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ミリオンワールド!  作者: ユーリ・バリスキー
第十章 凛&千代、参戦!
133/177

#10―03




 天都と五十川の二人は、今日も今日とて冒険者協会で受注したクエストをこなしつつレベリングに勤しんでいた。この調子で行けば今日か、遅くとも明日中にはレベル二十に到達し、自分たちのギルドを立ち上げることが出来るようになるだろう。


 ちなみに清歌たちからのアドバイスに従い、移動系アーツは――天都はスキル屋でいくつか購入、取得した――早めにレベルを上げておき、突発クエストは既にクリアしている。


 天都はチャージ時間が非常に長く、しかもその間動けなくなる代わりに非常に強力な砲撃魔法を、五十川は任意の時間パーティーメンバー一人のダメージを肩代わりするという防御系アーツをゲットした。全くの偶然なのだが、コンビネーションで使用すると実にぴったりハマる組み合わせであった。


「チャージできました! 五十川君、お願い!」


「任せろ! シールドバッシュ!」


 シールドを叩きつけるシールドバッシュというアーツには、スマッシュほどではないが敵を弾き飛ばす効果がある。この間身動きが取れなくなるため、タイミングを上手に合わせれば砲撃魔法が確実に命中するのである。


 五十川のシールドバッシュで飛ばされた蜘蛛――ヒュージスパイダーが木の幹に叩きつけられた。そこを狙い澄まして天都がチャージしていた魔法を解き放つ。


「ブレイクシュートッ!!」


 なぜか両手持ちの杖をほぼ水平になるように腰だめに構え、どこぞのリリカルな魔()少女のように砲撃をぶっ放す。余談ながら魔法の名称はブラストシュートであり、天都の台詞は自分で設定したキーワードである。ちなみに弥生の使っている破杖槌の砲撃魔法は、この魔法のダウングレード版である。


 巨大蜘蛛が砲撃の直撃で木にはりつけにされ、しばらく八本の脚をジタバタさせてもがき苦しんだ後、光の粒となって消えた。これにてクエストは完了である。


「おつかれー」「うん。お疲れ様―」


 二人は互いを労ってハイタッチを交わす。<ミリオンワールド>を始めた頃に比べれば、二人はとても自然なやり取りが出来るようになっている。これがちょっといつもと違う行動を起こそうとすると――具体的には互いの距離を詰めようとすると、とたんにぎこちなくなってしまうのは、まあよくある話である。


 差し当たって受注していたクエストはこなしたので、もう少しレベリングを兼ねて狩りをするか、あるいは一旦スベラギに帰還するかを相談していた二人の元に、弥生からの連絡が入った。


『こんにちは~。今、大丈夫かな?』


『はい、大丈夫ですよ』『ちょうど今、クエストをクリアしたところだからな』


『お~、それはいいタイミングだったね。実は二人にちょっとお願いがあるんだ――』


 弥生からの依頼は二人にも間接的に関係のある事で、それ自体はごく簡単なことだったのだが、イマイチ意味が分からないものだった。詳しく説明を求めたところ、妙に楽しそうな声で「それは来てのお楽しみってことで」という返事が来たので、恐らく悪い話では無いのだろう。


 ちょうどこれからどうするか迷っていたところだったので、二人はクエストの報告ついでに弥生からの依頼も受けることにして、スベラギへ転移した。




 冒険者協会でクエスト完了の手続きをした二人は、映画撮影に使用した店舗へと徒歩で向かっていた。


 二人が店舗へと転移できないのは、今はまだホームとして登録できていないためである。二人がギルドを立ち上げたら、マーチトイボックス(弥生のおもちゃ箱)と同盟――ギルド同士のフレンド登録のようなもの――として登録し、店舗を共用ホームとすることで初めて、二人もホームとして使用することが出来るのである。


 ちなみに同盟登録をしないで店舗を賃貸物件として貸し出すという方法もあるのだが、この場合だと店舗はあくまでも借りている側のホームとなってしまうので、清歌の従魔を放し飼いにすることが出来なくなってしまうのである。


「……考えてみると、あの店って商売をするにはちょっと微妙な立地だよな。メインストリートからは結構離れてるし、路地に入らなきゃいけないし」


 メインストリートの喧騒が聞こえなくなるくらいまで歩いたところで、五十川が今更ながらに感じたことを言う。ホームとしては静かな立地というのはプラスだが、商売をする上ではマイナスだろう。


 自分たち二人はカフェの方にはあまり関わらないつもりだが、田村と近藤はどう思っているのだろうかと、ふと気になったのだ。


「あ、それは私も気になって田村さんに聞いてみたんですけど、あんまりお客さんが多いと自分だけじゃ回せなくなっちゃうから、あの場所でちょうどいいって言ってましたよ」


「そっか。それじゃあレベル十になるまで二人には、あそこまで毎回歩いて通うことになるわけか」


「それはちょっと……面倒臭いかも。……あ、パーティーを組めば転移できるようになるから、その時だけ一時的にパーティーを組むっていう方法もありますよ?」


「へー、そうなんだ。それって離れた場所にいても出来るの?」


「うん。フレンドリストからパーティーを組む申請が出せるから」


「なるほど、そんな機能が……。いつも天都さんと一緒だから気付かなかったな」


「え……っと、たまには誰かに声を掛けてパーティーを組んでみますか?」


「あっ、いやいや! 別に天都さんと二人だけじゃダメだとか、全然思ってないから。むしろこれからも天都さんと二人でいいっていうか、その方が楽しいっていうか……」


 五十川が何やら必要のない言い訳じみたこと言い出すと、天都は目を円くして頬を赤く染め、それを見られないようにちょっとだけ顔をそむけた。


 余計なことを言ってしまったと思った五十川が、慌てて話題の軌道修正を図る。


「あ……あー、ま、まあ近藤たちが<ミリオンワールド>を始めたら、たまには外に誘ってもいいかもな。うん」


「そ、そうですね。折角<ミリオンワールド>を始めたんだから、冒険もしないとね。うん」


「…………」「…………」


 顔を見合わせて互いにへらっとぎこちなく笑い、二人はビミョ~な流れになった会話をリセットする。面倒臭いからさっさと一歩踏み込んでしまえ! と背中をドンと押したくなるような光景ではあるが、これは二人ともが踏み込んでしまった後の自分たちの関係を、まだイメージできないが故のことなので仕方がないのだ。


 最近では教室でもたまにこんなやり取りを見ることができるので、一部のクラスメートたちはニヨニヨと生暖かく見守っていたり、無責任に賭けをしたりしている。ちなみに清歌たちは前者の方だ。


「コホン。……え、え~っと、そう、それにしてもいったい何なんだろうね。突然、店に来てちょっと買い物をして欲しい……なんて」


「あ、あー、それな。店のシミュレーションは来週田村さんたちがこっちに来てからやる予定だったしな。今やる必要はないし……」


「だよね? それにシミュレーションをするつもりなら、そう言ってくれればいいんだし、わざわざ「買い物をして」っていうのが気になるんですけど……」


「……言われてみれば変だな。ってか委員長のあの感じは……、なんかサプライズを仕掛けてるような気がしないか?」


「あっ、そうそう、そんな感じだった! なんていうか……話したくてウズウズしているのをどうにか抑えてるみたいな」


「俺なんか、委員長の表情がヤバイくらい明確にイメージできたよ」


「……実はそれ、私もです」


「だよなぁー」


 二人揃って笑っていると、目的地であるお店が見えて来た。大通りからはだいぶ離れたところにある店は、隠れ家的な佇まいだ。最初ここに来たときなどは、よくこんな場所にある物件を探し当てたと感心したものである。


「さて、それじゃ」「うん。入りましょう」


 なんとな~くドアの前で躊躇していた二人は互いに声を掛け合うと、何が起こるのかちょっと身構えつつ店のドアを開けた。


 五十川が一歩足を踏み入れ、天都はその後ろからひょいと顔を出して店内を覗き込んだ。


 前に来た時から変化しているところには、パッと見ですぐ気が付いた。店内に並べられたテーブルの上にクロスが敷かれ、その上にマーチトイボックス(弥生のおもちゃ箱)の玩具アイテムが置かれていたのである。ただそれは商品の陳列というほどちゃんとしたものではなく、ただそこにあったテーブルの上に適当に並べただけという感じだ。


 弥生たちの露店を見に行ったこともあるのだが、あそこは限られたスペースを上手に使って遊び心のある、それでいてちゃんと見やすいディスプレイがされていて、見ているだけでも楽しめるお店になっていた。それを踏まえると、この陳列は正直言って手抜きというか、かなりいい加減な感じだ。


「あれ? 委員長たちはいないのかな?」


「そういえば、どこにもいませんね……って、あれは、何だろう?」


 弥生たちの姿が見えないことを不審に思い店内を見回していると、カウンターの向こう側から、白いモコモコした何かがよじ登って来るのが見えた。


 二人が固唾を飲んで見守っていると、そのモコモコした謎の物体はのんびりした動きでカウンターを登り切ると、ペタンと両足を投げ出して座った。ようやく全身が見えたそれは、一言で言うと真っ白なクマのヌイグルミだった。が、動いているのだから、恐らく魔物なのであろう。


「か……かわいい。動いてる……、モコモコしてる……。黛さんの従魔なのかな……」


「たぶん、そうなんだと思うけど……。あれを俺たちに見せたかったのかな?」


 なんとなく次のアクションが起こせずに立ち止まったまま、シロクマもどきを見ていると、こちらを向いて右手をピッと挙げ「モキュッ!」っと鳴いた。


「ファッ!」「ええっ!?」


 シロクマもどきが鳴いただけでは二人もさほど驚きはしない。なんと鳴き声に合わせて、シロクマの丸い頭の上にウィンドウが現れ、そこに『いらっしゃいませ!』と文字が表示されたのである。


 いや、ウィンドウというのは正確ではない。ウィンドウの角は丸く面取りされ、下辺には三角形に飛び出した部分がある。またフォントも通常よりも太く、丸っこい感じのものが使われている。――まさしく“フキダシ”そのものであった。


 MMORPGの全体に呼びかけるチャットでは、このような形でキャラクターの上に吹き出しが現れるものも少なくない。が、<ミリオンワールド>の中で見たのはこれが初めてだ。しかもそれを使ったのが魔物とくれば、驚くのも無理からぬことであろう。


「え、えーっと、あなたはここの店員さん、なんですか?」


 話が通じるかは分からないが、天都は取り敢えずという感じで尋ねてみる。


「モ、モキュー」『はい。私が店長の真白ましろです』


「「店長!?」」


 返事が返って来たところにも驚きだが、その上なんとここの店長だったらしい。二人は思わず声を上げてしまった。


「モモ、モッキュー」『では、ごゆっくりどうぞー』


 呆気に取られる二人に真白店長はそう声を掛けると、カウンターの上でコロンと寝っ転がってしまった。実にマイペースな店長さんである。


 たっぷり十秒もフリーズしていた二人は、どうにか自己解凍して店の中に足を踏み入れた。一人遊びをしている真白店長を眺めているのも和むのだが、弥生のお題は“買い物をする”ことなので、入り口付近で見ているだけでは果たせないのだ。


 テーブルの上に並べられた玩具アイテムの中から、五十川が木彫りの飛夏を手に取ってしげしげと眺める。


「それにしても良くできてるよな~、この木彫りの……ネコ? そういえば、あのパタパタ飛んでる魔物は一体何なんだろうな? 天都さんは知ってる?」


「一度聞いたことがあるんだけど、あの子は一応ドラゴンの一種らしいですよ」


「……へ、へぇー、ドラゴンね、ドラゴン……」


 五十川は手に持った木彫りの飛夏をいろいろな角度から見て、「ま、まあ羽があるしな」と呟くと、テーブルの上へと戻した。弥生たちのギルドのマスコット的従魔に、余計なツッコミを入れるのは控えたのである。


 そんな様子を見ていた天都は、クスリと笑うとコミカル野菜シリーズを手に取ってみた。


「こっちも凄いよくできてる……。コレクションしたくなりますね」


「うん、分かる。折角だから好きなモノを買って……って、あれ? 値札が無いな」


「あ、ホントだ。これいくらなんだろう?」


 値札か、もしくは価格の一覧表示でもないかと店内を見回していると、店長が寝っ転がったまま顔を二人の方へ向けて――


「モッキュモ、モキュー」『今日は特別で一人一つだけ、一〇Gですよー』


 と答えてくれた。清歌の従魔と思しきこの魔物はどうやら挨拶だけのお飾りなどではなく、ちゃんと店員として働いているようだ。


「もしかして、お会計もあの子がやってくれるのかな?(ヒソヒソ)」


「どうかな? でも他に店員はいないし、それしかないんじゃ……(ひそひそ)」


 顔を見合わせて小声で相談した天都と五十川は、それぞれカボチャ魔物フィギュアと木彫りの飛夏を手に取って、店長の傍まで近寄った。


「えーっと、これを買いたいんですけど……」


 おずおずと天都が切り出すと、起き上がりカウンターの上に座り直した店長が右手を前に差し出した。


「モ、モキュモキュ」『では、冒険者ジェムを私の手に翳してください』


「えっと、こう……で、いいのかな?」


 差し出された手のひらの上に冒険者ジェムを翳すと、チャリチャリーンという効果音と共に支払いが無事完了した。続いて五十川も支払いを済ませる。


「モキュー!」『ありがとうございましたー!』


「あ、ああ、いえ……」「こちらこそ、ありがとう……」


 カウンターに座ったままでペコリと頭を下げる真白店長はとても可愛らしく、普段ならば天都も高いテンションで「かわいい!」と声を上げるところなのだが、予想外の出来事が立て続けに起きた為に、ただ挨拶を返すことしかできなかった。


「二人とも、実験に協力してくれてありがとう!」


 どこか狐につままれたような空気を打ち破ってくれたのは、店に入ってきた弥生であった。







 ――少々時間を遡る。


 マーチトイボックス(弥生のおもちゃ箱)の五人は清歌の思い付きが本当にできるのかを検証してみるために、先ずスキル屋へ赴いてとあるスキルを購入、清歌が習得してから店舗へと移動した。そして自分たちで軽く試してみてから、何も知らない人の反応を見るために、天都と五十川に協力を求めたのである。


 五人は手分けしてテーブルの上に商品を適当に並べた後、目立たない場所に雪苺のエイリアスを二体残してバックヤードの一室へと隠れる。暫く待っていると、エイリアスからの映像に天都と五十川の二人が映った。


「あの二人、妙に警戒しているように見えるが……、一体どうしたのだ?」


 聡一郎の疑問に、悠司と絵梨の視線が弥生へと注がれる。


「な、なによう……私は普通に、店に来て買い物をして欲しいって伝えただけ……だよ?」


「はいはい、分かってるわよ。でもきっと、あの二人は言葉のニュアンスで感じ取ったんでしょうねぇ、不吉なナニかを」


 不満そうな弥生に対し、絵梨がしたり顔で推理を口にする。そしてそれに頷いていた悠司が追い打ちをかけた。


「まあ、弥生は考えてることが表情とか口調にすぐ出るからなぁ。きっと何かサプライズがあるんじゃないかって気付いたんだろう」


 ポーカーフェイスが苦手な自覚のある弥生は、二人の言葉に反論することが出来ずにぶすっとした表情になる。そんなちょっと子供っぽい仕草に清歌は微笑むと、膨らんだ弥生の頬をちょんと突っついた。


「ふふっ、素直なのは弥生さんの美点の一つなのですから、そんな顔しないでください。それに今回は、サプライズがある事が分かっていても、特に問題はありませんから」


「む~、まあ、そうだよね」


 そんなやり取りをしている内に店内では動きがあったようだ。カウンターの上に現れた真白の可愛らしさにまず驚き、さらに鳴き声と吹き出しで挨拶をされて身を乗り出すほどに驚愕している。


「あはっ、やっぱり驚いてるね~」


「フフッ……。ちょっと弥生、声が大きいわよ。向こうまで聞こえちゃうわ」


「あ、ごめんごめん。……でも、やっぱりあれは始めて見ると驚くよね~」


「テレビゲームなら普通のコトなんだがな~。<ミリオンワールド>で見ると違和感がハンパないわな」


 映像の中では天都が真白に店員なのかを尋ね、店長であると返答されてまたもや驚いていた。


「店長!?」「あら、あの子ったら……」「清歌の言葉を真に受けたのね」「ふむ、そうだろうな」「だとしたら、よくできてるなぁー」


 実は五人が本気で真白を店長にしようと考えたのではなく、店番を任せる際に清歌が「今日はあなたが店長さんですからね」と言っただけなのだ。映像を見ていた五人もびっくりしたのは、そういう理由である。


「それにしても、清歌はよくこんな使い方を思いついたよね~」


「ありがとうございます。気付いたのは本当に偶然ですけれど」


 従魔である真白が、吹き出しによって会話をしている不思議な光景。そのタネはレベルアップによって清歌が習得していた、<スキルエクスチェンジ>というタレントである。


 このタレントは、プレイヤーが習得したスキルないしアーツと従魔の能力とを入れ換えることが出来るというものだ。対象となる従魔は放し飼いにしているものも含めて全てである一方、従魔の身体が無ければ再現できないような一部の能力は対象から除外される。なお戦闘中に交換はできない。


 このタレントは割と最近身につけたもので、清歌はこれを使えば飛夏と二人で行動している時に浮力制御を使うことが出来ると思っていたのだが、その後従魔依装というある意味で上位互換のアーツを習得したことにより、使い道を考え直していたのである。


 そんな時に立ち上がった魔物モフモフカフェ開店計画。先ほど接客のシミュレーションについて話をしている時、もうだいぶ前のことになるがスキル屋で<店番>などのスキルもあったことを思い出した。


 ここで清歌はふと思いついた。スキルエクスチェンジはスキルを交換(・・)するものであり、それは見方を逆にすれば、従魔に(・・・)自分の持つスキルを習得させることが出来るということだ。もし従魔に店番スキルを習得させて、店の中で放し飼いにした場合、果たしてどうなるのだろうか――と。


 その結果はご存知の通り。店内でお客さんと買い物に関することのみ、吹き出しによる会話が可能になったのである。なお残念ながら一般的な雑談などには応じられず、ただ鳴き声を返すのみである。


 ちなみに店番というスキルは、自然な営業スマイルが出来るようになったり、お客さんから在庫を聞かれた時にすぐに分かったり、商品の詳細な情報が瞬時に分かったり、正確に暗算が出来るようになったりするという、地味ではあるが現実リアルにあったら結構便利そうなスキルだ。


 さて、スキルエクスチェンジで交換できる能力は一つだけであり、またそもそも同一スキルを複数習得出来ないために、店内に放し飼いにする従魔(・・)たちの中で、店番を覚えさせられるのは一体だけだ。清歌たちはいろんな従魔に店番を習得させて、店員(・・)に適している従魔をピックアップしていった。


 そうして最終的に候補に挙がったのが、ナップルリッスン、カクレガドリ、ジェリートマト、ユキミツグマだった。そしてこの中で見た目が可愛らしくてインパクトもあるユキミツグマを店員として、何も知らない人が訪れた場合の反応を見る実験をしてみることとなったのである。


 ちなみに、ナマケウサギも見た目では悪くなかったのだが、店番スキルを覚えさせても全く自分から動こうとせず、失格となってしまっている。反対に非常に良かったのが、一応試してみた雪苺だったのだが、こちらは清歌が常に連れ歩いているために店員にはなれないのである。なお特殊過ぎる飛夏のスキルは全てが対象外であり、従魔依装と同じく今回も仲間外れなのであった。







「――というわけで、二人に来てもらったんだ」


 品物を片付けたテーブルに飲み物とお菓子を広げ、今回の実験の経緯について弥生たちから天都と五十川に伝えられた。


 真白店長と話した時点で呼ばれた理由については察していた二人は、そこに至った経緯について聞かされて、なるほどと納得した。確かにそんな面白い使い方を発見したなら、誰かに見てもらいたくなるのも当然だ。開店前ということもあって、関係者である自分たちに白羽の矢が立ったのであろう。


「はー……、そういうことだったんだ。でもまあ、これで人手不足になるかもしれないっていう問題は解消されそうだな」


「うーん、逆に店長さんにお客さんが集中しちゃわないかな?」


「最初はそうかもしれないけどさ。そのうち皆だって慣れるんじゃないか?」


「ああ、そうですね。どんなにインパクトのあるものでも、何度も見るうちに慣れるからね。……はわぁ~、それにしてもモフモフはいいですねぇ~」


 天都は相も変わらずカウンターの上でゴロゴロしている真白をナデナデして、何やらうっとりとした表情をしている。どうやら猫カフェに行ってみたかったというのは本当のようだ。


魔物モフモフカフェ。これは行けますよ、絶対!」


 クワッと目を見開いた天都が力強く断言する。そして――


「もう大繁盛間違いなしです。現実リアルにも猫カフェや鳥カフェなどがあるし、ペット同伴可のカフェなんかもあるけど、どうしても二の足を踏んでしまうところがあるんです。田村さんとも話したんですけど、どういうシステムになってるのか良く分からないとか、常連さんばっかりなんじゃないかとかもあるけど、動物の居るカフェって本当に衛生面で大丈夫なのかなーっていうのも結構大きいと思うんですよ。その点、<ミリオンワールド>ならそういう心配はないですからね! それだけでも大きいのに、現実リアルでは触れない真っ白なパンダさんに触れる! しかも店長さんなんですから、これが流行らないわけがないです!」


 ――と、一気にまくし立てた。


 オタク気質の人間にありがちな、自分の好きなことに関しては非常に饒舌になるという特徴は、天都にも備わっていたようである。


 その勢いに弥生たちは目を円くし、カウンター上の真白も体を起こしてキョトンとしている。清歌ですら少し目を瞠っているというのに、五十川は驚いている様子はなく、「また始まっちゃったかー」という感じで苦笑していた。


「五十川はあまり驚かないのだな(ヒソヒソ)」


「あ、ああ、まあね。何度か見たことがあるから、もう慣れた(ヒソヒソ)」


「へぇー、天都さんは結構あんな感じになるのか?(ヒソヒソ)」


「いや、そんな頻繁じゃない。でもたま~にスイッチが入るんだよね……」


 モフモフ談義を始めた女性陣から離れた場所で、男子三人がヒソヒソ話をする。五十川はずっと天都と二人でパーティーを組んでいるだけに、彼女の色々な面を知る機会があったのだろう。


「そういえば、なぜか天都さんはすっかり信じちゃってるみたいだが、真白が店長ってのは今日だけなんだよな」


「えっ!? 違うのか?」「えーっ! 違うんですか!?」


 先ほど捲し立てていた内容の中で、ちょっと気になったことを念のために悠司が訂正しておくと、天都だけでなく五十川まで同じ反応をして思わずガクッとくる。一緒に行動をしていると、思考パターンも似てくるのだろうか?


 ともあれ、実際に店を回す田村を無視して、勝手に従魔を店長に据えるわけにはいかない。清歌たちは真白が店長と自己紹介したのは、店番を頼むときに掛けた言葉が原因で、今回限りの冗談のようなものだったと説明した。しかし二人は「魔物モフモフが店長というのはインパクトがある」と力説し、実質的な店長になるであろう田村にも提案――というか説得になるだろう――すると決意していた。


 なんとな~く、このまま真白が店長になりそうな予感がする、マーチトイボックス(弥生のおもちゃ箱)の面々なのであった。



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