によって魚のいる深さが違うという設定で、適切な長さまでラインを伸ばさなければ釣れないということが試行錯誤の結果判明している。なのでまずは魚の居る深さを調べる必要があり、一度でも魚が食いつけば、その深さで暫くは釣りを楽しむことができるのである。


 ちなみに一応深さを調べるための目安があり、浅い場合は全く反応が無く、逆に深すぎる場合は妙なものを吊り上げるのだ。例えば――


「おっ、来たっ! よーし……って、この手ごたえは……」


 ピクリというウキの反応に合わせて釣竿を握りリールを巻き上げるも、抵抗はあるが動きがないその手ごたえに悠司が舌打ちをする。


 果たして釣り上げたものは、両手にちょうど収まるくらいの大きさで、やや緑がかった黒いモジャモジャした謎物体だった。海水を滴らせる様子は、ぶっちゃけかなり気色悪い。悠司は「うへぇ」という表情をしつつ念のため調べてみると、謎物体はウミマリモという海藻の一種で、素材(食材)として利用できるらしい。――これを食べたいと思うかは別問題として。


 ――とまあこんな感じで、魚以外の何かが釣れるのである。


「うわっ、ナニソレ、きもちわるい~。ヘンなもの釣らないでよ、悠司」


「なんと言いますか……、ずぶ濡れになったかつらのようですね」


 何が釣れたのかと見物に来た弥生と清歌が、ウミマリモを見た瞬間一歩後退った。ずぶ濡れの鬘とは言い得て妙だが、わざわざ見に来ておいて汚物を見るような視線を向けるのはいかがなものかと、悠司は内心で突っ込んだ。


「まあ確かにキモい見た目なんだが、一応海藻で食材になるらしいぞ?」


「え゛っ!? 食べるの、それ? あ~、まあ短く刻めばモズクみたいになる……かなぁ~?」


 弥生が恐る恐るウミマリモに顔を寄せて観察する。食材の中には調理前にはかなりアレな見た目なものもあるので、これもそう言った類のものと思えば大丈夫――にはちょっと思えないくらいに気持ち悪い。


 弥生が思うに、恐らくサイズが良くないのだ。もっと小さくて手に乗る程度の大きさならば、普通に海藻やキノコ類に見えるのではなかろうか?


「……ま、まあ、見た目はこんなだが一応素材らしいからしまっておくか……」


「なんか結局使わず仕舞いになりそうな気がしない?」


「言うな。……まあ、使い道が無かったら、イベントが終わった後で売っちまえばいいだろ。そういう意味では正真正銘のガラクタを吊り上げるよりはましだな」


「あ~……、あはは、確かに」


 外れの深さから吊り上げられる妙なものの中には、空き缶や長靴、底の抜けたバケツ、鉄パイプといったものもある。これらは玩具アイテムですらない完全なガラクタで、吊り上げるとアイテムの解説とともに“処分”というボタンが表示され、ボタンを押すか一定時間が経過すると光の粒となって消えてしまうのだ。


 妙な見た目であっても素材として使える海藻は当りと言っていい部類だろう。


「そう言えば……、空き缶や長靴には何か意味があるのでしょうか? 外れのアイテムにしても、もっとそれらしいものはあると思いますけれど……」


 例えば貝殻や難破船のパーツなど、同じガラクタでももっと海に関連している物はあるはずだ。清歌のもっともな疑問に、弥生と悠司は困ったような表情を浮かべた。


「あ~、それはなんていうか、釣りに失敗した時のお約束というか……ね?」


「普通に考えれば、岩に引っ掛けたっつー可能性が一番高いのは分かるんだが……なあ?」


「……はい?」


 二人の今一つはっきりしない説明に清歌が首を傾げる。こういったお約束に関しては、日本の漫画・ゲーム文化に長年触れていなければ分からない感覚だろう。


 大物がヒットした、と引き上げてみたら長靴だった。空き缶などのガラクタばかり引っ掛ける主人公の横で、友達が次々と魚を釣り上げる。これぞ正に釣りのお約束である。ちなみに他の漫画的な釣り描写としては、針を飛ばし過ぎて湖の対岸の釣り人を引っ掛けたり、あまりにも速く振って竿の先端が音速を超えたりという変化球もある。


 変化球は置いておくとして、こういった定番ネタはゲームの中でも見られるものなので、弥生などからすれば空き缶が釣れるのはむしろ普通の範囲内だ。


 意味はあるのかと問われれば無いのだが、釣り上げた瞬間に「これはハズレだ」と分かる記号としては役に立っていると言えよう。ただ清歌のようにお約束を知らない者にとって意味不明だったのは、開発にとっても盲点だったのだろう。


「ま、なんにしてもこの海域のアタリの深さはこれで大体掴めた。本当の戦いはこれからだっ! そいやっ!」


 餌を付け直した悠司が勢いよく釣竿を振る。釣りにもだいぶ慣れてきたようで、狙った場所にポチャリと落ちる。


「あのさ悠司、その台詞だとなんかもう打ち切りになっちゃう感じだよ?」


「……言うな。俺も言った後でそう思ったところだ」


 悠司が宣言した通り、程なくして釣竿に反応があった。しかもこれまでにない、とても大きな反応である。ポイントが適切ならすぐに魚が食いつくところは妙にゲーム的な仕様で、生産活動のシステムに似通った面を感じるな――などと思いつつ、悠司は慌てて釣竿を強く握り締める。


 それにしても今回は間違いなく大物のようだ。引きはとても強いし、左右に大きく暴れるので気を抜くと釣竿を持っていかれてしまいそうだ。――というか、糸が切れてしまわないかとても心配だ。


 芝生に並んで腰を下ろし、お喋りしながら暢気に釣り見物をしていた清歌と弥生も立ち上がると、ただならぬ様子の悠司を見守る。


「今回は本当に大物そうだね! っていうか、コレ本当に大丈夫?」


「大……丈、夫。……とは、言い切れん、かも、しれん!」


「弥生さん、お手伝いした方がよろしいのではありませんか?」


 ゲーム的に言えば清歌や悠司よりも弥生の方が遥かに大きな力を持っている。なので弥生が手伝えば、かなり楽になるのではないかという提案なのだが、悠司は首を横に振った。


「残念ながら……システム的に、釣りは、一人でしか……できないんだ」


 もっと正確に言えば、例えば二人で釣竿を持つことはできるのだが、一人にかかる負荷は変わらないので意味が無いのだ。また魚が食いついた後で別の人と交代すると、その時点で魚に逃げられてしまうのである。


「え~っと、じゃあ強化アイテムは? 効果がある?」


「ある! が、釣りなんかに、使っていい……のか?」


「ナニ言ってるの悠司。アイテムなんて使わなきゃ意味が無いでしょ」


 釣りというお遊び要素に、戦闘で役立つステータスを一時的に上昇させるアイテムを使うのはいかがなものかという悠司の問いかけをバッサリ切り捨てると、弥生はアイテムを躊躇なく使った。


 この辺はゲームをプレイする上での性格が出るのだろう。弥生は必要だと思えば貴重なアイテム――所謂エリクサーとか世界樹のなんたらとか――でも割とアッサリ使ってしまう方だ。貴重とはいっても消耗品の一つには違いないし、ゲームを進めれば何らかの入手方法はあるものだからだ。


 一方、悠司は割と温存しておいてタイプである。基本的にはボス戦対策ということになるのだが、この手のタイプは往々にして十分な準備レベルアップをしてからボス戦に臨むので、結局使わず仕舞いになってしまう事が多いようだ。


 ともあれ、ブーストアイテムの効果により、まだ見ぬ大物とのバトルは格段に楽になった。暴れる魚に対応し、竿を立ててはリールを巻き上げること数分、遂に海面に大物が姿を見せた。


 ――と、思ったその瞬間、大きな水飛沫を上げて魚が大きくジャンプした!


 跳び上がった魚は確かに大物だった。おおよその外見は体が横にやや平たいサメといった感じで、体の色は黒に近い灰色一色、鮫の特徴である背びれは小さい。なんとな~くSF系アニメや漫画に出て来る潜水艦を彷彿とさせる姿だ。そして体長は目測で三メートル弱はありそうである。


 大物ゲットだぜ! と喜ぶのはまだ早かった。魚はキュピーンと目を光らせると、なんと空中できりもみ回転をして糸を引きちぎると、口元にニヤリと笑みを浮かべてから海へとダイブし、姿を消してしまった。


「ええぇ~~っ!」「あんなのアリか!?」「……わ、嗤っていましたね」


 あんまりな出来事に弥生が叫び、悠司が理不尽を訴え、いつも泰然としている清歌ですら声がちょっとひび割れている。


「畜生、ムカつく! ぜーったいに吊り上げてやる。デ・〇ナンもどきが!」


 釣り上げ損ねた大物に某有名ライトノベル作品に登場する潜水艦から名前を付けた悠司は、ブーストアイテムの効果が切れるまでがチャンスとばかりに再び挑戦する。


 ――およそ三十分後。残念ながら大物を釣り上げる前に時間切れとなってしまった。


 一応悠司の名誉の為にフォローすると、二回ヒットして惜しいところまではいったのだ。一度目はジャンプさせないようにじわじわと引き寄せたのだが、あともう少しのところで糸が切れてしまった。二度目は最初の時と同じようにジャンプさせ、その瞬間に糸を緩めて引きちぎられないようにし、きりもみ回転を止めた後で一気に引き寄せたのだが、何と口から水流ブレスを吐き出しその反動とこちらがひるんだすきをついて逃げられてしまったのである。


「え~っとドンマイ、悠司。まさか魚が攻撃して来るとはね……」


「サンキュ。っつーか、魚も魔物の一種だったのかー」


「そのようですね。……思い返してみれば、サイケンマグロのほうが余程魚っぽい外見でしたね」


「あー、確かにアレくらいなら普通に釣れそうだな」


「……そっか、魚も魔物ってことならもしかして……。ねえ、清歌。ちょっと清歌もやってみてくれないかな?」


 かなり唐突な弥生の提案に、清歌は首を傾げた。というのも清歌のステータスは基本的に低めだ。流石にレベル差があるので年少組の二人よりは高いが、高校生組五人の中では最低である。悠司がブーストアイテムを使っても釣り上げられなかったのだから、清歌では海面近くに引き上げることすらできないのではないだろうか?


「ま~、ただの実験だから、失敗したらこっちで糸を切っちゃえばいいから。ちょっとやってみようよ」


 弥生がそこまで言うならばと、清歌は釣竿を悠司から受け取り釣りを始める。ヒットする深さは分かっているので、暫く待っているとアタリが来た。


 グイッとすごい力で引っ張られ、危うくバランスを崩しかけたところをどうにか立て直す。しかしやはり清歌では力不足のようで、このままではそう長く持ちそうにない。


「よし、来た! 清歌、ショックバインド!」


「えっ!? は、はい、ショックバインド……?」


 急なことで語尾が疑問形になってしまっていたが、アーツはちゃんと発動した。――そう、釣り竿と糸の組み合わせでも鞭のアーツが発動したのである。


 急に暴れなくなった糸を清歌が頑張って巻き上げる。結局、ブーストアイテムを使い、更に途中でショックバインドを掛け直し、時間をかけてどうにかこうにか大物を引き上げることに成功した。


 芝生の上でぴちぴちと――というかビクビクと痙攣する大物を前に、清歌と悠司が顔を見合わせる。


「えーっと、この釣り方は……よろしいのでしょうか?」


「いや、アリかナシかって言えば、出来たんだから、まあアリなんだろうが……」


 微妙に釈然としない感じの二人に対して、弥生は腰に手を当てて胸を張りご機嫌な様子だ。


「うん、予想通り! 相手もアーツを使うなら、こっちだって使えるんじゃないかなってね~」


 なんでも以前テレビで見た鮪の大物を釣る特番で、電気ショックを使っていたのを思い出したとのこと。サイケンマグロにもショックバインドは有効だったし、釣竿も一種の採取アイテムなのだからアーツが使えれば上手くいくのではないかと考えたのである。


 いささか正攻法とは言えないものの、大物を釣り上げたことに違いは無い。気を取り直した清歌と悠司は弥生と共にデ・〇ナンもどきの前で記念撮影をするのであった。







 ゲーム内時間で五時間が経過した頃、無人島を探索していた四人がクジラ船へと帰還した。


 絵梨の報告によれば無人島は予想通り一本道で迷う心配は全く無かったが、魔物との遭遇は結構多く、また多数の魔物を相手にすることもあって、それなりに手応えのある探索だったそうだ。


「凛と千代の訓練にちょうど良いレベルだったな」


 とは聡一郎の言である。もっともその言葉を聞いた年少組二人はフルフルと首を横に振り、絵梨もやや苦笑気味だったところを見ると、訓練と言うにはかなりハードなものだったようだ。


 さて、無人島そのものについてはこちらも予想していた通り、かつて人の手が入り何らかの施設を置いていたものだったようだ。住居の跡などはどこにもなく、残念ながらお宝の類も発見できなかった。


 問題はその施設についてだが、これは重畳の痕跡が広場に残っていた。いや、痕跡というよりも、多少朽ちている箇所はあるものの今も普通に稼働している施設のようだった。


「これは……え~っと、なんて言ったっけ? 確かイギリスのどこかにあるっていう遺跡……、ストーン……サークル。じゃなくって……う~ん」


 絵梨たち探索組が撮影してきた写真を見た弥生がこめかみに手を当てて唸る。


「ストーンヘンジ、ですね。あちらは全体としては結構広いものですけれど……」


「こっちは大体直径十メートル程度ってところだから、比べるとだいぶ小さいわね。ああ、ちなみにストーンサークルっていうのはその類の遺跡の総称……みたいなものだったと思うわよ。だから間違いじゃないわね」


 写真に写っている遺跡と思しきものは、大きな石柱が円状に並べられ、一部の石柱の上には石柱を横にした物が渡されていた。なお石柱とはいっても面が平らで角が九十度の綺麗な立方体という訳ではなく、大きな岩を概ね四角く削ったという感じである。一言で表現しろと言われれば、ストーンヘンジのミニチュア版と誰もが答えるであろう代物である。


 そして大きな石柱の円の内側に、小さな石が円状に並べられており、その中央にはほぼ円形の石板が置かれている。よく見ると石板には何やら魔法陣が刻まれているようだ。


「ふむふむ。……で、このストーンサークルが稼働中っていうのは、どういうことなの?」


「あれこれ調べてみて回った後、最後に石板に触れてみたのよ。そうしたら“魔力を注入しますか?”って表示が出て来たのよ」


「ほほー。で? 当然試してみたんだよな?」


 悠司の問いかけに、探索組の四人が同時に頷く。


 スペース的にここで戦闘になるとは思えなかったが、強制転移からいきなりボス戦という可能性もあり得るので、四人は一応戦闘態勢を整えた上で、前衛の聡一郎が石板に魔力を流し込んだ。


 すると魔法陣が光を放ち、次いで小さなストーンサークルがそれぞれ光を帯びた上で光の円を描き、その次に大きなストーンサークルが同様に光り始めた。そして最後に大きなストーンサークルの上に蓋をするような形で、石板に描かれているものと同じ魔法陣が現れたのだった。


「……お~、それでそれで?」


「それだけよ。あ、これがその時の写真ね」


 期待に瞳を輝かせて尋ねる弥生に、絵梨は素っ気なく答えると一枚の写真を表示させた。確かにストーンサークル全体が光りを帯びて、魔法陣が天井のようになっている。


「ふぇ?」「光るだけ……ですか?」「そんなバカな」


 弥生はキョトンとし、清歌は大きく目を瞬かせ、悠司は半笑いで否定の言葉を言う。そんな三者三葉の反応に、四人は顔を見合わせて溜息混じりの笑いを漏らした。


 絵梨たちもこれはきっと何かあるだろうと、期待して身構えていたのだ。――が、二分くらい待っても何も起きず、ストーンサークルに出入りしたり、また石板に触れてみたりとあれこれやってみたのだが、全く何の反応もしなかったのである。


「え~……、そんなことってあるの?」


「あるのも何も、そうだったんだから仕方ないわ。ああ、装置をオフにすることも出来なかったから、結局そのまま放置してここに戻って来たのよねぇ」


「何のためにある施設なんだ、そりゃ?」


「分からん。……が、あの島が木に覆われていなければ、灯台替わりにはなるかもしれんな」


「「「あ~~」」」


 数多くの島々から特にこれといった利用価値の無い小さな島を選び、位置を知るための目印になるものを設置しておくというのは説得力のある話だ。一度明かりを灯せば暫く光り続けるのなら、人が住んでいた形跡が無いということの説明もつく。


 しかし今はイベント中であり、その上どうやら何某かの謎が仕掛けられているようだ。というか、マーチトイボックスは謎があるという前提で行動をしている。であれば、今回発見した思わせぶりなストーンサークルも、その謎に関連した施設という可能性も考慮しておくべきだろう。


「とはいえ、今できることは無いし、取り敢えず島の位置を記録しておくことくらいかしらね?」


「だな。後は……そうだな、暇な時間にでも掲示板で似たような遺跡が無いかチェックするくらいだろう」


 絵梨と悠司の言葉に弥生リーダーも頷く。何か(・・)はありそうだが、今は放置するしかない。


「俺たちからはそんなところだな。……ところで、悠司たちの方では何も無かったのか?」


「あっ! そうそう、大物の魚がいたんだが……これがなんつーか、とんでもない奴でなぁ……」


 悠司から大物との死闘を、かな~り盛って話を聞かされた四人は、一体どのような結末を迎えたのかとワクワクしながら語られるのを待った。


 そして、あまりにも呆気ない事の顛末を聞いた四人はと言うと――


「うーむ、それは……」


「そんなオチってないわー」


「ま、まあ……効率的ではあります、よね?」


「もー、お姉ちゃんってば……」


「え~っ!? せっかくアイディアを出したのに、その反応って酷くない?」


 ビミョ~な反応に、プンスカしつつ反論する弥生なのであった。




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