触れるには近過ぎて、抱き締めるには遠過ぎる
BL注意報
「ねぇ、こっち向いてよ」
「うん、何だよ急に?」
呼びかければ何の疑問もなく振り返ってくれる。
君にとっての俺はただの友人A。クラスに沢山いる取り巻きの中の一人。
「暇だから手ぇつないでよ」
「えー、高校生にもなっておててつないで帰りましょうねーなんて子供っぽいヤツだなぁ、お前ー」
苦笑いを浮かべながらも差し出された手をあっさりと握ってくれる。それで周りからどう見られるのかなんてまったく気にしてないんだ。
つまり、俺は君にとってその程度の存在って事。
「あー、恋人欲しいなー」
「またその話題かよ。お前顔は悪くないんだから、その気になれば彼女の一人や二人作れんだろー?」
「いや、恋人は二人いちゃまずいだろ」
「確かに。高校で二股とか現実にはありえないしなー」
けらけらと笑うその横顔は、本当の意味では決して俺に向き合ってはくれない。俺は一度も「彼女」なんて言ってないのに、君はそんな事には決して気付かないんだ。
「つーかさ、お前は彼女作って何したいの?」
「んー? そうだなぁ、手ぇつないで帰ったり、一緒にどっか出かけたりとか?」
「んで、出かけた帰りにキスしちゃったりすんだろー? このむっつりヤローがぁ」
うりうり、と肩を押し当てられる。普段なら肘なんだけど、今は手を繋いでるからっていう君なりの配慮。
でもさ、知ってる? 今挙げた事って全部、別に恋人とじゃなくても出来るんだぜ? もちろんそれ以上の事だって。
愛想笑いで飲み込んだ言葉。ひりつく喉を通り抜けていくのは乾いた笑いだけ。喉に張り付くような気持ち悪さにももう慣れた。
だから、さ。もう少しだけこの手を握っていて欲しいんだ。俺の心が折れてしまわないように。
俺と君はまだ友達じゃない。いつになったらそうなれるのか、今の俺には分からない。
「ちょ、お前手ぇ痛いって。強く握り過ぎー」
「痛くするようにしてんだから当たり前だろー?」
「おまっ、ひっどいなー」
「お互いさまだっつーの」
他愛のない会話。重みの欠けた笑い声。反響する。
吹き抜ける風は生温くて今の俺達みたいだ。吐き気を催す不快感を内側に孕んでまとわりついてくる。
だからお願い。今はまだこの状況に甘えさせてくれ。
君の唇は柔らかかった。
手の平から伝わる、あの日と同じ気持ちの悪い温かさだけが俺の心を支えてくれる。
俺達はいつになったら友達になれるのだろうか。今の俺には分からない。