#10―13
~ 雑談掲示板「僕(私)たちはクリスマスもミリオンワールド」より ~
さてさて、イベントも残すところ24・25の二日となりました! 私はこのスレタイの通り、明日明後日もバッチリログインしますよ~^^b
上に同じく。
同じく。……ってか、この掲示板に書き込んでる人間は九割方がそうじゃね?
まあ、そうでしょうね。だからといって、その全員がクリスマスに予定が無い、という訳でもないと思いますが……
ぬなっ!? ……あ~、まあミリオンワールドのログイン時間は一日3~4時間ってとこだから、クリスマスに何か予定があってもその前後にインできなくはないか。
出来なくはないね。まあ、俺は普通に予定が無いけど……orz
ま、マズい! このままではこのスレの住人が暗黒面に堕ちてしまうぅ~!
……と、いう訳で、話をイベントの話に戻しましょう。じゃあボスの情報も出揃ったと思いますので、おさらいを兼ねて順番に確認していくなんてどうでしょう?
はーい。No.1「プレゼントにはサプライズを」
はいはーい。No.2「トレントだって飾りが欲しい」
はいはいはーい。No.03「ターキーの覚醒」
はいはいはいはーい。No.04「とあるノエルの丸太ん棒」
恐らくこれで最後。No.05「サンタになりたかったスノーマン」
……って、そこは「はいはいはいはいはーい」でしょ!?
いや、長いしw それにしても、こうやって改めて見ると、どれもボスの名前っぽくないよな。小説とか映画のタイトルみたいだ。
ボスのフレーバーテキストが物語仕立てになっていたので、そのタイトルと考えればアリなんでしょうけど、その内容が……ねw
あ~、特にスノーマンは酷かったw まあある意味、開発はこのスレの住人のお仲間だったわけだが……
言うな、また暗黒面に堕ちるぞ!
あの~、すみません質問なんですけど、一番目のプレゼントってどんなボスなんでしょう? 私はまだ遭遇していないんです。
お答えしよう! No.1は沢山のプレゼントボックスが出現して、アタリを引けば終了。外れを引くと、いわゆるミミック的な魔物に変身して襲って来るっていう感じなのだ!
ちなみにミミックの強さは箱の大きさに大体比例してて、一番大きな一辺二メートルくらいのヤツだと、六人以上でないとちょっとキツイってくらいかな。
え? でも十二人で参加してるんですから、そのくらいなら問題無いのでは?
いやー、箱の数が多いから、手分けしないと時間がかかっちゃうんだよね。
なるほど。……なら例えば足の速い人に、片っ端から開けてもらうっていうのはどうですかね? ミミックは無視しちゃって。
あー、やっぱ考えるよねそれ。だけど当たりを開けても、動いてるミミックは殲滅しないとクリアにならないんだわ。
だけど最初はそんなこと知らないから、ソレやっちゃったんだよね。何を隠そうウチのチームが。ミミックは無視して、手分けして箱をどんどん開けていたら……
……いたら?
動いてたミミックが全部合体して、巨大ミミックになって襲い掛かって来たのだ!
えーっと、それってもしかして、キン〇スラ〇ムみたいな感じで?
それだっ! ぴょんぴょん跳ねて一か所に集まって巨大化するんだよ。何かに似てるなーって思ってたんだけど、そうか、アレかー。
そういう合体じゃなくって、積み重なってロボットみたいになっても面白かったかもな。
確かに面白いけど……、それじゃあダ〇ボーになっちゃうんじゃ?
……言われてみれば。それはそれで問題が出そうw
えー。ちなみにこのNo.1では、点けたスイッチの数に応じてミミックがただの空箱になります。当りか、外れのミミックか、それとも空箱か? 開ける時は結構ドキドキしますよね^^
本物のクリスマスプレゼントを開ける時のドキドキとは、全然種類が違うけどね。……と、まあNo.1はこんな感じですね。
参考になりました。ありがとうございまーす。
いえいえ、どういたしまして。
あっ! 最後にもう一つだけ。総合的な強さ的には何番目くらいなんでしょうか?
まるでどこぞの刑事さんのような聞き方だw
www それはさておき魔物としての強さ自体だったら、ミミックはそれほどでもない。というか、多分最低ランク。何しろ一番大きい奴でも、六人パーティーで大丈夫だから。合体ミミックは話が別だけど。
合体は特殊だから考えなくていいでしょ。でもNo.1は強さ云々より、面倒臭かったなー><
箱の数がとにかく多いからね。あとこのステージはスイッチも隠されてるのが多いから……
ええと、つまり纏めると、強さ自体は最弱だけど、面倒臭さではトップクラス……って感じですかね?
そそ、そんな感じ。たいへんよくできましたー♪
では話も出たところですから、ボスの強さについての話をしましょうか。参考までに、攻略掲示板ではNo.3のターキーとNo.4の丸太が強さではツートップと言われているようですが……?
俺はターキーに一票。あれはヤバかった!
同じく。丸太も強かったですが、やはりターキーが一番だと思いますねー。
上に同じくターキー。空を飛ばないみたいだから楽かと思いきや、ビームで凍結するわ鳴き声でスタンするわ突風で吹き飛ばされるわで、もう大騒ぎだった。
私もターキーに一票ですね。ブレス・鳴き声・羽ばたきはどれも厄介ですけど、何より大変だったのが尾羽でしたね~^^;
それなー。あのファン〇ルはどうにもならんかった。仕方なく俺らのチームは防御に徹してた。
それで凌げたのなら、マシな方じゃない? ウチらはファン〇ル攻撃の度に犠牲者が出て、なんだかゾンビアタック気味になっちまったけど……
ごめんなさい、嘘です。俺らもゾンビアタックになってた。お陰様でスコアがかなり下がった。……泣けるぜ。
ターキーのステージは比較的狭いから、ゾンビアタックがやり易いっていうのがまたなんとも……。最初からそうする仕様だったんじゃないかという疑いが。
一応、ファン〇ルの制御アンテナを部位破壊すれば、封じられるって話だよね。
ああ、攻略掲示版に情報が上がってたね。……でも、本当にそんなことできるの?
情報を上げた人は結構有名人でトッププレイヤーの一人だから、信憑性は高いと思いますよ。ちなみに通称オネェさん。
んじゃ、やっぱり情報は本当なのか。あのオールレンジ攻撃中に、一体どうやって後頭部の角を破壊したんだか。
ちょっと信じられないですよねー
実は個人的に知り合いなので、本人に聞いてみました。個人のスキル等に係るので詳細は伏せられていましたが、なんでもあのオールレンジ攻撃を完全に引き付けてくれた人が居たんだそうです。
ファッ!?
バカな! 不可能だ!
ニ〇ータイプか? ニュー〇イプなのか? ニュータイ〇なんだな!
伏せ字の意味が無い……だと!?
ww おバカなツッコミはさておき、あの攻撃を本当に一人で封じ込めたのなら、驚異的な話だよね。
……というかそもそも、尾羽が縦横無尽に飛んで来る中で、よく制御アンテナがあることに気付けましたよね? アレって尾羽を使ってる時だけにしか出てこないんですよね?
言われてみればそうだな。俺らなんか数人で固まって全周警戒してたから、本体を気にする余裕なんてなかったし。まあ、それでビームの直撃を受けたんだが><
おお同志よ! ってか、そのパターンがかなり多いらしいな。
そんな状況下で、下からは見えにくい後頭部の角を発見するとは……そっちの人もニュータ〇プですかね?
つまり結論としては、ターキーを死に戻り無しで倒すには、パーティーにニュ〇タイプが必須……ってことで、ファイナルアンサー?
イエース! 大正解w
そしてオールドタイプしかいない大多数は、ゾンビアタックを覚悟せよ……と?
それもまた大正解。……泣けるぜ(;;)b
俺の所属してるチームはまだ対戦してないんだが……、つまりターキーは貧乏籤ってことなのか?
いや、そんなこともない。俺らのチームはゾンビアタック気味になってスコアが下がったけど、基本スコアが高いから他のと同じくらいには収まったし。
何より特別報酬があるからね♪ ターキーの丸焼き美味しかったな~^^
確かにアレは絶品だった! ……リアルでは食べたことないけどw
んん? 特別報酬とは何ぞ?
説明しよう! 特別報酬とはターキー又は丸太を一定スコア以上で倒せた場合にのみ、参加者に振る舞われる料理の事なのだ!
まあ外に持ち出せるわけでも、特殊な効果があるわけでもないので、あくまでもオマケのようなものなんですけどね。
でもでも、凄―く美味しかったよ! パーティー気分も味わえるし、楽しかったなー。ターキーに当たったら、狙ってみるべきだよ。
っていうか特別報酬は別問題として、普通に高得点は狙うものでしょ? ゲーマーなら。
敢えて低い点を狙う者はいないわなぁ。
そらそうだ。……ところでターキーが丸焼きになるのは分かるけど、丸太は何が食えるんだ? 焚火にして、きりたんぽでも焼くのか?
ブッブー。……っていうか何故にきりたんぽwww
きりたんぽや魚を串に刺して焼くというのも風情があっていいですが、クリスマスとは関係ないですからね^^;
正解はブッシュドノエルでしたー! しかも本物の丸太サイズ!!
ブッシュドノエルかー! ……で、それってナニ?
って、そこから!? ブッシュドノエルっていうのは、丸太……っていうか薪かな? の、形を模したケーキの事だよ。
ああ! なんか見たことあるかも。アレの事かー。
ちなみにフランス語でノエルはクリスマス、ブッシュが丸太のこと。ホールケーキと並んで、クリスマスの定番ケーキじゃないかな。
ではお次は丸太ん棒の話に移りましょうか。ターキーと並んで手強いボスのはずなんですが、先ほどは丸太を挙げた人はいませんでしたね?
いや? 丸太も強かったよ。
うん、強かった。丸太を振り回す木の巨人っていう、見た目のインパクトもあったんだけど……
物理特化のボスって感じだったよね。確かに強かったんだけど……
なんて言うか……、“普通に”強かったよね?
それだ! フツーのレイドボスだったよな。大きくて、耐久力が合って、一撃が重くて、範囲攻撃もあって。
そそ。正統派だからこそ、チームでちゃんと連携できてれば対処はそう難しくないってわけ。
ウチらのチームでは死に戻りも何人か出たし、決して弱いわけじゃないんだけど……。なんだか攻撃がどれも地味で、記憶に残らないっていうw
あはは。私もその後のケーキ食べ放題ばっかり覚えてます♪
ケーキ食べ放題なんて、そんなには食えないだろうと思ったんだが……結構食えたな。取る場所によって味も違ってて面白かった。
それはともかく、基本スペックは高いけど、他のボスみたいにこれといった特徴が無くて、印象が薄いんですよね。あっと驚くような特殊攻撃も無いし。
そういう意味では、私はスノーマンの方が印象に残ってるかもw
スノーマンなーw そもそもフレーバーテキストからして、変だったからな。
攻撃バリエーションが一番多いのがスノーマンのようですね。私は沢山のミニスノーマン軍団を指揮してくるパターンに当たりました。
俺はソリ……っていうか、あれはもはや戦車だな。戦車に乗って襲って来るパターンだった。
あのソリって、地上に降りてくることもあるんですねー。私たちの場合は一番普通の、袋から武器を取り出して来るパターンでした。取り出す武器が近代兵器だったのには驚きましたけど><
近代兵器? っつーと、例えば?
爆弾、手榴弾、ガトリングガン、冷気放射器、ロケットランチャー、ビームライフル、波動砲などなど……ですね。
マテマテ! 最後の二つは近代どころか近未来兵器だぞ。ってか、波動砲て……w
なんかアノ宇宙戦艦の艦首みたいな形の銃を構えて、極太のビームを撃ってきたんですよね……。なので私たちは波動砲と呼んでいました。ちなみにスノーマンはちゃんとサングラスをしてましたよw
対閃光防御か! 芸が細かいというかなんと言うか……
もっと他のところにリソースを割いてくれ、という気もするがな。
まあまあ、それが楽しいってのもまた事実なわけだし、これといった不具合も無いんだから、これはこれで良いじゃん。
むっ! 貴様、さては開発の回し者だな!?
そ、そそっ、そんなことがあるわけございませんでありますですよ(・_・);
怪しいw
怪し過ぎるな! 判決、ギルティ―!
ち、違う! 信じてくれ、俺は無実だ! 無実なんだーっ!
被告人は静粛に!
何、この流れw ところでスノーマンと言えば、例の現象に遭遇した人ってここにいる? チームにカップルがいると怒り狂って追いかけ回すっていう……
カップル? ナニソレ、美味しいの?
そんなものがチームにいたら、スノーマンなどに手は出させない! 俺自ら、鉄槌を下してくれるわっ!
え、そっち!? 闇が深いな、このスレッドw
この流れだと言い出しづらいんだが、俺らのチームでその現象が起きた。って言っても別にカップルってわけじゃなくて、その時たまたま二人組だったってだけなんだが。
たったそれだけで? 心狭すぎでしょう、スノーマン。
ああ、いや。男が前に出て、スノーマンの攻撃から女を庇ってからだったな。ちなみに二人とも後衛タイプ。
これまでの例を纏めると、ただ一緒にいるだけでは追いかけないみたいですね。二人で話すとか、庇うとか、いちゃつくとか、特定の行動をするとアウトになるようです。
なるほどー。で、追いかけられるとどうなるんです? 延々と鬼ごっこをするんですかね?
俺らのチームでは、途中で行き止まりに追い詰められて、二人仲良く死に戻りしたな。で、スノーマンは元に戻った。ちなみに戦闘中に二人が戻って来たんだが、離れたポジションにいたからか、スノーマンは無反応だった。
追いかけられるパターンでは、ターゲットとして完全にロックされちゃうから、周りの人間は楽っちゃあ楽だよね。
追いかけられる側は堪らないけどな><
スノーマンの勘違いだったらなおの事ね><
なんつーかクリスマスに遊べない開発の八つ当たりっぽい感じがするよなw
そうなぁ。そして俺らはそのミリオンワールドで遊んでる……と。
そうそう。だからイベントでちょっと八つ当たりするくらい、広い心で流してあげましょう!
やっぱり開発の回し者?
……それはもういいからw
そして迎えた十二月二十四日。百櫻坂高校は終業式の日であり、明日からは冬休みだ。そしてクリスマスパーティー――ダンスパーティーの方が重要という生徒もいるようだが――の当日でもある。イベントに関わる一部の生徒たちは寒い中朝早くから登校し、準備のために忙しく走り回っていた。
いつもの時間に登校した弥生は、教室にいつもはもっと遅い時間に登校している天都の姿を見つけた。自分の席に着いて文庫本を開いているのはいつものことなのだが、今日はどこかぼんやりとしていてページを捲るそぶりも無い。
弥生が「おはよ~」と挨拶をすると、そこで初めて気づいたらしい天都が顔を上げて返事をする。――やはりどこか気もそぞろという印象を受ける。
「今日は早いんだね。元祖文芸部はクリスマスパーティーに参加しないんじゃなかったっけ?」
「うん。……なんかいつもより早く目が覚めちゃって。二度寝も出来なさそうだったから、学校に来ちゃったんです」
「もしかして今から緊張してたり……とか?」
その問いかけに天都はしばし目を泳がせた後、「少し?」と小さく答えた。
「今からそれだと疲れちゃうよ~、大丈夫? っていうか、寝不足だったりとかは……」
「あ、それは大丈夫。ここ何日かは慣れない運動をして疲れてたから、夜は布団に入った途端にぐっすりでした」
「あ~、そういえば私もそうだったかも」
普段運動をあまりしないもの同士の妙な符合に、二人は顔を見合わせてクスリと笑った。
ここ数日間、天都は学校での講習会と<ミリオンワールド>内での特訓、そしてログアウト後には清歌の指導による自主練習と、ダンスの練習に真剣に打ち込んでいた。特に<ミリオンワールド>での清歌の指導はなかなかにスパルタで、弥生たち指導を受けた全員が、現実でも他の生徒たちと遜色ないレベルで踊れるまでの成果を上げていた。
言うまでもないことだが、これはあくまでも“学校のダンスパーティーイベント”に参加する生徒たちと比較した話であって、決して一般的な意味でまともにダンスを踊れるようになったわけではない。
ともあれ、今日のダンスパーティーにはどうにか間に合ったというわけである。もっとも、それで緊張から解放されるとはいかなかったようだ。
「練習では散々踊ったんだから、本番だからって今更なんじゃ……。発表会に出るってわけじゃないんだし」
「それはまあ……。でもやっぱり練習とは雰囲気も違うだろうし……、他人に見られるし……」
天都が口ごもったその先は大体分かる。言うなれば、このダンスパーティーに参加することは、二人は付き合っている、もしくはその手前であると公言するようなものだと、天都は考えているのだろう。
そういうペアがいるのも事実なのだが、単純に学校のイベントだから参加してみようとか、ダンスが踊れるとカッコいいかもなどという軽い動機で参加する者も少なくない。なお、そういった者たちは男女三~四人ずつくらいでグループを作り、練習から参加していることが多い。
またぶっちゃけてしまうと、クラスメートはともかく天都や五十川と面識が無い者が、二人のことを気にかけることなど無いと言っていい。つまり天都の悩みは単なる自意識過剰で片づけることができてしまうのだ。
(まあ、それを言っちゃうのは野暮ってものだけどね~)
いずれにせよ天都がこれだけ意識してくれれば、誘った五十川もその甲斐があったというものであろう。
「委員長は緊張とかは無いんですか?」
「私!? わ……私は特にそういうのは無いかな。だってほら、女同士だし、ね?」
ビミョ~にどもっていることからも分かるように、弥生の発言は嘘である。天都からジト目で見つめられた弥生は、観念して白状する。
「あはは……、実はちょっとくらいはね。でも多分、天都さんが感じている緊張よりは質も量も少ないと思うよ」
練習を始めた当初はステップを間違えて清歌の足を踏んだりしないようにと、正直言ってかなり緊張していた。そしてある程度ダンスに慣れて来たら、今度はすぐ傍に顔がある事が気になってくるという風に、緊張も二段階を経ている。
清歌とはしょっちゅう手を繋いでいるのでそれは大分慣れてきたのだが、やはり間近に顔を寄せ合うというのは、かなりドキドキするのである。
「でも、黛さんが男装して参加するとなると、ものすごーーく目立つと思うんですけど……」
「あ~、まあその点については清歌とペアを組む時点で諦めてるよ。変な話、清歌と一緒に行動してるとそういうシチュエーションはいくらでもあるから、今に始まったことじゃないしね」
キッパリと断言する弥生に、天都は「ほへ~」と感嘆の声を上げる。もっとも弥生の発言には、自身も含めた五人が揃うことで更に目立つ集団になっているということが、スコンと抜け落ちている。清歌が突出しているのは確かだが、彼女一人の責任という訳ではない。
と、そこへ、噂をすれば影という感じに清歌がやって来る。
「おはようございます。弥生さん、天都さん。私の名前が出ていたようですけれど、何の話をしていらしたのでしょう?」
「おはよ~、清歌」「おはようございます、黛さん」
二人からこれこれしかじかで――と、話を聞いた清歌がクスリと微笑む。
「男装して参加するのは私くらいのものでしょうし、確かに目立つかもしれませんね。けれど、その方が天都さんにとっては都合がいいのではありませんか?」
「あ~、確かに清歌に注目が集まれば、天都さんが気にしてる他人の視線問題は解決したも同然だね」
「あ……、言われてみればそうですね。ちょっと気が楽になりました」
「まあ、私は一緒に注目されちゃうんけどね……」
何やらどよんとした空気を纏う弥生に、清歌は頬に手を当てて軽く首を傾げた。今日も綺麗な、手入れの行き届いた金糸の髪がサラリと揺れる。
「私だけでなく、弥生さんご自身も注目されていると思いますよ?」
「え~、私が~? それはどうかなぁ~」
「ふふっ、そういうところが弥生さんの素敵なところですけれど……、もう少し、自意識を持ってもいいかもしれませんね」
自分も人気があるのだという事に無自覚の弥生に、清歌がやんわりと自覚を促す発言をする。弥生はキョトンとしてイマイチ分かっていないようだが、天都がウンウンと頷いていた。
ある意味、清歌の存在がカモフラージュになってしまい目立っていないだけで、弥生も――付け加えるなら絵梨も――結構な人気があるのだ。一年生八人の美少女の一人に挙げられるのはダテではない。
そういう他人からの視線を、過剰にならない程度にちゃんと意識することで弥生はもっと可愛く綺麗になると、清歌は思っているのである。もっとも、そういう事を考えない自然体が弥生の魅力にもなっているので、清歌はあくまでもやんわりと伝えるだけである。
「まあ、私のことは置いといて……。清歌はちゃんと着替えっていうか、衣装? を持ってきた?」
「はい、もちろんです」
「ちなみに、どんなのを持ってきたんです?」
「普通のパンツスーツですよ。色合いも制服に近いものですから、それ程浮くということは無いと思います」
「燕尾服とかじゃないんですね……ちょっと残念かも……」
ボソリと呟く天都に、清歌と弥生は顔を見合わせて苦笑する。実はそういう話も半ば冗談として出て、<ミリオンワールド>内でちょっと着てみたのだが、さすがにこれは悪ふざけが過ぎるという事でボツになったのである。なお、衣装は非常に良く似合っていたとだけ記しておく。
ここで天都が、本人には全くその自覚が無いままに爆弾を投下してしまった!
「あ……、でもわざわざスーツを持ってこなくても、男子からズボンだけでも借りれば制服のままで大丈夫だったんじゃ……?」
「あ~……」「ええと……」
不意に気まずい空気が流れて、天都は今の発言に何かイケナイところでもあったのかとオロオロしだす。
が、どう考えても変なところなどない。百櫻坂高校の制服は男女で同じ色合いを使っているので、上半身は女子の制服のまま、男子のズボンを合わせても特に変なところなどない――はずだ。
「まあ上下のコーディネートっていう意味では問題ないわねぇ。ただちょっとサイズが……ね?(ニヤリ★)」
そこへ助け船を出したのは、聡一郎とともに教室へやってきた絵梨だった。ただ口元に浮かべた黒い笑みを見るに、本当に助け船なのかは定かではない。
「絵梨? それ以上は……」
「大丈夫、分かってるわ。私だって自分の身に起きたら嫌だもの。人も多くなってきたし、大声で言ったりしないわ」
聡一郎が絵梨を窘めると、絵梨は両手を軽く上げてあっさりそれを受け入れ、口を噤んだ。
聞かせられないというと聞きたくなるのが人情というもので、天都はなにやら不穏なものを感じつつも、推理を巡らせる。
どうやら男子のズボンを合わせるというのは、彼女たちの中で試したらしい。体格的にガッチリしていて背も高い聡一郎では合わないだろうから、恐らく悠司の制服を借りたのだろう。そしてそのサイズが合わなかったという。だが、スレンダーでウエストもキュッと括れている清歌が、悠司のズボンを着られなかったなどという事は有り得ないはずだ。
いや、絵梨はウエストが合わなかったとは言っていない。サイズが合わないと言ったのだ。ウエストではないとすると、後は――丈?
「あっ!! ……むぐっ!」
あまりにも残酷で凄惨な真実に気付き、思わず大きな声を上げてしまった天都の口が、弥生と清歌そして絵梨の手によって素早く封じられた。
弥生が大きな声を出さないように伝えると、天都はコクコクと小刻みに頷いた。
「「「ほっ」」」「ぷはーっ」
気付かれてしまったからには仕方がない。天都は消すしか――ではなく、女子四人で顔を突き合わせ、事の次第を話すことにする。言うまでもなく、囁くような小声でである。
「気付いちゃったみたいだから言うけど、私たちもそう考えて、悠司の予備の制服を持ってきてもらったんだ」
「それで着てみたのですけれど……」
「ちょっとぶかぶかだったのはまあ目を瞑るとして、問題は……丈が足りなかったのよねぇ」
「ああ…………やっぱり」
清歌は弥生たちと親しくなったころから少し背が伸びて、現在は絵梨と同じとなっている。常に姿勢が良い分、絵梨よりも背が高い印象だ。それでも悠司の方が五~六センチは高いのだが、その悠司のスラックスを履いてみたら、見事に丈が足りなかったのだ。あの時の気まずさは、五人で行動を共にするようになって以来初めての事であった。
ただこれは、彼女たち全員の考えが足りなかったと言わざるを得ないだろう。何しろ清歌は日本人離れした――というか実際外国の血が入っているのだが――スタイルで、腰の位置は恐ろしく高い。姿勢も歩くフォームも綺麗なので、そのままモデルでやっていけるレベルなのである。
そんな清歌が、数センチしか身長の違わない一般的純国産男子のスラックスを履いたらどうなるのか――考えるまでもないだろう。
「あの時は冗談めかして大袈裟にガックリやってたけど、アレで内心結構ショックだったみたいだから、この話は悠司の前では禁句だからね?」
「分かりました。……っていうか、こんな話本人の前では絶対できませんよ」
自分に置き換えて考えてみて、思わずプルプルと首を横に振る天都であった。
「ま、そういう訳だからこの話はこれでお終い! 今日はクリスマスパーティーなんだから、もっと楽しい話をしようよ」
「ええ、そうですね」「そね、それが建設的よね」「賛成でーす」