#10―08
十二月十八日。クリスマスイベントを明日に控え、サクラ組の四人はお店に本日休業の札を下げて、スベラギの外へ戦闘訓練に出ていた。
<ミリオンワールド>を始めてから生産活動メインでレベリングしていた田村と近藤だが、一応外に出て採取と狩りも少しだけ行っていた。少しは冒険もしたかったから――というより、どちらかというとひたすら生産活動をし続けていると流石に飽きて集中力も落ちるので、気分転換の為に外へ出たかったのである。
そういった努力の甲斐あって、二人とも正式にギルド“サクラ組”に加入できたのではあるが、戦闘経験が圧倒的に少ないためクリスマスイベントに若干の不安があり、こうして今特訓中なのである。まあ、特訓とはいっても、戦闘中の立ち回りなどに関する注意点の確認が中心なので、戦闘そのものは厳しいものではない。
近藤は学者の心得――絵梨と同じ心得である――を選択したので、基本的な立ち回りは後衛からの魔法による支援と攻撃となる。問題は町人の心得を取得した田村の方だ。
町人の心得は、職人を除く町中での活動が主目的で、商売や料理、農業などをしたい者が選択する心得だ。料理人が職人に属していないのに若干の違和感があるかもしれないが、<ミリオンワールド>ではつい最近まで料理にはゲーム的な効果が無かったので、こちらに属しているのである。
町中での活動に絞っているだけあって、戦闘向けのアーツは初歩的なものを広く浅く取得するだけだ。初歩の魔法もいくつか覚えるので手札だけは多く、序盤は割と戦闘でも役に立つのだが、得意分野を取得して以降は、よほどのプレイヤースキルが伴わなければ戦闘で活躍するのは難しくなる。
余談だが、序盤に限って言えば従魔のいない魔物使いよりも町人の方が、手札が多い分戦闘に向いていると言える。ノンアクティブの魔物を従魔にする方法が特定できたとは言え、魔物使いの序盤が大変なのは変わらないだ。
さて、そんな戦闘面では器用貧乏である町人の心得を取得した田村は、ゲーム知識は天都に少々及ばず、身体能力はごく普通レベルである。要するに弥生のようなゲーム知識も、清歌のような高い身体能力もない、ごく普通のインドア派女子高生なのである。そして初期装備として選択したものが――
「なんていうか、ソレもちゃんと武器になるんだな……一応」
「そうだね……。でも田村さんは、なんでソレを選んだの?」
「武器……っていうか、あったら便利かなーって思ったから。ほら、お店に庭があるじゃない? そのうち家庭菜園もやってみたいなって思って。鍬もあったんだけど、そこまで広い畑を作るわけじゃないし、こっちの方が使い勝手がいいかなーって」
「あー、そういうこと」「それでスコップ……」
そう田村の傍らに突き立てられているそれは、現実の方でもホームセンターなどに行けば簡単に手に入るスコップであった。雪かきなどに便利な先端が四角いものではなく、やや丸みをおびて尖っているオーソドックスなスコップである。確かに田村が言うように、ちょっとした家庭菜園の為に庭を掘り返すには、これで十分そうだ。
しかし武器として使えるとしても、スコップはスコップだ。ただでさえ能力値的に低いのだから、剣なり槍なりちゃんとした攻撃用の武器か、もしくは魔法を使う上で補正がかかる杖を選んだ方が良かったのではないかと、男性陣はビミョ~な反応である。
「私は最初、田村さんは武器としてスコップを選んだのかなー……、なんて思っちゃったんだけど……」
「天都さん? いや、でも……、だってスコップだよ?」
「もちろん攻撃力自体はちゃんとした武器よりも低いだろうけど……」
ライトノベルなどにおいて、スコップは万能型の武器として扱われることがままある。だいたいは武器として使えるように先端にかけて鋭利に改造し、斬って良し、突いて良し、叩いて良し、ついでに本来の使用法である穴掘りにも使えるという便利武器――という具合である。つまり短槍や斧の亜種という位置付けだ。
天都にはそういう作品のことが念頭にあり、田村もそう考えて選択したのかと思ったのだが、それはただの深読みだったようだ。
<ミリオンワールド>においてスコップは、打撃と刺突の属性を持つ武器として使用することが出来る。頑丈な造りになっているため武器の長さの割には重めで、女性では片手で振り回すのは少々厳しい。
田村はこれを振り回し、たまにアーツを交えて戦っていた。ウサギやカピバラ相手ならばこれでも問題無いが、はっきり言って火力不足であり、同じくらいの大きさと重さの武器ならば片手斧を使った方が良い。――というか、やはりスコップはあくまで“道具”であり、そもそも武器として使う方が間違っているのだ。少なくとも<ミリオンワールド>では。
四人パーティーを組んでの戦闘訓練でそれが判明し、天都は――田村ではない――肩を落としていた。
「スコップ万能武器説は<ミリオンワールド>では成り立たないんですね……」
「まあ……、そりゃあねぇ……」
「僕はスコップのことは知らなかったけど、丸太とかも実際武器として使うのはどうかって思うよな」
「……っていうか、武器なんて普通には手に入らない現代日本だったら、スコップとか丸太を武器にするのも分かるけど、ゲームとかのファンタジー世界でちゃんとした武器を使わない理由が良く分からなくない?」
実際にスコップを武器として振り回していた田村が、自己否定するような、しかし同時に至極まっとうな意見を述べた。彼女はあくまでも、家庭菜園用の道具としてスコップを選んだので、自分でもこれでボスに挑むのはアホだなと思っていたのである。
「えっと……、それは何ていうか、なんでそんなのを武器にしてるんだと馬鹿にしてくる人たちを、実際に無双して見せてギャフンと言わせるところに浪漫があるというかなんというか……」
浪漫とはつまり趣味的なものであり、一般的な価値観やスペック上に現れないところに価値を見出すことである。天都の発言は、反論しているようで田村の常識論を認めているとも言えよう。ただ、この“浪漫”発言には三人とも一定の理解を示した。
「あー、そういう浪漫は分かるかもな。魔法全盛の世の中で、馬鹿にされつつも刀一本で成り上がっていく……とかな」
「確かに異端だけど、実際にはとても強いっていうのはカッコいいよね」
「あとは……当たり前のスキルを工夫して使って無双するとかもね」
「まあ、メタなことを言っちゃうと、そういう事をするのは物語の主人公だからカッコよく描写されてて当たり前なんですよね」
「「「あ~~~」」」
天都の言うように、異端なことをするのは必ずと言っていい程物語の主人公だ。というか、そういう普通とは違うオンリーワンがあるからこそ、物語の主人公たり得るのである。
「……あれ? でも考えてみれば、スコップを使う人が槍とか斧を使ったらもっと強くなるよね? スコップを使う物語上の必然性は……」
自分でメタな発言をしたことから連鎖的にスコップの浪漫についての矛盾に思い至り、天都が何やら自問自答を始めてしまう。
「天都さん……? あ・ま・と・さーん! 今はフィクションの話は脇に置いとこう。ともかく田村さんは、どっちかって言うと前衛よりの立ち回りをしたいんだよね?」
これ以上深く掘り下げると、天都が簡単に帰れなくなりそうだと危機感を持った五十川が少々強引に話を戻した。今問題にすべきは物語や浪漫ではなく、田村のメイン武器についてだ。
「ええと……、どっちかって言うとそうかな。まあ、もっとレベルが上がってからの話だけど、スキル構成的には町人の戦闘時の役割って、アイテムを使っての戦闘支援だと思う。プレイヤースキルがある人なら遊撃も可、って感じかな?」
「今回のイベントはレベルが無くなって一定の強さになるし、アイテムも持ち込めないから、戦闘支援は無理だよね」
「うん。今の手札は前衛でも後衛でも同じくらいの数なんだけど、魔法使いの立ち回りは全然練習して無いから……」
「そっか。ってことは、やっぱり問題は武器だな。あ、スコップに拘りがあるとかは……」
念のために尋ねた五十川に、田村は笑って首を横に振った。
「ないない、ぜーんぜん無いよ。単にウサギとかカピバラくらいならこれで十分だったから使ってただけ」
「……ですよねー。はぁ、スコップ無双……」
未だに変わった武器でバッタバッタと敵を薙ぎ倒す浪漫を夢見ていた天都が小さく溜息を零し、それを見た三人が思わず吹き出す。
「あはは。<ミリオンワールド>じゃ、スコップで無双は無理っぽいね。……で、田村さんは何を使いたい?」
「スコップの間合いと重さに慣れちゃったから、それと同じくらいの槍か斧にしようと思う。ただ、予算が……ね」
カフェトイボックスはかなり順調な滑り出しではあるが、玩具アイテムの売り上げが占める割合が大きく、カフェとしての売り上げはさほど多くない。まして自分で自由にできるお金となると微々たるものだ。正直言って、今新しい武器を購入するのは、かなり痛い出費である。
今回のイベントは、まともに戦闘が出来ないプレイヤーでも、イルミネーションのスイッチを入れる役目でパーティーに貢献できるようになっている。なので、田村もその役に徹すれば武器など買う必要は無い――のだが、ゲームを始めて最初のイベントなのだから、どうせならボスに直接ぶつかっていきたいと思うのだ。
実は一つ、解決策があると言えばあるのだが、あまり頼り過ぎてしまうのもどうかと思い、四人ともが口に出せないでいた。
しかし考え込んでいても何も始まらない。ダメ元で頼んでみて、断られたらそのときは改めて買うかどうか検討すればいい。そう考えた田村は、メールのウィンドウを表示させつつ口を開いた。
「やっぱり委員長さんたちのとこに頼んでみる。頼りっぱなしで悪いとは思うんだけどね」
「ごめんね、田村さん。私と五十川君は初心者支援ってことで、かなり良い装備を貰っちゃったから、私たちからは頼みづらくって……」
「ううん、全然。そもそもこれは私の問題だから、私からお願いするのが筋だもん」
そう言いつつ田村は武器製作依頼のメールを入力し、弥生宛てに送信した。
サクラ組が四人での戦闘訓練をしていたその頃、マーチトイボックスの方も年少組を加えての連携を確認しているところだった。
その場所に選んだのはイツキにある、浮島から滝が流れ落ちる湖の一つ。ターゲットは首長竜型の魔物で、名をレッサーレイクドレイクという。レッサーとなってはいるが仮にも竜の仲間であり、今の凛と千代だけで挑むのはかなり無謀な相手だ。清歌たちの探索で発見したイツキ北側に棲息する魔物の中では、最強の存在である。
ただ今回は、人間よりも大きく耐久力もある相手に対する連携と立ち回りの訓練が主目的なので、凛と千代ではまともなダメージを出せない相手でも問題無い。というかレイドボス戦を想定した仮想敵としては、このくらいで丁度いいのである。
さて、<ミリオンワールド>ではパーティーの上限は基本的に六人であり、マーチトイボックスの全メンバー七人では一人あぶれてしまう。こういう時に単独行動をするのは清歌であり、今回も空飛ぶ毛布に乗って上空から全体の様子を観察していた。
レッサーレイクドレイクは基本的に水棲の魔物であり、泳ぎが上手く長時間潜水も出来るため、例えば舟に乗っている時に遭遇した場合は苦戦を免れないだろう。反面、足がヒレ状になっていて陸上での移動は不得手なので、この魔物を狩る時は水際までおびき寄せるのがセオリーである。
そのセオリーに則り、湖面から頭を出していた個体を悠司が狙撃する。怒ったドレイク(略称)は雄叫びを上げると、一旦湖の中に潜り姿を消した。少々意外な行動に六人が身構えていると、水飛沫を上げて湖面から跳び上がったドレイクが水際に地響きを立てて着地した。
「おっきいねぇ……ちーちゃん」「うん。凄くおっきいねぇ……」
始めて見る巨大な魔物の威容に、凛と千代がぽかんと口を開けて見上げている。
巨体から長く伸びた首をもたげて六人を見降ろす頭の位置は、四メートルはあるだろう。二人がこれまでに相手にしてきた魔物は、せいぜい大型犬くらいまでの大きさだったので、これは破格の大きさである。
「はいはい、二人とも、ぼ~っとしない。戦闘は始まってるんだよ~」
固まっている妹たちを弥生が窘めるも、その口調は微妙に暢気で緊張感がない。収穫祭イベントでは超巨大なミッスルゴーレムを相手にしている弥生たちにとって、もはやこの程度の魔物は驚くに値しない。また余程の大ポカをやらかさない限り負けることは無い相手なので、リラックスしていられるのだ。
喝を入れるという意味では効果に疑問があったが、凛と千代は適度に緊張がほぐれたようだ。二人は深呼吸してから武器を構え、ドレイクを見据えた。
「もう大丈夫! 前衛の人からバフを掛けます!」
「私の攻撃では、たぶん大したダメージは出ないですね。少し離れたところから攪乱します!」
「オッケ~。じゃあ私らは一気に片を付けないように、アーツは控えめで行くよ。凛はバフが途切れないように気を付けて! 千代ちゃんはタゲを取ったら回避に専念するように!」
「うん、分かった!」「はい。分かりました!」
地上に上がったドレイクはその場で旋回することと、時折上体を上げてからの叩き潰し以外は体を動かすことはなく、首を振っての噛みつきと水属性のブレスによる攻撃をしてくる、いわば固定砲台のような相手だ。
序盤は銃撃に気を取られるあまりダメージを受けていた千代も、ある程度攻撃パターンがつかめた後は、間合いを上手く取って回避しつつチクチクと撃てるようになっていた。
一度、回転と同時に尻尾で薙ぎ払う攻撃の直撃を受けて吹っ飛ばされ、HPが危険域になったが、回復後すぐに戦線に復帰していた。なかなかの根性である。ちなみにこの尻尾攻撃、聡一郎は華麗にジャンプで躱し、弥生は防御して多少吹っ飛ばされるもののダメージそのものは殆ど無かった。生身の運動神経は千代より低い弥生がちゃんと反応できていたのは、やはり経験の差と言えよう。
さて、今回の戦闘は連携の訓練が主目的だが、他にもう一つ目的があった。
「では、ちょっと試してくる。ステップ、接歩!」
ステップでドレイクとの距離を一気に詰めた聡一郎が、収穫祭イベントの個人報酬で貰ったアーツを発動すると、足に――正確には足の裏に円い波紋が広がるような光が現れた。一歩ずつ光る波紋を残しつつ、聡一郎が巨体の側面を駆け上がり、背中へ、そして長い首の上を敢えて螺旋を描くように走り抜け、遂には頭部へと到達した。
「お~、凄いね~! なんだか聡一郎が忍者っぽい」
「ふわぁー……、あれもアーツなんですか?」
「そうよ。イベント報酬でソーイチが貰った移動系アーツね」
聡一郎が使用したアーツ<接歩>は、発動してから一定時間、どんなところでも――それこそ九十度以上のオーバーハングだろうが天井だろうが歩けるようになるというものである。ちなみに接歩という名だがちゃんと走っても大丈夫であり、例えば天井を走って両足が離れても落下することは無い。意識的に飛び降りようとしない限り落っこちることが無い便利仕様である。
このアーツの肝は継続的に発動するという点で、つまり接歩を使用しつつ別のアーツを使用できるのである。ゆえに今回のように巨大な敵に取りついて、近接アーツを叩きこむという事が可能になったのである。
振り払おうと頭を振るドレイクの頭の上で、聡一郎はアーツの有効時間ギリギリまで蹴たぐり回し、最後に掌底破を一発お見舞いしてから飛び降りた。
エアリアルステップで勢いを殺して着地した聡一郎を、地上の弥生と千代が迎えた。弱点である頭部に掌底破の直撃を食らったドレイクは、現在気絶中である。
「おかえり~。で、使い心地はどうだった?」
「うむ。詳しくは後で話すが、巨大な魔物相手ではなかなか使えそうなアーツだ。一応飛燕弾もあるが、やはり近接攻撃の方が強力だからな」
「走ると光る波紋が残るのが素敵でした! じゃあ、次は私の番ですね。アタッチメント、オン!」
千代が発動させたのは、突発クエストの報酬で獲得した武器強化機能だ。千代がキーワードを言うと同時にリボルバーが宙に浮き上がり、どこからともなく現れたパーツがガションガションと組み合わさってバレルにスコープ、グリップ、ストックなどを形成していき、リボルバーに合体していく。そして完成したのは立派な、そしてちょっと近未来的な雰囲気を醸し出しているライフルだった。――もはやリボルバーの面影はどこにも見当たらない。
千代が獲得した機能は、弥生が手に入れたものに近いと言える。使用している射撃武器に機能を追加するのである。リボルバーの場合は狙撃仕様となり、射程と命中率がアップすると同時に、リボルバー六発分の威力のある弾を発射できるようになる。さらにアーツの威力も向上する。ただその代わりに、一発ごとにリロードが必要になるので連射は不可能で、また非常に大きく重くなるのでこれを持って走り回るのはかなり難しくなる。なおこの機能にクールタイムは無いが、発動の度にMPを消費する。
千代が完成したライフルを手に取ると、ズシリとした重みを感じて慌てて両手で持つ。「ちょっと重いかも……」などと呟きつつ、両足をやや開いてしっかりと構え、ドレイクの頭に照準を合わせる。
「いきます、ハンマーショット!」
ダンッ! と大きな音を立てて弾丸が放たれ、光る奇跡を残しつつドレイクの頭へと吸い込まれ、大きく後ろへと仰け反らせた。
既に残り僅かとなっていたドレイクのHPはこれで完全に無くなり、断末魔の叫びを上げてからズシンと地に伏せ、やがて光の粒となって消えていった。
「よしっ、戦闘終了~! みんなお疲れ様~! 凛と千代ちゃんも格上相手によく頑張ったね」
「えへへ、そうかな?」「ありがとうございます」
戦闘終了後、田村からのメールを受け取った弥生は、仲間たちと相談の上で依頼を引き受けることにして、悠司をサクラ組へと派遣することにした。
現実の友人とは言え別ギルドを優遇し過ぎるのは、本当のところはあまり良くない。ただ今回は、イベントの初日に一緒に参加する約束をしているため、自分たちの戦力アップにも繋がるからという理由で引き受けることにしたのである。
「それじゃあ、俺はちょっくらサクラ組に出張して来るわ」
「うん、よろしくね。あ、そうだ、こっちはこれからさっきの反省会をするんだけど、悠司からは何かある?」
「俺からは特に無い……こともないが、多分上から見てた清歌さんから説明してもらった方が分かりやすいと思うんだが……」
悠司がアイコンタクトを取ると、清歌は心得たという感じに頷いている。どうやら清歌にはそれで意図が伝わったらしい。
「ナニよう……、二人で分かっちゃてるような雰囲気を作っちゃって~」
「ふふっ、弥生さんったら。別に私と悠司さんだけというわけでは無いと思いますよ?」
「そね。私も分かったわ」「……恐らくだが、俺も分かったと思う」
「え~っ、そうなの? ……まあいっか。とにかく私らは一旦ホームに戻って反省会をするよ」
ホームへと帰還した悠司を除くマーチトイボックスの六人は、早速先ほどのレッサーレイクドレイク戦の反省会を始めた。雪苺の従魔依装をした清歌が上空から多角的に動画を撮影していたので、それを再生しながらである。
ちなみに場所は中央の花畑。六人が並んで腰を下ろし、それぞれお気に入りの魔物を抱えたり、寄り掛かったりしているのは、もはや当たり前の光景である。
余談になるが、カフェ・トイボックスで従魔たちが働く(?)のは、清歌のログイン時間と営業時間が被っている時のみとしている。あくまでも気分の問題なのだが、営業時間外のガランとした誰もいない店内に、可愛がっている従魔たちを置き去りにしたくないのだ。主である清歌がログアウト中、従魔がどうしているのかは不明だが、なんにしても他の従魔もたくさんいて広い浮島の方が過ごしやすいのは確かだろう。
「例えば……ここですね。ドレイクの注意を上手く引きましたけれど、後ろにいた悠司さんと絵梨さんもブレスを避けています。千代ちゃんは弥生さんのように受け止めるタイプではありませんから、自分の後ろにいる人のことも考えられるといいですね」
動画を一時停止して清歌が説明すると、千代が神妙な顔をして頷いた。
「なるほど……。ありがとうございます、お姉さま。……うーん、でもそれって結構難しいですよね……」
「千代ちゃんのポジションは中衛っていっても前衛寄りだから、あんまり神経質に考えることは無いと思うよ? もちろん出来るようになるに越したことは無いけどね」
「っていうか、お姉ちゃんはソレ、ちゃんとできてるの?」
普通のゲームならともかく、VRで姉にそんなことが出来るのだろうかと思った凛が、疑わしそうな表情でそんな疑問を投げかける。それに答えたのは、弥生ではなく清歌であった。
「弥生さんはちゃんとメンバーの位置を把握していますよ」
「清歌お姉さま……。本当に?」
「ちょっと凛? ナニよその言い方は……。うん、まあそれほど正確な位置を把握してるわけじゃないけど、大凡の位置はね」
弥生は基本的に攻撃を受け止めるタイプなので、避けた後の流れ弾の被害を考える必要は無い。が、パーティーリーダーとして、仲間の位置は都度確認している。目視だけでなく、仲間からの声、攻撃や支援が飛んでくる方向など、手掛かりは結構沢山あるのだ。
弥生はそんな風に説明したが、自分も戦闘中という状況では言うほど簡単なことではない。それが自然にできている辺り、弥生にはリーダーの資質があると言えよう。
想像していたよりもずっと頼もしかった姉の姿に、凛が「ほえ~」と妙な声を上げて尊敬の眼差しを向ける。
「どうしたの? 口を開けっぱなしはみっともないよ?」
「お姉ちゃん……、ちゃんとギルマスやってたんだねぇ……」
「ちょっ、凛~? それってどういう意味? ……っていうか、じゃあ今まではどう思ってたのよ?」
「え!? えーっと、それはその……、だから~……。てへ」
お茶目に舌を出して誤魔化す凛を見て、弥生はガックリと肩を落とし、隣に座っている清歌の肩にコテンと頭を預けた。
「う~、清歌~、なんだか妹が酷いこと言うよ~。ちょっと慰めて~」
「ふふっ……、もう弥生さんったら。……ヨシヨシ」
わざとらしく嘆く弥生に付き合って、清歌が頭をナデナデする。
「ちょっ!? お姉ちゃん、ズルいー」
「ズルくありませ~ん。私は妹の心無い言葉で傷ついてしまったのです。だから清歌に元気づけて貰ってるのでーす」
「くぬぬ……、う、羨ましい~」「私もかなり羨ましい……」
「フフフ、何やってるんだか(ニヤリ★)」「ナ~」「…………」
何やら妙なコントを始めた四人に、絵梨は人の悪い笑みを浮かべ、飛夏が呆れたような鳴き声を上げ、聡一郎は微妙な表情で黙するのであった。
次週の更新はお休みさせていただきます。次の更新は2018年1月11日の予定です。
それでは皆様、良いお年を。