木星の重力の海より
GL注意報
「おはよう、エルシオーネ。今日の朝ごはんは何かしら」
「おはようございます、姉さま。本日の朝はいつも通りハムとチーズの盛り合わせにトースト、ポーチドエッグですが、本来おはようという挨拶が適する時間帯より数時間ほど遅れたお目覚めですよ」
「あら、そうだったかしら。宇宙空間というものは時間感覚が狂うからいやね」
「狂うも何も、地上においでの時から地球の自転など気にせぬ生活をなさっていたように思いますが?」
「そうだったかしらね。生憎と、過去にはこだわらない事にしているの」
「ええ、承知の上で申し上げました」
「あら、悪い子ね」
「お褒めいただきありがとうございます」
「褒めた覚えはないのだけれど。むしろその逆ではないかしら」
「ええ、承知の上で申し上げました。それより、早くお支度をしていただきませんと折角温めた朝ごはんが冷めてしまいます。それとも姉さまはわたくしにもう一度ポーチドエッグを作れと仰りたいのでしょうか」
「まったく、貴女は本当に性格の悪い子ね。そのように急かされては私の行動が遅いように聞こえてしまうわ」
「事実、姉さまの起床は普段よりも数時間遅いものでした。ところで、お飲み物は何にいたしましょう?」
「そうね、いつも通りブラックのコーヒーでいいわ。もちろん砂糖は一ミリたりとて入れてはいけなくてよ?」
「承知しております。ではまた後ほど」
「ああ、待って。待ちなさいエルシオーネ。貴女、一つ大事なものを忘れていてよ」
「なんでしょうか、姉さま。何も忘れてはいないように思えるのですが、よければ教えていただけますか?」
「貴女は本当に悪い子ね、エルシオーネ。この私にねだらせたいと言うのかしら?」
「いいえ、そのようなつもりは毛頭ございません。ただ少し、姉さまの困ったお顔を見てみたいと思っただけなのです。御気分を害されたようでしたら平に謝らせていただきます」
「あと十秒以内に朝の日課を済ませてくれるのなら、この件については不問にしてあげましょう。ほら、早くなさい」
「了解いたしました。では失礼して」
「あら、今日は頬なのね。昨日は指先で一昨日は髪。唇にしてくれるのはいつなのかしら」
「それは……まだ勤務時間中ですので」
「ふふ、貴女は本当に悪い子ね、エルシオーネ。愛しているわよ」
「わたくしもです、姉さま。では、良き一日を」