初登校そのあとで
初登校の学校からの帰り、俺は新作ゲームを購入しようとGEROに向かう途中のことだった。
GEROへ歩を進めながら購入予定のゲームトレイラーを頭の中でリプレイさせていた。
頭の中ではスーツに身を包んだいかつい男がちんぴら風のお兄さんたちを素手でぎったんぎったんにしていく。
俺は脳内の中でいかつい男になりきり大立ち回りを演じていた。
「や……なぎ……ん……やなぎだ」
やなぎだ? 人違いだ俺は一匹狼の霧有 仁馬だ。
肩に掛けられた手は払いのける。
肩と手背から感じたリアルな感触に脳内再生は停止させられた。
スーツに身を包んでいたケンカマスターはいつの間にか素人童貞やなぎだ、もといケンカ童貞やなぎだに戻っていた。
しまったと思った時には、うしろに人の気配を感じた。
振り返ると餃子耳の男が不敵な笑みを浮かべ柳田を見おろしていた。
餃子耳の男が現れた。
ケンカ童貞やなぎだのターン
コマンド
1 たたかう
2 説得する
3 逃げる
4 財布を渡す
ケンカ童貞やなぎだは、たたかうを選択。しかし戦い方がわからない。
ケンカ童貞やなぎだは、説得を選択。しかし恐怖から声が出ない。
ケンカ童貞やなぎだは、にげるを選択。柳田はにげだした! しかし まわりこまれてしまった!
餃子耳の男は不敵な笑みを浮かべている。
ケンカ童貞やなぎだは、財布を渡すを選択。ポケットを探るが財布がない。
ケンカ童貞やなぎだは、財布を渡すを選択。ポケットを探るが財布がない。
ポケットに財布がないとわかり、この後の展開が目に浮かび俺は蛇に睨まれた蛙状態よろしく!動け なくなった。
ありったけの勇気を振り絞りサンドバッグになることは何とか回避しようとしたんだよ!!
「さ……ふあ……りせんゆ……ゆるしゅ……て」
「…………」
「……」
「柳田さん! はじめまして、同じクラスの木場太郎っていいます!」
「え、あ……(かつあげじゃなかったのか)よ、よろしくおねがいします! 木場さん!!」
彼との衝撃的な出会いでどうやら俺の中では男子のカーストが決まったようだ。
1位 徹 2位 木場さん 3位 やなぎだ
「やめてくださいよ~ 柳田さんのほうが年上なんですから木場でいいですよ! 木場で!」
これから木場さんと呼ぶべきか、木場君と呼べばいいのか。木場君でいいかな、、、いいよね。
まったく、俺に外で話しかけてくるなんてキャッチかカツアゲ目的の奴なんだよ。
木場君、君はまだ知らんのだ。この世は悪意で満ちているとうこと。
そう俺は何を隠そう生まれてこの方家族以外とお茶したことなんてなかったし。
駅前でさきれいなお姉さんがお茶でもと誘われればついていっちゃう俺。のこのこついていったら、 いつの間にかビルの一室に連れ込まれ延々とマジカル・ストーンなる幸運を呼び込む石について延々と 聞かされましたよ。
けどさ、みんなだってあるだろう。そんなのあるはずがないって否定しててもさ実は心の中である んじゃないかっていうことがさ。声をかけられた時はモテ期があると本当に信じちゃったんだよ俺。 鏡は真実を写すて誰が言ったか知らないけど、家の鏡で自分の顔見たら写しすぎだろうってくらい写 してた。嬉し悲し家族以外の女性とはじめてお茶できました。
そんな話はさておき、帰る道すがらコバさん、もといコバくんの餃子耳と脂肪アーマーは高校時代柔道をしていたためだとか。部活をやめてまた太ったとか。ひたすら聞き役に徹したよ。むしろ何を話したらいいかわからない。ほら、傾聴ができないと患者さんの気持ちがわからないだろ。だから図らずとも傾聴を体験したわけ。
コバくんと別れ自宅で財布をディパックの中で見つけ息をつき、購入するつもりだったゲームのことを思い出すのだった。
高校以来まったく人と付き合いがない俺はどうやって同じクラスメイトと付き合っていけばいいのか。どんなふうに振る舞い、どんなふうに話しかければいい。
なんでこんなことで悩んでんだろう。そんなことを考えながら、ベッドに横になり日課のアニメ鑑賞もせず携帯のアドレス帳開いたり、閉じたりを繰り返していた。アドレス帳には家族以外のフォルダが作られていた。
初登校で徹やコバくんと何とか打ち解けることができた感じがした。
自分で話しかけることはしない。何か頼まれることはあっても決して頼むことはしない。
これが友達なのだろうか。俺は彼を友達と思っているだけで、相手は友達と思ってないのではないのか。
家に帰るといつもその不安に付きまとわれていた。
3日が経ち男子は俺と徹、コバくんを含めた三人は一緒に行動することが増えていた。
最初は二人から昼食に誘われた時はなんと返答していいかわからなかった。
一人で昼食を取るつもりだったが、二人に誘われ俺でいいのかと言えずに二人についていった。
知らぬ間にスキップを刻んだが、二人の足取りが変わらないことを見て、脚にブレーキをかけた。 外に出て3人でベンチに腰掛ける。昼食をとる二人の話し声が耳に届く。
「淳さん、パン食べないんですか?」
「食べないなら俺がもらいますよ。これじゃ足りないんですよ」
「これ以上アーマーつけて防御力あげてどうすんだよ?」
「コバのことは気にしないで食べてください」
「淳さん体調悪いんですか? なんか元気ないですよ?」
「あっ……食べるよ、食べる」
大学生の俺が今の光景を見たらどう思うのだろう。
いずれも自分から話しかけることもせず、ただ待っていただけだ。
彼らのように一歩踏み出す勇気があればバイトをして、サークルに入って友人の一人や二人で来たのかもしれない。
もしかしたら彼女だって。
「……ないよな」
「何がないんですか? 食欲ですか?」
「お前は喰いすぎだよ! 遠慮して淳さんが食えないだろう!」
コバと徹のやり取りは食事の間途切れることなく続いた。
お気に入りの菓子パンのチョコがやけに甘く感じられた。
これがチョコプラスフレンドテイストか。すげーあめえ。あめえよ。
3人で昼食をとって以降昼食は学校近くの公園のベンチで3人集まって食べるのが日課になっていた。
コバくんがソフトボール大のおにぎりの包みを開けるのをみて、徹が箸を休める。
「コバくん、これでおにぎり何個目?」
「えっ! 5個目ですよ! 5個目!」
「風舞先生に痩せるようにいわれてたよねコバ?」
「デブは見苦しいから痩せろって……」
いつの間にか大食漢コバはおにぎり右手に持ったまま動かなくなったいた。きっとコバなりに思うと ころがあるのだろう。
沈黙に耐えかねたように徹が切りだす。
「淳さん、先輩から聞いたんですけど明日の授業に演習あるじゃないですか?」
「お、おう」
「うちのナース服はなんか下着が透けやすいそうですよ。なんか今の学校長になってから変わったみた いなんですよね」
そうですか そうですか では明日は女の子のパンツが拝めるんですね。
爪を切り忘れないようにしなきゃな。
それと自家発電もしないとな。
演習中にユニフォームに大きなパラソル作ってることがばれたら俺。
明日の授業はパンツ鑑賞っと 素人童貞やなぎだ参ります
にやけ顔でたがいに目を合わせ明日の演習のことを頭の中で描いていた。