#8―15 体育祭(前編)
真っ青な空にふんわりとした雲が一つ二つ浮かんでいる。降水確率はゼロパーセントで湿度も低く、絶好のお洗濯日y――ではなく、体育祭日和である。少々気温は上がりそうだが、屋外でじっとしているだけで汗が滲んで来るという程ではなく、ちゃんと水分補給すれば熱中症の心配もなさそうだ。
百櫻坂高校の体育祭は伝統的に開会式が短い。実行委員による開会の挨拶と選手宣誓、そして注意事項のアナウンスで終わりである。生徒全員は初めからそれぞれの応援席にいて入場行進などは無いし、全員揃っての準備体操などもやらない。そもそも午後まで出番がない者などもいるのだから、出場競技前に各自でウォーミングアップするように、というスタンスなのである。
「それにしても流石は晴れ女ねぇ……、よく晴れたこと」
水分補給やウォーミングアップに関するアナウンスを聞き流しつつ、絵梨が感心八割に非難二割といった口調で零した。チラリと横目で見た先に居るのは弥生である。
「弥生さんは、いわゆる晴れ女なのでしょうか?」
「う~ん……、よく言われるんだけど、それって同じ学校の人はみんな晴れ女とか晴れ男になっちゃうんじゃないかな?」
弥生はそう言って首を傾げるが、実際学校の行事以外の家族旅行や友人と遊びに出かける時にも雨に降られたことは殆ど無いので、彼女が晴れ女であることは間違いないだろう。ただ弥生にとってそれが良いことかと言えば、必ずしもそうではない。運動が苦手な彼女にとっては、雨天中止になる中学時代の持久走大会などは、いっそ大雨でも降って欲しいところだったからである。
それは絵梨も同じであり、先ほどの言葉に若干の非難が混じっていたのはそういう事情である。もっとも百櫻坂高校の体育祭は、時折降る小雨程度ならば決行、雨なら順延となるので、スケジュール的にも晴れて一発で終わるに越したことは無い。なので今回の場合は晴れ女ないし晴れ男を責めても、しょうがないのである。
アナウンスが終わり、競技に参加する者が移動を始める。弥生たちの出番はまだ先なので、「頑張って~」とクラスメートに声を掛けた。
「っていうか、体育祭はズル休みでもしなきゃ避けられない行事なんだから、往生際が悪いんじゃない?」
避けられない行事なのだから、運動が苦手なりに頑張って楽しむべきなのではないか? と弥生は思っているのだが、絵梨はイマイチ乗り気になれないようで――
「そね。ズル休みっていう手もあるのよね……」
――などと言いだした。
「え~り~~?」
「あ……、あー……あはは。や、やあね、冗談に決まってるでしょ?」
弥生にジトッとした目で睨まれ、失言に気付いた絵梨は笑って誤魔化そうとしている。弥生の受けた印象では四割程度は本気が混じっていたように思えた。
「も~。だいたい絵梨は楽そうな競技が一つだけなんだからいいじゃない。私は借り物競争がちょっと憂鬱だよ……」
「フフフ、ご愁傷様。委員長さんは大変ね」
「まあ、どんな競技でも始まってしまえば、意外とあっさり終わってしまうものですけれど……」
「そうそう! なんていうか、始まるまでがなんか気が重いんだよね~」
ちなみにここで言う参加競技数というのは、選択して参加する競技の数という意味であり、全員で参加する応援合戦やムカデ競争などは含まれていない。
「まあ、今更ぐちぐち言っても始まらないし、観戦と応援の方で楽しもうよ。……ってことで、どこに行こっか?」
百櫻坂高校の体育祭はグラウンドだけでなく、体育館をサブ競技場として使用して行われる。リレーや百メートル走といった花形種目や、借り物競争のように盛り上がる種目は全員が応援席につくが、ミニゲーム的な競技は体育館とグラウンドで同時進行するものもあり、そちらは自由に移動していいことになっているのだ。当然、クラスメートを応援するだけでなく、友人や彼氏ないし彼女の応援に行く者もいる。
余談だが実行委員の間では、前者をメイン競技、後者をサブ競技と呼んでいる。メイン競技の準備時間を捻出するためにサブ競技を配置したり、応援する生徒が上手くばらけるようにしたりと、毎年プログラムの作成には知恵を絞ることになるのだそうだ。
さて、現在行われている千五百メートル走と次の八百メートル走が終わると、しばらくはサブ競技が続く。いつものメンバーが出場する競技はまだ先のことなので、気楽に観戦と応援の予定を立てる三人なのであった。
清歌たち三人が――聡一郎は友人(もちろん男子)と一緒に行動している――体育館で行われていた競技の応援をしていると、出場選手の召集アナウンスが流れた。午前中のプログラムの真ん中に位置する、メイン競技の一つである。
「時間のようですね。それでは弥生さん、絵梨さん、行って参ります」
その選手である清歌が、軽く挨拶をしてから召集場所へ向かうべく振り返った。一見いつもと変わらない泰然とした雰囲気のようだが、実はとても楽しみにしているようだと、弥生と絵梨は理解した。
「あっ、清歌? えーっと、が――」
清歌を呼び止めた弥生は、思わず「頑張って」と声を掛けそうになって、すんでのところで言葉を飲み込んだ。競技に向かう選手に掛ける言葉としてはごく当たり前のものだが、今この状況では果たして適切なのだろうか? 必要以上にやる気を出させてしまって、水泳大会のチャンバラの惨劇を再現することになりはしないか。
かといって、「自重して」だの「手加減するように」だの、水を差すような言葉は友人としてもクラス委員長としても言いたくない。
――などと考えてしまい、呼び止めたものの次の言葉に詰まってしまう。
「弥生さん?」
清歌が首を傾げ、今日はポニーテールにしている艶やかな金髪がサラリと揺れる。ちなみにこの髪型、清歌は競技をする時だけ適当にヘアゴムで縛るつもりだったところを、弥生と絵梨の手によってポニーテールに纏められたのである。
あんまり長いこと引き留めておくことはできない。悩んだ末に弥生が選んだのは、こういう場面に相応しく、しかも上手くすれば自重を促せる――かもしれない――言葉だった。
「えっと、怪我にだけは気を付けてね。なんだか、結構ハードな種目だって聞いてるからさ……」
「ありがとうございます、弥生さん。ちゃんと油断せずに、気を付けて競技に臨むようにします。では、また後ほど」
「ええ、行ってらっしゃい」
弥生に心配して貰えたことが嬉しかったのか、清歌はニッコリ笑顔で応えると、スキップでもしそうな軽い足取りで、召集会場へと向かって行った。
清歌の姿が完全に見えなくなったところで、絵梨がおもむろに口を開いた。
「………………弥生、あなたねぇ」
「待った、絵梨。……それは濡れ衣だから」
「オーケー、分かったわ。じゃ、事実のみを確認しましょ。清歌がちょっとワクワクした感じで競技に向かった。弥生がそれを呼び止めて一声かけた。喜んだ清歌はさっきよりもヤル気を出した。……何か間違ってるところ、あるかしら?」
ぐうの音も出ないとはこのことか――という感じに、弥生はガックリと肩を落とした。ただ絵梨の指摘は確かに事実ではあるけれども、それは弥生が意図した結果ではないのだ。なので応援席へ向かって歩き出しながら一応反論しておく。
「でも、じゃあなんて声かけたらよかったのよ~。頑張って……とは言えないし、水を差すようなことも言いたくないし……」
「ああ、そういう意味では怪我をしないようにっていうのは、割と絶妙な言葉よね。……ま、どうせ結果は大差ないだろうから、気にする必要はないわよ」
「どういう意味よぅ?」
人のことを責めておきながら、気にする必要は無いとはどういうことかと、弥生はややブー垂れ気味に頬を膨らませる。
「だって、例えば自重するように言って、本当に清歌が多少手加減したとしても、圧倒的な大差が、普通に大差ってくらいに変わるくらいよ、たぶん」
「あ~、僅差になるってことは、多分無いよね。……ましてや勝ちを譲るなんてことは、絶対にしないだろうし」
「……というか考えてみると、借り物競争とは別の意味で不人気なコレが、清歌の得意分野だったっていう時点で、もう結果は決まってたってことじゃないかしら?」
「そっか……じゃあまあ、運命だから仕方ないじゃんっていう結論でオッケ~?」
「ええ。だからまあ、私らも無責任にあの子のことを応援するとしましょ」
午前のプログラムの山であるメイン競技、その名も“大障害物競走”は、毎年行われる名物競技の一つである。
体育祭の障害物競走に設置される障害というと、ハードルや跳び箱、平均台といった体育で使う道具類や、中をくぐるネットなどを思い浮かべるだろう。が、この大障害物競走の障害は、そんな生易しいものではない。
平均台は足の幅よりも狭いという通常よりもかなり細いもので、また跳び箱は高さが百六十センチもある大きな物だ。他にも切り株のような足場を次々と跳び移っていかねばならないゾーンや、いわゆる登り棒を横に配置したようなバー、ボルダリング風の急斜面――などなど、よくもまあこんなものを作ったものだと、妙な感心さえしてしまうようなコースなのである。
言うまでもなく、初めからこんなアホなスケールの競技だったわけではない。もともとはごく一般的な障害物競走だったのを、どうせならもっと盛り上がる種目にするべきだろうと、歴代実行委員の発案で徐々にスケールアップさせていき、最終的に悪乗りレベルにまでなってしまったという次第である。
結果、見る側がとても盛り上がる競技になると同時に、その難易度の高さ故に誰もが参加できる競技ではなくなってしまったのである。身体能力に優れている生徒たちの間ではある種の腕試しとして人気があるのだが、そんな生徒が必ずしも全てのクラスにいるわけではなく、毎年数名のリタイアが出るのももはや恒例となっている。
さて、今年の大障害物競走は、けが人が出ることも事故が起きることも無かったという意味では順調に進行し、遂に清歌の出場する最終組がスタートした。
普通と比較すればひどく大変なコースと言えど、所詮は素人が用意した障害物に過ぎない。普段からこれよりも遥かに難易度の高い、プロフェッショナルが作成したコースで鍛錬を積んでいる清歌にとっては、鼻歌まじりにクリアできる容易いものだ。
スタートラインについた清歌のお嬢様然とした佇まいから、こんな過酷な競技に出場させてしまって大丈夫なのかとザワついていた多くの観客も、軽々と危なげなく障害物を突破する姿に大きな歓声を上げていた。ちなみに普段あまり見られない清歌のキリッとした真剣な表情に、黄色い声を上げる者も一部混じっているようである。
『さて、遂に最終組となりました大障害物競走ですが、このレースの見所はどこでしょうか? 解説の赤峰さん』
『……オイ、態々俺に聞く必要あるのか、ソレ?』
『ですよね~。……え~、既に三つの障害を楽々とクリアしてしまった紫チーム一年の黛選手、この時点でもはや二位以下を大きく引き離してしまっています! 普通なら、このまま独走態勢となってしまうのか!? と言うところなのですが……』
『その台詞はちょっと白々しくねぇか? まぁ、彼女ならこの先も問題無いだろうさ』
『私も同感です。それにしても今年も四人の脱落者を出した大障害物競走なんですが、彼女を見ているとそんなに難しい障害物なのかという疑問が……おっと、既にレースを終えた選手からブーイングが飛んで来てしまいました。申し訳ありません。……正直言いますと、私にはとてもクリアできなさそうな障害物もあるんですが……ねぇ?』
『ねぇ……って言われてもな。俺が聞いた話じゃ、ここ数年は順番を変えることはあっても、障害物は同じものを使ってるらしいぜ。これ以上難易度を上げると、毎レース脱落者が出ちまうからってな』
『となると、普通に考えて上級生が有利なわけですが、彼女はそんなハンデなど物ともしていませんねぇ。……それにしても走る姿もキレイで見惚れてしまいます。ワタクシ、同性ですがちょっとときめいてしまいそ……』
『オイ、アナウンサー! ちゃんと仕事しろ!』
『ハッ! ……コホン、失礼しました。……まあ、ご存知の方もいると思いますが、八月の水泳大会のとある競技でも彼女ともう一人がぶっちぎりで勝ってしまったということがありまして、今回も似たような感じになりつつありますね』
『あの時もそうだったが、彼女の身軽さとバランス感覚は本当にすげーな。確かに、あんたじゃなくとも見惚れちまうほどだ』
『赤峰さんのスケベ(ボソリ)』
『なっ、誤解だ! 俺は彼女の身体能力には目を瞠るものがあると言っただけで……』
『はいはい、分かってますよ~。まあ赤峰さんのスケベ疑惑はさておき、水泳大会の一件を踏まえると、彼女のレースが最終組になったということが、ちょ~っと気になるんですが……、そこのところはどうなんでしょう?』
『ったく……。あ~、まあ組み合わせに関しては厳正な抽選で決まった……って、俺は聞いてるぜ?』
『なるほど。組み合わせに関しては、なんですね』
『ま、ぶっちゃけ、このレースを初っ端に持って来るのはちょっと……なぁ?』
『ですね。おっとそうこうしている内にトップを独走中の黛選手は、さらに後続を引き離しつつ、残すところ最後の障害のみとなりました。一方、二位以下の選手は障害物ごとに順位が目まぐるしく入れ替わる状況となっています――』
毎度お馴染みになりつつある放送部の二人による、実況と解説を兼ねたコントをBGMに、清歌は最後の障害であるボルダリング風急斜面に突入する。
この障害物は数々の突起物が付いた二メートル半の壁が、七十度ほどの傾きで設置されているものだ。掴まるためのロープも用意されているので、難易度そのものはそれほど高くはない。ただ、ここに来るまでに消耗している選手にとっては、文字通り最後の壁になるのである。――普通ならば。
壁をざっと見渡した清歌は、用意されている滑り止めを手に付けると、ロープに頼ることなく突起物を掴んでスルスルと登って行きあっさり頂上に辿り着くと、壁の向こう側に用意されているクッション目掛けてひらりとジャンプした。
金の尻尾をなびかせながら清歌がゴールテープを切った瞬間、再び大きな歓声が上がるのであった。
「おかえり~! カッコ良かったよ!」「お帰り。流石ね、清歌」
クラスの応援席へと戻ってきた清歌を、弥生と絵梨を始めとしたクラスメートたちが迎え、健闘を称えた。「ありがとうございます」と答える清歌のニッコリ笑顔に、「はぅっ」だの「ふわぁ」だのおかしな反応をする一部のクラスメート(女子)。
一学期の頃にあった微妙な壁は既に無くなっているが、何やら別の扉を開けつつある者がいるようである。
「ところで弥生さん、ちょっとお土産があるのですけれど……」
そう言いながら、清歌がニコニコしながら弥生の元へにじり寄――もとい、歩み寄る。
「え? お土産って……」
そういえば応援席に戻って来た時から、後ろ手に何かを隠しているようだ。清歌の表情にはどこか悪戯っぽい雰囲気が見え隠れしており、弥生は少々不穏なものを感じて一歩後ずさった。
が、そもそも現実の弥生では、清歌から逃れるなどできようはずがない。それこそ、いつの間に近づいたのかすら気付かない内に懐に入り込まれていた弥生は、お土産とはいったい何なのかを問いかける間もなく、頭に何かを着けられてしまった。
「はい、どうぞ。……ふふっ、やっぱりよくお似合いです!(ニッコリ☆)」
「あら……、フフフ、いいじゃない弥生。本当に良く似合ってるわよ(ニヤリ★)」
「いいんちょ、カワイイ!」「うんうん、似合ってる。……プフッ」「ちょっと、笑うなんて失礼よ、可愛いじゃない」「だね~。まあイベントじゃないとつけられないけど」「それは同意。後はテーマパークとかね」
クラスメートたちの反応に弥生は何やら不穏なものを感じる。アタマに付けられた感触はカチューシャなのだが、普通のモノならこんな反応は返ってこないはずだ。
恐る恐る手を伸ばしてみると、指先から伝わって来るモフッとした手触り、そしてピンと立った三角形が二つある。柔らかさや温かさは無いが、似たような感触ならば<ミリオンワールド>内でよく触ったことがある。これはもしや――
「えっ? これって……もしかしてネコミミ!?」
「ご名答ー。似合ってるよ、いいんちょ。はいコレ」
クラスメートが鏡代わりにスマホのカメラを自撮りにして、弥生に手渡した。ディスプレイに映し出された画像には、頭の上にちょこんと二つ、栗色のネコミミを乗せた自分の顔が映っていた。
弥生のふわふわウェーブの髪に付けたネコミミカチューシャは、カチューシャ部分が上手く隠れて本当にネコミミが生えているようにも見える。何より、童顔で可愛らしい顔立ちの弥生に、こういうアイテムは良く似合うのである。――本人は認めたくないだろうが。
「っていうか清歌、お土産ってどういうこと?」
「それは大障害物競走の一位になった賞品という意味ですよ」
「ああ、そういえば、あったわねそんなモノが。私には関係ないことだからすっかり忘れてたわ」
体育祭のメイン競技には、三位までの入賞者にちょっとした賞品が出るのである。メイン競技を選択していない、しかも上位に入賞する可能性が極めて低い絵梨が忘れていたのも無理からぬことであろう。
もっとも賞品といっても大したものではなく、貰っても特に困らないし、そのうち使うであろう文房具や、すぐに飲んでしまえる清涼飲料水などである。実はこれらの内飲み物以外は実行委員会や生徒会にある、備品の余剰分だったりする。要するに倉庫の肥やしの処分を兼ねているわけである。
ちなみにそんな中に何故ネコミミカチューシャがあったのかと言うと、以前生徒会で文化祭に出し物を企画したことがあり仕入れたものの、結局使うことなく倉庫に死蔵されていたのだそうな。
「ねぇ清歌~、だったら普通に文房具か飲み物を貰ってくればよかったんじゃないの?」
「それでも良かったのですけれど、それらは必要なら自分で買う物なので。折角ですから、恐らく自分では買うことの無いものを選んでみました」
「「「「あ~~」」」」
清歌の説明に納得の声が上がる。確かに自腹で買う気は全く無いが、もしタダならば友達に着けさせるために――自分で、ではない所がポイント――貰うのも悪くない。特にイベント中の浮かれた雰囲気の中ならば、こんなものを着けていてもそうおかしくは無い。実際、応援団のメンバーなどはもっとコスプレっぽい感じの衣装やアクセサリーを身に着けているのだ。
「ま、せっかく清歌がゲットしてきた商品なんだから、今日はそれを着けてなさいな」
「え~っ! それはちょっと……」
無理――と続けようとしたところを、ひどく残念そうな声が遮る。
「えっ!? 外してしまうのでしょうか、弥生さん」
他人事だと思って勝手なことを言う絵梨はともかく、似合うと思って――それもちょっと突っ込みたいところではあるが――ゲットしてくれて来た清歌に言われてしまうと、ちょっと無理とは言いづらい。
「う~ん……、どうしても、着けてて欲しい?」
「はい、もちろんです!(ニッコリ☆)」
「そ……そう? 清歌がそう言うんだったら……体育祭の間だけ、だからね」
――と、結局この体育祭の間中、ネコミミを着けていることになる弥生なのであった。
「いいんちょ……チョロイ(ヒソヒソ)」
「でもでも、あの黛さんの笑顔に迫られちゃったら、誰でも“うん”っていっちゃうと思うよ?(ヒソヒソ)」
「う~ん、そうかも。お嬢様ぱわー、恐るべしだね~(ヒソヒソ)」
「ねぇねぇ、それよりあのケモミミカチューシャって、あれだけなのかな?(ヒソヒソ)」
「どうなのかな? 賞品にするくらいだから似たようなものを幾つか用意してそうなもんだけど……。って、それがどうかしたの?(ヒソヒソ)」
「……あのさ、黛さんにも着けて貰いたいと思わない?(ヒソヒソ)」
「「「「それだ!」」」」