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ミリオンワールド!  作者: ユーリ・バリスキー
第十章 凛&千代、参戦!
139/177

#10―09

2018年、初投稿です。本年もよろしくお願いいたします。




 クリスマスイベント初日。マーチトイボックス(弥生のおもちゃ箱)とサクラ組の合同チームは、イベントに参加するべく中央広場に集合していた。


 初顔合わせとなるメンバーが互いに自己紹介し、それぞれの役割を大まかに確認する。ちなみにレベル的には、天都・五十川>凛・千代>田村・近藤という順になる。清歌たち五人はもはや別格なので、この六人と比較してはいけない。


 互いのポジションの確認をしている内に、初心者あるある的な雑談にいつの間にやらなっていたので、タイミングを計って弥生が手を二つ叩き会話を打ち切った。


「はいは~い、そろそろ作戦会議を始めるよ~」


 雑談を止め、表情を引き締めた一同を見渡して、弥生は手順の最終確認をする。


「ボスが出現するまで時間があるってことだから、会場に転移したら先ずは各自、イルミネーションのスイッチを探して片っ端から点灯させていって。問題はボスが出現してからだけど、皆くれぐれも一人で突っ込まないこと」


「了解、委員長。……で、ボスが出てきてからは、スイッチと戦闘どっちを優先するんだ?」


「う~ん、そこはケースバイケースなんだよね。三分の一以上点けると成功率が上がるっていうから、最低四割……安全策を取って半分以上は点けたいところだよね。スイッチのパーセンテージが分かる仕様になってるといいんだけど……」


「そういえば、その辺りについての説明は無かったっけ」


「そうなんだよね。だからボスを引き付ける囮組と、スイッチ組に役割分担をしておこう。で、スイッチ組はパーセンテージが分かる仕様だったら五割以上になるまで、分からない場合は囮組が“もう大丈夫”っていう合図を送るまでイルミネーションを点けて回るっていう感じでいこうと思う。で、役割分担だけど……」


「はい! 私はスイッチ組で」「僕も同じくそっちを担当するよ」


 弥生の問いかけに、戦闘経験が圧倒的に少ない田村と近藤がスイッチ組に手を挙げた。凛と千代もちょっとだけ相談してからそちらに立候補した。


「私たちはどうしよう? やっぱりまずはスイッチを優先した方が良いよね?」


「だね。……あ、でも委員長たちは五人で大丈夫かな?」


「それもまあ、出たとこ勝負だけど、引き付けつながら逃げ回るくらいなら、何とかなると思うよ。ね?」


 弥生がいつものメンバーに目配せすると、四人は力強く頷いた。五人だけでボスを斃すというのは流石に無茶だろうが、注意を引きつけて時間稼ぎをすることくらいならば大丈夫だろう。イベントのルールから考えれば、ミッスルゴーレムのような超巨大ボスが出現するとは考えにくいので、そう考えたのである。


 そうして十分に弱体化した後で、是認で総攻撃を仕掛けようというのが今回の大まかな作戦である。が、レイドボスとの戦闘に若干腰が引けている田村が、そろりと片手を挙げた。


「え~っと、なんなら私はずっとスイッチ役でもいいんだけど……。今更ながら、大きい魔物に近づくとか、ちょっと怖いなーって……」


「「「あー……」」」


 同じくレイドボス初挑戦――というか、サイズの大きな魔物を相手にしたことそのものが無いサクラ組の三人が同意の声を上げる。ちなみに凛と千代は先日、レッサーレイクドレイク戦の後にも、スベラギの西にいる恐竜型の魔物などの人間を大きく超えるサイズを相手にした訓練をしたので、そういった不安はほぼ解消されている。


 田村の不安も良く分かるが、折角レベル差関係なく楽しめる仕組みのイベント戦なのだ。スイッチを入れるのも重要な役割とは言え、最初から戦闘に全く参加しないというのはちょっと勿体ないのではないかと弥生は思う。


「まあ……怖いっていう気持ちも分かるから無理強いはしないけど、折角の機会なんだから、ちょっとくらい戦闘にも参加してみようよ?」


「そうだよ、田村さん。確かに前衛は怖そうだけど、何事も経験って言うし」


「やってみて無理そうだったらスイッチ役になればいいし。今回はデスペナもスタート地点に戻されるだけなんよな?」


「うん、そのはず。……あ、それにせっかく武器を作って貰ったんだから、ちゃんと使わないとね」


「そっか。うん、そうだよね。……頑張ってみる」


 弥生に続いてサクラ組の仲間たちに励まされ、田村がぐっと両手で握りこぶしを作った。


「さて、確認しておきたいのはそんな所かな。何か質問はある? ……よしっ! じゃあ、イベント会場に行くよ~!」


 一同から元気のいい声が上がり、それに合わせて弥生はイベント参加の決定をした。







 一面が雪に覆われた夜の世界はしんと静まり返っていた。晴れた空には無数の星が瞬き、雪が仄かに青白く光っているので完全な真っ暗闇ではないが、物陰の闇は濃く、一人ぼっちで歩き回るのは少々不安になる光景である。


 清歌が転移した先は、大小のログハウスがまばらに立ち並ぶ村――それ程規模は大きくなさそうなので町という感じではない――の外れだった。なぜ外れと分かるかというと、背後には針葉樹の森が広がり、その先に建物などは見当たらなかったからである。


 何軒かのログハウスには玄関先に看板が掲げられていたり、正面がショーウィンドウのようになっていたりするので、民家だけではなく商店もあるようだ。子供が作ったと思しき少々歪な雪だるまや、雪かきをして積み上げられた雪の小山に突き立てられたままのスコップ、そして雪に残る足跡など、妙に生活感を感じられる景色である。――もっとも明かりの全く無い、しかも人っ子一人いない現状では、それらはかえって不気味さを醸し出す演出となっていた。


 視線を上げると遠くには山が見え、森が切り拓かれてゲレンデになっている部分があった。リフトらしきものも確認できるので、恐らくこのイベント島はスキー場と麓の宿泊施設という設定なのだろう。


 慎重に気配を探ってみたところ、周囲に、少なくとも清歌が感じられる範囲内に仲間や魔物はいないようだ。ボスは時間経過で出現するという事だったが、それ以外の魔物が居ないという記述はなかったので念のために警戒していたのだが、どうやら杞憂だったようで清歌は緊張を解いた。


(スイッチという事ですけれど……照明のスイッチのようなものが、どこかにあるのでしょうか?)


 クリスマスのイルミネーションといえば、やはり街路樹や商店などに施されるものだろう。そう考えた清歌は、目に付いた一番近くにあるログハウスへと足を踏み出した。


 サクサクと足から伝わって来る雪の感触が心地よい。都会のように降ってはすぐに溶けてシャーベット状になったり、それが固まってガリガリになったりしていない、ふかっとした粉のような雪である。


 ちなみに気温は少々肌寒いといった程度で、行動に支障があるような寒さは感じない。この辺りはイツキへの道中で登った例の山と同じ感じである。考えてみれば寒さを感じることなく、雪景色を堪能できるというのはなかなかの贅沢と言えよう。


 ログハウスの側に立つ、モミの木に似たシルエットの針葉樹にあと五十センチほどまで近づいた時、根本から光の球が浮かび上がった。近づいてよく見ると、球の中に“switch”という文字がゆっくり回転していた。


 清歌がそれに手を伸ばそうとしたところで、弥生からの連絡が入った。


『え~、弥生から皆へ。もう見つけてるかもしれないけど、イルミネーションのスイッチは、家とか木の近くまで寄ると光る球状のやつが出てくるようになってるみたい。それでちょっと確認なんだけど、家と木以外にスイッチが出て来た物ってあるかな?』


『あ~、家の柵にもスイッチがあった。こいつは家と別口になってるらしいな』


『おっきな雪だるまの側に寄ったらスイッチが出てきてビックリしたよ』


『今、まさかと思って犬小屋に近づいてみたらスイッチがあった。……って、スイッチを押したら犬の形のイルミネーションが点いた』


『五十川君。それって、犬はいないんだよね?』


『……居ないな。犬小屋の中は空っぽだ』


『あはは。……それにしても、やっぱりいろんなところに仕掛けてあるみたいだね~。というわけだから、ちょっと手間だけど怪しいと思ったところには近づいて確認するようにしよう。それから……あ、戦闘組は合流も兼ねてゲレンデの方を目指そっか』


『了解。まあ、デカいボスが出て来るならあっちの開けた場所だろうし、ちょうどいいんじゃないか?』


『うん、私もそう思った。それじゃあそんな感じで、サクサクスイッチを入れて行きましょ~。以上、連絡終わり!』


 仲間たちの報告を聴き終えてから改めてスイッチに触れると、木にイルミネーションが灯ると同時にスイッチが二つの小さな光の球に分かれ、清歌の胸へと吸い込まれた。ポーションと万能薬を入手したというログが表示され、すぐに消える。


 大凡の仕組みは掴めたので、清歌はイルミネーションが点きそうなものに片っ端から近づき、出現したスイッチを次々に入れて行った。


 ――が、十個余り灯したところで清歌は立ち止まると、首を少し傾けて頬に手を当てた。場所によって積もっている厚みの変わる雪に足を取られて、なかなか素早く移動できず、どうにも効率が悪いと思ってしまったからである。


 もっともそれは清歌の主観で、本人は知る由も無いが、この時点で十個もイルミネーションを灯しているのは清歌と聡一郎だけであり、比較すれば十分以上に活躍しているのである。ただ、清歌には解決策が無いわけでもなかったために、ちょっと考えてしまったのである。


 今回のイベント中、魔物使いは従魔を一体だけ、任意のタイミングで召喚することが出来るようになっている。そして清歌はまだ従魔を呼び出していない。ボスの大きさや性質などを見極めてから、適した従魔を召喚しようと考えていたからだ。


 しかし雪に覆われた町の移動は想像していたよりもずっと手間で、千颯か凍華を呼び出して、背中に乗せて貰おうかと思いついたのである。


 ただそうした場合、ボス戦に若干の不安が出てきてしまう。恐らく巨大であろうボスと戦うには、雪苺の浮力制御が欲しい所だ。凍華の背に乗って空歩を使うという手もあるが、レベルが低い現状ではMPに不安があるし、何より氷属性の凍華はボスとの相性が悪そうだ。


 結局、従魔の召喚は保留にして、このまま地道に行くしかないのだろうか? ――そう考えたところで、はたと思いつく。千颯や凍華を従魔依装すれば、同じ能力になるのだから雪の上でも走りやすくなるのではないか、と。


 そう思った清歌は千颯を従魔依装してみる。軽く走ってみると、予想通り先ほどよりも足が沈み込むことなく、とても走りやすくなっていた。ついでにスイッチに手を伸ばしやすいように闇の武具(ダークアームズ)の能力を使用し、両腕を覆い延長するように腕を作った。直立すると地面に着くくらいの長さだ。


 腕の具合を確認すると、清歌は雪原を走り出す。ログハウスに近づきスイッチを出現させると黒い腕を伸ばして起動、イルミネーションが灯り切る頃には既に方向転換し、次の目標へと向けて走り出す。そうやって清歌は、尋常ではないスピードでイルミネーションを点けて回るのであった。




 すっかりクリスマスの町並みという風情になった――あいかわらず人影が皆無なところは目を瞑ろう――エリアを後にした清歌は坂を登り、ゲレンデの麓にある広場へと辿り着く。


 明るさに慣れた目に広場はかなり暗く感じられたので、何かイルミネーションを灯せるようなものが無いかと探したところ、周囲を取り囲むようにスポットライトのような物を発見した。が、なぜかこれらは近寄っても今までのようにスイッチは現れなかった。


(他の皆さんは……、まだいらっしゃらないようですね。ただここで待つというのも、少々芸がありませんけれど、さて……)


 坂を下りて先ほどとは違うエリアのスイッチを探すというのは、清歌は最初から考えなかった。なぜなら、清歌も戦闘組の一員であり、合流地点に着いたというのにわざわざ戻ることも無いだろうと思ったからである。


 清歌は周囲を見回すと、取り敢えず目についたスイッチがありそうなリフト乗り場の方へと足を向けた。


 当然の如く出現したスイッチを起動させると、リフト乗り場付近に照明が灯る。ここはきらびやかな電飾イルミネーションという感じではなく、ごく普通の照明だった。そして照明が灯ると同時に、鈍く低い機械の音を響かせてリフトが動き始める。


 リフトの先を見ると、途中の支柱は暗いままで、恐らく一本一本にスイッチが用意されているのだろう。そしてリフトが動き出したという事は、これに乗って行けという事に違いない。あからさま過ぎなので、罠という可能性もあるが――清歌はあっさりとリフトに腰を下ろした。


 このゲレンデを徒歩で登ろうとは清歌も考えていなかったのだが、リフトが動き出してしたことで、山の方からイルミネーションの灯る景色を見て見たくなってしまったのである。――まあ、罠だった時はその時考えればいい。


 ただボスが現れるであろうこの場の状況が分からなくなるのは良くないと考え、雪苺を呼び出し、エイリアスを一体、植物モードでこの場に残していくことにした。


 一本目の支柱に明かりを灯したところで振り返ってみると、イルミネーションが灯りつつあるログハウス村――ロッジ村と言った方が正確かもしれない――が一望できた。全てが点灯したら、とても美しい夜景となることだろう。


 リフトに揺られつつ夜景を眺めるという、ビミョ~に暢気と言うか優雅なひと時を楽しんでいた清歌の耳に、微かな鈴の音が届く。耳を澄ませて確かめると、それは山頂の更に向こう側から響いてきているようだった。


『清歌から皆さんへ。空から鈴の音が聞こえてきます。もしかしたらボスが出現する兆候かもしれません』


『お~、そろそろかな~って思ってたところだから、多分そうだろうね。戦闘組はゲレンデまで急ごう! ……っていうか、清歌は今どこに居るの?』


『今はリフトに乗って、支柱に明かりを灯しながら山頂へ向かっているところですね』


『『『『早っ!?』』』』『『清歌お姉さま、凄いです!』』


『確かに凄いんだが、それはまあ置いといて……だ。清歌さん、その鈴の音ってどんな感じなんだ?』


『そうですね……、シャンシャンという感じです。ええと、クリスマス関連のCMなどで流れる効果音風と言いますか……』


『あ~、なるほど大体分かった。ってか、それってサンタのソリが鳴らす音……だよな? まさか巨大サンタがボスなんてことは……』


『ええ~!? それってちょっと戦い難いような気が……』


 クリスマスに合わせた季節イベントで、その主役とも言うべきサンタクロースをボコるのには抵抗がある、という弥生の台詞は至極もっともだ。しかし自他ともに認めるゲーマーたる弥生が、イベントクリアに消極的なことを言うのは似合わないと、絵梨が指摘する。


『あら、らしくないこと言うわね、弥生。仮にサンタだろうが大仏様だろうが、それがボスなら、叩きのめさなきゃクリア報酬はゲットできないんだから』


『うむ。それにこんな無人の村に現れるサンタなど、まず間違いなく偽物だ。斃してしまって問題無かろう』


『……気分的に乗らないってだけで、本当に巨大サンタが出て来たらちゃんと戦うけどさ~』


 この時、サクラ組の四人は内心で「戦うのかよっ!」と、ツッコミを入れていた。逆にマーチトイボックス(弥生のおもちゃ箱)のメンバーは、さもありなんと納得している。


『まあ、何が出て来るかはまだ分からないけど、とにかく私らはゲレンデに急ごう』


『了解よ』『オッケー』『承知』


『私はもう少しリフトに乗ったまま、様子を見ることにしますね。では、連絡を終わります』







 弥生たちマーチトイボックス主力メンバー四人が広場で合流したのと、その上空に大きなソリらしき乗り物が到着したのはほぼ同時だった。


 暗くて良く見えないなと四人が思っていると、それに応えるようにこれまで沈黙していたスポットライトがソリに向けて照射された。


「ん? スポットライトが全部点かねーな? 三つだけだ」


 ソリを照らすライトの数に悠司が疑問を口にするも、その疑問はすぐに解消された。スポットライトが全部で十個だったために、恐らく点灯させたイルミネーションのパーセンテージと連動しているのだろうと予測できたからである。


 闇夜に浮かび上がったソリらしきものは、サンタクロースのソリ――トナカイに引かれるアレである――とは明らかに異なっていた。まず一番大きな違いは、トナカイなどの動物に引かれていないという点だ。そしてその代わりなのかソリ本体に動力が付いているようで、キャタピラやジェットエンジンのようなノズルが付いている。


「うーむ、ソリというよりはスノーモービルのようだな、アレは」


「そね。トナカイより速そうだけど……、なんか風情が無いわねぇ」


「だよね~。あれにサンタが乗ってたらちょっと興醒めだよ」


「ってか、妙にカッコいいデザインなのが腹立たしいな」


 ――どうも弥生たちには不評のようである。


「ところで清歌は今、どこに居るのかしら?」


「明かりの点いてないリフトの支柱があと一本あるから……あ、今点いた。多分あの辺に居るんじゃない」


「清歌さんの事だから、きっと頂上まで行ってから降りて来るんだろうなぁ」


「降りて来るって……どうやって?」


「さて、それは分からんが清歌嬢ならばどうとでもするだろう。それよりも……来るぞ」


 鈴の音が止まったことに気付いた聡一郎が注意を促すと同時に、ソリから何か大きなものが飛び降りた。スポットライトの照射もしっかりそれを追いかけている。


 ズズゥーーーンッ!


 広場の真ん中辺りに着地すると、大きな地響きとともに雪煙が大きく舞い四人の視界を奪う。もうもうと雲のように舞う雪の中からゆっくりと立ち上がったのは、身長六メートルほどの白い巨人だった。


 幅も厚みもあるでっぷりとした体形に短い手足。丸い頭にはシンプルな形で目と眉と口が描かれていて、バケツを被りマフラーを巻いていると来れば、いわゆる雪だるまとは異なるが、これもまたスノーマンと言っていいだろう。そしてなぜか手には大きな袋――それこそサンタクロースがプレゼントを入れているようなものだ――を持っていた。


 身長こそ巨大ボスと言うには少々低めではあるが、その体形から感じる重量感はなかなかの威圧感である。また取って付けたように書かれている顔は微妙にゆるキャラっぽいのだが、下から照らされるライトの影との組み合わせで妙に不気味な印象になっている。


 それぞれ武器を構えて四人はスノーマンの出方を窺う。今回の役目はまず足止めなので、先制する必要はないのだ。


 四人が見守る中、スノーマンは袋を地面に降ろすと器用に体を屈めて袋の中をガサゴソと漁り始める。そうして取り出したのは、キラキラと光る派手な柄の巨大な円錐状の物体だった。どう考えても袋の中に入らないだろう――というツッコミはさておき、先端から紐が伸びているそれは、パーティーなどでよく使われるクラッカーであった。


 スノーマンが真上に向けたクラッカーの紐を勢いよく引っ張ると、乾いた破裂音と共に、色とりどりのモールと紙吹雪が大量に放出された。スポットライトの光をキラキラと反射して、思わず見入ってしまう程綺麗だ。


 ――が、これもボスの攻撃の一環である以上、ただ綺麗なばかりであるはずがない。案の定、紙吹雪の中に隠れて、火花を散らす導火線の付いた黒くて丸いマンガ的爆弾を沢山あった。


「一旦広場の端まで退避~!」「了解!」「分かった!」「応!」


 クラッカーはほぼ真上に向けられていたので、爆弾の届く範囲はそれほど広くないはずだ。弥生の予想通り、爆弾はスノーマンの比較的近くに散らばり、次々と小さな爆発を起こし、再び雪煙が舞った。


「お~……、こいつはド派手なパーリィーになりそうだぜ!(キリッ)」


 キメ顔でアホなことを言い出す悠司に、弥生ががっくりと肩を落とす。


「ナニ言ってんの悠司。あんな見た目でもレイドボスなんだから、気を抜いてると足元をすくわれるよ」


「おっと、これは失礼。……で、方針はライトが五つ点灯するまで時間稼ぎってことでいいのか?」


「うん。予定通り、その方針で行こう。あ、みんなMPがいつもより少ないことを忘れないようにね! 下手するとあっという間に枯渇するよ」


「節約しろってことね」「オッケー、分かってる」「自力で闘えという事だな。腕が鳴る」


 こうしてクリスマスイベント初回のボス戦が始まった。




 見てくれこそ巨大化させたゆるキャラのようなスノーマンではあるが、曲がりなりにもレイドボスだけあって手強かった。


 とにかく攻撃が多彩なのだ。基本的な攻撃は雪玉や、例の袋から様々な攻撃アイテムを取り出して投げつけて来るものだ。ただそれらを掻い潜って接近しても、体全体を倒して押しつぶそうとして来たり、両足をくっ付けてコマのように回転したりしてきて対応して来る。また上半身のみを回転させて、全方位へ雪玉を飛ばして来る攻撃というのもあった。


 最初から時間稼ぎを目的にしているからどうにか戦闘を維持できているのであって、そもそも十二人で戦うことが前提のボスを、四人で相手取るのはどだい無茶な話なのである。


 スノーマンが再び袋の中をガサゴソしだしたタイミングで、絵梨が今更ながら感じたことを言った。


「それにしても全然あの場から動かないけど、こんなことなら全員でイルミネーションを点けて回った方が良かったかしら?」


「う~ん、それはどうかな? 最初っからそうすると、あのソリに乗って空から攻撃してきそうな気がしない?」


「……ありそうね。さて、お次は何を出してくるのかしら……って」


 スノーマンが袋から取り出し、肩に担いだモノを見た絵梨は唖然とした。グリップの付いた筒状の装置の先端に弾頭が取り付けられたそれは――


「なんじゃ、ありゃ……」


「うむ。少々デフォルメされてはいるが、ロケットランチャーだろうな」


「や、そりゃ分かってるんだが、そういう事じゃなくってだな……」


 そう、某ホラーゲームにて使い捨ての最強兵器として登場するロケットランチャーであった。


 聡一郎が言ったようにかなりデフォルメされていて、見た目はおもちゃのようになっているが、逆に弾頭部分がずんぐりとした形に巨大化されている。しかもご丁寧にドクロマークまで描かれていて、何とも不吉な感じである。


 スノーマンがロケットランチャーを構えてニヤリと笑う。弥生たちが四方に散ろうとしたまさにその時、カーンという音がしてスノーマンの被っていたバケツが手前に落っこちた。


「はい?」「な、なに?」「なんだ?」「む? 一体どこから……」


 スノーマンがぐるんと上半身を百八十度回転させると、今度はレーザーのように一直線に伸びる漆黒のブレスが体から頭にかけてをなで斬りにした。


 弥生たちが視線をゲレンデの方へ向けると、そこには雪に弧を描きながら颯爽とスノーボードで滑走する何者かの姿があった。遠くてはっきりとは分からないが、まず間違いなく清歌であろう。


「あの子ったら、結局頂上まで行っちゃったのねぇ」


「清歌さんがスノボを出来ることに今更驚きはないんだが……、ボードをどこで調達したんだ?」


「清歌の事だから玩具コレクションに持ってても不思議じゃないけど……、さっきのブレスから考えると、千颯の従魔依装で闇の武具を使ってるんじゃないかな?」


「ふむ、なるほどな。しかし、あの距離からバケツを撃ち落としたのだとすると、驚異的だな」


 実は聡一郎の推測は誤りであり、バケツを撃ち落としたのにはカラクリがある。


 広場に残したエイリアスからの映像で弥生たちの状況を見ていた清歌は、ロケットランチャーの狙いを自分の方へ引き付けるために、エイリアスにバケツを魔法で撃ち落とさせ、スノーマンが振り向いた瞬間にブレスを放ってあたかも自分が撃ち落したかのように見せかけたのである。完全に有効射程外のブレスが命中したのは、ただのまぐれである。


 バケツを撃ち落とされたのがよほどお気に召さなかったのか、眉毛を吊り上げた表情に変わったスノーマンが清歌を標的に定め、ロケットランチャーをぶっ放した!


 噴煙を残しながら弾頭がゲレンデへ向かって猛スピードで飛んで行く。誘導性のない弾頭を清歌は難なく回避するが、今度は爆発により発生した小規模な雪崩に追われることとなった。


 雪崩に追いつかれそうになったその瞬間、清歌は浮力制御をかけて大きくジャンプし同時に従魔依装を解除。そのままエアリアルステップで宙を駆け、一気にスノーマンへと肉薄する。


 アクション映画さながらのシーンを、固唾を飲んで見守っていた弥生がハッと気づき、仲間たちに支持を飛ばす。


「清歌に合わせて仕掛けるよ! 私と絵梨で足を崩すから、聡一郎と悠司で奴を地面に引き倒して! ミッスルゴーレム第一形態の時みたく!」


「なるほど、了解。じゃあ私は右足にファイヤーボールね!」


「オッケー! 頭に一発お見舞いすればいいわけだな」


「承知!」


 接歩でスノーマンの身体を駆け上がる聡一郎が、肩まで到達したのは清歌が頭の上に大剣モードのマルチセイバーを突き立てたのとほぼ同時だった。


「ブーストヘヴィーインパクトーッ!」「ファイヤーボール!」


 弥生のアーツが左足に、絵梨の魔法が右足に炸裂し、スノーマンがグラリとバランスを崩す。


「掌底破・双!」「ハンマーショット!」


 さらに頭には聡一郎と悠司のアーツが叩きこまれる。そしてダメ押しとばかりに清歌と聡一郎が頭を蹴って飛び降り、遂にスノーマンの巨体が大きく傾いた。


 どうにか倒れないようにと手をぐるぐる回して踏ん張っていたスノーマンであったが、こんなチャンスを見逃す者など居るはずも無い。弥生と悠司が通常攻撃をチクチク撃ちこみ、ようやくスノーマンが地響きを立てて地に伏したのであった。




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