7年後、現在
戦闘描写までの前振り
書いてる自分がイライラするけど必要ですし
「姉御ー!」
まだ幼さの抜けない、若い女の子の声だ
振り向けば茶髪の、肩より少し下程にある切り揃えられた髪を揺らしながら走ってくる
私の元にたどり着くと同時に両手を両膝に乗せ、下を向いてハッハッと息をしている
「リザ、まだまだ走り込みが足りないようだな」
下を向き、肩で息をする少女、リザにそう言う
少女はその言葉にバッと顔を上げ、目が大きく小顔で鼻の小さい、憎たらしい…違う、可愛らしい顔をこちらに向ける
「姉御、ちょっと短剣を見ていたらいなくなってるじゃないですか!ひどいですよ!」
憎たらしい…可愛らしい顔を膨らませて抗議の声を荒げる
「長いのだ、お前は。短剣なら50本近く持っているだろう。一本買うか買わないかで二時間も待たされる私の身になってみろ」
そう、彼女は短剣一つ買うのに武器屋で二時間も時間をかけるので…私は彼女の彼氏のように待たなければならないのだ
「じゃあ姉御が決めて下さいよぉ~」
顔に両手を当て、クネクネしている
その動きはやめてくれ、体が柔らかいせいか滑らかで芋虫を彷彿するんだ…
無視して目的方向へ振り向き、そのまま歩き始める
「ま、待ってー!」
近所迷惑な奴だ。そうは思うが可愛い妹分だ
少し下を向き、フッと笑う
そして
「宿に戻るぞ」
立ち止まり、リザに手を伸ばして言う
「はいっ」
守りたい、この笑顔
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「おかえり、ほらよっ」
宿のおばちゃんから鍵を投げられる
少し距離が足りなかったのでどうにも届きそうにないようだ
私は靴の爪先でコンッと鍵を蹴り上げて浮き上がった鍵を手で取り、そのまま部屋へ向かう
「凄腕剣闘士様はやるねぇ」
「姉御、かっこいいですぅ~」
等と聞こえるが無視だ
明日は久しぶりに剣闘死合日、五体満足に帰る為にも念入りに準備をする必要がある
小手、足具を確認する。大丈夫のようだ、オイルで磨かれ触るのを躊躇う程に艶が出ている
「姉御、明日の剣闘死合が決まったからってそんなに気合を入れなくても余裕でしょうよぉ」
リザはベッドに体を投げ出した体制で足をプラプラしながらそう言う
パンツ見えちゃってるよ、リザ!
心の中でガッツポーズを取りながらリザを見る
「準備に不足があっては困るのだ。私はこの準備にこそ死合を決める秘訣があると自負している」
髪止めをリザへ向け、そう語る
今日は淡い黄緑かぁ、でも、少し布面積が広くてお姉さんは残念です
「所で姉御、明日の相手どこの奴なんです?」
私は前髪が若干目に掛かるぐらいあるので、視線には気づかない。いや、気づかせない
そのままリザを…パンツをガン見しながら返答をする
「フリーの剣闘士。貴族らしいが、刺突剣を巧みに使い、相手の防具がない場所、防具の弱い所を貫くように弱らせるそうだ」
リザは己の急所をさらけ出したまま、ニヤリと笑う
「イヤらしい闘い方だなぁ…でも、姉御と同じ速度型ですね!勝ったも同然です!」
そう言いながらガッツポーズを取る
私は戦闘服、防具を纏めて動きやすくするための帯を手に取り、リザの急所へと向ける
「勝負に油断は禁物だ、何度も教えているだろう」
そう言い放ち、武具の全てを確認、そのまま元に戻す
確認は済んだ、あとは英気を…ゴクリと喉を鳴らし、心の中で涙は流しているが…英気を養うだけだ
そんな私には気づかずにばつが悪そうな顔をしているのでリザへ言う
「分かったならば更に準備だ。食事に行こう」
「姉御!オススメの店があるんです!」
ばつが悪そうな顔はどこへやら…
即答でそんな返事が帰ってくる
私は頷くと、リザは扉へ跳び跳ねるように向かう
微笑ましいのだが、あの笑顔が無くならないように祈る限りだ
「女将、外で食うぞ」
鍵をテーブルに置き、一言言い放つ
「あいよ、夜の鐘の後、一太後には閉めるからね」
早くに閉めるから閑古鳥が泣くのだ…
思うだけで言葉には出さず、肩越しに手を振る
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そんな一日を過ごし、明日のコロッセウムへと英気を養っていったのだ